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論考

記事一覧(最新15件)

  • ベネズエラふたたび政治の季節――権威主義体制下の選挙と国際的要因 / 坂口 安紀 過去10年ベネズエラは民主主義の崩壊、ふたりの大統領が並び立つ政治的混乱、ハイパーインフレと経済縮小、食料や医薬品の欠乏で犠牲者が出る人道的危機、770万人(人口の2割弱に相当)の国外脱出など、複層的な危機下にある。国際社会からはニコラス・マドゥロ(Nicolás Maduro)政権に対する非難が集まり、国際仲裁の動きも活発化した。2019年後半以降はマドゥロ政権がいっそう権威主義的対応を強めたことと反政府派の弱体化により、ベネズエラ政治は混乱したまま約4年間膠着状態に陥っている。 2024/02/28
  • 2022年マレーシア総選挙における「緑の波」とその背景 / 谷口 友季子 昨年11月19日、マレーシアで第15回総選挙が実施された。この選挙では、いずれの政治勢力も過半数の票を獲得できず、選挙後の交渉の末、野党連合・希望連盟(Pakatan Harapan:PH)の指導者であったアンワル・イブラヒムを首相とする連立政権が誕生した。2020年以降の政局から引き続き、勝者を決めたのは、多数派工作を行う政治家間の駆け引きであった。一方、有権者の投票の結果、議会内第一党となったのは、保守的なマレー・ムスリム政党である汎マレーシア・イスラーム党(PAS)である。PASが第一党となるのは初めてであり、この躍進は、その党旗の色にちなんで「緑の波」と評された。 2023/09/07
  • 「改革派」と「泥棒政治家」の奇妙な連立――2022年マレーシア総選挙 / 中村 正志 昨年11月19日に投票が行われたマレーシアの第15回総選挙は、大方の予想を裏切る不可解な帰結をもたらした。欧米メディアから改革派(reformer)と謳われたアンワル・イブラヒム希望連盟(PH)代表が、泥棒政治家(kleptocrat)と蔑まれるアフマド・ザヒド・ハミディ国民戦線(BN)議長と結託して新たな連立政権を立ち上げ、それぞれ正副首相の座におさまったのである。 2023/01/11
  • RCEPの電子商取引条項――TAPEDデータベースに基づくマッピング分析 / 梅﨑 創 情報通信技術の加速度的な発展に加え、2020年から世界を覆い続けているコロナ禍により、電子商取引の重要性、そして電子商取引に関する世界的なルールを策定する必要性がこれまでになく高まっている(三浦 2020)。しかし、電子商取引のルールに対する考え方は多様であり、「電子商取引の自由化を志向する米国、個人情報保護等の信頼性を重視するEU、主権や途上国支援を踏まえた議論を求める中国など、主要国・地域の意見の隔たりは大きい状況にある」(上谷田2020, 110) 。 2021/11/22
  • イラン企業の実像――「非発展型」ファミリービジネスへのアプローチ / 岩﨑 葉子、ファラーナック・ジャヴァーヘルダシュティー 古今東西の多くの企業がその創業者を中心とするファミリーを基盤として事業を興し、それがある程度成功裡に継続した後は、創業者は一線を退いて経営に関わる権利や資産を次世代へ譲ることで事業自体を維持・存続させてきた。この事業継承のプロセスを、企業のライフサイクルの問題として捉えるとき、その先行研究にはいくつかの異なるアプローチがある。 2021/07/30
  • 2020年キルギス共和国政変の背景と帰結――腐敗に蝕まれる「民主主義の島」 / 岡 奈津子 2020年10月、中央アジアのキルギス共和国(クルグズスタン)で発生した反政府デモにより、ジェーンベコフ政権が崩壊した 。事の発端は国会選挙をめぐる不正疑惑であったが、投票日を含むわずか12日のあいだに大統領が辞任し、それまで収監されていた元議員が首相に任命された後、大統領代行に就任するという目まぐるしい展開となった。暫定政権は国会選挙のやり直しを延期した一方で、2021年1月10日に前倒しで大統領選挙を実施した。 2021/02/03
  • 支持される権威主義的反動――世論調査から見るフィリピン政治の現在 / 川中 豪 フィリピンでもコロナウィルスの感染拡大が続き、1月初め時点で48万人を超える感染者数を記録した(死者は9000人超)。東南アジアではインドネシア(感染者79万人、死者2万3000人)に次ぐ規模である。経済的にもそのダメージは深刻で、2020年第2四半期の国内総生産(GDP)実質成長率は、前年同期比でマイナス16.9パーセント、第3四半期ではマイナス11.5パーセントとなっている。それでも、政権発足から高い支持率を享受してきたロドリゴ・ドゥテルテ大統領の人気は揺るがない。2020年9月に実施されたフィリピンの民間世論調査機関Pulse Asiaの世論調査(1200人対象)で、91パーセントの回答者が「支持する」と答えた 。公正な世論調査として信頼されているPulse Asiaの調査で、このような高い支持率が示されるのには驚くばかりである。 2021/01/12
  • 2020年シンガポール総選挙――与党停滞と野党伸張、議会政治の転換点と将来への希望 / 久末 亮一 2020年7月10日、シンガポールでは国会総選挙が実施された。その結果は、建国以来の政権与党である「人民行動党」(People’s Action Party, 以下PAP)が、国会で絶対多数を占めることが「常識」となっているシンガポールでも、将来における変化の始まりを予感させるものとなった。 2020/08/27
  • 「世界最大のロックダウン」はなぜ失敗したのか――コロナ禍と経済危機の二重苦に陥るインド / 湊 一樹 2019年12月、中国の湖北省武漢市で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がはじめて確認された。急激な感染の拡大は、中国がその中心地であった時期を経て、わずか3カ月足らずの間に世界中を覆いつくし、3月11日には世界保健機関(WHO)が「パンデミックといえる状況にある」と表明するに至った。その後、新型コロナウイルスの感染拡大はさらに勢いを増し、7月27日までに世界全体で確認された感染者と死者の数は、それぞれ1625万人と65万人にのぼっている。また、国別の累計感染者数は、米国が423万人と圧倒的に多く、ブラジル(242万人)、インド(144万人)、ロシア(81万人)、南アフリカ(45万人)、メキシコ(39万人)、ペルー(38万人)、チリ(35万人)が後に続く 。 2020/07/29
  • メキシコ与党・国民再生運動を揺るがす派閥対立――幹事長選出をめぐる混乱 / 豊田 紳 左派の政治家アンドレス=マヌエル・ロペス=オブラドール(Andres Manuel López Obrador) と、彼が創設した新興の左派政党「国民再生運動(morena)」が、2018年のメキシコ大統領選挙で地滑り的な勝利を収めてから、一年余りが経過した。このロペス=オブラドール政権は、その就任前には、ポピュリスト的であるとか予想がつかないとか様々なネガティブな評価にさらされていたが、一年が経ってから見ると、支持率だけを見る限り、おおむね大過ない一年を過ごしたと言えよう。 2020/05/13
  • 中国・新疆ウイグル自治区のカザフ人――不法入国とカザフスタン政府のジレンマ / 岡 奈津子 判決後、喜びに思わず両手で顔を覆うポニーテールの中年女性。狭い法廷に拍手と歓喜の声が響き渡る。ガラス張りの被告人席から出るように促された彼女は、集まった家族や支援者らと抱擁を交わした。さらに外に出て裁判所の前に立つと、ナザルバエフ大統領と同胞たちへの感謝の言葉を述べ、「カザフスタン万歳!」と叫びながら力強くこぶしを突き上げた。 2020/04/24
  • 続くタイの政治混乱――あぶり出された真の対立軸 / 重冨 真一 2006年以降、現在に至るまで、タイの政治は混乱のさなかにある。大規模な街頭デモが繰り返され、国際空港すら群衆によって占拠されたことがあったし、軍事クーデタが2回も起きた。2014年以降は、軍部による支配が2019年5月まで5年間も続き、その後の民選内閣も軍部の影響力下にある。本稿では、重冨(2010)で示した混乱の構造をおさらいした後、2014年クーデタ以降の変化に注目して、現在のタイにおける政治対立がどのような状況にあるのか、何をもたらしたのかを考えてみたい。 2020/01/16
  • 中ロ台頭下のトランプ政権の対キューバ政策とキューバの選択肢 / 山岡 加奈子 トランプ米政権は、2017年6月と2019年6月の2度にわたり、オバマ前政権が緩和した対キューバ経済制裁を再強化した。2017年の制裁強化は、キューバの非民主的政権を支える革命軍に外貨(米ドル)収入を与えないため、という理由であり、キューバの現政権に対する締め付けが主な目的であると説明されていた。しかし2019年の再強化は、キューバのベネズエラ軍・治安維持組織への支援に対する懲戒であると説明されている。 2019/12/18
  • ワンマンショーとしてのモーディー政治――インド総選挙での与党の圧勝と政治プロパガンダ―― / 湊 一樹 2014年5月にインド人民党(BJP)を中心とする新政権が発足して以降、ナレーンドラ・モーディー首相の政治スタイルを評して、「ワンマンショー」(one-man show)という言葉がたびたび用いられてきた。モーディー政権のもとでは、首相(および首相府)があらゆる権限を掌握する一方、大臣には政策の決定権ばかりか担当省庁の人事権さえ十分に与えられず、政府が上げた(とされる)成果はすべて首相の指導力と手腕によるものであるとされ、さらには、首相の方針に異を唱えることは政府・与党内では一切許されないといった点が、「ワンマンショー」という表現の背景にある 。 2019/08/08
  • 流動化する東南アジアの選挙政治 / 川中 豪 世界各国で選挙政治が流動化している。そこには、特定の政治指導者個人に依存する政治のパーソナライゼーション、そして特定の社会の亀裂が強調される分極化という二つの流れが、既存の政治秩序に挑戦するという現象がみられる。東南アジアも例外ではない。 2019/07/24
  • ベトナムの国有企業改革の新局面――どこまで到達したか、何が新しいのか―― / 藤田 麻衣 ベトナムは、1986年に市場経済化を主な柱とするドイモイ路線を採択してからも、国有企業の迅速かつ大規模な民営化は回避する方針を貫いてきた。初期の赤字国有企業の整理の後、改革の中心は株式会社への転換(以下、株式化)へと移行した。だが、その進展は漸進的であり、主要産業の担い手として総公司や国家経済集団と呼ばれる大規模国有企業グループが設立されるなど、国有企業強化の動きもみられた。大規模国有企業グループの多くは国の手厚い支援にもかかわらず競争力を向上できず、2010年頃からはいくつかの企業で深刻な経営上の問題が露呈するに至る。これを契機として、大規模国有企業グループの改革の必要性が叫ばれるも、進捗は大幅に遅れていた。 2019/05/30
  • 工業化・近代化に伴う農村社会変動――ベトナム社会把握の枠組みに関する試論 / 荒神 衣美 本稿は、ベトナム社会全体の変動を理解する前段階として、ベトナムが工業化・近代化期に経験している、農村のなかでの経済的分化という現象について論じようとするものである。 2019/05/14
  • キューバ経済政策の二重基準――ディアスカネル新体制の緩やかな改革 / 山岡 加奈子 2018年4月、キューバの国家元首にあたる国家評議会議長職が、87歳のラウル・カストロから58歳のミゲル・ディアスカネル=ベルムーデスに譲られた。それから1年が過ぎたが、新議長就任後の経済政策を見ると、海外メディアなどで期待されたような経済改革は実施されておらず、革命体制を維持するために非常に保守的な経済政策が引き続き採用されている。 2019/04/23
  • 米中ハイテク摩擦と台湾のジレンマ――JHICC-UMC事件からみえるもの / 川上 桃子 2018年半ば頃から鮮明になった米国と中国の経済的対立には、米国が高率関税の賦課を交渉手段として中国に貿易黒字の削減を迫る「貿易摩擦」としての側面と、ハイテク産業での覇権をめぐる大国間対立から生じる「ハイテク摩擦」としての側面がある。いずれの面での対立も、米中双方と密接な経済関係を持つ東アジアの国々に大きな影響を及ぼすものであるが、なかでも台湾は、ハイテク・エレクトロニクス産業に傾斜した経済構造を持ち、かつ同産業において米中両国と強いリンケージを有するがゆえに、米中間のハイテク摩擦の影響を強く受ける可能性が高い。 2019/04/04
  • 中国の有機農業ビジネス――現代の「四千年農夫」をめざして / 山田 七絵 1909年(明治42年)2月19日、ひとりのアメリカ人農学者が横浜港に降り立った。彼はそこから4カ月半かけて当時の日本、中国、満州、朝鮮各地の農業をつぶさに視察し、帰国後その成果を一冊の著作にまとめた。彼の名はF・H・キング、当時ウィスコンシン大学農業物理学教授の職にあり、農務省土壌管理部部長を歴任した人物だ 。調査旅行の成果は彼の死後、King(1911)として刊行された。著作のなかで彼は、土壌物理学者の曇りのない眼で東アジア農業の特長を見抜いている。四千年の長い農耕の歴史のなかで膨大な人口を養い続けてきた労働集約的な農法、し尿や廃棄物の循環的な利用による地力の維持を高く評価し、当時すでに近代農法による地力の衰えが表れ始めていたアメリカ農業にとっても学ぶべき点が多い、としているのである 。 2019/03/29
  • 「新しいマレーシア」の誕生――政権交代の背景と展望 / 中村 正志 2018年5月9日にマレーシアで行われた第14回総選挙において、マハティール・モハマド氏が率いる政党連合の希望連盟(Pakatan Harapan)が連邦議会下院の過半数議席を獲得し、同国史上初の政権交代が実現した。日本をはじめとする海外メディアでは92歳のマハティール氏(現在は93歳)に関心が集中し、政権交代が同氏のカムバックという文脈で語られがちだが、現地の受け止め方は異なる。投票という、国民の意思の発露によって権威主義的な政権が打破されたことで、メディアやSNSなどの言論空間は、これから政治が刷新され、新しい国に生まれ変わるのだという高揚感に満ちあふれた。それを端的に表す「新しいマレーシア」(Malaysia Baru / New Malaysia)ということばが、いま流行語になっている。 2018/09/07
  • 中所得国の経済成長とキャッチアップ / 塚田 和也 東アジア地域は過去半世紀の間に目覚ましい経済発展を遂げた。1970年代以降、日本に続き韓国、台湾、香港、シンガポールが急速な経済成長を実現し、1980年代には東南アジアの他の国々も高成長国のグループに加わった。さらに、1990年代以降は、中国がこの地域の経済成長を牽引する主要な役割を果たしている。現在、中国や東南アジアの国々の多くは、世界銀行が定義するところの中所得国に分類される。これらの中所得国が、スムーズに高所得国へと移行できるか否かについて、過去10年ほど活発な議論が行われてきた。 2017/12/01