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2024年

  • モザンビーク2024年総選挙不正に対する抗議と個人独裁 / 網中 昭世 モザンビークでは、2024年10月9日に大統領選挙・国民議会選挙・州議会選挙(以下、総選挙)が実施された(網中 2024b)。今回の選挙では、独立以来の与党のモザンビーク解放戦線(FRELIMO)、モザンビーク民族抵抗(RENAMO)、モザンビーク民主運動(MDM)、モザンビーク発展のための楽観的民主党(PODEMOS)の4政党から大統領候補が出馬した。モザンビークでは大統領の3選が禁止されているため、FRELIMOにとっては2期を務めた現職大統領フィリッペ・ニュシ(Filipe Nyussi)に代わる新顔候補の擁立である。10月20日付でまとめられた集計結果は24日に選挙管理委員会から公表された。選挙管理委員会の集計結果は、憲法評議会による承認を経て最終結果が確定される。憲法評議会が最終的な評価を下す期日は、選挙法に定められていないが、通例であれば年内に公表され、年明け後の1月半ばに新大統領が就任するスケジュールである。12月12日現在も、選挙管理委員会が公表した集計結果をめぐり、野党候補の呼びかけで独立以来最大規模の抗議運動とそれに対する弾圧が続いている。そうしたなかで、憲法評議会がどのような評価を下すのかが注目されている。 2024/12/27
  • トルコの対インフレ政策──信頼性の不足 / 間 寧 エルドアン政権のメフメト・シムシェク財務国庫相が2023年6月に「経済合理性への回帰」(「3選エルドアンのトルコ」IDEスクエア、2024年4月)を宣言してから1年半が経とうとする 。その最大の課題はインフレ抑制だったが、2024年10月時点でも年率(前年同期比)48.6%とインフレ低下のペースは遅く、中央銀行はインフレ予想の上方修正を再三余儀なくされた。インフレ抑制はなぜ長丁場となっているのか。本稿はこの問いに答える。 2024/12/25
  • 政治改革を求めたスリランカ――2024年大統領・国会議員選挙 / 荒井 悦代 スリランカでは2024年9月21日に大統領選挙が行われ、人民の力(NPP)代表のアヌラ・クマーラ・ディサナヤケ(通称AKD)が当選した。NPPは、大統領選挙の時点で国会にわずか3議席しかもたない小政党だった。ところが11月14日の国会議員選挙でもNPPは躍進し、過半数議席を獲得した。
    1978年に大統領制が導入されて以来、基本的にスリランカの大統領は伝統的な二大政党である統一国民党(UNP)とスリランカ自由党(SLFP)のどちらかから選ばれてきた。また国会選挙においては、単一の政党が過半数議席を得ることはなかった。今回、第三勢力だったNPPから大統領が選出され、同党が単独で議会の過半数を制したことは、スリランカ政治史の転換点として記憶されるであろう。本稿では、この転換点に至るまでの経緯をみるとともに、NPP とその指導者AKDの出自と台頭の背景を考察する。
    2024/12/24
  • パキスタン総選挙後の議席配分をめぐる政府と最高裁の攻防 / 工藤 太地 2024年2月、パキスタンにおいて連邦下院選挙が実施された。いずれの政党も単独で過半数を制することができず、選挙後の連立交渉を経て、パキスタン・ムスリム連盟ナワーズ派(PML-N)を中心とする連立政権が誕生した。
    しかしながら、選挙実施から半年以上経過した現在においても、20以上の議席の行方が確定していない。野党パキスタン正義運動党(PTI)への議席配分をめぐって最高裁と政府与党が対立し、選挙管理委員会(以下、選管)が最終的な議席配分を実施できていないためである。
     連立与党は、下院336議席のうち200以上の議席を確保している。他方、現在係争中の議席は22議席のみであり、仮にすべての議席が野党に配分されたとしても、与党勢力は政権を維持し続けることができる。それにもかかわらず、連立与党は強引な法改正を行い、PTIへの議席配分を命じた最高裁判決を無効化して議席を確保しようとしている。なぜ与党は、司法判決の履行を妨害してまで20余りの議席を獲得しようとしているのだろうか。
    本稿では、まず、議席確保にこだわる与党側の狙いが憲法改正にあったことを示す。次いで、議席問題の決着を見ぬまま10月に憲法改正が成立するに至った過程を分析する。そのうえで、この憲法改正が今後のパキスタン政治にもたらす影響について検討する。
    2024/12/11
  • 2024年ウルグアイ大統領選挙──勝者なき選挙結果と決選投票の見通し / 中沢 知史 「熱狂も、サプライズもない選挙」──2024年10月27日、奇しくも日本の衆議院議員選挙と同日に南米南部のウルグアイ(人口約344万人、登録有権者数約272万人)で行われた大統領・上下両院議員選挙についての第一印象は、このように要約できる。実際、選挙結果はほぼ事前の下馬評どおりで、いずれの候補も当選に必要な50%超の票を得られず、11月24日(日)に得票上位2名による決選投票が行われることが決まった。後述するように、決選に残ったアルバロ・デルガド(与党)とシャマンドゥ・オルシ(野党)の両名とも、所属する政治勢力の既成路線を踏襲する、やや新鮮味に欠ける候補である。当初から接戦が確実視されていたため、失点しないよう慎重に互いをけん制してきたことも、選挙キャンペーンが盛り上がらなかった原因であろう。 2024/11/20
  • 第2次トランプ政権が掲げる関税引き上げは世界経済と日本に何をもたらすか / 磯野生茂熊谷聡早川和伸後閑利隆ケオラ・スックニラン・坪田建明・久保裕也 2024年11月の米大統領選挙において、共和党候補のドナルド・トランプ前大統領が民主党のカマラ・ハリス候補を破り再選を決めた。トランプ次期大統領は、第2次政権では中国製品に対する60%以上の関税と、その他の国々に対する最大20%の関税を導入することを掲げている。これは2018年から2019年にかけて実施された第1次トランプ政権の対中関税政策をさらに強化し、中国以外のすべての国にも新たな関税を課すものである。本稿では、この関税政策が実施された場合の世界経済と日本への影響について、アジア経済研究所の経済地理シミュレーションモデル(IDE-GSM)を用いた分析結果を報告する。 2024/11/18
  • 専攻医たちはなぜ職場を去ったのか?――医大定員の増員計画にみる韓国医療の問題 / 渡邉 雄一 韓国では現在、大学医学部の定員増加をめぐって政府と医療界の対立が長期化し、医療現場では混乱が続いている。事の発端は今年2月初めに、政府が医大の定員拡大を含む、必須医療(産婦人科、小児科、救急医療など)と地域医療の強化策を発表したことであった。将来的な医師不足 を理由とする医大定員の増員は、必須医療や地域医療を担う人材の拡充にとって中心的な施策と位置付けられた。
    しかし、現在3000人ほどの入学定員を5年間にわたって毎年2000人増員するという大胆な計画であったため、医療界はこれに対して猛反発した。とりわけ、専攻医(日本の研修医に相当する)らが集団で辞表を提出して一斉に職場を離脱したほか、医大生の多くも授業をボイコットしたり、休学届を提出したりして抗議の意を表明した。
    2024/10/17
  • モザンビーク2024年総選挙にみる有権者からのシグナル / 網中 昭世 モザンビークでは、ポルトガルからの独立解放闘争を率いたモザンビーク解放戦線(FRELIMO)が、1975年の独立以降、今日に至るまで政権与党の座にある。現在の野党第一党は、独立後まもなく反政府組織として結成され、FRELIMO政府との内戦(1977~1992年)の当事者であったモザンビーク民族抵抗(RENAMO)である。RENAMOの政党化と複数政党制の導入は和平合意の条件であり、1994年の総選挙以来、競争的選挙を実施してきた。しかし、独立からほぼ半世紀、内戦終結後の民主化から30年を経て、解放政党というFRELIMOの正統性は薄れ、同党の一党優位に挑戦するというRENAMOの正当性もまた過去のものとなりつつある。今や、同国の二大政党は既得権益層と見られ、FRELIMOとRENAMOの党名を文字って「FRENAMO」と揶揄されている。 2024/10/08
  • (2024年インド総選挙)第5回 第3期モディ政権下のインド経済の課題 / 佐藤 創・辻田 祐子 モディ首相率いるインド人民党(BJP)は、今回の選挙公約のなかで、政権を担当した2014年からの10年間でインドを世界第11位から第5位の経済に成長させた実績を強調し、2047年までに先進国とするための基礎を次の5年間で築くと訴えた 。選挙公約として掲げられた24項目からなる「モディの約束」には、貧困層や若年層などの社会階層に関する項目、中小企業や製造業などの産業に関する項目、ガバナンスや教育、技術などの社会全体に関わる項目など多様な内容が含まれている。
     しかし、BJPは周知のとおり今回の選挙で大幅に議席を減らしており、この選挙結果に関する分析をみると、物価高騰と雇用・失業問題に対する対応への不満がそのおもな原因として指摘されている 。国内総生産を含む国民経済計算の集計や推計についての疑義が論じられるなど基本的な諸統計に依拠することに留保が必要ななかで 、経済という観点からの課題を論じることには難しさが伴うところがある。そのような制約に留意しつつ、現在のインド経済が抱えている課題について整理したい。
    2024/09/06
  • 「司法介入」によるタイの首相交代――誰が何を目指し動いたのか? / 青木(岡部)まき 2024年8月、タイの政局は2件の司法判決により大きく動いた。7日に憲法裁判所は革新派野党・前進党(Move Forward Party)の解党を命じ、党首以下幹部11人の公民権を10年間停止した。さらに14日、憲法裁判所は4月に行われた内閣改造人事が憲法の定める倫理規定に違反したと判断し、セーター首相に対し解職の判決を下した 。セーター失職を受けた連立与党は15日、その筆頭であるタイ貢献党(Pheu Thai Party)の党首でタクシン元首相の次女ペートーンターン・チンナワットを新たな首相候補とすることで合意した。ペートーンターンは翌16日の国会下院特別会議で下院議員319人(総数500人)の支持を得て第31代首相に選出された。
    今回の首相交代劇は、一見すると政局が大きく転換したかのような印象を受けるが、革新派対保守派の政治対立や司法機関の政治介入という構造そのものに変化はない。以下では首相交代の背景について論じたうえで、今後も保守派による「司法介入」のリスクが続く可能性を指摘する。
    2024/09/05
  • ハシナ政権の崩壊──バングラデシュの政治・経済はどこに向かうのか / 松浦(神成)正典 バングラデシュで大規模な反政府運動が発生した。これを受け、2024年8月5日にシェイク・ハシナ首相はバングラデシュを脱出し、ハシナ首相率いる現政権は崩壊した。ハシナ首相は、アワミ連盟(AL)の党首として2009年から政権の座に就いていたが、今回の反政府運動によって、約15年間続いた政権に幕が下りたことになる。本稿ではハシナ政権崩壊の背景と経緯を解説し、そして今後バングラデシュの政治経済はどのように変わっていくのか考察したい。 2024/08/27
  • (2024年インド総選挙)第4回 第3期モディ政権の外交課題と展望 / 伊藤 融 2024年総選挙の結果、モディ政権は3期目に入った。これまでと異なり、モディ首相のインド人民党(BJP)単独では連邦下院の過半数に達しない勢力図のなかでは、連立を組む地域政党の発言権が大きくなるのは当然である。与党連合の国民民主連合(NDA)でカギを握るアーンドラ・プラデシュ(AP)州のテルグー・デーサム(TDP)やビハール州のジャナター・ダル統一派(JDU)は早速、自州を税財政上優遇する特別カテゴリーの州に指定するか、多額の財政支援を行うよう求めた。またモディ政権が導入した軍の任期制採用制度「アグニパト」や、BJPがヒンドゥー国家建設の道として掲げる統一民法典制定にも懐疑的な立場を示している。現政権を維持するつもりならば、これらの要求に耳を傾けざるをえない。実際、7月23日に発表された連邦予算案は、両州への「利益誘導」が露骨であった 。 2024/08/26
  • (2024年インド総選挙)第3回 モディ政権3期目の課題──分断を乗り越え、民主主義を取り戻せるか? / 中溝 和弥 2014年の政権掌握以来、モディ政権はあらゆる方法を用いてインド民主主義を切り崩してきた。民主主義体制が権威主義体制に移行する過程を検証した『民主主義の死に方』で知られるレビツキーとジブラットは、独裁者を見極めるための行動パターンとして、次の四つをあげる。第一に、ゲームの民主主義的ルールを言葉や行動で拒否しようとする。第二に、対立相手の正当性を否定する。第三に暴力を許容・促進する。第四に、対立相手(メディアを含む)の市民的自由を率先して奪おうとする。これらの特徴は、モディ政権の2期10年でいずれも見出すことができる。 2024/08/21
  • ベネズエラ2024年大統領選挙――2つの相反する「選挙結果」 / 坂口 安紀 2024年7月28日、ベネズエラで大統領選挙が実施された。その結果をめぐり、現職と対立候補の間で激しい争いが生じている。選挙管理委員会(以下「選管」)は翌日未明に、2013年以来政権を支配するニコラス・マドゥロが51.2%、反政府派連合の統一候補エドムンド・ゴンサレスが44.2%の得票率で、マドゥロが再選を決めたと発表した。しかしその直後、反政府派連合を率いる元国会議員マリア・コリナ・マチャドが会見を開き、40%の集計時点でゴンサレスが70%を得票しており、次期大統領候補に選出されたのはゴンサレスであると主張し、その証拠を公表すると発表したのである(Tagliafico 2024)。 2024/08/09
  • (2024年インドネシアの選挙)第7回 プラボウォ政権への移行期政治 / 本名 純 2月の大統領選挙と議会選挙を経て、プラボウォ・スビアント新政権の誕生を10月に控えるなか、インドネシアの政治は約8カ月の長い政権移行期の最中にある。10年前のユドヨノ政権からジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)政権への移行は、7月に大統領選挙を行ったため、3カ月という短い期間であった。今回の移行期間は異例の長さであり、新たな政治力学を生む契機となっている。その展開は、プラボウォ政権の展望を大きく左右する。本稿は、今の移行期政治を特徴づける3つの政治的駆け引きを考察したい。第一に、ジョコウィの退任後の政治力の温存をめぐる駆け引き。第二に、プラボウォ政権の連立与党形成に向けた駆け引き。第三に、統一地方首長選挙を睨んだ駆け引きである。 2024/07/25
  • (2024年インド総選挙)第2回 選挙結果の分析──インド人民党の大幅な後退 / 近藤 則夫 インドの第18次連邦下院議員選挙が6月4日に一斉開票された。結果は事前の予想と大きく異なり、ナレンドラ・モディ首相率いるインド人民党(BJP)は 前回2019年の303議席から今回は過半数にみたない240議席へと大きく後退した。BJPが率いる国民民主連合(NDA)は前回の352議席から293議席となった。一方、インド国民会議派(以下、「会議派」)を中心とする選挙連合は2019年の統一進歩連合(UPA)としては91議席であったが、2023年7月に結成されたINDIA 連合(Indian National Developmental Inclusive Alliance,インド国民発展包括連合)は232議席を確保した。会議派は前回の52議席から今回の99議席へ勢力を回復した。 2024/07/18
  • (2024年インドネシアの選挙)第6回 政治YouTuberの台頭とインドネシアの民主主義 / 見市 建 ジョコ・ウィドド(ジョコウィ)大統領の2期10年が任期満了を迎えようとしている。2014年に「初の庶民出身」として大統領に就任したジョコウィは、経済開発の成果や頻繁な現場視察などによる国民へのアピールによって、高い支持率を維持し続けた。他方で、情報および電子取引法(ITE法)の濫用によって、ソーシャルメディア上で政府や大統領を批判した人物が逮捕されるケースが頻発するなど、自由な言論空間たる市民社会の活動が制限された。とくに大統領の側近であるルフット・パンジャイタン海事・投資担当調整大臣の資源ビジネスへの関与を批判した2人のNGO活動家が、2021年にITE法違反で刑事告訴された事件は象徴的だった(2024年1月8日に無罪判決)。アムネスティ・インターナショナルによれば、この事件を含め、2021年1月から12月の間に人権活動家に対する367件の起訴や逮捕、暴力、脅迫があり、そのうち100人以上がITE法違反で告訴されたという。こうしたことから、ジョコウィ政権の2期目には多くの研究者がインドネシアの民主主義は後退しているとみなすようになった。 2024/07/16
  • (2024年インドネシアの選挙)第5回 ティックトックの政治化は民主主義を空洞化するのか? / 岡本 正明・八木 暢昭・久納 源太 インドネシアの2024年大統領選挙においては、3組の正副大統領候補(アニス・バスウェダン=ムハイミン・イスカンダル、プラボウォ・スビアント=ギブラン・ラカブミン・ラカ、ガンジャル・プラノウォ=マフッド・MD)が出馬し、プラボウォ=ギブラン組が6割近い得票率で勝利した。プラボウォ=ギブランが、8割近い支持率を有する現職大統領ジョコ・ウィドド(以下、ジョコウィ)の後継者とみなされたことが勝利の一番の要因である。そもそも、副大統領となるギブランは、ジョコウィの長男である。法的には40歳以上しか正副大統領候補になれないにもかかわらず、ジョコウィの義弟が長官を務める憲法裁判所が地方首長経験者であれば例外を認めるという判決を下すことで、36歳でソロ市長をしていたギブランが副大統領候補になることができた。選挙キャンペーンでは、大統領活動資金のバラマキが行われ、国家機構にはプラボウォ=ギブランを支持する動きもあった。こうした司法・行政・国家財政の動員は、民主的に選ばれた大統領が民主主義の価値を掘り崩す動きとみなされ、一部の学生や知識人からは強い批判が行われた。しかし、こうした民主主義の衰退への懸念の高まりは、プラボウォ=ギブランのペアへの支持率を下げるほどではなかった。ギブランがプラボウォの副大統領候補となったことで、プラボウォの支持率が上がりさえした。 2024/07/01
  • (2024年インドネシアの選挙)第4回 ナフダトゥル・ウラマー新議長の「政治的中立」 / 茅根 由佳 2024年2月に実施されたインドネシアでの大統領選挙は、大方の予想どおり、ジョコ・ウィドド(以下、ジョコウィ)大統領の支持を得たプラボウォ・スビアントの勝利に終わった。選挙戦も比較的平穏であった。宗教的アイデンティティが前面に出され、インドネシア社会の分極化が危惧された2019年選挙とは対照的な展開であった。 2024/06/21
  • ベトナム政治に何が起こっているのか――相次ぐ共産党最高幹部の辞任をめぐって / 石塚 二葉 東南アジア諸国のなかでも長らく政治的安定を誇ってきたベトナムが、今、揺れている。2021年の党大会で選ばれた任期5年の第13期政治局は、当初18人の委員で構成されていたが、2024年5月までに6人が辞任した。そのうち3人は政治局員のなかでも最高指導部に当たるトップ4、いわゆる「四柱」(党書記長、国家主席、政府首相、国会議長)の構成員であり、もう1人は「四柱」に次ぐナンバー5の職位とされる書記局常任であった。 2024/06/20
  • トランプ1.0における関税戦争の貿易に対する影響を振り返る / 早川 和伸 米国の11月の大統領選において、トランプ前大統領とバイデン大統領が再び対決する構図が固まった。トランプ前大統領は、前政権時に中国製品に対して2018年と2019年に段階的に追加関税を課した。2020年からは関税による輸入制限よりも、先端半導体などの輸出規制が中心的な政策に移り、バイデン政権も引き続き輸出規制の強化を行ってきた。このように、米国の対中貿易政策は輸入制限よりも輸出規制へと移ったかと思われたが、もしトランプ前大統領が返り咲いた場合、再び関税による輸入制限が強化される予定である。中国に対する関税を60%、日本を含む、それ以外の国に対しても10%まで引き上げると公言している。したがって、トランプ前大統領が再選された場合に備え、前政権時に行われた追加関税措置が、どのような結果を生み出したのか、整理しておくことが重要であろう。 2024/05/29
  • 初の女性大統領誕生に向けて──メキシコ大統領選挙の課題と展望 / 北條 真莉紗 2024年メキシコ大統領選挙は、高い確率で同国初の女性大統領が誕生すると予想されるため、国内外からの注目を集めている。しかし、メキシコ国内では「ロペス・オブラドール(Andrés Manuel López Obrador:AMLO)がいなくなった後」にメキシコ政治がどのようになるのかにも注目が集まっている。メキシコ政治の分断の象徴ともいえるAMLO現大統領の後継者は誰になるのか。未だ予断を許さない状況ではあるが、2018年の前回選挙ほどの旋風は起きず、順当に与党候補が勝利するというのが大方の予想である。本稿では3名の大統領候補を紹介し、選挙を目前に控えた時点での展望を記す。 2024/05/28
  • (2024年インド総選挙)第1回 与党優位の背景 / 辻田 祐子 4月19日、酷暑期のなかでインド国民は総選挙最初の投票日を迎えた。今後、6月1日までの44日間に合計7回に分けた投票が全国で実施される。一斉開票日は6月4日である。今回の総選挙では、6月中旬に5年間の任期満了を迎える連邦議会下院の議員543人が、18歳以上の男女約9億6800万人の有権者により小選挙区制で選出される。 2024/05/17
  • (グローバルサウスと世界)第8回 BRICSには加盟せず、OECDへの加盟を目指すインドネシア外交のしたたかさ――「自主・積極外交」のレガシー / 川村 晃一 インドネシアの外交を形容する文句としてこれまでしばしば使われてきたのは、「アセアン(ASEAN──東南アジア諸国連合)の盟主」であった。それが最近は、「グローバルサウスの代表」という言葉も使われるようになりつつある。 2024/05/07
  • エルドアンの初黒星――トルコ2024年統一地方選挙 / 間 寧 トルコで2024年3月31日に実施された統一地方選挙では、予想に反して野党第1党の共和人民党(CHP)が勝利し、与党の公正発展党(AKP)は次点にとどまった。2002年以来すべての選挙で勝利してきたAKPにとって初の敗北である。本稿ではこの選挙結果の原因と、それが次回2028年大統領・国会選挙にどのような影響を及ぼしうるのかを考察する。 2024/04/26
  • (世界を見る眼)(「台湾リスク」と世界経済)第5回 中台間海上輸送の現状と東アジアへの影響 / 池上 寬 台湾側の貿易統計で、中国と台湾の貿易について計上されたのは、1991年7月からである。しかし、それより以前の中台間貿易は一旦香港に輸出され、そして香港から中台それぞれに再輸出される形での貿易、つまり間接貿易で成り立っていた。中国との海上貿易は1997年1月から外国船舶会社が所有する外国船籍の定期船に限定し、かつ第三国を経由した場合のみ、台湾政府は中国からの貨物の輸入を認めることとなった。このことからわかるように、中国と台湾の貿易を海上輸送の点から見ると、少なくとも台湾が中国から海上輸送で輸入する場合には、第三国を経由し、しかも中台の船舶会社は従事できない状況であった。つまり、中台間の直接往来ができない状況であった。これは、直接の通航ができない「三通」の問題のひとつであった。この三通は2008年12月に解禁されたことで、中台間で直接輸送が可能となった。 2024/04/24
  • (世界を見る眼)(「台湾リスク」と世界経済)第4回 世界の半導体工場となった台湾と地政学リスク――集中から緩やかな分散へ / 佐藤 幸人 1949年以降、台湾海峡を隔てて中華人民共和国と中華民国が並立した状態が続いている。近年、この状態が不安定化するかもしれないという懸念が高まり、国際政治や安全保障の観点からだけではなく、台湾が世界の半導体生産を担っているという経済的な理由からも、国際的に大きな関心を呼んでいる。 2024/04/22
  • チリの新憲法制定、再びの挫折――なぜ人びとは「ノー」を突きつけたのか? / 三浦 航太 2023年12月、チリで新憲法案承認をめぐる国民投票が行われ、賛成44%、反対56%で2度目の否決となった。2度目ということは1度目があったということである。2022年9月にも新憲法案承認をめぐる国民投票が行われており、否決されていた。 2024/04/19
  • (世界を見る眼)(「台湾リスク」と世界経済)第3回 中台貿易は政治的緊張の影響を受けるか / 早川 和伸 近年、「経済的威圧」という言葉を聞く機会が増えている。McLean(2021)によると、経済的威圧とは、政策的譲歩を引き出すために、相手国に経済コストを負わせる、もしくは負うことになると脅す行為を指す。本用語は、とくに中国による威圧的行為に対して用いられることが多い。その例としては、2010年における尖閣諸島中国漁船衝突事件に伴う、中国から日本へのレアアース輸出規制などが挙げられる。Hunter et al(2023)によると、2020年から2022年の3年間において、中国による威圧行為は73件に及ぶ。最も多いのがオーストラリア向けで21件、次にリトアニア向けが11件である。前者は2020年に豪政府が新型コロナの起源について独立した国際調査を求めたことが原因とされ、豪州産ワインや食品などに制裁関税が課されたりした。後者は駐リトアニア台湾代表処を開設したことが原因とされ、リトアニア産品に対する輸入規制を導入した。このように、中国による経済的威圧では、貿易制限措置が取られることが多く、全体のうち最も多い30件を占める。 2024/04/17
  • (世界を見る眼)(「台湾リスク」と世界経済)第2回 台湾総統選挙後の中台関係と東アジアの安全保障 / 松本 はる香 2024年1月13日、台湾総統選挙が行われ、民主進歩党(民進党)の頼清徳候補が当選し、蔡英文から政権が受け継がれることが決まった。民進党が与党として二期8年を超え三期目の政権を担当するのは台湾史上初のこととなった。また、総統選挙と同時に台湾の国会に当たる立法院の選挙も行われた。台湾での選挙後、台湾有事のリスクは高まるのであろうか。 2024/04/12
  • (世界を見る眼)(「台湾リスク」と世界経済)第1回 中台関係の緊張が世界経済に与える影響 / 熊谷 聡松本 はる香 台湾と中国の関係は、歴史的にみても、そして今日に至るまで、東アジアはもとより世界の政治・経済・安全保障に大きな影響を及ぼしてきた。近年、中国が台湾に対して軍事的な圧力をかけることによって、「台湾リスク」とも言える台湾海峡における紛争の危険性が高まっている。台湾海峡における中台の緊張は、多くの国々にとって深刻な懸念材料となっている。特に、2021年3月、当時のデービッドソン米インド太平洋軍司令官が、中国が台湾を軍事的に併合する可能性に警鐘を鳴らしたあたりの時期より、国際社会の懸念が高まり 、こうした事態が起きることは「台湾有事」と呼ばれてきた。 2024/04/12
  • (2024年インドネシアの選挙)第3回 なぜプラボウォは圧勝できたのか?――2024年大統領選挙を開票速報から分析する / 川村 晃一 2月14日に行われたインドネシアの大統領選挙では、プラボウォ・スビアントとギブラン・ラカブミン・ラカの正副大統領ペアの当選が確実となった。選管である総選挙委員会(KPU)から公式の結果が発表されるのは3月20日だが、複数の世論調査会社による開票速報では得票率60%弱を獲得すると予想されており、決選投票までもつれ込むことになく、アニス・バスウェダン=ムハイミン・イスカンダルとガンジャル・プラノウォ=マフッド・MDの2組の候補者をおさえて当選する見込みである。 2024/03/13
  • バングラデシュの後発開発途上国卒業がもたらす経済的影響――シミュレーションによる分析 / 早川 和伸熊谷 聡 2021年11月、バングラデシュがラオス、ネパールとともに後発開発途上国(Least Developed Country: LDC)のステータスから卒業することが、国連総会で決議された。バングラデシュは2026年11月にLDCのステータスから卒業することが予定されている。これにより、バングラデシュは輸出時にLDC向けの特恵関税率を利用できなくなり、輸出先市場で価格競争力を失う可能性がある。とくに、バングラデシュの主要な輸出品目である衣料品に対しては、輸入時に相対的に高い一般税率を掛けている国が多く、これまではLDC特恵関税率を利用することでこうした高関税率を回避してきた。これに対し、LDC卒業後も関税上の優位性を維持するために、主要な貿易相手国と自由貿易協定(FTA)を締結し、FTA特恵関税率という新たな特恵アクセスを得るべきだといった意見もある(寺島2023)。 2024/03/05
  • 2023年インドネシアの十大ニュース / アジ研・インドネシアグループ アジア経済研究所では、インドネシアを研究対象とする研究者が毎週集まって「先週何が起きたか」を現地新聞・雑誌などの報道に基づいて議論する「インドネシア最新情報交換会」を1994年から続けています。毎年末には、その年のニュースを振り返って、私たち独自の「十大ニュース」を考えています。
    今年も、アジ研・インドネシアグループの考える「2023年インドネシアの十大ニュース」を発表します。
    2024/02/29
  • (2024年インドネシアの選挙)第2回 インドネシアからの大統領選挙キャンペーン報告――選挙の公正性は守られるのか / 水野 祐地 2024年2月14日に予定されているインドネシアの大統領選挙に向けて、2023年11月28日に選挙キャンペーンの火蓋が切って落とされた。宗教的アイデンティティが争点のひとつとなり社会の分断が顕わになった2019年の選挙と比べると盛り上がりに欠ける印象のある今回の選挙だが、インドネシア政治の今後を見定めるうえで重要な選挙であることには違いない。 2024/02/09
  • 2024年台湾総統・立法院選挙と今後の展望 / 黄偉修 2024年1月13日、台湾の総統、立法委員(国会議員)選挙が行われ、与党の民主進歩党(以下、民進党)は、頼清徳副総統が558万6019票(得票率40.05%)を獲得して総統選挙で勝利した。しかし、立法委員選挙では過半数の57議席に届かなかったばかりか、51議席の獲得にとどまって第二党に転落し、少数与党として今後の政権運営に臨むことになった。海外のメディアやジャーナリストは、対中政策を中心に今回の台湾の総統選挙を見てきたが、今回の選挙は、これまでと比べ、実態がかなり異例であったといえる。本稿では、なぜ異例な選挙であったのか、この異例な選挙の結果が今後の台湾政治にどのような影響を与えるのか、について述べる。 2024/02/08
  • 3選エルドアンのトルコ──「経済合理性への回帰」 / 間 寧 レジェップ・タイップ・エルドアン大統領は2023年5月の大統領選挙で、3選を果たしたものの、経済政策の失敗から苦戦を強いられた。エルドアンが新内閣で経済の司令塔に任命したメフメト・シムシェキ財務国庫相は、経済合理性への回帰を宣言した。果たしてトルコ経済の正常化は起きているのか。本稿は過去半年の金融政策を中心に概観してこの問いに答える。 2024/02/07
  • (2024年インドネシアの選挙)第1回 大統領選挙の見どころ――ジョコウィ路線の継承をめぐる三つ巴の争い / 東方 孝之 2024年はインドネシアにとって大きな節目の年となる。2月14日、2億480万人もの有権者が直接投票により大統領を選出する。国家元首である大統領を直接選挙するという点で規模としては世界最大となる。 2024/01/30
  • (グローバルサウスと世界)第7回 ベトナム――曖昧戦略に生き残りをかけるインド太平洋の「スイングステート」 / 石塚 二葉 ベトナムは、グローバルサウスの一員を積極的に自任こそしないものの、その一角としてしばしば名前が挙がる国のひとつである。グローバルサウスを米中対立など「世界経済の分断」状況のなかで中立的な立場を維持し、それによって経済的利益を得ている国々と捉えるならば、ベトナムの行動様式はまさにそのような特徴に当てはまるようにもみえる。 2024/01/23