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コラム
第40回 なぜ勉強をさぼるのか? 仲間内の評判が及ぼす影響
PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00051566
2020年3月
(3,491字)
今回紹介する研究
Leonardo Bursztyn, Georgy Egorov, and Robert Jensen, "Cool to be Smart or Smart to be Cool? Understanding Peer Pressure in Education," The Review of Economic Studies, Vol. 86 Issue 4 (July 2019): 1487-1526.
同調圧力とその存在を検証するための実験
著者らの数理モデルによると、上記メカニズムは勉強努力や成績の良し悪しに対する校内文化に照らすとより明確になる。まず、勉強努力が生徒間で馬鹿にされる学校(以下、勉強努力ダサい校とよぶ)を想像してほしい。このような学校では勉強努力が周囲の生徒に知られると気まずい。だから勉強しなくなる。次に、成績が良い(悪い)ことが生徒間で高い(低い)評価につながる学校(以下、成績不振ダサい校とよぶ)を想像してほしい。このような学校では、勉強努力にもかかわらず成績が悪い事実が周囲の生徒に知られると格好が悪い。結果、能力の低い生徒ほど勉強努力をやめ成績不振を勉強不足のせいにする。「俺はやればできるのだけどね~」と見栄をはるのだ。ここで重要なのは、勉強努力ダサい校であれば勉強努力、成績不振ダサい校であれば(勉強努力と)自分の本当の能力が周囲に知られることを恐れ勉強しない生徒が生じる点だ(以下、同調圧力とよぶ)。
これらのメカニズムの存在を示すため、著者らは米国の高校で実験を行った。同国では、全国共通の大学能力評価試験(以下、SATとよぶ)の成績で大学への合否が決まる。同実験では、卒業を約1年後に控えた学生のなかから希望者に対し、SAT対策のオンライン教材が1年間無償で提供された。より具体的には、被験校の学生はまず教材の利用意思を表明する。次に利用希望者はくじを引き、当たりくじを引いた者だけが教材を利用できた。なお、当たりくじを引いた生徒は教材の利用開始前に学力診断テストを受けなければならない。
著者らは、教材の利用意思および(当たりくじを引いた場合の)学力診断テストの結果が周囲の生徒に開示される集団(以下、同調圧力有り集団とよぶ)とそうでない集団(以下、同調圧力無し集団とよぶ)とに学生を無作為に分類する。そして、各集団に属する生徒を当たりくじを引く確率の違い(25%もしくは75%。以下、当選確率とよぶ)によって、さらに2つの集団に無作為に分類した。結果、校内の生徒は(圧力有り75%、圧力有り25%、圧力無し75%、および圧力無し25%の)4つの集団のどれかに属することとなった。生徒は自分がどの集団に属するかを知ったうえで教材の利用意思を表明しなければならない。著者らはいくつかの基準(例、白人割合、家計所得、成績)に照らし、勉強努力ダサイ校および成績不振ダサい校に近い文化をもつ学校(群)をそれぞれ被験校とし、各学校(群)内で同一の上記実験を行った。
仲間の評価が勉強努力を阻害する
この実験がどのように上記メカニズムの検証に役立つのか。この問いに答えるためには、同調圧力有り集団にとって当選確率の違いがもつ意味を考える必要がある。第一に、SAT対策教材は大学への合格および、その後報酬の高い職業につく可能性を高めるため、同確率の違いは勉強から得られる期待便益の違いを意味する。第二に、当選確率の違いは(当たりくじを引いた場合に受ける)学力診断テストの結果が周囲に知られる確率の違いも意味する。
ここで数理モデルに戻り、勉強から得られる期待便益および、(勉強努力や)成績が周囲に知られる確率(以下、周知確率とよぶ)が上がった場合に、より多くの生徒が勉強するようになるかを考えてみよう。まず、勉強努力ダサい校ではそうなる。なぜなら、今ダサいと思われても将来よい生活ができるならと考え勉強を始める生徒がいるからだ。
一方、成績不振ダサイ校では勉強する生徒が減る(!)可能性がある。これを理解するためには、成績不振ダサい校で勉強に努める集団は能力の高い生徒達である(と周囲の目には映っている)ことに気付いてほしい。というのも、多くの能力の低い生徒は見栄をはり、そもそも勉強していないからだ。そのため、仮に自分の成績が周囲に正確に知られなければ、この集団と一緒に勉強することで「成績がよさそうな奴」という自己像を築くことも成績不振ダサい校では可能なのだ。そして(周知確率が100%でない限り)理論的には、そのような自己像を築くために勉強に努める(能力がそこまで低くない)生徒が成績不振ダサい校には存在する。このような生徒にとって、自分の成績の周知確率が高まることは、自分に対する周囲の評価が「成績がよさそうな奴」から「実は成績が悪い奴」となるリスクが高まることを意味する。そのため、自分の成績の周知確率の上昇とともに、このような生徒は能力の低いものから順に見栄をはり始める(つまり勉強をやめる)。
実験に戻ろう。数理モデルが示すこれらの予測が正しければ、成績不振ダサい文化が非常に強い被験校では、同調圧力有り集団に属する生徒が教材を希望する割合は、当選確率75%集団のほうが25%集団よりも低い(!)と予想される。当たりくじを引き学力診断テストの(悪い)結果が友人に知られることを75%集団のほうがより強く恐れるからだ。一方、勉強努力ダサい文化が強い被験校では当選確率の上昇は勉強がもたらす期待便益の高まりのみを意味する。そのため、こちらの被験校では当選確率75%集団のほうが25%集団よりも教材を強く希望すると予想される。実験結果はこれら予想を支持するものだった。
なお、いずれのタイプの被験校でも、同調圧力無し集団が教材を希望する割合は当選確率の違いの影響を受けなかった。また、(当選確率の違いにかかわらず)この集団のほうが同調圧力有り集団よりも平均的に高い確率で教材を希望した。いずれも(メカニズムの違いはあれども)同調圧力が存在することを示唆する。言い換えれば、周囲の評価が気にならなければ生徒はより多くの勉強努力を選択したのだ。
勉強努力を促すには?
同調圧力がある場合、勉強努力を促す教育政策とはどんなものだろうか。例えば、強制参加型のグループワークは有効か。勉強努力ダサい校ではそうかもしれない。皆が勉強せざるをえないため一人一人の努力が格好悪く見えないからだ。一方、成績不振ダサい校における能力の低い生徒は努力をやめる可能性がある。グループワークにより自分の出来の悪さが周囲にばれることを恐れるからだ。それでは校内に成績を貼り出すのはどうか。一見、生徒のやる気を引き出すように見える政策だ。しかしこれも、成績不振ダサい校では同様の理由により能力の低い生徒の努力を妨げる可能性がある。
最後に、南アジアのパルダ(女性を社会から隔離する風習)など女性の社会進出を妨げる社会慣習をもつ発展途上国は多い。仮に「娘に勉強をさせるのがダサイ文化」があるとすれば、親の仲間内の同調圧力が親による娘への教育投資を阻害している可能性もある。
著者プロフィール
工藤友哉(くどうゆうや) アジア経済研究所開発研究センター研究員。博士(経済学)。専門分野は開発経済学、応用ミクロ計量経済学。著作に"Can Solar Lanterns Improve Youth Academic Performance? Experimental Evidence from Bangladesh" (共著The World Bank Economic Review, Vol.33, Issue 2, June 2019: 436-460), "Female Migration for Marriage: Implications from the Land Reform in Rural Tanzania" (World Development, Vol.65, Jan. 2015: 41-61)等。
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