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安定的な世襲の実現に向けて――2023年カンボジア総選挙

Toward Stable Hereditary Succession: Cambodia’s 2023 National Assembly Elections

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2023年7月

(6,611字)

正誤表 (160KB)

確実視される人民党の圧勝

1979年からカンボジア人民党による長期支配が続くカンボジアでは、2023年7月23日に18政党が参加して第7期国民議会議員選挙(総選挙)が実施される1。とはいえ、参加政党はほぼ人民党の衛星政党である。フン・セン首相(70歳)率いる人民党政権は、2013年総選挙で躍進した最大野党・救国党を2017年に解党に追い込み、前回の2018年総選挙で全議席を独占した。そして2023年5月、同政権が救国党の流れをくむキャンドルライト党を今回の総選挙から排除したため、再び人民党の圧勝が確定的となっている。

仮にキャンドルライト党が参加しても、人民党の勝利は確実視されていたが、なぜ同党はこうした強権的手段をとったのだろうか。また、すでに結果がみえている今回の総選挙は、カンボジア政治においてどのような意味をもつのだろうか。これらを考えるうえでのポイントは、「安定的な世襲の実現」である。首相在職39年目のフン・センは、今回の総選挙で「圧勝」することで、長男フン・マナエト国軍副総司令官兼陸軍司令官(45歳)への首相職の世襲を安定的に進めようとしていると考えられる。

本稿では、キャンドルライト党が善戦した2022年6月の第5期コミューン評議会選挙後の政治動向を概観したうえで、キャンドルライト党の排除について人民党は必ずしも一枚岩ではなく、世襲の安定的な実現を最優先するフン・センの意向で決まった可能性が高いことを示す。そして今回の総選挙には、選挙で実質的な政党間競争がない覇権的権威主義体制の定着と、世襲に対する事実上の信任投票という、少なくとも2つの意味があることを指摘する。

写真1 選挙運動で記念撮影に応じるフン・マナエト候補(中央)

写真1 選挙運動で記念撮影に応じるフン・マナエト候補(中央)
救国党の流れをくむキャンドルライト党の台頭

キャンドルライト党の起源は、1995年にフンシンペック党から除名されたサム・ランシー前経済・財務大臣(当時)が旗揚げしたクメール国民党に求められる。クメール国民党は、党名を1998年にサム・ランシー党に、2017年9月にキャンドルライト党に改称した。現在の党名はサム・ランシー党時代から続くロゴマーク(灯をともしたロウソク)に由来する。同党は2012年にサム・ランシー党首を含む主要幹部の大半が人権党と合流して救国党を結成して以降2、実質的な活動を停止していたが、2021年11月に再始動した(山田 2022)(図参照)。

図 キャンドルライト党を中心とする主要野党の変遷

図 キャンドルライト党を中心とする主要野党の変遷

(注)実線は実質的な活動を継続している期間を、破線は実質的な活動を停止している期間を指す。
フンシンペック党もこの間に分裂・合流を繰り返しているが、本図では省略した。
(出所)筆者作成。

2018年総選挙で人民党が完勝してから初の直接選挙となった2022年コミューン評議会選挙3では、キャンドルライト党が22.25%の票を得て善戦し、旧救国党支持層の受け皿として台頭した。サム・ランシーら知名度のあるかつての主要指導者を欠き、政権による候補者の逮捕、脅迫、買収が相次いだにもかかわらず、前々回2012年のコミューン評議会選挙におけるサム・ランシー党の得票率(20.84%)を上回った点は特筆に値する。この結果は、救国党解党による独裁強化後も人民党に取り込まれない強固な野党支持層が2割以上いることと、著名なカリスマ的指導者がいない政党でも議席を獲得しうるようになったことを示している(山田 2022)。

コミューン評議会選挙で全土に議席を得たキャンドルライト党は、地方での活動を活発化させ党勢を拡大した。2022年11月に5年間の政治活動禁止を解かれた旧救国党幹部の一部が加わった結果、2023年2月の臨時党大会は党中央委員会を41人から117人に、党最高指導部に当たる党常任委員会を15人から32人に拡大した。また、2022年3月に復党した古参幹部のソン・チャイ、元カンボジア独立教員協会会長で著名な政治活動家のロン・チュン、元カンボジア経済研究所所長で経済学者のソック・ハーチの3人を副党首に追加選出し、党首と5人の副党首による集団指導体制を構築した。2023年2月時点で現地のジャーナリストや選挙監視NGOは、 2023年総選挙の同党の獲得議席数を125議席中20~30議席と予測していたなかで、ソン・チャイ副党首は40議席以上と自信をみせた4

つまり、人民党が単なる勝利ではなく圧勝を目指すのであれば、キャンドルライト党は唯一の障害物となる。

写真2 党指導部を拡大したキャンドルライト党臨時大会

写真2 党指導部を拡大したキャンドルライト党臨時大会
反対勢力に対する抑圧と懐柔

2022年コミューン評議会選挙後、人民党政権はまず、キャンドルライト党指導部に対する抑圧を強めた。コン・コアム党最高顧問とソン・チャイ副党首は、それぞれ別件で人民党から名誉毀損で提訴された。前者は2023年1月に謝罪して訴えが取り下げられたが、党最高顧問の辞任と離党に追い込まれ、後者は同年2月に有罪が確定した5。タッチ・セター副党首は訪問先の日本と韓国で人民党政権への批判を展開したところ、同年1月に過去の小切手不渡り問題に絡めて逮捕され、のちに扇動罪で起訴された6。また、リー・ソティアラユット幹事長は、盗聴によると思われる女性スキャンダルがSNS上に流出し、4月に幹事長辞任に追い込まれた。これらの事件により、キャンドルライト党は自主規制をかけ、人民党政権への直接的な批判を控えざるを得ない状況が続いている7

また、旧救国党指導者と独立系メディアは、引き続き人民党政権の封じ込めの対象となった。複数の有罪判決を受けて国外で活動するサム・ランシーは2022年10月、国土全体または一部の外国への譲渡の罪で終身刑を宣告された。人民党政権は2019年に周辺国と協力してサム・ランシーの帰国を阻止しており、現在も帰国の見込みは立っていない。一方、外国との通謀の容疑で2017年9月に逮捕された旧救国党党首のクム・ソカーは2023年3月3日、禁錮27年および選挙権と被選挙権の永久的剥奪などの初審判決を受けた。控訴中の現在、家族以外との面会や連絡は禁止され自宅軟禁下に置かれている。そして、「最後の独立系メディア」といわれるVoice of Democracy(VOD)は同年2月13日、首相の長男フン・マナエトをめぐる報道が問題視されて事業免許を取り消された8

こうした抑圧の一方で、フン・セン首相は反対勢力に対して人民党への入党を繰り返し促し、政治ポストの提供を通じた懐柔を図っている。たとえば、草の根民主党の首相候補で農業専門家のヨーン・サン・コマーは2022年11月に、同党幹事長のサーム・イーンは2023年4月に人民党に移籍し、それぞれ首相補佐特命大臣兼農林水産省長官と環境省長官に任命された。彼らは、キャンドルライト党ら旧救国党の流れをくむ5党に2023年総選挙に向けた同盟結成を呼びかけていた中心人物であり、再び野党勢力が結集することを警戒した人民党が懐柔に動いたと考えられる。また、米国亡命中の政治評論家ソー・ナローや、腐敗・汚職防止に取り組む国際NGOトランスペアレンシー・インターナショナル・カンボジアのプリアプ・コル前代表ら、政権批判を行ってきた市民社会の著名人も人民党に入党し、両者とも2023年5月に首相補佐特命大臣に任命された。

また、抑圧と懐柔を組み合わせた新たなパターンも目立つ。反対勢力を逮捕したうえで、被逮捕者にフン・セン首相への謝罪と人民党入党を請願させ、釈放後に政治ポストを与えるという流れである。たとえば、2023年3月に国王に対する不敬と扇動の容疑で逮捕された旧救国党の著名な若手活動家2人は9、それぞれ労働省副長官と土地管理・国土計画・建設省副長官に就任した。総選挙が近づくにつれ、キャンドルライト党の地方幹部がこうした標的となる例が増えつつある。

写真3 選挙運動開始に際して演説するフン・セン首相

写真3 選挙運動開始に際して演説するフン・セン首相
総選挙からのキャンドルライト党の排除

キャンドルライト党への攻撃の決定打となったのが、提出書類の不備を理由に国家選挙委員会(NEC)が同党の政党・候補者登録を認めず、選挙から排除したことである。選挙に参加するには政党・候補者登録期間中に、NECに必要書類を提出しなければならない。ここで問題となったのは、「政党名簿登録に関する内務省令」(以下、政党登録証)である。選挙法や細則には規定されていないものの、NECは前回2018年総選挙に続き、「公証印つきの政党登録証の写し」の提出を求めた10。この発行には政党登録証の原本との照合が必要だが、キャンドルライト党はそれを保持していなかった。それを保管していた党本部は救国党本部の建物内にあったため、2017年の救国党解党時に建物が差し押さえられ、解体された際に紛失したという11。内務省は政党登録証の再発行には応じず、代替書類として、キャンドルライト党が内務省の政党名簿に登録されていることを示す証明書を発行した。しかしNECは2023年5月15日、この証明書の代用を認めずに同党の登録を拒否し、25日には選挙争訟の最終決定機関である憲法評議会がNECの決定を支持した。両機関とも人民党の強い影響下にあり、同党はキャンドルライト党が当該書類を紛失したことを知ったうえで、2018年総選挙時にこのルールを導入した可能性が高い12

ここで注目すべきは、人民党政権ナンバー2のソー・ケーン副首相が大臣を務める内務省が発行した証明書を、同党が支配するNECが無効とした点である。NECが独断でソー・ケーンの決定に反する行動をとるとは考えにくく13、フン・セン首相の意向が働いた可能性が高い。つまり、ソー・ケーンはキャンドルライト党の参加を認めようとしたが、フン・センはそれを許さなかったのではないだろうか。

その理由として、少なくとも次の2つが考えられる。ひとつは、総選挙に圧勝ないしは完勝することで、首相職の世襲に批判的なソー・ケーンら人民党内の潜在的な反対派を封じ込めるためである。キャンドルライト党の議席予測は上述のとおりだが、万が一、ソー・ケーンらのグループがキャンドルライト党と連携して首相長男への世襲を妨害するようなことがあれば、たとえ世襲が実現したとしてもフン・マナエトの求心力は大きく低下する。あるいは、キャンドルライト党と連携する素振りをみせて、近い将来に予想される世代交代で重要ポストを要求することも考えられる。

もうひとつは、次回2028年総選挙での圧勝に向けて、NECに対する支配を維持するためである。NECは任期5年で、国民議会に議席をもつ与党と野党から4人ずつと、全政党の合意にもとづいて任命される1人の計9人で構成される。今回の総選挙ではキャンドルライト党以外に議席獲得の見込みがある野党がないため、もし同党の選挙参加を認めれば、救国党が躍進した2013年総選挙後と同様、人民党はNECの過半数を割り、選挙過程を思うままにコントロールできなくなる。2028年総選挙はフン・マナエトのもとで行われる可能性が高く、新政権の基盤を強固にするために、フン・センは次回も確実に圧勝できる環境を整えようとしたのだろう。

キャンドルライト党の排除に反発したサム・ランシーら野党指導者が、投票の棄権を海外から呼びかけると、フン・セン首相は投開票日が6週間後に迫った6月12日、選挙法の改正を指示した14。改正点は2つある。第1に、直接選挙で選挙権を行使していることを各種選挙の立候補要件に加えた点である。たとえば、国民議会議員に立候補する場合、直近の連続する直接選挙2回に投票していなければならない。つまり、次回2028年総選挙に立候補するには、今回の総選挙と2027年コミューン評議会選挙で投票する必要がある15。選挙権を行使できなかった適切な理由をNECが認めた場合はこの限りではないが、例外扱いとなる条件は改正法に明記されず、NECが定めることとなった。第2に、違法行為に「投票の棄権や投票用紙の破損(白票を投じたり抗議を意味する×を記入したりして無効票にする)を促すこと」が追加された点である。罰則対象が個人だけでなく政党にも拡大され、罰則の内容に、個人の場合は被選挙権を、政党の場合は選挙参加権をそれぞれ最低5年間剥奪することが加わった。この改正法案は6月23日に国民議会で可決、29日に上院で承認され、7月4日に国王の審署を経て公布・施行された。

選挙法改正のねらいは、投票率を上げるとともに無効票を減らすこと、および、主にサム・ランシーら海外から人民党政権批判を展開する野党指導者を次回の総選挙に参加させないことにあると考えられる。そうなれば、人民党は今回のみならず次回の総選挙でも圧勝でき、安定的な世襲の実現が可能となる。

写真4 首都での人民党の選挙運動

写真4 首都での人民党の選挙運動
限定的な世代交代──人民党候補者の顔ぶれ

このように、今回の選挙には長男への安定的な権力移譲の道筋を整える意味があるとみられるが、今回の候補者名簿16をみる限り、国民議会議員の世代交代は限定的といえる。人民党は2015年臨時党大会以降、党幹部の子弟を中心に若手党員を党指導部に加えて世代交代に向けた準備を進めてきた(山田 2021)。しかし2018年総選挙と同様、今回も依然として正候補の7割以上が60歳以上であるほか、50歳代の正候補が2018年よりも倍増している。一方で、40歳未満の正候補の割合は2018年総選挙の6.4%から0.8%に減少した。

50歳未満の正候補の多くは、カンボジア版「太子党」ともいえる人民党高級幹部の子どもたちである。その数は表に示したとおり筆者が確認できただけでも12人(補欠候補を含む)であり、そのうち6人が今回初出馬となる。また、その他の若手候補者として、司法大臣のカウト・ルット(1979年生まれ、バッドンボーン選挙区第6位正候補)や、上院議員で政商のリー・ヨンパットの娘婿セーン・ニョク(1980年生まれ、コンポンスプー選挙区第4位正候補)、政商トリー・ピアプの息子トリー・ダロッチ(1994年生まれ、カンダール選挙区第9位補欠候補)などが挙げられる。

もっとも重要な点は、2021年12月の党中央委員会総会で「将来の首相候補」に選出されたフン・マナエトの初出馬である。彼の当選は間違いないため、これで国民議会議員という首相になるための要件を満たし、世襲に向けた準備がすべて整うことになる。一方、出馬していない「太子党」の有力者も少なくない。首相以外の閣僚は国民議会議員でなくてもよいため、世代交代がどのような形で具現化されるかは、総選挙後の8月末に予定される組閣人事やそれにともなう内閣以外の国家機関の人事を見極める必要がある17

表 出馬する人民党高級幹部の子どもたち

表 出馬する人民党高級幹部の子どもたち

(注)名前の後の●は初出馬を示す。名簿順位の「正」は正候補、「補」は補欠候補を示す。
(出所)人民党の候補者名簿をもとに筆者作成。
2023年総選挙がもつ意味

人民党圧勝という結果がみえているものの、今回の総選挙はカンボジア政治にとって少なくとも2つの意味をもつ。ひとつは、2018年総選挙で競争的権威主義体制18から「移行」した覇権的権威主義体制の「定着」である。つまり、選挙は行われるものの権力獲得をめぐる競争がまったく意味をなさない状況が常態化したといえる。人民党による野党勢力への抑圧と懐柔もあり、野党共闘が進まないこともその一因となっている。かつて反人民党勢力間の選挙協力を模索した草の根民主党が1議席でも獲得できれば、NECの構成は大きく変わる。しかし同党が自力で議席を獲得できる可能性は低いため、キャンドルライト党の協力が必要となる。ところがキャンドルライト党は、「草の根民主党への投票を呼びかければ支持者が混乱し、利益よりもリスクの方が大きい」として特定の政党の応援はしないという19

もうひとつは、今回の総選挙はとくにフン・セン首相にとって、長男への世襲に対する事実上の信任投票としての意味をもつ点である。フン・マナエトは2028年総選挙までに首相に就任するとみられている。今回の総選挙で人民党の圧勝は間違いないが、もし投票率が低かったり無効票が多かったりすれば、有権者は世襲に必ずしも賛成していないとして人民党内の世襲反対派を勢いづけることになったり、世襲の正当性に傷がついたりする。人民党は有権者に投票に行くことを強要できても、無効票を防ぐ手立てはない。2018年総選挙では救国党解党への抗議から無効票が全体の8.55%(約59万票)に達し、第2党となったフンシンペック党の得票率5.89%(約37万票)を大きく上回った。前回に続き再び最大野党という選択肢を奪われた有権者は、どのような投票行動をとるのだろうか。7月23日の投開票の後、開票の速報結果は翌24日までに発表される予定である。

※この記事の内容および意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。
写真の出典
  • すべて山田裕史撮影
参考文献
著者プロフィール

山田裕史(やまだひろし) 新潟国際情報大学国際学部准教授。博士(地域研究)。専門はカンボジア現代政治。近年の著作に、「人民党政権の対中傾斜とカンボジアの内政動向」北岡伸一編『西太平洋連合のすすめ──日本の「新しい地政学」』東洋経済新報社(2021年)、「カンボジア──シハヌークによる政治権力の独占と王政の成立」粕谷祐子編著『アジアの脱植民地化と体制変動──民主制と独裁の歴史的起源』白水社(2022年)、「カンボジア王国──人民党支配下における汚職取締と体制維持」外山文子・小山田英治編著『東南アジアにおける汚職取締の政治学』晃洋書房(2022年)など。

新谷春乃(しんたにはるの) アジア経済研究所地域研究センター東南アジアⅡ研究グループ研究員。博士(学術)。専門はカンボジア地域研究(現代史・政治)。主な著書に、「若年層に対する人民党の諸戦略──締め付け、取り込み、記憶の政治──」初鹿野直美編『カンボジアの静かな選挙──2018年総選挙とそれに至る道のり──』(情勢分析レポートNo.31)アジア経済研究所(2020年)など。


  1. 首都・州を選挙区とする拘束名簿式の比例代表選挙によって、任期5年の国民議会議員125人が選出される。ただし25選挙区中、8選挙区は定数1議席で事実上の小選挙区制といえる。議席配分方式は、大政党に有利なドント式が採用されている。選挙権は18歳以上、被選挙権は25歳以上である。
  2. サム・ランシー党首ら国民議会議員26人全員が救国党へ移籍する一方で、上院議員と各級の地方評議会議員はそれぞれ任期満了まで議席を維持するためにサム・ランシー党にとどまった。これは上院も各級の地方評議会も拘束名簿式の比例代表選挙を採用していることから、他党への移籍によるサム・ランシー党の議席喪失を回避するためである。
  3. コミューン評議会とは、①首都・州―②市・郡・区―③地区・行政区(2つを合わせてコミューンと呼ぶ)という3層制の地方行政区分の第3層に設置された代表機関である。コミューンの下に位置する村は、憲法上の行政級ではない。2022年コミューン評議会選挙は、人民党が国家選挙委員会(NEC)の過半数を占めたり、国内選挙監視員の9割以上が人民党系の「NGO」で構成されたりするなど、同党が選挙過程をコントロールするなかで行われた(山田 2022)。
  4. 2023年2月11日、シアムリアプ州での筆者(山田)によるソン・チャイ副党首への聞き取り。
  5. コミューン評議会選挙結果に対する批判が名誉棄損にあたるとしてNECと人民党から訴えられ、2022年10月にプノンペン都始審裁判所で有罪判決が出された。控訴および上告したものの、2023年2月に最高裁判所で有罪判決が出された。
  6. 他にも、地方党幹部3人が2021年に起きた文書改ざんの容疑で2023年3月に逮捕されたり、地方レベルのキャンドルライト党関係者への攻撃も報じられたりしている。
  7. 2023年4月21日、プノンペンでの筆者(山田)によるキャンドルライト党常任委員2人からの聞き取り。
  8. 問題となった2月9日付のクメール語のオンライン記事(Pa 2023)は、トルコへの震災支援金10万ドルの拠出を承認する書類に、首相の長男が首相に代わって署名したと報じた。これが事実であれば越権行為となる。この記事は政府報道官の発言をもとに書かれたとされるが、フン・センはこれを自身と長男への攻撃とらえて事業免許の取り消しを命じた。2023年6月末時点でVODのウェブサイトはカンボジア国内で閲覧できなくなっている。
  9. フン・コソルとユム・シノーンは旧救国党党首のクム・ソカーに近い活動家で、キャンドルライト党には加わらずに政権批判を展開していた。
  10. NECのホーン・プティア委員によれば、「公証印つきの政党登録証の写し」の提出が求められるのは国政選挙のみであるため、キャンドルライト党は2022年コミューン評議会選挙に参加できたのだという。2023年6月26日、プノンペンでの筆者(山田)による同委員からの聞き取り。
  11. 2023年4月21日、プノンペンでの筆者(山田)によるキャンドルライト党常任委員2人からの聞き取り。
  12. キャンドルライト党は2018年3月まで上院に9議席を有しており、上院の任期満了を迎えた指導者たちが2018年7月の総選挙に参加する可能性も考えられた。結局、同党は2018年総選挙に参加しなかったため、今回の総選挙で初めて「政党登録証の原本」の問題に直面した。
  13. とりわけNECのプラーチ・チャン委員長は1991年から内務官僚としてソー・ケーン副首相兼内務大臣のもとで要職を歴任し、ソー・ケーンが管轄するバッドンボーン州の知事を2001~13年の長期にわたって務めた。委員長のこうした経歴からも、NECが独断でソー・ケーンの意向に反する行動をとる可能性は低い。
  14. 法改正の対象となる選挙は、直接選挙の国民議会議員選挙とコミューン評議会選挙、間接選挙の上院議員選挙と首都・州・市・郡・地区評議会選挙である。
  15. 上院議員選挙も国民議会議員選挙と同様、直近の連続する直接選挙2回に投票していなければ立候補できない。一方、地方選挙である首都・州・市・郡・地区評議会選挙とコミューン評議会選挙では、直近の直接選挙で投票していることが立候補要件となった。
  16. 人民党の候補者は、正候補125人と補欠候補149人の計274人である。
  17. チア・チャントー国立銀行総裁がコンポントム選挙区第1位正候補として出馬していることから、総選挙後に娘のチア・セライ同副総裁に総裁職を譲るとみられる。憲法第79条の規定により、国立銀行総裁の職は国民議会議員の職と両立できないためである。
  18. 競争的選挙が行われてはいるものの、競争の場が現職に有利に設定され公正ではない体制を指す(Levitsky and Way 2010)。カンボジアは複数政党制による制憲議会選挙が実施された1993年以来、競争的権威主義体制に分類されてきた。
  19. 2023年6月27日、プノンペンでの筆者(山田)によるキャンドルライト党常任委員への聞き取り。
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