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コラム

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第105回 価値観が同じ――組織の使命と職員のイデオロギーとの一致が業務パフォーマンスに及ぼす影響(米国連邦政府の場合)

The effect of the alignment between organizational mission and workers’ ideology on job performance: A case study of U.S. federal government

PDF版ダウンロードページ:https://hdl.handle.net/2344/0002001780

2026年3月

(2,776字)

今回紹介する研究

Jörg L. Spenkuch, Edoardo Teso, and Guo Xu. 2023. “Ideology and Performance in Public Organizations,” Econometrica, 91(4): 1171-1203.

政府や地方自治体、社会的企業(例――グラミン銀行)、NGO(例――国境なき医師団)など、利益の最大化を主たる目的とせず、社会的・環境的な課題に取り組むミッション(使命)志向の組織が社会に及ぼす影響を無視することはできない。このような組織では、その使命に強く共感する職員ほど高い業務パフォーマンスを発揮すると予想されるが、果たしてそうだろうか。

米国連邦政府職員とその政治的独立性

米国連邦政府を取り扱う本論文は、一般職員のイデオロギー(政治や社会に対する考え方や信念)と組織のミッションとの一致・不一致が職員の業務パフォーマンスに及ぼす影響を分析する。ここでいう一般職員は、大統領や省庁長官によって任命され、政府の重要な政策決定や行政運営に携わる政治任用者を含まない。

この分析を行う上でまず疑問となるのは、ミッション志向の組織において、組織の使命と異なるイデオロギーをもつ職員はそもそも存在するのだろうか、という点だ。使命に共感する職員が組織に集まれば集まるほど、この疑問は一層強まる。米国連邦政府における組織の使命(優先的政策分野)は大統領のイデオロギーによって左右され、また、大統領のイデオロギーは出身政党と相関する。そこで著者らはまず、1997年から2019年までの一般職員の所属政党の割合の推移を分析する。この期間は、ビル・クリントン(民主党、1993~2001)、ジョージ・W・ブッシュ(共和党、2001~2009)、バラク・オバマ(民主党、2009~2017)、ドナルド・トランプ(共和党、2017~2021)という出身政党が異なる四人の大統領を輩出している。そのため、大統領の交代によって職員の所属政党の割合が大きく変わっているかもしれないからだ。

分析にあたって著者らは、この期間に雇用されていた約三百万人の職員の個人情報を人事管理局から入手した。そして、この情報を独立した営利事業者から別途入手した有権者登録データ(2014、2016、2018、2020)と紐づけ、職員一人一人の所属政党(共和党、民主党、無党派)を特定した。紐づけ作業には職員の名前、住所、年齢が用いられ、紐づけが成功した約二百万人の職員が著者らの分析対象となった。また所属政党の特定には、有権者登録データに政党の記載があればその情報が、ない場合(15州の居住者)には機械学習に基づく予測モデルが用いられた。

分析結果によると、時間の推移に伴う傾向はあるものの、大統領の交代によって特定の政党に所属する職員の割合が大きく変動することはなかった。この結果は、大統領の交代によって、職員のイデオロギーの相違を理由とした解雇・離職や、イデオロギーの一致を理由とした採用が存在する可能性が低いことを示唆する。また、同様の分析を政治任用者に行った場合には、共和党大統領のもとでは共和党員の、民主党大統領のもとでは民主党員の人材が優先的に任命されていることもわかった。これらの結果から、一般職員の勤務歴には、自己と異なる(あるいは一致する)イデオロギーをもつ大統領や政治任用者のもとで勤務する期間が存在することがわかった。

イデオロギーの一致が公共調達担当者の業務パフォーマンスを引き上げた

大統領の交代によって、自己のイデオロギーが大統領のイデオロギーと一致した場合、一般職員の業務パフォーマンスは向上するだろうか。この問いに答えるため著者らは、職員の中でも公共調達担当者(物品やサービスの調達を担当する職員)に注目する。なぜならば公共調達担当者の業務パフォーマンスは、調達契約ごとに予算超過の有無などにより測定することが可能だからだ。具体的には、2004年から2019年までに約15000人の公共調達担当者が取り扱った約110万件の公共調達契約が分析された。

著者らは、自己のイデオロギーが大統領のイデオロギーと一致するようになった(つまり、自己の所属政党が大統領の政党と一致するようになった)公共調達担当者のその一致前後の業務パフォーマンスの時系列変化を、一致していない公共調達担当者の業務パフォーマンスの同期間の時系列変化と比較する(差分の差分法1)。分析結果によると、イデオロギーの一致は予算超過額、複雑な契約についての履行遅延、契約内容の事後修正回数を減らすことがわかった。つまり、イデオロギーの一致は公共調達担当者の業務パフォーマンスを引き上げた。

イデオロギーの一致はおそらく士気を引き上げる

なぜ、イデオロギーの一致が公共調達担当者の業務パフォーマンスを引き上げたのだろうか。著者らは三つの可能性を検討する。第一に、イデオロギーの一致前後で公共調達担当者が取り扱う業務量やその内容(例――契約数、契約額や契約期間)が大きく変わった可能性だ。しかし、そのような変化は見られなかった。

第二に、仮に自己の業務パフォーマンスがイデオロギーの近い上司のもとで高く評価されるならば、イデオロギーの一致後、公共調達担当者は昇進を目指してより一層職務に専念した可能性がある。しかし、予算超過や契約の履行遅延が、担当者の昇進に影響しているという確かな証拠は見出せなかったため、この可能性も低い。

第三に、イデオロギーの一致が公共調達担当者の士気を引き上げた可能性がある。この検証のため、著者らは2006年から2020年までに収集された連邦政府職員の意識調査データを分析する。これは標本調査データであり、必ずしも公共調達担当者に限定したものではないが、このデータから、大統領と同じイデオロギーを持つ連邦政府職員ほど士気が高い(例――仕事に重要性を感じる、多くの努力を払う意欲がある)ことを示唆する分析結果が得られた。大統領の交代により、所属組織の使命が自己のイデオロギーと近くなった公共調達担当者はやる気を出し、職務に専念するようになったのかもしれない。

開発援助への示唆

ミッション志向の組織では、その使命に強く共感する職員ほど士気が上がり高い業務パフォーマンスを発揮するようだ。また、その逆も同様である。このことは途上国に対する開発援助と無関係ではない。なぜならば、紛争・貧困地域で支援活動を行う国際連合の専門機関や先進国の開発援助機関は、まさにそのようなミッション志向の組織だからだ。このような組織においてリーダーが変わり、組織の使命が変化し、そしてその職員の士気や業務パフォーマンスが下がるようなことがあれば開発援助の質も下がる。本論文では示唆されなかったが、有能な人材が(組織の使命と自己のイデオロギーとの不一致を理由に)その組織を離れてしまう可能性もある。このように考えると本論文は、先進国や国際機関におけるリーダーのイデオロギーが途上国経済に影響を与える一つの経路を示唆する研究ともいえる。

※この記事の内容および意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。
著者プロフィール

工藤友哉(くどうゆうや) アジア経済研究所開発研究センター主任研究員。博士(経済学)。専門分野は開発経済学、応用ミクロ計量経済学。著作にEradicating Female Genital Cutting: Implications from Political Efforts in Burkina Faso” (Oxford Economic Papers, 2023), “Maintaining Law and Order: Welfare Implications from Village Vigilante Groups in Northern Tanzania” (Journal of Economic Behavior and Organization, 2020), “Can Solar Lanterns Improve Youth Academic Performance? Experimental Evidence from Bangladesh (共著、The World Bank Economic Review, 2019) 等。

書籍:Eradicating Female Genital Cutting: Implications from Political Efforts in Burkina Faso

書籍:Maintaining Law and Order: Welfare Implications from Village Vigilante Groups in Northern Tanzania

書籍:Can Solar Lanterns Improve Youth Academic Performance? Experimental Evidence from Bangladesh

  1. 差分の差分法に関する研究は進展しており、現在では、本論文で用いられたアプローチによる推計値には歪みが生じる可能性があることが指摘されている。
【特集目次】

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