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エルドアンとデモ──イスタンブル市長逮捕の衝撃
/ 間 寧
2025年3月19日にイスタンブル広域市長のエクレム・イマモールが汚職やテロ組織との繋がりなどの容疑で、関係者約100名とともに拘束され、その後逮捕された。エルドアン政権では近年、政府批判勢力の言動が大きく制約されてきたが、イマモールの逮捕を受けて発生した抗議運動は予想に反して急速に広がりつつある。その理由は何か。また、今後はどのように展開するのか。本稿は、過去の抗議運動とも対比しつつ、今回の抗議運動をその戦略と政権の対応から分析し、今後のトルコ政治に及ぼす影響を展望する。
2025/04/25
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トランプ政権の相互関税政策が世界経済に与える影響(2025年4月2日ホワイトハウス発表対応版)
/ 熊谷聡・早川和伸・磯野生茂・後閑利隆・ケオラ・スックニラン・坪田建明・久保裕也
2025年1月に就任したトランプ大統領は、次々と関税政策を打ち出している。2月1日には、カナダとメキシコからの輸入品に25%の追加関税を課す大統領令に署名、1カ月間の猶予の後、3月4日から実施した。中国からの輸入品に対しても、2月4日から10%、3月4日から20%の追加関税が課された。3月12日にはすべての国からの鉄鋼・アルミニウム関連輸入品に25%の関税を発動した。こうした個別の関税政策に加え、トランプ政権が掲げる広範な関税政策が「相互関税」である。2025年2月13日に発表された「公正かつ相互的な計画」では、他国が米国製品に課す関税率と同等の関税を米国も課すことを表明した。この相互関税は4月2日にも実施される可能性がある。本分析では、政権発足後に明らかになった情報を踏まえて、トランプ政権の相互関税政策が世界経済に与える影響を、経済地理シミュレーションモデル(IDE-GSM)を用いて検証した。
2025/04/21
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トランプ政権「相互関税」、その計算式の“根拠”
/ 渡部 雄太
アメリカのトランプ大統領は2025年4月2日にホワイトハウスで演説を行い、相互関税を世界各国に課すことを発表した。トランプ大統領はそれぞれの国がアメリカに対して高率の関税を実質的にかけていると主張し、それに対応する関税をそれぞれの国に課すると述べた。たとえば日本はアメリカの商品に46%の関税 をかけているとされ、その関税を相殺するためその半分の値である24%の関税が日本に対して課せられることになった。
当初、この関税率は相手国の実際の関税率ではなく、二国間の貿易赤字額を輸入額で割った値 (貿易赤字 ÷ 輸入額) を基準にしていると報じられた。一見、政治的なレトリックや交渉術にも見えるこの相互関税だが、米通商代表部(USTR)はウェブサイトで、特定の計算式に基づいた理論的な値であると説明している。この二つの説明のどちらが正しいのだろうか? 実は国際貿易の理論から導き出される式を追っていくと、この二つの値が一致する可能性があるということが分かる。つまりどちらの説明もある意味では正しいことになる。
2025/04/11
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トランプ政権の相互関税政策が世界経済に与える影響──IDE-GSMによるシミュレーション分析
/ 熊谷聡・早川和伸・磯野生茂・後閑利隆・ケオラ・スックニラン・坪田建明・久保裕也
2025年1月に就任したトランプ大統領は、次々と関税政策を打ち出している。2月1日には、カナダとメキシコからの輸入品に25%の追加関税を課す大統領令に署名、1カ月間の猶予の後、3月4日から実施した。中国からの輸入品に対しても、2月4日から10%、3月4日から20%の追加関税が課された。3月12日にはすべての国からの鉄鋼・アルミニウム関連輸入品に25%の関税を発動した。こうした個別の関税政策に加え、トランプ政権が掲げる広範な関税政策が「相互関税」である。2025年2月13日に発表された「公正かつ相互的な計画」では、他国が米国製品に課す関税率と同等の関税を米国も課すことを表明した。この相互関税は4月2日にも実施される可能性がある。本分析では、政権発足後に明らかになった情報を踏まえて、トランプ政権の相互関税政策が世界経済に与える影響を、経済地理シミュレーションモデル(IDE-GSM)を用いて検証した。
2025/03/27
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トランプ2.0における米中対立
/ 佐橋 亮
トランプ政権が再始動した。政権発足から1カ月余りで、内政と外交にわたり多くの政策を矢継ぎ早に大統領令または大統領主導によって実現しようとしている。そのスピード感は、この政権が新政権ではなく4年前からの延長線としてスタートしていることを示しているかのようである。前回のトランプ政権4年間で培った様々な経験を反映し、アメリカ・ファースト、または「力による平和」を実現するための政策課題や政策手法に確信を持っているかのようにも見える。
2025/03/13
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朝鮮の世界観におけるロシア支援
/ 宮本 悟
ウクライナ戦争で朝鮮がロシアに軍部隊を送ったことが確実となった。2024年10月に朝鮮が軍部隊をロシアに派兵したことをウクライナが発表し、韓国や米国、NATOが次々に確認した。2022年から始まったとされる武器支援に続く、朝鮮によるロシア支援である。ロシアも朝鮮もまだ両国間の軍事協力について公表していない。しかし、朝鮮から派遣された兵士がウクライナ軍の捕虜になったことから、朝鮮が軍部隊をロシアに送ったことは揺るがない事実となった。
2025/03/06
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2024年インドネシアの十大ニュース
/ アジ研・インドネシアグループ
アジア経済研究所では、インドネシアを研究対象とする研究者が毎週集まって「先週何が起きたか」を現地新聞・雑誌などの報道に基づいて議論する「インドネシア最新情報交換会」を1994年から続けています。毎年末には、その年のニュースを振り返って、私たち独自の「十大ニュース」を考えています。今年も、アジ研・インドネシアグループの考える「2024年インドネシアの十大ニュース」を発表します。
2025/03/04
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岐路に立つシリア──抑圧から希望へ、不確実な未来への歩み
/ ダルウィッシュ ホサム
シリアのアサド独裁政権が終焉を迎え、54年にわたる一族支配と、60年に及ぶバアス党による恐怖と抑圧の統治に幕が下りた。2024年12月8日、2011年に始まった平和的な蜂起とそれへの弾圧が発端となった14年にわたる紛争の末、バッシャール・アル=アサドは国外へ逃亡した。彼が残したのは、紛争によって深く傷ついたシリアであった。その被害は甚大で、数十万人が命を落とし、人口の半数にあたる1300万人以上が家を追われ、難民もしくは国内避難民となった。
2025/02/17
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「西側の黄昏」後の東アジア――第二次トランプ政権の成立にあたって
/ 玉置 敦彦
アメリカは軍事力、経済力、技術力のいずれをとってみても世界で最も強大な国家である。中国との大国間競争が国際政治の焦点となって久しいが、アメリカの物質的な優位は揺るがない。これに日本や韓国、西欧諸国といった主要同盟国を含めた「西側」全体をみれば、その優勢は明確となる。それにもかかわらず、アメリカ主導の「リベラルな国際秩序」には黄昏が迫り、その根幹たる西側同盟も大きく揺らいでいる。震源地はアメリカ、とりわけ2025年1月20日に成立した第二次ドナルド・トランプ政権であり、その焦点は米中競争の最前線たる東アジアにほかならない。第二次トランプ政権発足後の東アジア、すなわち北東アジアから東南アジアにかけての地域秩序は、いかなるものになるのか。この小文では、歴史と理論を手がかりとして考えてみたい。
2025/02/13
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「地方発展20×10政策」とは何か――金正恩の戦略を読み解く
/ 郡 昌宏
2024年1月15日の最高人民会議第14期第10回会議で、金正恩国務委員長は「地方発展20×10政策」(以下、「20×10政策」)の開始を表明した。これは、毎年全国「20」の市・郡を選定して工場などの建設を行い、「10」年以内に全国約200の市・郡において住民の生活水準を向上させるという政策である。金正恩政権は同政策を通じて地方経済を発展させ、金日成時代から問題となっていた地域間の経済格差の解消と全国的な経済発展を目指している。
2025/01/29
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モザンビーク2024年総選挙不正に対する抗議と個人独裁
/ 網中 昭世
モザンビークでは、2024年10月9日に大統領選挙・国民議会選挙・州議会選挙(以下、総選挙)が実施された(網中 2024b)。今回の選挙では、独立以来の与党のモザンビーク解放戦線(FRELIMO)、モザンビーク民族抵抗(RENAMO)、モザンビーク民主運動(MDM)、モザンビーク発展のための楽観的民主党(PODEMOS)の4政党から大統領候補が出馬した。モザンビークでは大統領の3選が禁止されているため、FRELIMOにとっては2期を務めた現職大統領フィリッペ・ニュシ(Filipe Nyussi)に代わる新顔候補の擁立である。10月20日付でまとめられた集計結果は24日に選挙管理委員会から公表された。選挙管理委員会の集計結果は、憲法評議会による承認を経て最終結果が確定される。憲法評議会が最終的な評価を下す期日は、選挙法に定められていないが、通例であれば年内に公表され、年明け後の1月半ばに新大統領が就任するスケジュールである。12月12日現在も、選挙管理委員会が公表した集計結果をめぐり、野党候補の呼びかけで独立以来最大規模の抗議運動とそれに対する弾圧が続いている。そうしたなかで、憲法評議会がどのような評価を下すのかが注目されている。
2024/12/27
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トルコの対インフレ政策──信頼性の不足
/ 間 寧
エルドアン政権のメフメト・シムシェク財務国庫相が2023年6月に「経済合理性への回帰」(「3選エルドアンのトルコ」IDEスクエア、2024年4月)を宣言してから1年半が経とうとする 。その最大の課題はインフレ抑制だったが、2024年10月時点でも年率(前年同期比)48.6%とインフレ低下のペースは遅く、中央銀行はインフレ予想の上方修正を再三余儀なくされた。インフレ抑制はなぜ長丁場となっているのか。本稿はこの問いに答える。
2024/12/25
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政治改革を求めたスリランカ――2024年大統領・国会議員選挙
/ 荒井 悦代
スリランカでは2024年9月21日に大統領選挙が行われ、人民の力(NPP)代表のアヌラ・クマーラ・ディサナヤケ(通称AKD)が当選した。NPPは、大統領選挙の時点で国会にわずか3議席しかもたない小政党だった。ところが11月14日の国会議員選挙でもNPPは躍進し、過半数議席を獲得した。
1978年に大統領制が導入されて以来、基本的にスリランカの大統領は伝統的な二大政党である統一国民党(UNP)とスリランカ自由党(SLFP)のどちらかから選ばれてきた。また国会選挙においては、単一の政党が過半数議席を得ることはなかった。今回、第三勢力だったNPPから大統領が選出され、同党が単独で議会の過半数を制したことは、スリランカ政治史の転換点として記憶されるであろう。本稿では、この転換点に至るまでの経緯をみるとともに、NPP とその指導者AKDの出自と台頭の背景を考察する。
2024/12/24
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パキスタン総選挙後の議席配分をめぐる政府と最高裁の攻防
/ 工藤 太地
2024年2月、パキスタンにおいて連邦下院選挙が実施された。いずれの政党も単独で過半数を制することができず、選挙後の連立交渉を経て、パキスタン・ムスリム連盟ナワーズ派(PML-N)を中心とする連立政権が誕生した。
しかしながら、選挙実施から半年以上経過した現在においても、20以上の議席の行方が確定していない。野党パキスタン正義運動党(PTI)への議席配分をめぐって最高裁と政府与党が対立し、選挙管理委員会(以下、選管)が最終的な議席配分を実施できていないためである。
連立与党は、下院336議席のうち200以上の議席を確保している。他方、現在係争中の議席は22議席のみであり、仮にすべての議席が野党に配分されたとしても、与党勢力は政権を維持し続けることができる。それにもかかわらず、連立与党は強引な法改正を行い、PTIへの議席配分を命じた最高裁判決を無効化して議席を確保しようとしている。なぜ与党は、司法判決の履行を妨害してまで20余りの議席を獲得しようとしているのだろうか。
本稿では、まず、議席確保にこだわる与党側の狙いが憲法改正にあったことを示す。次いで、議席問題の決着を見ぬまま10月に憲法改正が成立するに至った過程を分析する。そのうえで、この憲法改正が今後のパキスタン政治にもたらす影響について検討する。
2024/12/11
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2024年ウルグアイ大統領選挙──勝者なき選挙結果と決選投票の見通し
/ 中沢 知史
「熱狂も、サプライズもない選挙」──2024年10月27日、奇しくも日本の衆議院議員選挙と同日に南米南部のウルグアイ(人口約344万人、登録有権者数約272万人)で行われた大統領・上下両院議員選挙についての第一印象は、このように要約できる。実際、選挙結果はほぼ事前の下馬評どおりで、いずれの候補も当選に必要な50%超の票を得られず、11月24日(日)に得票上位2名による決選投票が行われることが決まった。後述するように、決選に残ったアルバロ・デルガド(与党)とシャマンドゥ・オルシ(野党)の両名とも、所属する政治勢力の既成路線を踏襲する、やや新鮮味に欠ける候補である。当初から接戦が確実視されていたため、失点しないよう慎重に互いをけん制してきたことも、選挙キャンペーンが盛り上がらなかった原因であろう。
2024/11/20