アジア経済研究所は設立以来約70年にわたり、開発途上国・地域研究の成果や途上国に関する知見や情報を刊行・公開してきました。これら過去の著作=知の蓄積は、新たな分析視点や研究課題の登場によって再び大きな意義をもつこともありますが、現代の読者の目に触れなければ、貴重な知的資源が顧みられない可能性も孕んでいます。
こうした問題意識から、研究所では「書籍復刻プロジェクト」を立ち上げ、入手困難な既刊書の復刻に取り組むことにしました。時間や地域を超えて新たな発見と学びの契機となるよう、過去の知と未来をつなぐ各テーマのもとで展開していきます。
(アジアを見る眼)「くらし」シリーズ
このくらしシリーズの副題には、それぞれ「第三世界の」という枕詞が付されている。第三世界とは、いわゆる東西冷戦時代、1950年代から80年代にかけて当時の発展途上国一般についての呼称であり、1960年に設立されたアジア経済研究所の研究対象とした国々や地域を包摂していたともいえる。“現地主義の”理念のもとにそれらの国や地域に赴いて研究を展開しようとした研究者たちが、遭遇した現実の社会の生きた規範や人々の生活実態をありのままに捉えて地域理解のいとぐちとして認識し、研究の基礎に位置づけ、さらにひろくわが国の人々に知らせようというのが、1985年に発足したこの「くらしシリーズ」の意図したところであった。
なお、これらの問題はいずれも研究所の情報誌『アジ研ニュース』の特集として取り上げられたのち、幸いに好評を得たところから、増補改編して新書シリーズ「アジアを見る眼」の一環として単行書化、刊行されたものである。(大岩川嫩, 2025年3月)