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コラム

途上国研究の最先端

 
第29回 禁酒にコミットしますか?

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00051461

2019年9月

(2,338字)

今回紹介する研究

Frank Schilbach. "Alcohol and Self-Control: A Field Experiment in India," American Economic Review, Vol. 109, No. 4, April 2019, pp. 1290-1322.

発展途上国では、低所得労働者のアルコールの大量消費 が珍しくない。過度の飲酒は生産性に悪影響を与えるだけでなく、近視眼的な意思決定に繋がって貯蓄や投資を妨げるために、貧困が深刻化しかねない。一方、行動経済学においては、自分の意思が弱いことを自覚している人に対しては、コミットメント(自分の行動を縛る具体的な仕組み)を提供することにより、望ましい行動に導けることがわかってきている。今回紹介するのは、禁酒へのコミットメントの機会を実験的に提供することで、その効果を検証した論文である。

本論文では、インド・チェンナイにおいて常習飲酒者のリキシャ引き229人を対象に、「禁酒」することに対して金銭的インセンティブを与えるという実験を行った。実験の概要は以下のとおりである。3週間にわたって、被験者には毎日18時から22時までの間に、街中にある実験オフィスに来てもらい、血中アルコール濃度(BAC)の検査と質問票調査をする。4日間の導入期間の後、実験参加者を以下の3つのグループにランダムに割り当てる。(a)グループはコントロールとして、オフィスに来ればBACにかかわらず90ルピー(Rs.)もらう。(b)グループは、オフィスに来ればRs.60、BACが0であれば加えてRs.60もらう。(c)グループについては、以下の表1 の(1)から(3)それぞれについて選択肢AかBを事前に選んでもらい、3つのうちランダムに選ばれた方式に基づいて、オフィスに来た際にお金をもらう。ここで、(2)と(3)については、選択肢Bの方がA以上の金額を確実に得られることに注目したい。それにもかかわらずAを選ぶということは、禁酒にコミットしていると考えることができる。

表 1

選択肢A 選択肢B
BAC>0 BAC=0 BACにかかわらず
(1) Rs.60 Rs. 120 Rs. 90
(2) Rs.60 Rs. 120 Rs. 120
(3) Rs.60 Rs. 120 Rs. 150
(出所)本論文、p.1298。
なお、すべての被験者はオフィスの貯金箱に貯金する機会が与えられ、最終日までに貯めた金額に対して、10%もしくは20%のボーナスがランダムに支払われる。また、被験者の半分には、最終日まで引き出すことができないという貯蓄コミットメントがこの貯金に付帯していた。この貯蓄コミットメントについても、同様のボーナスがランダムに支払われる。
飲酒を抑制すれば、貯蓄が増える

まず、(c)グループのコミットメントに対する需要を見てみよう。分析の結果、やはり選択時のBACが高い(=コミットメントの必要のある)人が選択肢Aを選んでいる傾向があることがわかった。注目すべきは、3分の1ほどの人が(3)の選択においてもAを選んでいることである。これは既存研究と比較しても高い支払許容額を示しており、コミットメントへの高い需要がうかがわれる。

では、実験はどのような効果をもたらしたのだろうか? まず、飲酒の抑制効果については、(b)と(c)のグループはコントロールと比較して有意に飲酒を控えることがわかった。ただし、1日のアルコール消費量に対しては有意な効果は確認されず、飲酒のタイミングが日中から夜にシフトしたことが示唆される。

労働供給については、予想に反して有意な効果が認められなかった。ただし、推定値の標準誤差が大きいこと、短期的な効果しか見ていないこと、アルコールの鎮痛作用が肉体労働の供給に対してプラスの効果がある可能性があること、などの理由から、著者らは労働供給に対する効果を否定しきれないとしている。

貯蓄への効果については、(b)と(c)のいずれのグループも、コントロールと比較して50%以上も貯蓄金額が高まることがわかった。さらに、禁酒へのインセンティブと貯蓄コミットメントの両方もしくはどちらか一方を受けたグループの間では貯蓄率に大きな違いがないのに対し、どちらも受けていないコントロールと比較すると、いずれも有意な貯蓄額の増加が確認された。これは禁酒へのインセンティブが貯蓄コミットメントと同等の効果を持つことを示唆している。

以上のように、「禁酒」へのインセンティブは貯蓄を促進するために、貧困から抜け出すためのチャンスにもつながりうる。しかし、これはあくまでも短期間の実験結果であり、政策につなげるためには、より長期的な視点での分析が待たれる。

著者プロフィール

會田剛史(あいだたけし)。アジア経済研究所開発研究センター研究員。博士(経済学)。専門分野は開発経済学。最近の論文に、"Social Capital as an Instrument for Common Pool Resource Management: A Case Study of Irrigation Management in Sri Lanka," Oxford Economic Papers, forthcomingや、"Is Farmer-to-Farmer Extension Effective? The Impact of Training on Technology Adoption and Rice Farming Productivity in Tanzania," World Development, Volume 105, 2018, pp. 336–351.(共著)など。

書籍:Social capital as an instrument for common pool resource management: a case study of irrigation management in Sri Lanka

書籍:Is farmer-to-farmer extension effective? The impact of training on technology adoption and rice farming productivity in Tanzania

【連載目次】

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