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世界を見る眼

世界各国の輸入における中国依存度

Dependence on Imports from China in the World

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00053702

2023年5月

(3,728字)

脱中国依存

近年、「脱中国依存」という言葉を聞く機会が増えている。ただし、これには多国籍企業の生産地としての中国依存の低下と、各国の中国からの輸入シェアの低下の2つの意味があり、あまり区別されずに使われているように見える。アップル製品の生産地のベトナムやインドへの移転は前者に該当し、先進国が進めているレアアースなどの調達先の分散は後者に該当する。本稿では、とくに後者の意味での脱中国依存を考えるために、中国からの輸入依存度について分析を行う。Hayakawa(2023)は、日本について、中国からASEANへの輸入転換が起こっているのは2010年代前半では中国依存度が高い品目であり、2010年代後半では労働集約的な品目であることを示した。これに対して本稿では、直近の2022年を対象とし、日本だけでなく世界各国の輸入における中国依存度を分析する。

世界中に輸出される中国製品

世界中に輸出される中国製品
中国依存度の現状

まず、2022年について、世界69カ国の中国からの輸入シェアを品目レベルで計算する。品目は、HSコード2017年版の6桁レベルの分類を用いる。各国の中国および世界からの輸入額データをGlobal Trade Atlasから入手し、世界からの輸入額に占める中国からの輸入額シェアを計算する1

表1は、中国からの輸入シェアについて、国別の特徴を示している。全品目における平均値に加え、10、25、50、75、90のパーセンタイル値が報告されている。表には、50パーセンタイル値(中位数)で評価した際の、トップ30カ国が掲載されている。トップはベトナムであり、インドネシア、タイ、韓国、マレーシア、日本、フィリピンと続いている。すなわち、東アジア、東南アジアの国々が、世界のなかでも中国依存度が相対的に高い。これらの国は、0.2〜0.3の中位数を持っており、全品目の半数について中国依存度が20〜30%以上であることが分かる。さらに75パーセンタイル値が0.5を超えていることから、全体の25%の品目は、中国からの輸入シェアが50%を超えていることが分かる。同様に、全体の10%の品目では、中国からの輸入シェアは80%以上となっている。一方、アメリカ、イギリス、ドイツは69カ国中20位台後半に位置する。中位数は0.1以下であり、75パーセンタイル値も0.25以下、90パーセンタイル値でさえ0.5程度であり、これは、中国からの輸入シェアが50%を超える品目は10%程度に過ぎないことを意味する。欧米の国々は、東アジア、東南アジアの国々に比べれば、中国依存度は低い。

表1 中国からの輸入シェアに関する国別記述統計(中位数トップ30カ国)

表1 中国からの輸入シェアに関する国別記述統計(中位数トップ30カ国)

(注)2022年について、世界からの輸入額に占める、中国からの
輸入額シェアを、HS6桁レベルで計算している。

続いて表2では、中国依存度を産業別に集計している。産業はHSコードの「部(Section)」レベルで定義されている。中位数でみると、「その他」を除くと、「履物、帽子、傘、杖等」が最も高く、「機械類及び電気機器」「陶磁製品並びにガラス製品」「光学機器、精密機器」が続く。とくに「履物、帽子、傘、杖等」では、75パーセンタイルが0.7と大きい。これは、この産業に属する商品の25%は中国からの輸入依存度が70%を超えていることを意味する。一方、「機械類及び電気機器」と「光学機器、精密機器」では、75パーセンタイルは0.4以下である。

表2 中国からの輸入シェアに関する産業別記述統計

表2 中国からの輸入シェアに関する産業別記述統計

(注)2022年について、世界からの輸入額に占める、中国からの
輸入額シェアを、HS6桁レベルで計算している。

表3では、日本を対象に、中国からの輸入シェアについて産業別に集計したものである。中位数でみると、世界全体と同様に、「履物、帽子、傘、杖等」が最も高く、「紡織用繊維及びその製品」「陶磁製品並びにガラス製品」「機械類及び電気機器」が続く。中位数では必ずしもすべての産業で高い依存度を示しているわけではないが、90パーセンタイルを見ると、ほとんどの産業で0.8前後を示している。つまり、ほとんどの産業で、少なくとも10%の品目で80%以上という非常に高い中国依存が見られる。

表3 日本における中国からの輸入シェアに関する産業別記述統計

表3 日本における中国からの輸入シェアに関する産業別記述統計

(注)2022年について、世界からの輸入額に占める、中国からの
輸入額シェアを、HS6桁レベルで計算している。
中国依存度と国・製品特性

次に、中国依存度が高いのはどういう国や製品なのかを明らかにする。そのため、前節で計算した中国依存度を被説明変数とした回帰分析を行う。2022年を対象とし、分析に必要なすべての変数が利用可能な61カ国における、HS6桁レベルの中国依存度に関する分析である。中国依存度は0から1の間を取る変数のため、Fractional logitモデルとして推定を行う。

説明変数には、以下の10個の変数を用いる。国の特性を示す説明変数は次の7つである。「RTAダミー」は、2022年1月時点で中国と地域貿易協定(RTA)を結んでいれば1を取るダミー変数であり、WTOのウェブサイトから情報を入手している。「政治的選好類似性」は2021年国連総会の投票において、中国の投票内容との類似性を示す指標であり、高いほど、中国と政治的選好が類似していることを示す。データはVoeten et al.(2009)の最新バージョンから入手している。「政治体制」は高いほど民主主義的、低いほど権威主義的体制であることを示す指数であり、Integrated Network for Societal Conflict Researchから入手している。その他の国特性として、中国までの地理的距離を示す「中国までの距離(対数値)」および、少なくとも9%以上の人口が中国語を話す国であれば1を取るダミーである「言語ダミー」をCEPIIのウェブサイトから入手している 。World Development Indicatorsより、「GDP(対数値)」と「一人当たりGDP(対数値)」を入手している。

製品特性としては次の3つの説明変数を用いている。2021年時点における「自国および中国の顕示比較優位(RCA)指数」が高いほど、相対的に自国または中国の輸出競争力が高いことを示す。「差別化財ダミー」は、差別化された製品2であれば1を取るダミー変数で、Rauch(1999)より入手している。また、これらとは別に、産業の固定効果をコントロールしている。

推定結果は表4の列(I)に示されている。自国のRCA指数以外は統計的に有意な係数を持つ。これらの係数から分かるのは、中国依存度が高いのは、中国とRTAを結んでいる国、政治的選好が類似している国、権威主義的な国、中国の輸出競争力が高い製品、差別化された製品、中国までの地理的距離が遠い国、中国語を話す人口が多い国、経済規模の大きい国、経済発展度の低い国である。列(II)では、製品の性質に関する変数を使わず、代わりにHS6桁レベルの固定効果を入れながら最小二乗法(OLS)で推定しているが、結果は列(I)と質的に変わらない。列(III)では、国の性質に関する変数を使わず、代わりに国の固定効果を入れながら推定しているが、結果は同様である。つまり、上記の結果は統計的に頑健であるといえる。

ただし、二つの注意点がある。第一に、地理的距離に関する係数は、RTAダミーの有無によって正負が逆転する点である。中国のRTAパートナーの大部分が近隣諸国であるため、中国からの距離とRTAダミーは相関が高い。そのため、RTAダミーをモデルから外すと、距離の係数は負に有意に推定され、中国までの地理的距離が近い国ほど、中国依存度が高いことを示す。第二に、これらの結果は相関関係を示しているだけであり、因果関係を示していない点である。例えば、中国とRTAを結んだから依存度が高くなったのか、中国依存度が高いため中国をRTAパートナーに選んだのかを、今回の推計では区別することができない。

表4 推定結果

表4 推定結果

(注)***、**、*は統計的に1%、5%、10%有意であることを示す。カッコ内は頑健的
標準誤差を示す。FracはFractional logit、OLSは最小二乗法による推定を示す。

最後に表5では、日本を対象に、中国依存度の実現値と、表4の列(I)で推定されたモデルから計算される理論値の差を計算し、その集計値を産業別に示した。数字が大きいほど、理論的に考えられる水準よりも実際の中国依存度が高いことを意味する。中位数を見ると、「紡織用繊維及びその製品」「履物、帽子、傘、杖等」「陶磁製品並びにガラス製品」における値が大きく、これらの産業では中国依存度を下げる余地が大きい品目が多い可能性がある。最大値を見ると、0.90以上の産業も多く、どの産業においても過度に中国依存度の高い品目が存在していることが分かる。

表5 日本における実現値と理論値の乖離幅に関する記述統計

表5 日本における実現値と理論値の乖離幅に関する記述統計

(注)表4の列(I)の推定モデルに基づき、実現値と理論値の差の集計値を産業別に示している。
まとめ

本稿では、世界各国の輸入の中国依存度について分析した。ここで分かったことは以下のように整理できる。まず、東アジア、東南アジアの国々が、世界のなかでも相対的に中国依存度が高いこと、これらの国では全体の25%の品目で中国からの輸入シェアが50%以上となっていることを示した。また世界全体と同様に、我が国では「履物、帽子、傘、杖等」における中国依存度が高い。次に、中国依存度が高い国は、中国とRTAを結んでいる、中国と政治的選好が類似している、権威主義的である、中国語を話す人口が多い、経済規模が大きい、もしくは経済発展度が低い傾向にある。また、中国の輸出競争力が高い製品、差別化された製品で中国依存度が高い。最後に、我が国においては、「紡織用繊維及びその製品」「履物、帽子、傘、杖等」「陶磁製品並びにガラス製品」などの産業では実際の中国依存度が予測値を上回っており、中国依存度を下げる余地が大きい品目が多い可能性があることが分かった。

※この記事の内容および意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。
写真の出典
参考文献
  • Hayakawa, K. (2023) “Japan’s Dependence on China in Supply Chains: Diversion of Imports from China to ASEAN Countries,” Discussion Paper No.897, IDE-JETRO.
  • Rauch, J.E. (1999) “Networks versus Markets in International Trade,” Journal of International Economics, 48(1), 7-35.
  • Voeten, E., A. Strezhnev, and M. Bailey (2009) “United Nations General Assembly Voting Data,” Harvard Dataverse, V29.
著者プロフィール

早川和伸(はやかわかずのぶ) アジア経済研究所バンコク研究センター主任研究員。博士(経済学)。専門は国際貿易、アジア経済。主な業績として、“What Goes Around Comes Around: Export-Enhancing Effects of Import-Tariff Reductions,” Journal of International Economics, 126 (2020, Ishikawa, J., Tarui, N.との共著)、“Impact of Free Trade Agreement Use on Import Prices,” World Bank Economic Review, 33(3) (2019, Laksanapanyakul, N., Mukunoki, H., Urata, S.との共著)などが挙げられる。


  1. ある品目を世界から全く輸入していない場合、このシェアの分母はゼロになるが、この場合、シェア自体をゼロと見なす。
  2. 差別化された商品とは、例えば自動車のように、メーカーや色、車種など商品の性質によって同種の他の商品と区別されるような商品をさす。
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