IDEスクエア

コラム

途上国研究の最先端

第73回 家庭から子どもに伝わる遺伝子以外のもの──遺伝対環境論争への一石

What children receive beyond genomes in a family: Throwing in a rock to the nature-nurture debate

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/0002000010

2023年9月

(2,489字)

今回紹介する研究

Andreas Fagereng, Magne Mogstad, and Marte Rønning. 2021. "Why Do Wealthy Parents Have Wealthy Children?" Journal of Political Economy, 129 (3): 703–756.

遺伝と環境

子どもの社会経済的成功は育った環境と親から受け継ぐ遺伝によって影響される。時代背景というマクロ変数も影響するが、ここでは脇に置こう。では、遺伝(nature)と環境(nurture)はどれだけの強さで子どもの社会経済的成功を決めるのだろうか。子どもの教育に携わる多くの人たちが古くから抱いてきた疑問である(なお、この問いの立て方が得策ではないことを付論で説明している。というのも、遺伝と環境の相互作用を無視した二分法ではどちらかを過大に評価してしまう可能性があり、用いている手法も因果関係を議論できないためである)。

古くから現在に至るまで同じ疑問があるのは、はっきりした答えがなかったためである。答えがないのは実験ができないからだ。環境の効果を知りたいならば、子どもを異なる環境の家庭にランダムに配置して育てれば、その効果を歪みなく測定できる。しかし、そんな実験はいつの時代にも倫理的に許されない。

非倫理的な実験

ところが、そういう実験が実在した。もちろん、意図的に実施された実験ではない。偶然発生した自然実験だ。ノルウェイのNGOが、生活に困難を抱える韓国の親から月齢18カ月以下の乳児をノルウェイに養子に迎え、受け入れ先の養親を希望者のなかからランダムに決めていたのである。時期は1965~1986年なので、韓国が豊かになり始めるまで続いていた。

養子と養親のマッチングは韓国から送られた書類の到着順で決められたため、組み合わせに特定の傾向が出るはずもなく、養子と養親の特徴は何ら相関を持たなかった。つまり、各養子を異なる環境の家庭にランダムに配置して育てたのである。著者たちは、NGOの手続きを示すだけでなく、ランダムであることを検証するために、養子の月齢や性別が養親の特徴と無相関であることを確認している。

養子を迎えた養親は、同年代の子どもを持つノルウェイ国民全体の平均的特徴よりも所得が8%ほど少なく、母親の学歴が2%長くはあったが、決して特異な集団というわけではない。実際、養親と非養親(養子縁組みがされた時期に子どもが生まれた親)の純資産保有分布はほぼ一致している。一方、養子と(養親の)実子も、成人期の所得、学歴、純資産額などの特徴が似通っていることが示されている1

このため、養親家庭での実験結果はノルウェイ全体で実験すれば結果が似る可能性がある(外的整合性が一定程度ある)。

データ

本論文でキーとなる情報は養子である。韓国生まれの養子とその養親の情報は全国養子登録データから得て、ノルウェイ統計局行政登録データ(個人のパネル・データ、全国民の年齢や学歴等をカバー)と接合した。これをさらに歳入庁の税務データと接合し、所得や資産保有情報を加えている。

本コラムで以前から紹介しているが、北欧各国では全国民の行政データを研究用に提供している。本論文でも全国民データを複数組み合わせて巨大な母集団を構築し、韓国出自の養子という比較的小規模集団について完備に近いデータを形成、さらに、近隣集団についても全国民から抽出して大きな対照群を作っている。本論文は1965~1986年に月齢18カ月以下で養子縁組された2254人の養子とその養親を中心に据えながら、同時期に生まれた120万人以上の実子データ、韓国出自養子の受け入れ家庭の1105人の実子データなどを用いて推計し、養子データでの推計結果と対照している。養子の成人期の情報は2012~2014年(28~49歳)、養親の情報は1994~1996年のデータから得ている2

結果

養子は養親から遺伝子経由で何も受け取らない。にもかかわらず、養親(1994~96年時点)の純資産額が5クローネ多いと養子(28~49歳時点)の純資産額を約1クローネ増やす関係が示された。実験なので、これは因果関係である3。また、養子の純資産額への効果のうち、学歴、生前贈与、金融知識、所得などが仲介する(間接)効果は全体の37%程度で4、残りの60%近くは上記の経路によらない(直接)効果であった。養親純資産額の養子の所得や金融知識への効果は統計学的にはゼロ、学歴への効果は僅少であることも判明した5

養親のリスク資産保有が多いと養子のリスク資産保有を増やす関係も見出され、資産形成の態度も非遺伝経路で伝わっている。まとめると、豊かな養親に育てられた養子の純資産額は増え(生前贈与を除く)、それが養子の所得や学歴を介していないことが分かった。なぜ養子の純資産額が所得や学歴を介さず増えるのかは不明だが、遺伝経路以外で何かが伝えられていることが明確になった。

途上国研究への示唆

途上国の子どもが人的資本を積み上げて豊かになる経済発展の過程を念頭に置くと、本論文は扱いに困る。親が豊かという恵まれた環境に置かれても、所得や学歴に効果は無い。しかし、豊かな家庭に存在していて学校教育を経ない「何か」が子どもを豊かにさせる。就学すれば貧しい家計の子どもにも機会を与えると一般的には信じられているのに、この論文では正規の学校教育の意義を薄めるような結果が示された。

学歴への僅少効果はノルウェイが高学歴社会で差が生まれにくいから割り引くべきかもしれない。途上国では質の高い学習機会が稀少で、学習環境を整備すると学歴経由で豊かになるという結果になっても驚きはない。その一方で、ノルウェイの豊かな養親が養子に何を伝えたのか、どのような「環境」なのかを知らねばならない。その知識なしには、貧しい家庭の子どもに質の高い学習機会を与えても、機会を均等に与えていると言いにくいからだ。本論文ではリスクのある金融投資が候補として挙げられているが、他の環境要因も明らかにする研究が待たれる。

※この記事の内容および意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。
付論──知能は遺伝で5~6割決まらない

本論文の結果が画期的であることを味わうために、これまでの研究を振り返ろう。2011年前後まで遺伝対環境に関する拠り所は、行動遺伝学の養子研究や双子研究であった(Davies et al. 2011)6。 以下に示すように、古典的な行動遺伝学は強い仮定を置くことで、遺伝や環境のデータを計測することなく、遺伝と環境の貢献分を計測する。一方、神経科学は遺伝と環境の相互作用で人間の特徴が決まるエビデンスを示している。また、経済学は親の特徴を環境と定義して子どもの特徴との相関を計測する。経済学は環境データを使わない行動遺伝学よりも現実を反映しやすい手法を採っているが、神経科学の示すようなメカニズムを取り込んでいない点でブラック・ボックスに近い。

行動遺伝学の手法
行動遺伝学では、子どもは遺伝的つながりを持つ人間と特徴をどれだけ共有しているか、あるいは環境をともにする人間とどれだけ特徴を共有しているかを計測し、特徴のばらつきを遺伝と環境の影響に分解する。手法は変動の分解、つまり、共分散分析である。

養子研究は、養子になった子と生家の兄弟(遺伝情報を平均50%共有するが環境は共有しない)、養子になった子と養子先の兄弟(遺伝情報は共有しないが環境を共有する)を比較し、それぞれの兄弟とどれだけ似ているかを計測・比較する。古典的な双子研究は、一卵性双生児(遺伝情報を100%共有)間の類似度と、同性二卵性双生児(遺伝情報を平均50%共有)間の類似度を比較する7。このように、養子研究は遺伝と環境の違いを利用し、双子研究は遺伝情報共有の差を利用している。

遺伝対環境という見方
古典的な行動遺伝学の分解は、特徴yを遺伝a、環境c、ランダムな誤差eから成立すると仮定する。

y = a + c + e . (1)

これをもとにすると、特徴yの分散 σ y 2 を各要素の分散に分解できる。

σ y 2 = σ a 2 + σ c 2 + σ e 2 . (2)

(2)式では、遺伝と環境が無相関という仮定が置かれている。両辺を σ y 2 で割ると

1 = H 2 + C 2 + E 2 , H 2 = σ a 2 σ y 2 , C 2 = σ c 2 σ y 2 , E 2 = σ e 2 σ y 2 . (3)

行動遺伝学で「遺伝が50%説明する」と表現するとき、特徴の分散で遺伝の分散部分 H 2 が50%占めること、つまり、 H 2 = .5 を意味している。 H 2 は遺伝率heritabilityと呼ばれる。

特徴の要因方程式(1)には、一般的には遺伝と環境の交差項 a × c があってもよいはずである8。分散分解式(2)には、分散の線形変換の公式に従えば、aとcの共分散 σ ac 2 があってもよい。しかし、古典的な行動遺伝学は交差項ゼロ、共分散ゼロ(=遺伝と環境は無相関)と仮定するので登場しない。遺伝と環境の共分散の例は、子どもの特徴を伸ばしたり抑えたりする環境を親が準備すること(音楽的センスには楽器、稲には適した肥料)などの最適化行動である。このように、古典的行動遺伝学の仮定は、特徴の要因方程式(1)に a × c = 0 、分散分解式(2)で σ ac 2 = 0 , σ a × c 2 = 0 を課していると解釈できる。

この共分散は、数量遺伝学quantitative geneticsでは、GE相関(genotype-environment correlation)と呼ばれる。古くから進化生物学や神経科学でも、人々の特徴(表現型)は、遺伝と環境が独立して影響することはあり得ず、遺伝と環境が相互に作用したときに発生するため、交差項として考慮すべきという指摘がある(Lewontin 1980; Meaney 2004)9。このことからも、遺伝と環境だけに分解しようとする方法からは、歪んだ結果が得られる懸念がある。

遺伝と環境の無相関(=環境は外生)は現実的か
仮に、遺伝的特徴を捉えた親の最適化行動で兄弟の類似度が高まった(兄弟ともに楽器奏者になる)場合、本来ならば類似度増加分は共分散 σ ac 2 に帰するべきである。もしも、 σ ac 2 = 0 と想定すると、類似度をすべて生来のもの、つまり、遺伝 σ c 2 (よって遺伝率)に帰してしまう10。加えて、遺伝と環境の交差項 a × c がゼロではないときには σ a × c 2 σ c 2 に含めてしまう。よって、交差項ゼロ、共分散ゼロの仮定( σ ac 2 = 0 , σ a × c 2 = 0 )が正しくない場合には、遺伝率は過大推計になりやすい。実際に、同じ国民でも子どもの置かれた環境によって遺伝率が減ること(Devlin, Daniels, and Roeder 1997; Turkheimer et al. 2003)や共分散を入れて計算すると遺伝率が減ること(Björklund, Jäntti, and Solon 2005)が実証研究で指摘されている。

養子研究では環境が外生、つまり、養子縁組マッチングは養親との相性や適性など、子どもの特徴に影響する要因と相関しないと仮定する必要がある。なぜならば、養子と養親・養子先兄弟の特徴に正の相関があると、養子と養子先兄弟との類似度が高まり、環境に帰する変動割合が過大になるためである。同様の論理で負の相関があると過少になる。

環境共有は同じか
双子研究は一卵性双生児と二卵性双生児の置かれた環境の差を無視・軽視する必要がある。具体的には、双子研究では、一卵性双生児ペアと二卵性双生児ペアのペア内の環境共有(または同一環境への曝露)の程度は同等と仮定し、環境共有度の違いによって一卵性と二卵性で違いが発生しないと仮定(均等環境仮定、equal environments assumption: EEA)する。この仮定が正しければ、一卵性双生児ペアが二卵性双生児ペアよりも特徴が類似していると、それは一卵性双生児ペアが二卵性双生児ペアに比して、環境ではなく遺伝情報をより多く共有しているから、と解釈できる。

双子研究では観察可能な環境を共変数に加えても結果が変わらないと示され、EEAが満たされていなくても問題ないと主張される(Barnes et al. 2014)。しかし、「環境」は観察不可能な変数もあるため、相関係数による遺伝率推計には本質的な困難がある11,12

変動分解は因果関係ではない
行動遺伝学では特徴(の変動)を遺伝(との共変動)で説明される部分と環境(との共変動)で説明される部分に分解する。これは変動と変動との相関計測であり、特定の遺伝子群がある特徴に影響する因果関係を提示していない。よって、遺伝の「説明」する部分、つまり、共変動が多くても、遺伝の因果効果はゼロの可能性すらある13

古典的な行動遺伝学は、政策への示唆が明確でないことも指摘されている。仮に、遺伝率が因果関係を示す場合でも、遺伝に基づいた対策(例──近眼には眼鏡)が無駄とは限らないし、環境との相関が少ないのは実現している環境が貧弱である(例──合わない眼鏡をつけている)ためかもしれず、豊かな環境の提供を否定する根拠にならない(Goldberger 1978; Sacerdote 2011)。

双子研究を引用した一般向け著作では、「知的能力は5~6割程度が遺伝によって決まる」と主張されることもあるが、こうした表現は慎重さを欠く。遺伝を過大推計する可能性に配慮せず、しかも、変動の分解を因果関係として誤解している難点がある。

GWASによる因果推論
ゲノムワイド関連解析(GWAS)では、Single Nucleotide Polymorphisms(SNP)のある対立遺伝子(allele)から、ある特徴(例えば教育年数)と相関のあるものを特定し、特徴を各SNP値に回帰させて得る回帰係数を加重とするSNP平均値を計算する。これがポリジェニック・スコアである。イギリスのデータでは、教育年数は教育のポリジェニック・スコアとの相関がある(Lee et al. 2018; Hilger et al. 2022; Okbay et al. 2022)。ポリジェニック・スコアは生まれたときから固定されていることから、この相関は(最適化行動も含む)遺伝⇒教育年数という遺伝経由の因果効果である。Okbay et al.(2022)によれば、遺伝の効果は僅少で、対立遺伝子が追加的に1つSNPとして加わったとき、教育年数の延伸効果は1.4週間である(p.439, left)。なお、ポリジェニック・スコアのベースとなった対立遺伝子数は3277個あった。

ポリジェニック・スコアは、計量経済学で「能力」といわれてきた観察不可能な固定効果を明示化したものと解釈できる。推計技術としては、環境要因の因果効果を推計するときに計量経済学が伝統的に重用してきた固定効果推計量が基本的に適切であったことを示すともいえる。今までになかった利点としては、ポリジェニック・スコアと環境変数の交差項を使うことで、ポリジェニック・スコアに応じた効果多様性を推計できるようになる。ただし、ポリジェニック・スコアの効果が僅少なので、意味のある効果多様性推計値になるのかは不明である。

分散分解から距離を置く経済学
遺伝と環境が無相関という仮定が非現実的なだけでなく、因果関係も議論できない。そんな議論の方法は得策ではないと経済学では指摘されている(Goldberger and Manski 1995; Sacerdote 2011; Manski 2011)。

経済学では親の特徴を環境と定義したうえで、子の特徴を具体的な親の特徴に回帰させて係数を推計し、血縁関係によって係数の大きさの違いを評価することを基本とする。行動遺伝学は分散の構造をモデル化するのに対し、経済学は平均値と分散の構造をモデル化する。そして、主に議論する点は、行動遺伝学では分解された分散の比重であり、経済学では個人属性に応じて平均値がどのように異なるかである。経済学での平均値のモデル化は観察可能な変数しか使わないので、ブラック・ボックスに近い。こうした短所を乗り越えるため、新しい遺伝子情報計測技術に応じて、経済学にもポリジェニック・スコアを使った推計を取り入れた研究がある(Rustichini et al. 2023)。

一方、環境が内生という課題は経済学にも等しく突きつけられる。経済学でも多くの研究が取り組んできたが、歪みのない推計値を与える実験は当然できなかった。環境を変える実験をあたかもしたように解釈できる本研究の分析結果は、同じく韓国人養子を扱った Sacerdote(2007)以外に見当たらない貴重さである。

参考文献
  • Barnes, J. C., John Paul Wright, Brian B. Boutwell, and Joseph A. Schwartz. 2014. “Demonstrating the Validity of Twin Research in Criminology.” Criminology 52(4): 588.
  • Björklund, Anders, Markus Jäntti, and Gary Solon. 2005. “Influences of Nature and Nurture on Earnings Variation: A Report on a Study of Various Sibling Types in Sweden.” In Unequal Chances: Family Background and Economic Success, edited by Samuel Bowles, Herbert Gintis, and Melissa Osborne Grove, Princeton University Press Princeton, NJ. 145–164.
  • Davies, G., A. Tenesa, A. Payton, J. Yang, S. E. Harris, D. Liewald, X. Ke, et al. 2011. “Genome-Wide Association Studies Establish That Human Intelligence Is Highly Heritable and Polygenic.” Molecular Psychiatry 16 (10): 996–1005.
  • Devlin, Bernie, Michael Daniels, and Kathryn Roeder. 1997. “The Heritability of IQ.” Nature 388 (6641): 468–471.
  • Goldberger, Arthur S. 1978. “The Genetic Determination of Income: Comment.” The American Economic Review 68 (5): 960–969.
  • Goldberger, Arthur S., and Charles F. Manski. 1995. “Review Article: The Bell Curve by Herrnstein and Murray.” Journal of Economic Literature 33 (2): 762–776.
  • Hilger, Kirsten, Frank M. Spinath, Stefan Troche, and Anna-Lena Schubert. 2022. “The Biological Basis of Intelligence: Benchmark Findings.” Intelligence 93: 101665.
  • Lee, James J, Robbee Wedow, Aysu Okbay, Edward Kong, Omeed Maghzian, Meghan Zacher, Tuan Anh Nguyen-Viet, et al. 2018. “Gene Discovery and Polygenic Prediction from a Genome-Wide Association Study of Educational Attainment in 1.1 Million Individuals.” Nature Genetics 50 (8): 1112–1121.
  • Lewontin, R. C. 1980. “Sociobiology: Another Biological Determinism.” International Journal of Health Services 10 (3): 347–363.
  • Manski, Charles F. 2011. “Genes, Eyeglasses, and Social Policy.” Journal of Economic Perspectives 25 (4): 83–94.
  • Meaney, Michael J. 2004. “The Nature of Nurture: Maternal Effects and Chromatin Remodeling.” In Essays in Social Neuroscience, edited by J. T. Cacioppo and G. G. Berntson, MIT Press. 1–14.
  • Moore, David S., and David Shenk. 2017. “The Heritability Fallacy.” Wiley Interdisciplinary Reviews: Cognitive Science 8 (1-2): e1400.
  • Okbay, Aysu, Yeda Wu, Nancy Wang, Hariharan Jayashankar, Michael Bennett, Seyed Moeen Nehzati, Julia Sidorenko, et al. 2022. “Polygenic Prediction of Educational Attainment Within and Between Families from Genome-Wide Association Analyses in 3 Million Individuals.” Nature Genetics 54 (4): 437–449.
  • Plomin, Robert, and C. S. Bergeman. 1991. “The Nature of Nurture: Genetic Influence on ‘Environmental’ Measures.” Behavioral and Brain Sciences 14 (3).
  • Rustichini, A., W. G. Iacono, J. J. Lee, and M. McGue. 2023. "Educational Attainment and Intergenerational Mobility: A Polygenic Score Analysis." Journal of Political Economy. 131(10).
  • Sacerdote, Bruce. 2007. “How Large Are the Effects from Changes in Family Environment? A Study of Korean American Adoptees.” The Quarterly Journal of Economics 122 (1): 119–157.
  • ———. 2011. “Nature and Nurture Effects on Children’s Outcomes: What Have We Learned from Studies of Twins and Adoptees?” In Handbook of Social Economics, edited by Jess Benhabib, Alberto Bisin, and Matthew O. Jackson, North-Holland. 1:1–30.
  • Turkheimer, Eric, Andreana Haley, Mary Waldron, Brian D’Onofrio, and Irving I. Gottesman. 2003. “Socioeconomic Status Modifies Heritability of IQ in Young Children.” Psychological Science 14 (6): 623–628.
著者プロフィール

伊藤成朗(いとうせいろう) アジア経済研究所 開発研究センター、ミクロ経済分析グループ長。博士(経済学)。専門は開発経済学、応用ミクロ経済学、応用時系列分析。最近の著作に“The effect of sex work regulation on health and well-being of sex workers: Evidence from Senegal.”(Aurélia Lépine, Carole Treibichと共著、Health Economics, 2018, 27(11): 1627-1652)、主な著作に「南アフリカにおける最低賃金規制と農業生産」(『アジア経済』2021年6月号)など。

書籍:The effect of sex work regulation on health and well-being of sex workers: Evidence from Senegal

書籍:南アフリカにおける最低賃金規制と農業生産

  1. 子どもの誕生時の特徴を比較するのがベストであるが、そうしたデータは無いので、成人期の特徴から養子が特異な集団ではないことを示している。また、養子であるかで傾向値を推計し、近似した傾向値同士で比較をする傾向値マッチング推計値を用いても、推計結果が変わらなかったと報告されている。
  2. 先行研究に倣い、資産額はデータ利用全期間3年の平均値、養親の資産額は父と母の合計値を用いている。上位と下位の0.1%の標本を落とし、金融知識とは商学、経済学、金融論の学士保有と定義している。各年値や単親の値を使った場合、上位下位の標本を落とさなかった場合、子どもの成人期の年齢を違う範囲にした場合、純資産額の代わりに順位や対数値を使った場合も、結果は変わらなかったと報告されている。
  3. ただし、資産増加に伴う別変数の影響を排除できないので、純資産の総合的効果である平均因果効果average causal effectsと解釈する。養子の観察可能な違いを説明変数に加えて制御したうえでも、結果(average partial effects)は変わらないことが示されている。
  4. 間接効果のうち90%ほどが生前贈与であった。
  5. 養子の所得や学歴への効果が無視可能なのは、ノルウェイという高学歴な平等社会こその結果かもしれない。親の豊かさによって教育や就業の機会に差が少なければ、養親の豊かさが養子の学歴や所得に影響する度合いは減るためである。
  6. 2011年以降、精神医学などがゲノムワイド関連解析によって、特定の対立遺伝子alleleにおける変異(人口の1%以上に現れる場合──single nucleotide polymorphisms: SNPs──など)の集計値(ポリジェニック・スコア)が知的能力という表現型と相関するのかを示している。
  7. 双子は、兄弟に比べて、生誕順序や年齢差はないので気にしなくて良いという利点がある。
  8. 遺伝と環境交差項a×cとは増幅効果のことで、たとえば、音感が優れている(遺伝)と演奏の練習(環境)の効果が倍増する、背の低い稲ほど肥料の増量効果が大きい、手先が器用な人は服飾や建築デザイン教育の効果が大きい、などである。エピジェネティクスは環境によって遺伝子発現が変わるメカニズムを解明する研究分野であり、遺伝と環境の交差項はゼロではないことを学問分野を1つ作ることで示している。
  9. 行動遺伝学では遺伝的長所を動機とした親による最適化行動も「環境の遺伝」nature of nurtureと表現し、遺伝の効果と見なす研究がある(Plomin and Bergeman 1991)。しかし、aとcが2つ揃って発揮する効果を主にaに帰する解釈は奇妙である。人間の特徴は遺伝か環境かと問われた心理学者Donald Hebbが、「長方形は縦か横かと問うのと同じ」と答えたように、両方を同時に考慮すべきであろう。因みに、 Meaney(2004)のいうnature of nurtureはストレスによって遺伝子表現型が変わるエピジェネティクスを指しており、親の最適化行動を指していないので、同じ単語であっても行動遺伝学の指す中身と別物である。
  10. 二卵性双生児の親も同様に最適化をする場合、一卵性よりも双子の遺伝的特徴が似通っていないので、一卵性よりも類似度を高める費用が高い。よって、一卵性双生児の方が最適化によって類似度をより高められている可能性が高い。
  11. 環境を形成するのが多くの変数であることも遺伝率を過大評価し、環境を過小評価する可能性を高める。例えば、特徴と複数(2つ)の環境変数A、Bとの相関が高くても、手もとにあるデータの環境変数がAだけの場合、計測される相関は真の相関よりも低くなる。
  12. 養子研究では、子どもが成長してから養子縁組されれば生家環境に影響される。すると、遺伝と環境を取り違える計測誤差が発生し、環境の影響を遺伝の影響と誤って推計する懸念がある。
  13. 遺伝率heritabilityと遺伝genetic inheritanceは別の概念である。詳しくは Moore and Shenk(2017)を参照。例えば、親の身長と同じになるように養子を育てている集団がいれば、遺伝はゼロなのに遺伝率は100%である。食糧を調整して実子の身長を全員150cmに育てる集団がいれば、両親からの遺伝は100%なのに身長の変動はゼロなので遺伝率はゼロである。
【特集目次】

途上国研究の最先端