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(2022年中国共産党第20回党大会)第4回 習近平政権の経済政策——産業政策、米中対立と今後の展望

Economic Policy of Xi Jinping Administration: Industrial Policy, US-China Conflict and Future Outlook

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00053563

2023年1月

(7,290字)

産業政策の視点から経済政策を読み解く

2022年10月に中国共産党第20回党大会が開催され、習近平指導部の第三期目が正式に発足した。以下で詳述するように、習近平政権のこれまでの経済政策には、産業政策を通じて経済構造の高度化を図る、という論理が貫徹していた。中国製造2025や一帯一路、米中対立、双循環戦略など、一連の象徴的な政策やできごとは、いずれもこの枠組みにおいて理解できる。同様に、第20回党大会以降の経済政策を読み解くうえでも、産業政策の視点が欠かせない。

こうした問題意識から、本稿では習近平政権の経済政策を主に3つの面から論じる。まず中国政府がこれまでとってきた産業政策を簡単に整理する。つづいて、2010年代の時代背景のなかで、一連の産業政策が米中対立にどのような影響を与えたかを分析する。最後に、第20回党大会報告の内容を踏まえながら、中国における経済政策の方向性を展望する。 

なお、中国の経済政策には、多数のアクターが関与している。ここでは、重要な意思決定に対する個別政治家や組織の役割を区別せず、「習近平政権」「習近平指導部」もしくは「中国政府」を主語として用いながら、経済政策に関する検討を行う。

産業政策の本格化と一帯一路の発足

図1 中国における経済成長率と一人当たりGDPの推移

図1 中国における経済成長率と一人当たりGDPの推移

(出所)世界銀行のデータをもとに筆者作成

2010年代以降、中国経済は次第に減速し、高度成長に終わりを告げた(図1)。2012年に発足した習近平指導部にとっては、経済の構造転換を図り、低賃金労働力にとってかわる新たな原動力を創出することが最大の課題となった。こうした背景のなかで、中国政府は、2015年に①「中国製造2025」、②「インターネット+」、③「大衆創業、万衆創新」、という3つの産業政策を一気に発表した1。①は情報産業との結合を通じて、製造業の全面的な構造転換と高度化を推進すること、②はインターネットという新興技術を活用することによって、伝統産業の高度化を達成すること、③は中国全土において起業家精神を喚起し、草の根レベルの起業とイノベーションを奨励することを目的としていた。2016年には、それまでに発表した一連の産業政策を「創新駆動発展戦略」として集約し、イノベーションを正式に経済発展の原動力として位置付けた。中国政府はその後も、人工知能、スマート太陽光発電、クラウドコンピューティング、産業用モノのインターネットなど、特定産業の育成を目標とする3年アクションプランを次々と発表していった。

こうした取り組みが大きく奏功し、中国は2010年代に世界屈指のイノベーション大国へと変貌を遂げた。起業とイノベーションの水準を象徴するユニコーン企業の数と規模のいずれにおいても、中国はアメリカと肩を並べる存在になった。次世代の通信技術である5Gや電気自動車(EV)用電池など、中国がアメリカを凌ぐ先端分野も少数ながら出はじめた。

2013年に発表された「一帯一路イニシアティブ」(以下、「一帯一路」)も、広い意味の産業政策として捉えることができる。中国企業は2000年代の高度成長を経て大規模な過剰生産能力を抱えることとなり、海外との貿易や直接投資を拡大する必要性が高まった。こうした背景から打ち出された「一帯一路」は、中国と沿線国との間でインフラ整備から貿易、直接投資の拡大を含む経済連携を深化させることを狙った戦略である。なお、「一帯」とは陸のシルクロード、「一路」とは21世紀海のシルクロードを指している。中国はいまや140以上の国と協力文書を調印し、「一帯一路」の地理的範囲は初期のアジアとヨーロッパ諸国からアフリカやラテンアメリカにまで広がっている。そして、連携対象国の圧倒的多数は、発展途上国となっている。

「一帯一路」は多くの批判を浴びているが、一定の実績を挙げていたことは事実である2。中国と沿線国との間の貿易額は2013年の6.5兆元から2021年には11.6兆元にまで増加し、年平均伸び率は中国の対外貿易全体の伸び率を上回る7.5%となった。インフラ整備では、中国企業は交通、電力分野のプロジェクトを中心に、累積額で1.1兆ドルを受注した。代表的なインフラプロジェクトである中国とヨーロッパの主要都市をつなぐ中欧鉄道では、 2016年から2021年までの間に、自動車部品や化学品の輸送を中心に、年走行列車数が1702から1万5183へ増加した。なお、沿線国に対する中国の直接投資残高は1613億ドルに止まっており、その多くは米中貿易戦争後に中国から移転したものと推察される。

起業とイノベーションブームで盛り上がる深圳

起業とイノベーションブームで盛り上がる深圳
米中対立の勃発と双循環戦略の提起

このように、安定成長期に入った中国は、国内では産業構造の高度化を図るとともに、対外的には、まだ限定的とはいえ直接投資を増やし産業の海外移転を進めてきた。こうした発展経路は、日本をはじめとするかつての東アジア諸国・地域とさほど異なるものではない。しかし、以下3つの面において、中国が置かれた状況はそれらとは異なっていた。このことは、中国政府がとった強力な産業政策と相まって、超大国であるアメリカとの激しい対立を招く羽目になった。

第一に、習近平政権の最初の10年間は、経済のグローバル化の絶頂期であった。膨大な労働力と比較的整備された産業基盤を抱える中国は、2010年代にグローバルバリューチェーン(GVC)の供給センターへと成長を遂げ、生産面において一極集中といってよいほど、各国との相互依存関係を深めた。

しかし、GVCにおける中国の地位の向上は、多国籍企業の対中投資により実現した部分が大きかった。中国の産業経済の専門家である劉志彪の表現を借りれば、技術も市場も大きく外資に依存するグローバリゼーションは、あくまで「アウェー」のものに過ぎなかった。中国政府は、これを中国企業が主導権を掌握する「ホーム」でのグローバリゼーションへ変化させようとした。そのため、中国政府は、市場アクセスや補助金の支給、知財の保護等の面において、時にはローカル企業を優遇する産業政策をとり、アメリカなど欧米諸国から大きな不満を買うことになった。中国米国商会のアンケートの結果をみると、2010年代後半に、こうした状況は徐々に改善傾向を見せつつあったが、中国の貿易慣行が非市場的、非中立的であり、WTOルールに違反しているといったアメリカ政府の非難はむしろ高まる一方だった。

一方、先進諸国にしてみれば、GVCを支配する主体が多国籍企業であったとはいえ、重要物資の生産の大部分が中国に集中することは、相互依存の武器化を招きかねないという懸念があった。そのため、米中対立が激化してから、欧米諸国にとっては、いかに生産の中国への依存を軽減させるかが重要課題となった。もっとも中国は、先進諸国にとって代替不可能な独自技術をほとんど有しておらず、他国に圧力をかけるうえでは市場アクセスに頼るほかはないのが実情である。この点において中国は、半導体のサプライチェーンや国際銀行間通信協会(SWIFT)の金融網など、グローバル経済ネットワークのチョークポイントをしっかり握っているアメリカとは決定的に異なっている。

第二に、習近平政権が発足した時期と重なって、第4次産業革命という「機会の窓」が開いていた。新興のデジタル産業では、先進国も途上国も同様に技術やノウハウの蓄積が浅いため、中国企業にもいわゆる「リープフロッグ」を実現するチャンスが巡ってきた。そこで、中国政府は産業政策の重点を新興産業の育成に置き、巨額な補助金に加えて、政府引導基金と呼ばれる投資ファンドを利用した。その結果、中国企業はインターネットや人工知能、5Gなど、一部の産業において一気に世界の最先端に躍り出た。このことは、科学技術とイノベーションを覇権の拠り所にしているアメリカから強く警戒され、技術デカップリングの直接的な誘因となった。

なお、この時期の新産業創出の主たる担い手はほからならぬ民間企業であった。アリババやテンセントに代表されるデジタルプラットフォーマーに加えて、EVメーカーの比亜迪(BYD)やEV用電池世界最大手の寧徳時代(CATL)、5G開発で世界をリードする華為(Huawei)などは、いずれも典型的な創業者企業である。しかし、これらの企業のうち、とくにデジタルプラットフォーマーは、強いネットワーク効果を享受することによって、短期間にデジタルエコノミーに関連するほとんどの分野で独占に近い地位を築いてしまった。このことは、関連分野での新規創業を阻害しただけでなく、雇用のインフォーマル化をも招くこととなった。そこで中国政府は、2021年に「資本の無秩序な拡張の防止」という名目でデジタルプラットフォーマーをはじめとする大手民間企業に対して厳しい規制を加えた3

第三に、日本やアジアNIEsとは異なり、中国と先進国の間では価値観の違いが非常に大きかった。前述した「一帯一路」戦略では、沿線国において大規模なインフラプロジェクトが展開されている。しかし、先進諸国、とくにアメリカにとっては、価値観を共有できない中国によって国際公共財が提供されることには大きな違和感があった。また先進国の基準に照らすと、「一帯一路」のプロジェクトには、透明性が低く、債務の罠を生じさせているといった非難が集まるのもやむを得ない部分があった。ただ、「一帯一路」の本質が途上国同士のグローバリゼーションという状況に鑑みると、これまで批判されてきた諸問題は、単に中国や受入国のプロジェクト運営に対するガバナンス能力の未熟さを表しているに過ぎない、という見方もできる。

以上3つの要因以外に、さらにコロナ危機が加わり、中国と先進諸国の関係は一層悪化した。そこで中国政府は、2020年に経済発展の重点を国内市場にシフトさせる「双循環戦略」を発表した。これは、中国が1980年代に発表した「国際大循環戦略」にとってかわるものである。2020年7月の政治局会議において、中国政府は「当面の経済情勢は依然として厳しく、不安定性や不確実性が大きい。……国内大循環を主体としつつ、国内と国際の双循環が相互に促進しあう新しい成長パターンの構築を加速するべきだ」と指摘し、同戦略を始動させた。双循環戦略は、短期的には、国内市場を活用することで生産や研究開発の面で生じる世界との分断のリスクを軽減するところに狙いがあった。ただ、長期的にみれば、それは中国市場をベースに経済のグローバル化の再構築を図るものであり、中国政府が2010年代以降とってきた経済政策の集大成と位置付けられる4

第20回党大会以降の見通し5

第三期目の習近平政権にとっては、先進国への仲間入りを果たすことが経済面での最大の目標となるだろう。中国の一人当たりGDPは2019年に1万ドルの大台に乗った(図1)。第20回党大会報告は、2035年に一人当たりGDPを中等先進国の水準に到達させるとの目標を明記した。中等先進国に関して明確な定義があるわけではないが、一般的には少なくとも2万ドルに達する必要があると言われている。しかし、多くの国の経済発展が1万ドル前後で停滞するという、いわゆる中所得の罠に陥っている事実を考えると、2万ドルに向けた道は決して平坦なものになるとは思えない。

では、中国政府は、経済構造の高度化を成し遂げ、中所得の罠に陥らいないようにするために、どのように対処していくだろうか。通常、1万ドル以降の発展段階では、経済成長に対する技術進歩の寄与度が一層高まる。その一方で、アメリカによる厳しい輸出規制の結果、海外から先端技術を調達するハードルはきわめて高くなった。このため、中国政府は、産業政策の重点を「関鍵核心」(キー・コア)技術の独自開発、またこれを支えるナショナルイノベーションシステムの強化にシフトさせるよりほかはなかった。現に、今回の党大会報告が「イノベーション(創新)」「技術」「科学」「科技」という4つのキーワードに言及した回数は133回に上っており、第19回党大会の103回から急増した6

イノベーションシステムの構築に際しては、中国政府は政府の介入と民間の活力を引き出すことの間でバランスを探っているようにみえる。イノベーションシステムの上流、すなわち基礎研究や基盤技術の領域では、巨額資金の投入を必要とするうえに研究開発で成果を生み出すことの不確実性が高いため、民間企業は参入を躊躇することが多い。よって、中国のみならず、世界的に政府が介入を強化している。中国に関しては、米中対立の勃発後には「新型挙国体制」(市場の原理を尊重しながら、国を挙げて重要課題の研究開発に取り組む体制)の重要性がことさら強調され、国有企業が「オリジナル技術の震源地」として位置付けられるようになった。米ブルッキングス研究所の集計によれば、第20回党大会で中央委員会入りした205名の高級幹部のうち、4割程度にあたる81名が宇宙開発など科学技術畑での勤務経験を有している7。彼らは国家主導での基礎研究や技術開発の進め方を熟知している。

一方、イノベーションシステムの下流では、ハードな予算制約を受け、激しい競争にさらされる民間企業のほうがオリジナル技術を商業化させるポテンシャルを持っている。中国政府もこの点を認識したためか、これまでの再三にわたる「資本の無秩序な拡張」への警告とは対照的に、今回の党大会報告では「法に基づき資本の健全なる発展を規範化し、誘導する」という控えめの表現を用いるに止めた。

経済発展をめぐる内と外の関係についてみると、中国は今後も国内大循環のウェイトを高め続けるだろう。そもそも、経済大国は基本的に国内市場を中心に経済成長を遂げてきたという事実に留意する必要がある。例えば、アメリカや日本の輸出依存度は、長年にわたって20%以下の低水準で推移している。中国の輸出依存度は2016年にようやく20%を切ったが、いまだ日米より高水準にある。一方で、中国経済のさらなる発展のためには、内循環を一層、発達させることが必要である。例えば、コロナ対策として陽性患者を追跡するために開発された健康コードという携帯電話アプリは、省ごとに20種類以上のバージョンが出回っており、かつ相互に認められていない。類似した状況は経済運営の様々な分野で起きており、国内でのヒトや情報のスムーズな移動を著しく制限している。このため、中国政府は2022年4月に、「全国統一大市場」(統合された巨大国内市場)の建設を加速する政策を発表し、第20回党大会でもこの点を強調した。

高度な国内市場の形成にとって、格差問題の解決も必要不可欠である。習近平指導部は、これまで農村部における絶対的貧困の撲滅に取り組み、2021年に「小康社会」(ややゆとりのある生活を維持できる社会)の達成を宣言した。しかし、社会全体でみると、格差の問題は依然として深刻である。トマ・ピケティとZhexun Moの最新の研究によれば、中国の上位0.001%の人々によって所有される財産は2010年代を通じて上昇傾向にあり、2021年には10%にまで高まったのに対し、下位50%の人々によって所有される財産は、わずか6%に止まる8。こうした状況を強く問題視した中国政府は、2021年に大手民間企業に対する規制を強化するとともに、「共同富裕」(格差の縮小と豊かな社会づくり)を政策目標の重点に据えた。習近平政権の第三期目においても、不動産税の導入をはじめとして共同富裕政策は強化されていくだろう。

欧米諸国は、中国の双循環戦略の背後には、他国への経済依存を軽減させる意図があるとみている。ただ、国内大循環に重点を置いた中国経済が鎖国状態に陥ることは考えにくい。イノベーション一つをとっても、独自技術の開発が進めば進むほど、世界との技術交流の活発化の必要性は高まっていくであろう。この点は、昨年秋に筆者が参加したある半導体フォーラムにおける議論からも裏付けられる。ここで、ある専門家は、アメリカの輸出管理に対処するために中国は垂直統合された半導体メーカー(IDM)を育成していくと思われるが、IDMが育てば育つほど、中国の半導体産業と世界のリンケージはむしろ緊密化していくだろうと展望していた。

繰り返しになるが、米中対立の渦中にある中国が双循環戦略を打ち出した真の意図は、巨大な国内市場のポテンシャルを最大限に発揮しながら、技術も市場も自らしっかりコントロールできる「ホーム」でのグローバリゼーションを推進することにある。したがって、今後中国は「一帯一路」に関しても、ガバナンス能力の向上を図りつつ、途上国を中心にインフラ整備を進めるとともに、中国企業の海外進出や生産移転を加速していくだろう。

※この記事の内容および意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。
写真の出典
  • 厳聖禾氏提供
参考文献
  • 丁可2022a「中国の双循環戦略──分断される世界への対応」川島真編『習近平政権の国内統治と世界戦略』勁草書房
  • 丁可2022b「客観看待二十大後中国経済」『聯合早報』11月22日
  • 丁可2023a「米中ハイテク摩擦と中国における産業政策の変容──自主創新から新型挙国体制へ──」丁可編『米中経済対立 国際分業体制の再編と東アジアの対応』アジア経済研究所、ウェブ双書(近刊)
  • 丁可2023b「『資本の無秩序な拡張』の防止:共同富裕と双循環のための民間企業規制」経団連21世紀政策研究所報告書収録(近刊)
著者プロフィール

丁可(ていか) アジア経済研究所開発研究センター企業・産業研究グループ主任研究員。博士(経済学)。専門は中国経済、グローバルバリューチェーン、イノベーションシステム、産業集積。おもな著作に、Market Platforms, Industrial Clusters and Small Business Dynamics: Specialized Markets in China. Cheltenham and Northampton: Edward Elgar (2012)、『米中経済対立 国際分業体制の再編と東アジアの対応』(編著)アジア経済研究所、ウェブ双書(2023年、近刊)など。


  1. 2010年代以降、中国政府が実施した産業政策の詳細については、丁(2023a)を参照されたい。
  2. 高质量共建“一带一路”成绩斐然」『人民日報』2022年1月25日(2022年12月1日アクセス)。
  3. デジタルプラットフォーマーなど大手民間企業を対象にとった締め付け策の詳細については、丁(2023b)を参照されたい。
  4. 双循環戦略の詳細については、丁(2022a)を参照されたい。
  5. この部分は、丁(2022b)を大幅に加筆したものである。
  6. 二大会の報告とも、文字数は3万2500字程度なので、キーワードの使用頻度を直接、比較することが可能である。
  7. Karen Hao「中美竞争之下、习近平提拔大批科技专业人士进入中共领导层」『华尔街日报(Wall Street Journal)』2022年11月21日(2022年12月1日アクセス)。
  8. ピケティ氏の2022年11月23日のツイッターによる。
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