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世界を見る眼

記事一覧(最新15件)

  • (2024年インドネシアの選挙)第7回 プラボウォ政権への移行期政治 / 本名 純 2月の大統領選挙と議会選挙を経て、プラボウォ・スビアント新政権の誕生を10月に控えるなか、インドネシアの政治は約8カ月の長い政権移行期の最中にある。10年前のユドヨノ政権からジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)政権への移行は、7月に大統領選挙を行ったため、3カ月という短い期間であった。今回の移行期間は異例の長さであり、新たな政治力学を生む契機となっている。その展開は、プラボウォ政権の展望を大きく左右する。本稿は、今の移行期政治を特徴づける3つの政治的駆け引きを考察したい。第一に、ジョコウィの退任後の政治力の温存をめぐる駆け引き。第二に、プラボウォ政権の連立与党形成に向けた駆け引き。第三に、統一地方首長選挙を睨んだ駆け引きである。 2024/07/25
  • (2024年インド総選挙)第2回 選挙結果の分析──インド人民党の大幅な後退 / 近藤 則夫 インドの第18次連邦下院議員選挙が6月4日に一斉開票された。結果は事前の予想と大きく異なり、ナレンドラ・モディ首相率いるインド人民党(BJP)は 前回2019年の303議席から今回は過半数にみたない240議席へと大きく後退した。BJPが率いる国民民主連合(NDA)は前回の352議席から293議席となった。一方、インド国民会議派(以下、「会議派」)を中心とする選挙連合は2019年の統一進歩連合(UPA)としては91議席であったが、2023年7月に結成されたINDIA 連合(Indian National Developmental Inclusive Alliance,インド国民発展包括連合)は232議席を確保した。会議派は前回の52議席から今回の99議席へ勢力を回復した。 2024/07/18
  • (2024年インドネシアの選挙)第6回 政治YouTuberの台頭とインドネシアの民主主義 / 見市 建 ジョコ・ウィドド(ジョコウィ)大統領の2期10年が任期満了を迎えようとしている。2014年に「初の庶民出身」として大統領に就任したジョコウィは、経済開発の成果や頻繁な現場視察などによる国民へのアピールによって、高い支持率を維持し続けた。他方で、情報および電子取引法(ITE法)の濫用によって、ソーシャルメディア上で政府や大統領を批判した人物が逮捕されるケースが頻発するなど、自由な言論空間たる市民社会の活動が制限された。とくに大統領の側近であるルフット・パンジャイタン海事・投資担当調整大臣の資源ビジネスへの関与を批判した2人のNGO活動家が、2021年にITE法違反で刑事告訴された事件は象徴的だった(2024年1月8日に無罪判決)。アムネスティ・インターナショナルによれば、この事件を含め、2021年1月から12月の間に人権活動家に対する367件の起訴や逮捕、暴力、脅迫があり、そのうち100人以上がITE法違反で告訴されたという。こうしたことから、ジョコウィ政権の2期目には多くの研究者がインドネシアの民主主義は後退しているとみなすようになった。 2024/07/16
  • (2024年インドネシアの選挙)第5回 ティックトックの政治化は民主主義を空洞化するのか? / 岡本 正明・八木 暢昭・久納 源太 インドネシアの2024年大統領選挙においては、3組の正副大統領候補(アニス・バスウェダン=ムハイミン・イスカンダル、プラボウォ・スビアント=ギブラン・ラカブミン・ラカ、ガンジャル・プラノウォ=マフッド・MD)が出馬し、プラボウォ=ギブラン組が6割近い得票率で勝利した。プラボウォ=ギブランが、8割近い支持率を有する現職大統領ジョコ・ウィドド(以下、ジョコウィ)の後継者とみなされたことが勝利の一番の要因である。そもそも、副大統領となるギブランは、ジョコウィの長男である。法的には40歳以上しか正副大統領候補になれないにもかかわらず、ジョコウィの義弟が長官を務める憲法裁判所が地方首長経験者であれば例外を認めるという判決を下すことで、36歳でソロ市長をしていたギブランが副大統領候補になることができた。選挙キャンペーンでは、大統領活動資金のバラマキが行われ、国家機構にはプラボウォ=ギブランを支持する動きもあった。こうした司法・行政・国家財政の動員は、民主的に選ばれた大統領が民主主義の価値を掘り崩す動きとみなされ、一部の学生や知識人からは強い批判が行われた。しかし、こうした民主主義の衰退への懸念の高まりは、プラボウォ=ギブランのペアへの支持率を下げるほどではなかった。ギブランがプラボウォの副大統領候補となったことで、プラボウォの支持率が上がりさえした。 2024/07/01
  • (2024年インドネシアの選挙)第4回 ナフダトゥル・ウラマー新議長の「政治的中立」 / 茅根 由佳 2024年2月に実施されたインドネシアでの大統領選挙は、大方の予想どおり、ジョコ・ウィドド(以下、ジョコウィ)大統領の支持を得たプラボウォ・スビアントの勝利に終わった。選挙戦も比較的平穏であった。宗教的アイデンティティが前面に出され、インドネシア社会の分極化が危惧された2019年選挙とは対照的な展開であった。 2024/06/21
  • ベトナム政治に何が起こっているのか――相次ぐ共産党最高幹部の辞任をめぐって / 石塚 二葉 東南アジア諸国のなかでも長らく政治的安定を誇ってきたベトナムが、今、揺れている。2021年の党大会で選ばれた任期5年の第13期政治局は、当初18人の委員で構成されていたが、2024年5月までに6人が辞任した。そのうち3人は政治局員のなかでも最高指導部に当たるトップ4、いわゆる「四柱」(党書記長、国家主席、政府首相、国会議長)の構成員であり、もう1人は「四柱」に次ぐナンバー5の職位とされる書記局常任であった。 2024/06/20
  • トランプ1.0における関税戦争の貿易に対する影響を振り返る / 早川 和伸 米国の11月の大統領選において、トランプ前大統領とバイデン大統領が再び対決する構図が固まった。トランプ前大統領は、前政権時に中国製品に対して2018年と2019年に段階的に追加関税を課した。2020年からは関税による輸入制限よりも、先端半導体などの輸出規制が中心的な政策に移り、バイデン政権も引き続き輸出規制の強化を行ってきた。このように、米国の対中貿易政策は輸入制限よりも輸出規制へと移ったかと思われたが、もしトランプ前大統領が返り咲いた場合、再び関税による輸入制限が強化される予定である。中国に対する関税を60%、日本を含む、それ以外の国に対しても10%まで引き上げると公言している。したがって、トランプ前大統領が再選された場合に備え、前政権時に行われた追加関税措置が、どのような結果を生み出したのか、整理しておくことが重要であろう。 2024/05/29
  • 初の女性大統領誕生に向けて──メキシコ大統領選挙の課題と展望 / 北條 真莉紗 2024年メキシコ大統領選挙は、高い確率で同国初の女性大統領が誕生すると予想されるため、国内外からの注目を集めている。しかし、メキシコ国内では「ロペス・オブラドール(Andrés Manuel López Obrador:AMLO)がいなくなった後」にメキシコ政治がどのようになるのかにも注目が集まっている。メキシコ政治の分断の象徴ともいえるAMLO現大統領の後継者は誰になるのか。未だ予断を許さない状況ではあるが、2018年の前回選挙ほどの旋風は起きず、順当に与党候補が勝利するというのが大方の予想である。本稿では3名の大統領候補を紹介し、選挙を目前に控えた時点での展望を記す。 2024/05/28
  • (2024年インド総選挙)第1回 与党優位の背景 / 辻田 祐子 4月19日、酷暑期のなかでインド国民は総選挙最初の投票日を迎えた。今後、6月1日までの44日間に合計7回に分けた投票が全国で実施される。一斉開票日は6月4日である。今回の総選挙では、6月中旬に5年間の任期満了を迎える連邦議会下院の議員543人が、18歳以上の男女約9億6800万人の有権者により小選挙区制で選出される。 2024/05/17
  • (グローバルサウスと世界)第8回 BRICSには加盟せず、OECDへの加盟を目指すインドネシア外交のしたたかさ――「自主・積極外交」のレガシー / 川村 晃一 インドネシアの外交を形容する文句としてこれまでしばしば使われてきたのは、「アセアン(ASEAN──東南アジア諸国連合)の盟主」であった。それが最近は、「グローバルサウスの代表」という言葉も使われるようになりつつある。 2024/05/07
  • エルドアンの初黒星――トルコ2024年統一地方選挙 / 間 寧 トルコで2024年3月31日に実施された統一地方選挙では、予想に反して野党第1党の共和人民党(CHP)が勝利し、与党の公正発展党(AKP)は次点にとどまった。2002年以来すべての選挙で勝利してきたAKPにとって初の敗北である。本稿ではこの選挙結果の原因と、それが次回2028年大統領・国会選挙にどのような影響を及ぼしうるのかを考察する。 2024/04/26
  • (世界を見る眼)(「台湾リスク」と世界経済)第5回 中台間海上輸送の現状と東アジアへの影響 / 池上 寬 台湾側の貿易統計で、中国と台湾の貿易について計上されたのは、1991年7月からである。しかし、それより以前の中台間貿易は一旦香港に輸出され、そして香港から中台それぞれに再輸出される形での貿易、つまり間接貿易で成り立っていた。中国との海上貿易は1997年1月から外国船舶会社が所有する外国船籍の定期船に限定し、かつ第三国を経由した場合のみ、台湾政府は中国からの貨物の輸入を認めることとなった。このことからわかるように、中国と台湾の貿易を海上輸送の点から見ると、少なくとも台湾が中国から海上輸送で輸入する場合には、第三国を経由し、しかも中台の船舶会社は従事できない状況であった。つまり、中台間の直接往来ができない状況であった。これは、直接の通航ができない「三通」の問題のひとつであった。この三通は2008年12月に解禁されたことで、中台間で直接輸送が可能となった。 2024/04/24
  • (世界を見る眼)(「台湾リスク」と世界経済)第4回 世界の半導体工場となった台湾と地政学リスク――集中から緩やかな分散へ / 佐藤 幸人 1949年以降、台湾海峡を隔てて中華人民共和国と中華民国が並立した状態が続いている。近年、この状態が不安定化するかもしれないという懸念が高まり、国際政治や安全保障の観点からだけではなく、台湾が世界の半導体生産を担っているという経済的な理由からも、国際的に大きな関心を呼んでいる。 2024/04/22
  • チリの新憲法制定、再びの挫折――なぜ人びとは「ノー」を突きつけたのか? / 三浦 航太 2023年12月、チリで新憲法案承認をめぐる国民投票が行われ、賛成44%、反対56%で2度目の否決となった。2度目ということは1度目があったということである。2022年9月にも新憲法案承認をめぐる国民投票が行われており、否決されていた。 2024/04/19
  • (世界を見る眼)(「台湾リスク」と世界経済)第3回 中台貿易は政治的緊張の影響を受けるか / 早川 和伸 近年、「経済的威圧」という言葉を聞く機会が増えている。McLean(2021)によると、経済的威圧とは、政策的譲歩を引き出すために、相手国に経済コストを負わせる、もしくは負うことになると脅す行為を指す。本用語は、とくに中国による威圧的行為に対して用いられることが多い。その例としては、2010年における尖閣諸島中国漁船衝突事件に伴う、中国から日本へのレアアース輸出規制などが挙げられる。Hunter et al(2023)によると、2020年から2022年の3年間において、中国による威圧行為は73件に及ぶ。最も多いのがオーストラリア向けで21件、次にリトアニア向けが11件である。前者は2020年に豪政府が新型コロナの起源について独立した国際調査を求めたことが原因とされ、豪州産ワインや食品などに制裁関税が課されたりした。後者は駐リトアニア台湾代表処を開設したことが原因とされ、リトアニア産品に対する輸入規制を導入した。このように、中国による経済的威圧では、貿易制限措置が取られることが多く、全体のうち最も多い30件を占める。 2024/04/17