文字サイズ

標準
国・テーマ インデックス
途上国の今を知る

IDEスクエア

コラム

途上国研究の最先端

 
第16回 先読みして行動していますか?――米連邦議会上院議員の投票行動とその戦略性

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050721

2019年3月

(2,107字)

今回紹介する研究

Jörg L. Spenkuch, B. Pablo Montagnes, and Daniel B. Magleby. "Backward Induction in the Wild? Evidence from Sequential Voting in the US Senate," American Economic Review, Vol. 108, No. 7 (July 2018): 1971-2013.

伝統的な経済学は、戦略的な行動をとる個人を前提とする。しかし、行動・実験経済学者による実験室実験ではこの前提と矛盾する結果がしばしば得られる。人は皆、戦略的に行動しているだろうか?先進国・途上国問わず、経済学に基づく政策議論の基礎となるこの重要な問いに現実社会のデータを用いて取り組む稀な研究が、米連邦議会上院議員の投票行動を分析する本論文だ。

投票順番効果――先発議員が後続者にただ乗りする

米連邦議会上院では「点呼投票」により議案の可否が決まる。つまり、アルファベット順に名前を呼ばれた議員が、皆にわかるように賛成・反対の意思を順番に表明していく。著者らが示す数理モデルによれば、2つの要因が議員の投票行動に影響する。一つは、所属政党の方針に沿った議案が最終的に可決されるかである(視点1)。否決されると党ひいては自己の評判が傷つく。二つ目は、私的に(あるいは地盤の選挙区民が)望む投票をしたかだ(視点2)。なお、各議員は他議員が各視点をどの程度重要視するかを知っていると仮定する。

著者らは、1と2の視点のどちらに立つかで最適な表明意思が異なり、2よりも1の視点の重要性が高い議員(以下、葛藤者)に着目する。葛藤者は、党の方針に沿った議案の可決が保証されれば、私的に望む投票を行う誘因をもつ。また、先に投票する葛藤者が私的に望む投票を行うほど、後続葛藤者は、1の視点をより重要視する、つまり議案を通すため党の方針に沿った投票をせざるを得なくなる。結果、後続葛藤者の力で議案の可決を予見できる先発葛藤者ほど、私的に望む投票を行う。そのため、名前のアルファベットがAに近い議員ほど所属政党の方針に反した意思を表明する傾向にあると考えられる(仮説1)。著者らはこれを「投票順番効果」と呼ぶ。

また、葛藤者の投票なしでも議案が可決される、あるいは葛藤者が皆同じ意思を表明しても議案が可決されないと予想されるような大差で議案の可否が決まる場合には、投票順番効果は生じないと考えられる(仮説2)。なぜなら、このような場合には、葛藤者がどう投票しても議案の可否は変わらないため、彼らは皆、私的に望む投票を行うからだ。さらに、投票順番効果により議案の辛勝率が惜敗率よりも高くなると予測される(仮説3)。これは、党の方針に沿った議案の可決を予見できる限界まで、(複数の)先発葛藤者が私的に望む投票を行うからだ。

著者らは、1857年~2013年に上院で審議された約4万件の議案及び投票議員の情報(名前、政党、表明した意思)を収集する。党の方針を、同じ政党内の自分を除く過半数議員の意思あるいは党首の意思と定義した上でデータを分析すると、上記全ての仮説と整合する傾向が見られた。また、投票経験を積めば積むほど議員は先読みした行動をするようだ。なお、点呼投票を採用しない下院では投票順番効果は観察されない。

人は皆、戦略的に行動しているか?

平均的には、上院議員の投票行動は戦略的に見える。しかし、彼ら全員の行動がそうなのか? 著者らは、議員のタイプを複数仮定した理論モデルを作り、そこから予想される投票行動と実際の投票行動とが整合するように理論モデルのパラメータを推計する。すると49%の議員は何らかのかたちで後続議員のことを気にして投票していることがわかった。残りの議員はそもそも党の方針を気にかけていないか、先を読まず短絡的な投票をしている。

厳しい生活環境を生き抜くため、おそらく発展途上国の人々は先進国の人々以上に戦略的に行動しなければいけないだろう。そのためには先を読む力や短絡的な行動をしない忍耐力が必要だ。このような力が鍛えられ、後天的に得られるものだとすれば、何がそれを決定するのか? 制度、自然災害、貧困など、その形成要因を深く知りたいと思う。

著者プロフィール

工藤友哉(くどうゆうや)。アジア経済研究所開発研究センター研究員。博士(経済学)。専門分野は開発経済学、応用ミクロ計量経済学。著作に"Can Solar Lanterns Improve Youth Academic Performance? Experimental Evidence from Bangladesh"(The World Bank Economic Review, 2017)、"Female Migration for Marriage: Implications from the Land Reform in Rural Tanzania"(World Development, 2015)等。

書籍:The World Bank Economic Review

書籍:World Development

【連載目次】

途上国研究の最先端