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コラム
第26回 景気と経済成長が出生率に与える影響
PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00051444
2019年8月
(2,491字)
今回紹介する研究
Shoumitro Chatterjee and Tom Vogl. "Escaping Malthus: Economic Growth and Fertility Change in the Developing World." American Economic Review, 2018, 108(6): 1440-1467.
経済成長と出生率――既存研究は主として先進国のみ
81カ国をカバーする255の統計調査の個票データを使用
そこで本研究は、1950年以降の255の統計調査(World Fertility SurveyとDemographic and Health Survey)から出産歴の個票データを収集し、出生率変数を作成した。この個票に含まれる女性の数はおよそ230万人であり、81の低中所得国をカバーしている。
このデータを使って、彼らは2種類の出生率変数を作成し、分析に利用している。1つは、受胎(Conception)の有無に関する個票データを国別・年別・年齢別に集計したものであり、これは年間の国別・年齢別受胎率を表す。もう1つは、統計調査時に45歳以上の女性の出産回数を女性の誕生年別に集計したものであり、これは誕生年コホート別の生涯出生率(Completed fertility)を表す変数である。
著者らは、回帰分析を用いて、 一国レベルの短期的な景気変動と長期的な経済成長率がこれら2つの出生率変数に与える影響を分析した。短期景気変動には成人一人当たりGDPの年成長率、長期の経済成長率には20年以上の成人一人当たりGDP平均成長率を使用した。分析対象国は、81の低中所得国のうち20年以上の時系列データが利用できる65カ国である。
分析結果(1)景気後退は若年層の受胎率を下げる
分析結果(2)長期経済成長率が高い国ほど受胎率は減少する
一方、長期の経済成長率と年間受胎率については負の関係となった。つまり、 長期の平均成長率が高い国ほど、受胎率が下がる傾向が見られた。年齢層別にみると、25~34歳の層で有意な負の関係が見られた。しかし、15~24歳や35~39歳では経済成長率の影響は有意ではなく、逆に40~45歳の層では正の関係が観察された。この結果の背後には、女性の社会進出や人的資本投資の増加などが考えられ、成長率の高い国ほど出産時期が遅れる、あるいは出産間隔がひらく傾向にあるといえる。
分析結果(3)30代の時に経験した景気後退は生涯の出産回数を減少させる
メカニズムの解明は今後の課題
著者プロフィール
橋口善浩(はしぐちよしひろ)。アジア経済研究所開発研究センター研究員。博士(経済学)。専門分野は応用計量経済学。最近の論文に"Agglomeration economies in the formal and informal sectors: a Bayesian spatial approach," (with Kiyoyasu Tanaka), Journal of Economic Geography, forthcoming.
- 第1回 途上国ではなぜ加齢に伴う賃金上昇が小さいのか?
- 第2回 男児選好はインドの子供たちの発育阻害を説明できるか
- 第3回 子供支援で希望を育む
- 第4回 後退する民主主義
- 第5回 しつけは誰が?――自然実験としての王国建設とその帰結
- 第6回 途上国の労働市場で紹介が頻繁に利用されるのはなぜか
- 第7回 絶対的貧困線を真面目に測り直す――1日1.9ドルではない
- 第8回 労働移動の障壁がなくなれば一国の生産性はどの程度向上するのか
- 第9回 科学の世界の「えこひいき」――社会的紐帯とエリート研究者の選出
- 第10回 妻の財産権の保障がHIV感染率を引き下げるのか
- 第11回 飲酒による早期児童発達障害と格差の継続――やってはいけない実験を探す
- 第12回 長期志向の起源は農業にあり
- 第13回 その選択、最適ですか?――通勤・通学路とロンドン地下鉄ストライキが示す習慣の合理性
- 第14回 貧困者向け雇用政策を問い直す
- 第15回 妻(夫)がどれだけお金を使っているか、ついでに二人の「愛」も測ります
- 第16回 先読みして行動していますか?――米連邦議会上院議員の投票行動とその戦略性
- 第17回 保険加入率を高めるための発想の転換
- 第18回 いつ、どこで「国家」は生まれるか?――コンゴ戦争と定住武装集団による「建国」
- 第19回 婚資の慣習は女子教育を引き上げるか
- 第20回 産まれる前からの格差――胎内ショックの影響
- 第21回 貧困層が貯蓄を増やすには?――社会的紐帯と評判
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- 第23回 勤務地の希望を叶えて公務員のやる気を引き出す
- 第24回 信頼できる国はどこですか?
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- 第26回 景気と経済成長が出生率に与える影響
- 第27回 消費者すべてが税務調査官だったら――ブラジル、サンパウロ州の脱税防止策
- 第28回 最低賃金引き上げの影響(その1) アメリカでは雇用が減らないらしい
- 第29回 禁酒にコミットしますか?
- 第30回 通信の高速化が雇用創出を促す―― アフリカ大陸への海底ケーブル敷設の事例
- 第31回 最低賃金引き上げの影響(その2)ハンガリーでは労働費用増の4分の3を消費者が負担したらしい
- 第32回 友達だけに「こっそり」やさしくしますか? 国際制度の本質
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- 第34回 「コネ」による官僚の人事決定とその働きぶりへの影響――大英帝国、植民地総督に学ぶ
- 第35回 カップルの同意を前提に少子化を考える
- 第36回 携帯電話の普及が競争と企業成長の号砲を鳴らす――インド・ケーララ州の小舟製造業小史
- 第37回 一夫多妻制――ライバル関係が出生率を上げる
- 第38回 イベント研究の新しい推計方法――もう、プリ・トレンドがあると推計できない、ではない
- 第39回 伝統的な統治が住民に利益をもたらす――メキシコ・オアハカ州での公共財の供給
- 第40回 なぜ勉強をさぼるのか? 仲間内の評判が及ぼす影響
- 第41回 戦争は増えているのか、減っているのか?
- 第42回 安く買って、高く売れ!
- 第43回 家族が倒れたから薬でも飲むとするか――頑固な健康習慣が変わるとき
- 第44回 知識の方が長持ちする――戦後イタリア企業家への技術移転小史
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- 第46回 暑すぎると働けない!? 気温が労働生産性に及ぼす影響
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- 第49回 経済的ショックと児童婚――ダウリーと婚資の慣習による違い
- 第50回 セックスワーク犯罪化――禁止する意味はあるのか?
- 第51回 妻が外で働くことに賛成だけど、周りは反対だろうから働かせない
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- 第58回 賄賂が決め手――採用における汚職と配分の効率性
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- 第60回 貧すれば鋭する?
- 第61回 貿易自由化ショックとキャリア再建の男女格差――仕事か出産か
- 第62回 最低賃金引き上げの影響(その4)――途上国へのヒントになるか? ドイツでは再雇用によって雇用が減らなかったらしい
- 第63回 貧困からの脱出――はじめの一歩を大きく
- 第64回 大学進学には数学よりも国語の学力が役立つ――50万人のデータから分かったこと
- 第65回 インドで女性の労働参加を促す――経済的自律とジェンダー規範
- 第66回 所得が中位以上の家庭から保育園に通うと知的発達が抑えられます――イタリア・ボローニャ市の場合
- 第67回 男女の賃金格差の要因 その1──女性は賃金交渉が好きでない
- 第68回 男女の賃金格差の要因 その2――セクハラが格差を広げる
- 第69回 ジェンダー教育は役に立つのか
- 第70回 なぜ病院へ行かないのか?──植民地期の組織的医療活動と現代アフリカの医療不信
- 第71回 貧困層向け現金給付政策の波及効果
- 第72回 社会的排除の遺産──コロンビア、ハンセン病患者の子孫が示す身内愛
- 第73回 家庭から子どもに伝わる遺伝子以外のもの──遺伝対環境論争への一石
- 第74回 チーフは救世主? コンゴ民主共和国での徴税実験と歳入への効果
- 第75回 権威主義体制の不意を突く──スーダンの反体制運動における戦術の革新
- 第76回 紛争での性暴力はどういう場合に起こりやすいのか?
- 第77回 最低賃金引き上げの影響(その5) ブラジルでは賃金格差が縮小し雇用も減らなかったが……
- 第78回 なぜ売買契約書を作成しないのか? コンゴ民主共和国における訪問販売実験
- 第79回 国際的な監視圧力は製造業の労働環境を改善するか? バングラデシュのラナ・プラザ崩壊のその後
- 第80回 民主化で差別が強化される?――インドネシアの公務員昇進にみるアイデンティティの政治化
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- 第82回 児童婚撲滅プログラムの効果
- 第83回 公的初等教育の普及、それは国民を飼い慣らす道具──内戦による権力者の認識変化と政策転換
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- 第85回 教育の役割──教科書は国籍アイデンティティ形成に寄与するのか
- 第86回 解放の甘い一歩
- 第87回 途上国の医療・健康の改善のカギは「量」か「質」か
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- 第89回 都合が良ければ「民主的」、そうでなければ「非民主的」──政治的行動に対する知覚バイアスを探る