伊藤 成朗
研究歴
経済学部卒業後、入所後はおもに国際金融分野に取り組みました。危機が起こった後に研究を開始する後ろ向きの姿勢に問題を感じ、1970年代から繰り返す途上国の金融危機の理解にはインセンティブの考慮が必須と考えて、アメリカの大学院に留学しました。留学先で理論の先生にメカニズム・デザインは行き詰まった分野だと諭された矢先に、研究助手をしたミクロ開発経済学の先生が理論とデータを鮮やかに組み合わせるのに興味をそそられました。その後は、経済理論とデータを用いて仮説を統計学的に検定する手法を用いた研究をしています。対象分野は家計内資源配分、人的資本投資、マイクロファイナンス、最低賃金と企業、保健、感染症などです。
現在取り組んでいるテーマ
現在は、最低賃金、マイクロファイナンス、感染症の研究をしています。
最低賃金の影響として雇用削減が主に取り上げられがちですが、実際には企業の利潤や財・サービスの価格でも調整されます。南アフリカで急激に引き上げられた農業最低賃金が雇用、企業利潤などに与えた影響を歳入庁の企業財務データを使って分析しています。暫定結果として、企業利潤が圧迫され、労働から資本(機械)への代替が進んだことが示されました。
マイクロファイナンスは最貧困層に届かないことが懸念されてきました。その背景には高リスクと判定されがちなことに加え、融資規模が小さすぎてまともな投資ができないことが考えられます。そこで、バングラデシュ北部の最貧困層を対象に、通常のマイクロファイナンスとその3倍額のマイクロファイナンス、3倍額で買える牛を貸与し、その成果を比較する実験を行いました。結果として、通常のマイクロファイナンスは資産増加と返済率のいずれにおいても劣っていることが分かりました。
COVID-19がパンデミック化し国外に行けなくなったため、国内だけで実施できる研究を実施しています。2020年のGoToTravel政策は途中から東京が加えられました。この研究では、東京追加によって近隣県(静岡)の新規感染者数が増えたのか、合成統御法を用いて検定しています。結果として、GoToTravel政策に東京を追加したことで、11月半ば(東京追加の1カ月半後)に静岡県の新規感染者を増やしたことが示されました。