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コラム

続・世界珍食紀行

アジ研ワールド・トレンド』で好評を博した連載の続編です。途上国の魅惑的な食べ物・飲み物と食文化の体験記。

  • 特別編 カザフスタン――感染症には馬乳が効く / 岡 奈津子  「カザフスタンの住民は、もうみんな感染したんじゃないかな」。
     首都ヌルスルタンに住む筆者の友人は、昨年の夏、新型コロナウイルス感染症で10日ほどの入院を余儀なくされた。いまも倦怠感や気分の落ち込みなどに悩まされているそうだ。彼女の職場では同僚の多くが感染し、コロナが原因で家族を亡くした知り合いも少なくないという。
    2021/04/23
  • 最終回 中国――失われた食の風景 / 山田 七絵 春節を控えた中国に突如出現した未知のウイルスは、瞬く間に全世界に広がった。やがて日本にいる筆者の自由も制限され、これまで当たり前だった中国出張も再開の見通しが立たなくなった。先の見えない退屈な日々のなかで、ニュースや時折寄せられる友人たちからの便りだけが、かの地の人々の生活を想像する手掛かりとなった。「中国が野生動物の食用を全面禁止 」、「深圳市、食用の犬猫取引を禁止 」、「『取り箸』を食事の新しい習慣に」――こうした文字が目に飛び込んでくるたび、筆者の脳裏にはすでに失われた、あるいはもうすぐ消えゆくであろう懐かしい風景が蘇ってくる。 2020/07/28
  • 第23回 マグリブ(北アフリカ)――幻の豚肉 / 渡邊 祥子 地中海世界とアフリカ大陸に開かれたマグリブの食文化は豊かだ。あまり知られていないが、マグリブの地中海沿岸部はローマ時代からワインの産地でもある。クスクスと呼ばれる主食は、セモリナ小麦から作った細かいそぼろ状のパスタで、熱々に蒸しあげたものに、羊肉や鶏肉をトマトや根菜で煮込んだスープをかけていただく。山村の人々が栽培するオリーブから作った、新鮮なオリーブオイルも食卓に欠かせない。かんきつ類やイチジクなどをはじめとした果物も美味だ。魚は現地の人にはあまり珍重されないが、魚市場に行けば立派な海老やカジキなどが手に入る。筆者もマグリブに滞在して、食べ物で不満を持ったことはない。ただひとつ、この地域で暮らす外国人たちが不満をもらすのは、豚肉がないことだ。 2020/04/07
  • 第22回 インド――幻想のなかの「満洲」 / 湊 一樹 いまから7年ほど前、在外研究のためにインドの首都デリーに滞在していた時の話。受入れ先の研究機関はデリー大学の北キャンパスにあり、近くには多くの店が軒を連ねる賑やかな一帯が広がっていた。ある日、飲食店が立ち並ぶ大通りをキャンパス沿いに歩いていると、見慣れない派手な看板が目に留まった。よく見ると、インドではお目にかかったことのないクレープ店で、メイド服を着た女の子のキャラクターとピンクを基調とした店構えが、奇妙なほど周囲から浮き立っている。好奇心から店のなかに入ってみると、数名のインド人女性がメイドの格好をして働いており、謎は深まるばかりだった。 2020/03/19
  • 第21回 モンゴル――強烈な酸味あふれる「白い食べ物」は故郷を出ると…… / 深井 啓 モンゴルの珍食を紹介せよとの依頼を受けた時、私は以下のようなものを紹介しないといけないのではないかという恐怖心に駆られた。 2020/02/26
  • 第20回 ケニア――臓物を味わう / 岸 真由美 筆者の故郷は奥羽山脈の麓に近い山形の農村だ。実家は農家である。小さいころ、実家では卵をとるために鶏を、乳を搾るためにヤギを、食肉用にウサギを飼育していた。歳を取って卵をうまく産めなくなった親鶏は絞めて食用にした。料理方法はいたってシンプルで、頭と足以外の部位を適当にぶつ切りにして、醤油で煮込むだけである。肉の部分だけでなく、臓物も余すところなく調理する。筆者はひも、きんかん、レバーが好きだった。ももや背の骨の髄も美味しかった。さすがにヤギは法律で禁止されているため自宅でと殺することはなかったが、ウサギは鶏と同じように調理して、特に冬に食卓にのぼった。ウサギの臓物を食べた記憶はあまりないが、頭蓋をうまく外して食べる脳みそが格別な味だったのを覚えている。こうした経験が影響したのだろう。筆者は今も肉より臓物が好きである。 2020/01/24
  • 第19回 デンマーク――酸っぱい思い出 / 鈴木 早苗 北欧の国、デンマークはデザインの国としてかわいらしい雑貨など北欧ブームの一翼を担ってきた。食についても見た目へのこだわりはみられる。スモーブローとよばれるオープンサンドイッチは、その盛りつけにセンスを感じる。デンマークでは、輸出品としても有名な豚肉にジャガイモなどの野菜を添えてオーブンで焼いた料理などのほかに、緑黄色野菜にナッツ類などを加えたサラダなどがよく食べられている。デンマークで出会った料理は、決してまずくはないが、正直、繰り返し食べたくなるほどおいしくもなかった。食べられなくもないが無理してまで食べなくてもいいと思ったのが、酸っぱいものである。 2019/12/26
  • 第18回 南アフリカ――「虹の国」の国民食、ブラーイ / 牧野 久美子 人種的、民族的、文化的な多様性に富んだ南アフリカは、「虹の国」としても知られている。アフリカ、ヨーロッパ、アジアにルーツをもつ人びとが隣り合って――もちろん、かつてはアパルトヘイト政策により生活空間が強制的に隔離されていたわけだが――暮らす南アフリカには、それぞれの歴史や文化に根差し、あるいはそれらが融合した、さまざまな料理がある。たとえばケープタウンなら、カラードのムスリム文化のなかで育まれた、ほんのり甘めのスパイスが特徴の「ケープ・マレー料理」。インド系人口が集中するダーバンなら、「バニー・チョウ」(食パンをくり抜いたところにカレーを詰めた料理)などである。 2019/11/22
  • 第17回 イギリス――レストランに関する進化論的考察 / 熊谷 聡 2000年代初頭。渡英するにあたって、先達から繰り返し聞かされたのは「イギリスの食事は不味い」という定番の忠告であった。それも「不味いと聞いていたが、実際はそれほどでも」という話も聞かない徹底ぶりだ。ただ、食に対するこだわりがほとんどないと自負する私は、イギリスの食事でも実は平気なんじゃないかと楽観していた。 2019/10/28
  • 第16回 ニュージーランド――マオリの伝統料理「ハンギ」を食す / 片岡 真輝 ニュージーランドの食を紹介するのは思いのほか難しい。ニュージーランドはイギリスの植民地だったため、今でもイギリス文化が色濃く残っており、食文化も例外ではない。基本的にはイギリス的な西洋料理が一般的であり、「珍食」を見つけるのは容易ではない。これが、同じイギリス連邦でもオーストラリアになると、カンガルー肉など日本ではまず食べることができない料理を紹介できる。例えば、カンガルー肉、エミュー肉、ワニ肉の3点盛り合わせは、肉好きの筆者にはたまらない珍食だ。 2019/09/24
  • 第15回 アメリカ――マンハッタンで繰り広げられる米中ハンバーガー対決 / 孟 渤 マンハッタンは世界屈指の外食の激戦地と言っても過言ではない。なかでもファストフード業界の競争は激しく、昨日まで店があった場所に今日はもうテナント募集の看板が出ている、ということもよくある。そうしたなか、いつも店外まで待ち行列が伸びる人気のファストフード店がある。それは「シェイク・シャック(Shake Shack)」だ。シェイク・シャックはニューヨークに本社を置くファストカジュアル・レストランチェーンで、2000年にマディソン・スクエア公園で始めた屋台がその起源だそうだ。人気の秘密といえば、やはりハンバーガーに挟まれる牛肉のパテが焼きたてで、程よい噛みごたえがありながらとてもジューシーなことだろう。一口食べれば、「これだ!アメリカン・ハンバーガーを食ったぞ!」という満足感が得られる。さらに熱々のポテトフライに濃厚なチェダーチーズとアメリカンチーズをたっぷりからめて食べれば、「もうケチャップなんか要らないよ!」という感じだ。おまけに店のバニラアイスクリームの味も濃厚そのもので女性客にたいへん喜ばれるし、オリジナルの生ビールに男性客も引き込まれるだろう。店の内装はアップルストアのようなミニマリズムで、雰囲気はお洒落でシンプルで清潔だ。 2019/08/30
  • 第14回 タンザニア――ウガリを味わう / 粒良 麻知子 タンザニアでは、食事を終えた人が水道で手にこびりついたウガリを爪でこすり落としているのを見ることがある。それを見た外国人は「スプーンで食べればいいのに」と思うかもしれない。しかし、日本人が白いご飯を箸で食べるのと同じように、ウガリは手で食べて味わうものである。 2019/07/30
  • 第13回 フィリピン――最北の島で食す海と人の幸 / 知花 いづみ フィリピン最北のバタネス州バタン島を訪れた際、マニラの市場ではなかなか見かけない食材に出会った。バタン島はちょうどルソン島と台湾の間に位置し、マニラからプロペラ機で約1時間のところにある。バタネス州行きの便は、台風に見舞われる雨期のシーズンは欠航することが多く、乾期でも風が強い日は飛ばないという旅行者泣かせのフライトだ。このため、バタン島上陸を目指すには、長期の天気予報を確認しつつ、最適なタイミングをねらう必要がある。この島は、「ストーンハウス」と呼ばれる石造りの建物が多いことで知られ、一歩足を踏み入れると、まるでアイルランドの片田舎に来たような気分になる。離島という地理的制約ゆえに、島の食事は地産地消の食材が主となる。 2019/06/21
  • 第12回 モルディブ――食べても食べてもツナ / 荒井 悦代 インド洋に浮かぶ高級リゾートの国モルディブ、というとさぞかし贅沢な光景・水上コテージでトロピカル・ジュースなどを飲みながら新鮮な魚介類や南国の果物を堪能している、と想像されるのではなかろうか。確かに非日常を演出しているリゾート島ではそうなのだろう。 2019/05/21
  • 第11回 ブラジル――「ツンデレの果実」ペキー / 菊池 啓一 現在、筆者は初めてブラジルに長期滞在する機会を得ており、なるべく色々な街に行ってみたいと考えている。昨年末は休暇を利用し、首都ブラジリアからバスで約3時間のところにあるゴイアス州ピレノポリスを訪れた。そして滞在中のある日、街で評判のレストランで昼食を摂ることにした。そこはメニューが存在しないお店であり、45分ほど待つと自動的に一人では食べきれない量のサラダ、コーンクリームスープ、フェイジョン(インゲン豆)スープ、フライドチキン、ミニステーキ、パスタ、ご飯などが運ばれてくる。さらに、満を持して、ペキーの実の丸ごと炒めが最後に登場する。 2019/04/24
  • 第10回 ベトナム――「元気ハツラツ」じゃなかったハノイの卵コーヒー / 坂田 正三 10数年前からその存在は知っていた。しかし、どうせ不味いと決めつけていたので、試そうという気はまったく起こらなかった。ハノイの卵コーヒーの話である。 2019/03/22
  • 第9回 中国四川省――肉食の醍醐味 / 山田 七絵 中国に行くと、肉食文化の豊かさに驚かされる。肉の部位に関するボキャブラリーも日本語に比べて格段に多く感じられるが、それは日本語の魚介類に関する語彙と同様、細かな差異を正確に呼び分ける必要に迫られてのことだろう。日本と比べて食用となる動物の種類が多いだけでなく、正肉以外の内臓、脳、血、顔や足に至るまで、あらゆる部位がそれぞれに適した調理法で食用に供される。地方都市にはまだ昔ながらの市場が残っており、家畜の屠体が解体されて食材となり、食卓へとつながっていく過程を実感することができる(写真1)。 2019/02/22
  • 第8回 インドネシア――1本のサテがくり出す衝撃の味 / 土佐 美菜実 筆者はインドネシア・ジョグジャカルタ特別州に赴任して以降、日本ではあまり見たことのない様々な食材・料理を日ごろ口にしている。ただ、外国人である筆者を気遣ってか、現地の友人たちが勧めるものはどれも美味しく、食べ物に関して悲惨な目にあったという経験はあまりしていない。 2019/01/25
  • 第7回 カンボジア――こじらせ系女子が食べてきた珍食 / 初鹿野 直美 10年くらい前の私は、珍食グルメに対して比較的貪欲でオープンだった。なぜなら、「気持ち悪い」と言って拒絶することへの反発心があったからだ。その背後に、多感な高校生のころの出来事があった。ある夏の日、同級生のとてもかわいい女子がセミを気持ち悪がってその存在を全否定している姿を、周りの人びとが温かい目で見守っていた場面に居合わせた。その少し前に、私がゴキブリを気持ち悪がったところ、男子たちに白い目を向けられた(ように感じられた)事態とのあまりの違いに、私は傷ついた。その結果、何かを「こじらせた」私は「私は気持ち悪いなんて言わないわ」とばかりに、ほぼヤケになってさまざまなものを食べてきた。筆者がフィールドにしているカンボジアでも、拒絶せずに食べてから判断するということを実践してきたつもりだ。そのなかで、私の日本の友人の大半が「気持ち悪い」という反応をするであろう3つの珍食グルメについて紹介したい。 2018/12/21
  • 第6回 台湾――臭豆腐の香り / 熊倉 潤 今、台湾旅行が人気だ。読者諸兄姉の中にも台湾で夜市を歩いたことがある方も多いだろう。そんな夜市でひときわ「異臭」を放っているのが、臭豆腐である。「異臭」と書いたが、失礼を承知で言うならば、筆者には大便の匂いに感じられる(個人の見解であって所属組織を代表するものではありません……)。もちろん台湾の方々は、糞便臭だなんて全く思っていない。彼ら彼女らは本当にいい香り(「真的很香!」)だと言う。また台湾の人で臭豆腐が苦手な人はおよそ聞いたことがないとも言う。もちろん、東山彰良の小説で、台湾を舞台にした直木賞受賞作「流」にも登場する。臭豆腐は、台湾人のソウルフードと言っても過言ではないかもしれない。 2018/11/16
  • 第5回 トルコ――ラクの〆は臓物スープで / 今井 宏平 今回紹介する臓物スープは珍食というにはインパクトは弱い。臓物は煮込んであり、見た目のグロテスクさはない。グロテスクさでいけば、トルコ料理でも羊の脳みそのサラダの方がインパクトは強い。しかも豚骨ラーメンなどに慣れ親しんでいる日本人の多くは臓物スープにほとんど抵抗感がない。しかし、トルコ人にトルコの珍食を尋ねると、多くの場合、臓物スープもしくはココレッチという答えが返ってくる。ココレッチとは、羊の腸を棒に巻いて炭火焼にして、それを細かく刻んで香辛料とともにパンにはさんだものである。ココレッチに関しても、多くの日本人は抵抗なく食べることができるし、普通に美味しい。 2018/10/26
  • 第4回 タイ――うなだれる大衆魚・プラートゥー / 青木 まき 激辛料理や昆虫食など、珍奇なイメージが強いタイの食生活だが、素朴ながら美味しい食べ物だって沢山ある。そんな食べ物のひとつが、プラートゥーだ。 2018/08/14
  • 第3回 ラオス――カブトムシは食べ物だった / 山田 紀彦 小学生の頃、毎年夏になると近所の雑木林によくカブトムシを捕りに行った。そして何匹もカブトムシを捕まえては虫かごに入れ、家に持って帰った。それから何十年が経ち、今では息子が同じように夏になるとカブトムシを捕まえている。カブトムシは夏に捕まえ、飼育する昆虫であり、まさか自分が大人になりカブトムシを食べるとは夢にも思わなかった。大人になってからも、ラオスに来るまではカブトムシが食べ物だという認識はなかった。そう、カブトムシは食べ物だったのである。 2018/07/06
  • 第2回 クウェート――国民食マチブースと羊肉のはなし / 石黒 大岳 湾岸アラブ諸国の「珍食」とは、強いて言えばラクダ肉だろうか。クウェートでは、イラク国境への道沿いで食肉用に放牧されたラクダとふれあったり、部族代表議員の選挙キャンペーンで選対本部の置かれたテントに若いラクダが繋がれているのを目撃したことはあるのだが(選挙戦終盤に屠って集会参加者に振る舞い、気勢を上げるという)、筆者にはいまだにラクダ肉を口にする機会がなく、至極残念である。 2018/05/25
  • 第1回 バングラデシュ――食らわんか河魚 / 山形 辰史 バングラデシュは川の国である。「川」というより「河」と書く方が適切だろう。内陸部に行っても、向こう岸が見えないほどの大河がある。河の中州が島になっていて、人が住んでいるし、中洲全体が行政区になっていることもある。 2018/04/24