IDEスクエア

世界を見る眼

2023年

  • (グローバルサウスと世界)第6回 トルコはグローバルサウスに該当するのか──4つの側面からの検証 / 今井 宏平 近年、国際政治や国際経済で注目されている概念のひとつが「グローバルサウス」である。インドや中国のような新興国を代表する国々が、自らをグローバルサウスの盟主もしくは代弁者という印象を持たせようとしていること、ロシアのウクライナ侵攻に対して米欧、ロシア・中国のどちらにも与しない国々が多数存在することが明らかになったことがその主要な要因である。 2023/12/25
  • (グローバルサウスと世界)第5回 BRICSに中東・アフリカ諸国が加わることの意味――エジプトを事例に考える / ダルウィッシュ ホサム 2023年8月、南アフリカのヨハネスブルグでBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の第15回首脳会議が開催され、加盟国として新たに6カ国を招待することで合意した。2024年1月1日をもって、エジプト、エチオピア、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、イラン、アルゼンチンの6カ国がBRICSに加わるのである。サウジアラビア、UAE、イランが加わることで、BRICSは世界の原油生産量の41%、人口の46%、国内総生産(GDP)の36%を占めることになり、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、イギリス、アメリカからなる主要7カ国(G7)の経済規模を上回ることになる。 2023/12/20
  • サプライズ続きの2023年アルゼンチン大統領選 / 菊池 啓一 2023年10月22日、アルゼンチンで大統領選の本選挙第一回投票が実施された。そして、一回目の投票で当選を決めるのに必要な有効票を集めた候補者は現れず、36.78%を獲得した左派の与党連合「祖国のための同盟」のセルヒオ・マッサ経済相と29.99%であった右派の野党連合「自由前進」のハビエル・ミレイ下院議員が11月19日に行われる決選投票に進むこととなった。 2023/11/13
  • 権力は移譲されたのか?──カンボジアにおける「世襲政権」の誕生 / 山田 裕史 2023年8月22日、フン・セン首相(71歳)は約38年7カ月務めた首相職から退き、同年7月23日の第7期国民議会議員選挙(以下、総選挙)で初当選した長男のフン・マナエト前国軍副総司令官兼陸軍司令官(45歳)が新首相に就任した。総選挙で与党・カンボジア人民党が圧勝したことで、フン・センは世代交代に向けた環境が整備されたと判断し、大方の予想に反して早期の世襲に動いたと考えられる(山田・新谷 2023)。 2023/11/08
  • (グローバルサウスと世界)第4回 ブラジルは戻ってきた――返り咲いたルーラ大統領の外交 / 近田 亮平 ブラジルを含む「グローバルサウス」と称される国々は、近年、再編が進む国際秩序における第三勢力として注目を集めている。とくに、2022年のロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、拡大路線を強める中国との関係も含め、世界各国の外交姿勢が以前より問われるようになった。2023年5月に日本で開催された主要7カ国(G7)サミットには、ブラジルやインドなどのグローバルサウス諸国が招待され、ウクライナのゼレンスキー大統領が電撃的に来日して出席したこともあり、外交舞台での各国の対応や立ち位置への関心が高まった。 2023/10/19
  • タクシン派連立政権の成立はタイ政治に安定をもたらすのか? / 青木(岡部)まき 2023年5月に行われたタイ下院総選挙は、9月5日にタクシン派タイ貢献党(Pheu Thai Party)を中核とする連立内閣の成立というかたちで決着した。タクシン派政党は2001年以降に行われた過去5回の選挙のすべてで第1党となり、4度にわたって政権を樹立した。しかし、今回は様子が異なる。タイ貢献党は革新派政党・前進党(Move Forward Party)に第1党の座を譲り、結党以来はじめて第2党に留まった。それにもかかわらず、タイ貢献党が政権を獲得できたのは、仇敵であった反タクシン派のプラユット前政権与党と手を組み、国会内での多数派形成に成功したためである。2006年のクーデタによるタクシン失脚以来、互いに不倶戴天の敵とみられてきたタクシン派と反タクシン派の「国民的和解」はどのようにして可能となったのか。この「和解」は、対立が続いたタイ政治についに安定をもたらすのだろうか。 2023/10/13
  • (グローバルサウスと世界)第3回 南アフリカ――「解放」のレガシーと経済的プラグマティズム / 牧野 久美子 かつて、アパルトヘイト体制下の南アフリカは、国際的に孤立した「パーリア国家」であった。第二次世界大戦後、多くの植民地が独立したあとも、人種平等を否定し少数白人支配に固執しつづけた南アフリカに対しては、国際機関の加盟資格停止、スポーツの国際大会からの締め出し、投資・貿易制限など、国際社会からさまざまな制裁が科されていた。 2023/09/27
  • (グローバルサウスと世界)第2回 インド――「グローバルサウスの盟主」の虚像と実像―― / 湊 一樹 「グローバルサウス」という言葉が日本で広く使われるようになったのは、2023年に入ってからのことである。表1は、ロシアによるウクライナ侵攻が始まった直後の2022年3月から2023年6月にかけて、日本の主要な新聞に掲載された、「グローバルサウス」(または「グローバル・サウス」)という単語を含む記事の本数を集計したものである。また、表2では、日本の外務大臣と外務報道官の記者会見で「グローバルサウス」という単語が現れた回数を同じ期間を対象に示している。いずれの表からも、2023年1月を境に「グローバルサウス」という言葉が頻繁に用いられるようになったことがわかる。 2023/09/05
  • エクアドル臨時総選挙――前代未聞の大統領候補暗殺が国を震撼させる / 木下 直俊 2023年8月9日、臨時総選挙(8月20日投開票)が目前に迫るエクアドルで、大統領候補のフェルナンド・ビジャビセンシオ国会議員が暴漢に銃撃され命を落とした。同氏は首都キト北部の私立セオドア・W・アンダーソン高校での政治集会を終え、車に乗り込むところを襲われた。凄惨な映像は瞬く間にSNSで拡散されエクアドル社会を震撼させた。 2023/08/30
  • (グローバルサウスと世界)第1回 グローバルサウスの経済的影響力 ――世界経済の「第三の極」をどうとらえるか / 磯野 生茂 「グローバルサウス」は、発展途上国や経済新興国の総称であり、そこにどの国が含まれるのか明確な定義はない。また、2023年1月にインドが「グローバルサウスの声サミット」を主催したものの、グローバルサウスとしてまとまって主体的に動いているという実態もほぼ見られない。それにもかかわらず、なぜ注目を浴びているのだろうか。 2023/08/28
  • 世襲環境が整う――2023年カンボジア総選挙 / 山田 裕史・新谷 春乃 2023年7月23日に投開票が行われた第7期国民議会議員選挙(総選挙)は、与党・カンボジア人民党が125議席中120議席、王党派のフンシンペック党が5議席を獲得する結果となった(表1を参照)。提出書類の不備を理由に最大野党・キャンドルライト党を排除した今回の総選挙には、選挙で実質的な政党間競争がない覇権的権威主義体制の定着と、首相職の世襲に対する事実上の信任投票という、少なくとも2つの意味がある(山田・新谷 2023)。 2023/08/16
  • 中国における環境分野での懲罰的損害賠償の導入と生態系保護キャンペーン / 山田 浩成 懲罰的損害賠償と聞いて何を思い浮かべるだろうか? 法律を学ぶ人ならアメリカやイギリスの法律にそんなものがあったかなと思い出すかもしれない。そもそも何のことだろうと疑問符が浮かんだ人も少なくないだろう。それもそのはず、現在の日本では懲罰的損害賠償は認められておらず、多くの人にとっては馴染みがない言葉である。 2023/08/10
  • ブックフェアの「異変」——タイ政党の広報戦略と若者の政治関心 / 小林 磨理恵 タイでは毎年3月と10月に、国内最大のブックフェアが開催される。例年300~400の出版社等がブースを出展し、書籍を値引きして販売するほか、作家によるトークイベントやサイン会も行われる。2022年10月のブックフェアは、12日間で約135万6千人を集客し(PUBAT 2022)、若い世代を中心に大変な賑わいをみせた。 2023/08/04
  • タイの労働力不足の現状と若者の苦悩 / 高橋 尚子 タイでは、労働力不足が深刻である。近年タイの経済成長率は低迷しており、労働力不足の主因はもはや「高い経済成長率」ではない。タイはいまだ大きな農村人口を抱えるものの、そこから都市に流出する労働人口は著しく減少しており、労働力不足に拍車がかかることが予想される。一方で、失業者の多くは次世代を背負う若者であり、大学を卒業した若者は自身に適した仕事が見つかるのか日々不安を抱いている(Chitviriyakul 2023)。本稿では、タイの労働力不足について、その構造と苦悩する若者の観点から考察する。 2023/07/27
  • ホンジュラス内政からみた台湾から中国への外交関係切替 / 中原 篤史 2023年3月14日夕方、ホンジュラス共和国のシオマラ・カストロ大統領は、自身の公式ツイッターで「私は、政府計画の達成のためと、世界各国と協調し、国境を拡大するため、レイナ外相に対し、中国との公式な外交関係の開始手続きを行うよう指示した」と発信した。それ以降、この問題に関するカストロ大統領のメッセージは何もなかった。「台湾から中国への外交関係切替」という重要な外交の転換を短いツイッターで示唆しただけであった。 2023/07/18
  • 安定的な世襲の実現に向けて――2023年カンボジア総選挙 / 山田 裕史・新谷 春乃 1979年からカンボジア人民党による長期支配が続くカンボジアでは、2023年7月23日に18政党が参加して第7期国民議会議員選挙(総選挙)が実施される。とはいえ、参加政党はほぼ人民党の衛星政党である。フン・セン首相(70歳)率いる人民党政権は、2013年総選挙で躍進した最大野党・救国党を2017年に解党に追い込み、前回の2018年総選挙で全議席を独占した。そして2023年5月、同政権が救国党の流れをくむキャンドルライト党を今回の総選挙から排除したため、再び人民党の圧勝が確定的となっている。 2023/07/14
  • エルドアンの総力選挙──2023年5月トルコ大統領・国会選挙 / 間 寧 2023年5月28日にトルコの大統領選挙決選投票で、レジェップ・タイップ・エルドアン大統領が勝利した。選挙戦では、エルドアンが当初世論支持で優位だった野党候補を破った。これは、エルドアン政権の強靱性を示すのか。また、選挙予想さえも欺く強さなのか。本稿は、エルドアン政権がどのような方法を用いて劣勢を挽回したのかを考察し、20年を超える長期政権の選挙力学を理解する助けとしたい。 2023/06/20
  • 革新派野党の躍進、タクシン派野党の迷走──タイ下院選挙の分析と連立形成への展望 / 青木(岡部)まき 5月14日、タイで国会下院総選挙が行われた。事前の世論調査や予測では、タクシン派野党のタイ貢献党が下院最大勢力となるとみられていた。しかし大方の予想を超え、第1党となったのは、革新派野党・前進党だった(表1)。 2023/06/07
  • インドネシアのU20男子W杯開催国への野心と挫折――その舞台裏での大統領選挙に向けた駆け引き / 水野 祐地 国際サッカー連盟(FIFA)は、20歳以下(U20)男子ワールドカップ大会の開幕約2カ月前である3月29日に、インドネシアの開催国としての権利を取り消した。このことは国内で衝撃をもって報じられ、連日のようにテレビ番組やソーシャルメディアで話題となった。FIFAの公式声明によると、「現状を鑑みて」開催国を白紙にしたとのことである。いったい何があったのか。 2023/05/26
  • (2022年中国共産党第20回党大会)第6回 習近平時代における欧州の対中姿勢の変化 / ヴィダ・マチケナイテ 2017年10月の第19回党大会での報告で、習近平は「長年の努力を経て、中国の特色ある社会主義は新時代に入った」と述べた。この報告は、習近平が中国共産党の総書記として第2期目に移行する際のものである。「新時代」という文言は、2012年に中国共産党の総書記となった習近平個人と結びついている。実際に、習近平自身も「新時代」の時間軸を2012年以降と定義している。これまでに中国が経験した歴史的飛躍は、中国が成立した1949年以降と、豊かになった1978年から2012年、そして力強くなった2012年以降であるという。 2023/05/22
  • 世界各国の輸入における中国依存度 / 早川 和伸 近年、「脱中国依存」という言葉を聞く機会が増えている。ただし、これには多国籍企業の生産地としての中国依存の低下と、各国の中国からの輸入シェアの低下の2つの意味があり、あまり区別されずに使われているように見える。アップル製品の生産地のベトナムやインドへの移転は前者に該当し、先進国が進めているレアアースなどの調達先の分散は後者に該当する。本稿では、とくに後者の意味での脱中国依存を考えるために、中国からの輸入依存度について分析を行う。Hayakawa(2023)は、日本について、中国からASEANへの輸入転換が起こっているのは2010年代前半では中国依存度が高い品目であり、2010年代後半では労働集約的な品目であることを示した。これに対して本稿では、直近の2022年を対象とし、日本だけでなく世界各国の輸入における中国依存度を分析する。 2023/05/10
  • マルコス政権の『フィリピン開発計画2023-2028』 / 鈴木 有理佳 2022年6月末に発足したフェルディナンド・“ボンボン”・マルコスJr.政権の『フィリピン開発計画2023-2028』が2023年初めに公表された。フィリピンでは新政権発足後、政権の姿勢を示す開発計画を国家経済開発庁(NEDA)主導で策定する。現行のような形になったのはNEDAが1973年に設置されて以降だが、それ以前も各政権はそれぞれ開発計画を作成してきた。作成された計画案は大統領が議長を務めるNEDA理事会で承認されたのち、世間一般に公表される。通常、どの政権も発足後から約半年後の公表を目指すが、政権によっては調整や修正に手間取り、1年近くかかる場合もある。今回はアルセニオ・バリサカンNEDA長官が過去にも同職で計画策定に関わった経験から作業が迅速に進んだとみられ、2022年12月16日のNEDA理事会での承認を経て2023年初めに公表された。2023年1月27日にはマルコス大統領が同計画を正式に承認し、かつ各政府機関にその順守と執行を指示する行政命令第14号を発出した。 2023/05/09
  • タイ下院総選挙2023──選挙の先を睨んだ政党間の攻防 / 青木(岡部)まき 5月14日、タイで国会下院総選挙が行われる。今回の選挙では、2014年5月の軍事クーデタで政権を追われたタクシン派政党・タイ貢献党が政権を奪還できるかどうかに注目が集まっている。 2023/05/08
  • 大国の隣で生きる──フィンランドとトルコ / 今井 宏平 2022年2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻は改めて大国の隣国の難しさを浮き彫りにした。広大な面積をほこるロシアの隣国は数多く存在する。列挙すると陸続きで接している国が北朝鮮、モンゴル、中国、カザフスタン、アゼルバイジャン、ジョージア、ウクライナ、ベラルーシ、ラトビア、エストニア、フィンランド、ノルウェーである。また、海(カスピ海を含む)を挟んで接している国が米国、日本、トルクメニスタン、イラン、トルコ、ルーマニア、ブルガリアである。こうした国々のなかで、ロシアのウクライナ戦争に積極的に反応し、具体的な政策を掲げた国がフィンランドとトルコである。フィンランドは2022年5月18日に北大西洋条約機構(NATO)に加盟申請し、2023年4月4日に正式加盟を果たした。そしてトルコはウクライナ危機勃発後、一貫してロシアとウクライナの間の仲介を試みている。その成果として、開戦後、初めてロシアとウクライナの外相が言葉を交わした2022年3月10日にトルコのアンタリアで実施されたロシア、ウクライナ、トルコの3カ国外相会談、同年7月にトルコと国連の仲介でウクライナ産の穀物を黒海から輸出させる「穀物回廊」実施の合意を挙げることができる。 2023/04/18
  • トルコ大地震──エルドアン政権の復興選挙 / 間 寧 トルコでは2023年2月6日の大地震後、救助活動の遅れと違法建築が被害を拡大させたとの批判が被災地から上がった。折しも本年5月14日には、大統領・議会選挙の実施が見込まれていた。この震災は、公正発展党(AKP)政権を2002年以来率いてきたエルドアン大統領の続投の試み(「エルドアンの巻き返し」IDEスクエア、2023年1月)にどのような影響を与えるのか。本稿では、この問題を、震災後の有権者の意識とエルドアンの戦略に着目して考えてみたい。 2023/03/13
  • 2022年インドネシアの十大ニュース / アジ研・インドネシアグループ アジア経済研究所では、インドネシアを研究対象とする研究者が毎週集まって「先週何が起きたか」を現地新聞・雑誌などの報道に基づいて議論する「インドネシア最新情報交換会」を1994年から続けています。毎年末には、その年のニュースを振り返って、私たち独自の「十大ニュース」を考えています。 2023/02/28
  • (2022年中国共産党第20回党大会)第5回 不安のなかの習近平――中国の安全保障概念と外交政策への影響 / 頼潤瑤 習近平国家主席(以下、習近平)が今後5年間およびそれ以降の中国の外交観と政治課題の青写真を提示した中国共産党第20回党大会は、中国にとって最も重要なイベントの1つとなった。1980年代に中国共産党の指導者であった鄧小平が政治局常務委員会内で指導者が常に交代する仕組みを作り上げたのは、中国の内政および外交を1人のストロングマンが支配することを防ぐためであった。しかし、今回の党大会で習近平の任期制限が撤廃されたことは、中国が習近平のもとで「新時代」を迎えたことを間違いなく意味している。最も権力を持つ中国の指導者として3期目に入った習近平を政治的に制約するものは何もないだろう。 2023/02/17
  • ベトナム国家主席辞任劇にみる反汚職闘争の論理 / 石塚 二葉 2023年の旧正月を1週間後に控えた1月14日、ベトナムのメディアは、グエン・スアン・フック国家主席が夫人とともに湖に鯉を放す伝統の儀式を行う様子を報じていた。しかしそのたった3日後、フック国家主席の辞任というニュースが世界を驚かせた。1月17日、ベトナム共産党中央委員会の臨時総会は、2021~2026年任期における党政治局員、党中央委員等の役職を辞し、引退したいというフック国家主席の申し出に同意した。翌18日に召集された臨時国会は、同様に本人の辞職願にもとづき、フック国家主席を免職することを決議した。 2023/02/13
  • 「デカップリング」が世界経済に与える影響――IDE-GSMによる分析 / 熊谷 聡早川 和伸後閑 利隆磯野 生茂ケオラ・スックニラン・坪田 建明・久保 裕也 2022年2月24日に開始されたロシアによるウクライナ侵攻は、1年近く経過しても停戦の気配はなく、民間人も含めて両国の人的・物的損失は拡大を続けている。ロシアへの経済制裁は侵攻直後に想定されていたような(アジ研ポリシーブリーフNo.156参照)全面的な制裁ではないが、長期的に続くグローバルな分断の引き金になる可能性は排除できない。 2023/02/06
  • 5年間で6人目の大統領──政治混乱が続くペルー / 清水 達也 2022年12月7日正午前、ペドロ・カスティジョ大統領は国民向けテレビ演説で、国会の解散と臨時政府の樹立を宣言した。午後には国会で同大統領に対する罷免決議案の採決が予定されており、カスティジョ大統領はこれを阻止するために先手を打とうとした。これに対しマスメディアは、大統領が自主クーデター(autogolpe)を試みたと報道した。また、ディナ・ボルアルテ副大統領が国会解散を否定したほか、首相をはじめとする主要閣僚や大統領の顧問弁護士もすぐに辞任を発表した。軍や警察も憲法の秩序を守るとして、カスティジョ大統領を支持しないことを発表した。 2023/01/31
  • ラオスの首相交代劇――頂点が見え始めた新首相のロングロード / 山田 紀彦 2022年12月30日、第9期第4回国会の最終日にパンカム首相が突如辞任し、ソーンサイ副首相(経済担当)が新首相に就任した。当初の「公式」議事日程に人事案件は含まれていなかった。本人からの書面による正式な辞任申し出は12月15日であり、ラオス人民革命党の最高意思決定機関である政治局が承認したのは12月21日だった(Pasaxon, January 3, 2023)。本人は辞任を渋っていたといわれ、事態が急展開したことを物語っている。 2023/01/26
  • (2022年中国共産党第20回党大会)第4回 習近平政権の経済政策——産業政策、米中対立と今後の展望 / 丁 可 2022年10月に中国共産党第20回党大会が開催され、習近平指導部の第三期目が正式に発足した。以下で詳述するように、習近平政権のこれまでの経済政策には、産業政策を通じて経済構造の高度化を図る、という論理が貫徹していた。中国製造2025や一帯一路、米中対立、双循環戦略など、一連の象徴的な政策やできごとは、いずれもこの枠組みにおいて理解できる。同様に、第20回党大会以降の経済政策を読み解くうえでも、産業政策の視点が欠かせない。 2023/01/20
  • エルドアンの巻き返し――選挙前トルコの政治経済 / 間 寧 トルコでは、2023年6月までに実施される大統領・議会同時選挙でエルドアン政権が敗北しその20年の歴史に幕が引かれる可能性が取り沙汰されていた。しかし2022年秋以降、エルドアン大統領の世論支持率は持ち直す方向にある。なぜ支持率が持ち直したのか、そしてエルドアンは今後どのような方法で劣勢をさらに巻き返そうとしているのか。本稿では、何でもありの総力戦の中身を紹介する。主な柱は、為替介入と所得政策、硬軟両様の対外政策、有力候補の排除である。そして最後に野党の対応を展望する。 2023/01/10