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コラム

ワールド・イン・ファッション

ファストファッションと仕立て屋さん。ハイブランドと模倣品。人々の「身に着けるもの」を題材に、それらをとりまく社会現象を取り上げ、経済、文化、産業、宗教などの様々な切り口から、途上国・新興国社会にどのような変化がもたらされているのかをご紹介します。

  • 第6回 ベトナム女性の普段着「ドーボ」にみる不易流行 / 荒神 衣美 ベトナムの街中では、一見パジャマのような服を着た女性をよく見かける。とくに地方ではパジャマ女性に遭遇する確率がかなり高い。写真1はメコンデルタの地方都市カントー市のとある市場での一風景を切り取ったものだが、写っている女性のすべてがパジャマ風の上下セット服を身にまとっている。 2023/12/05
  • 第5回 仕立屋Nが描く夢──ポスト・コロナのイスタンブルから / 村上 薫 イスタンブルの繁華街を歩いていると、女性のファッションが様々なことに気づかされる。私たちも見慣れたジーンズとタンクトップの組み合わせやスーツの女性がいるかと思えば、スカーフで髪を被い、色とりどりのロングコートできめた女性がおり、目と手をのぞく全身を黒いチャルシャフですっぽり覆う女性がいる(ちなみに男性の服装は東京のそれとそれほど変わらない)(写真1~3)。実に多種多様なのだが、共通点はひとつ。彼女たちが身に着けるもののほとんどは、店舗やインターネットで購入したものである可能性が高い。 2023/07/19
  • 第4回 モザンビーク・ファッション・ウィーク ──エキゾチックな港町マプトならではの文化融合 / 網中 昭世 モザンビークに関するここ数年のニュースといえば、隠し債務、権威主義化、サイクロンの被害、資源開発地域のテロによる治安悪化……といったところだろうか。日々そんな情報にばかり触れていると絶望的な気分にさえなるが、そのほとんどは国家の振る舞いに原因があるものばかりだ。モザンビークに暮らす大半の人々は、そうした国家に翻弄されぬよう、自ずと国家と「距離」をとりながら生きている。この国のGDPのおよそ35%、就労人口の9割をインフォーマル・セクターが抱えていることからも分かるように、国家の管理が行き届かない幅広い経済活動がある。人びとは微々たる社会サービスしか提供できない国家には過剰な期待を抱かずに生活している。だからこそ、冒頭のようなニュースからは想像も及ばない一面もある。国が提供できるものが少ないのなら社会に残された可能性は2つだ。自らが持っているものを深堀りするか、外部からもたらされるものを活用するか。南部アフリカ沿岸国モザンビークの社会の独自性と他者に対する開放性の背景には、そんな事情もあるのかもしれない。ここで紹介する現地のデザイナーも元はインフォーマル・セクターから生まれている。 2023/05/11
  • 第3回 バングラデシュの女性たちが繰り広げるファッションビジネス / 南出 和余 近年「バングラデシュ製」のタグのついた衣料品が日本でも多く出回っている。その多くはいわゆるファスト・ファッションと呼ばれる大量生産型のサプライチェーンを展開するグローバルブランドの商品で、大量に同じ製品が並ぶレーンから1枚を手にする時、消費者の多くはそれがバングラデシュ製であることにも気づかないまま購入する。安価が魅力のファスト・ファッションの楽しみ方は、高級ブランドに見られるような、デザインとブランド名を誇るというよりも、機能性や他の服とのコーディネートにかかっている。安さゆえに、破れてもまた買えばいい、飽きたら手放す、ということが容易になされる。値段だけでなく1枚1枚の消費者にとっての価値も低い。 2023/03/08
  • 第2回 ファラ・フォーセット七変化――タイ女性幹部の巨大なヘアスタイルに見る文化触変 / 青木(岡部)まき タイの省庁や企業に調査に行くと、かなりの頻度で女性の高官や管理職、役員に出迎えられる。筆者が初めてタイを訪問した2000年代初頭、訪問先で自分の母と同じ世代の女性が高官として現れた。新鮮な思いで対面したのを今でもよく覚えている。 2022/12/15
  • 第1回 ハイエンドとローエンドを選ぶ楽しさ――リアルからネットに移行する中国のファッション / 内藤 寛子 北京に留学していた2011年頃、20代前半でオシャレ盛りだった私にとって楽しみのひとつが五道口にある服装市場であった。服装市場は、衣料品関連の商品を卸値で購入できる、いわゆる卸売市場である。その規模はところによって異なり、五道口服装市場は2階建てでこぢんまりとした印象だが、中国北部最大級の服装市場とされる北京動物園前の服装市場はいくつものビルが連なり、一日で回ることができない広さだ。規模の違いはあるものの、どちらの服装市場もビル内には2畳ほどしかない小さな小売店が数百とひしめき合い、商品は山積みに陳列されている。規模の大きい服装市場では階によって客層を分けており、若者向けの流行の品から中年男性向けのスーツといったオフィス用の服装なども購入することができる。価格帯もさまざまで、無地のTシャツや大量生産のストールといった安価なものから、著名ブランドのロゴマークやデザインを模した製品(以下、「ブランド」品)まである。後者は、正規品と比べると破格値だが服装市場の基準ではよい値段ということになる。服装市場は、商魂たくましい中国人との交流を楽しめる場所であることから、観光客にも人気のあるスポットだ。また、思いがけない掘り出し物を見つけることもあることから、流行に敏感な若者も足しげく通う場所でもある。 2022/11/02