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2023年インドネシアの十大ニュース

Indonesia’s Top 10 News of 2023

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/0002000860

アジ研・インドネシアグループ
Indonesia Study Group, IDE

2024年2月

(9,267字)

アジア経済研究所では、インドネシアを研究対象とする研究者が毎週集まって「先週何が起きたか」を現地新聞・雑誌などの報道に基づいて議論する「インドネシア最新情報交換会」を1994年から続けています。毎年末には、その年のニュースを振り返って、私たち独自の「十大ニュース」を考えています。

今年も、アジ研・インドネシアグループの考える「2023年インドネシアの十大ニュース」を発表します。

1位 2024年大統領選の候補者決定をめぐって激しい駆け引きが展開される

2023年を通して、2024年2月の大統領選挙でどの政党が誰を候補者として擁立するのかをめぐり激しい駆け引きが行われた。この駆け引きにおいて鍵となったのは、現職大統領のジョコ・ウィドド(通称、ジョコウィ)が誰を実質的に支持するかという点であった。ジョコウィは任期末が近づいた2023年内でも70%台という高い支持率を維持しており、その人気を取り込めた候補者が選挙戦を有利に進められるからである。当初ジョコウィは、同じ闘争民主党に所属し、地方首長で実績を積んだという点で自らと似た経歴をもつ中ジャワ州知事のガンジャル・プラノウォを支持するとみられていた。

しかし3月になると、インドネシアで開催予定のサッカー20歳以下(U20)男子ワールドカップ大会に国交を持たないイスラエル代表の参加を認めるかどうかという問題をめぐって両者の間に亀裂が走る。ジョコウィが政治とスポーツは別で問題ないとしたのに対し、闘争民主党がイスラエル代表の入国に反対する姿勢を示し、ガンジャルも党の方針に従って開催地の州知事として入国を拒否するとの声明を出したのである。こうした情勢をうけてインドネシアでの大会開催は取りやめとなったが、これを機に、ジョコウィはガンジャルではなく、グリンドラ党のプラボウォ・スビアント国防相を支持する方向に傾いていった。8月には、ガンジャル擁立に動くとみられていたゴルカル党と国民信託党もプラボウォ陣営に加わった。

そのプラボウォの副大統領候補として浮上したのがジョコウィの長男であるギブラン・ラカブミン・ラカである。36歳のギブランは大統領選の立候補要件(40歳以上)を満たしていなかったが、10月16日の憲法裁判決(2位の項参照)により出馬が可能となった。これをうけ、プラボウォ陣営はギブランの副大統領候補擁立を決定、ジョコウィの実質的な後押しを受けたプラボウォ=ギブランのペアが誕生した。

これに対して、ナスデム党、民主主義者党、福祉正義党は、反ジョコウィ路線を掲げたアニス・バスウェダン前ジャカルタ州知事の擁立を3月に発表した。しかし、9月にアニスが、プラボウォ陣営にいた民族覚醒党のムハイミン・イスカンダル党首を副大統領候補に選ぶと、アグス・ハリムルティ・ユドヨノ党首を副大統領候補に推していた民主主義者党はアニス陣営を離脱し、プラボウォ陣営に加わった。

一方、ジョコウィと袂を分かったガンジャルは、闘争民主党が4月に大統領候補としての擁立を決定していた。この発表をうけ、2022年にゴルカル党、国民信託党とともに連立を組むことを決定していた開発統一党は、前回大統領選にプラボウォと組んで出馬したサンディアガ・ウノ観光・創造経済相を副大統領候補として推すべく、2党との連立を解消してガンジャル陣営に合流した。しかし、ガンジャルは10月に副大統領候補としてマフッド政治・治安・法務担当調整相を選び、選挙戦に臨むことになった。

10月にこの3組が総選挙委員会に立候補を届け出て、2009年以来となる三つ巴の選挙戦が11月から始まった。(水野祐地

写真1 総選挙委員会での立候補者番号抽選会に参加した3組の正副大統領候補

写真1 総選挙委員会での立候補者番号抽選会に参加した3組の正副大統領候補
(1番がアニス=ムハイミン組、2番がプラボウォ=ギブラン組、3番がガンジャル=マフッド組)
2位 大統領立候補要件に関する違憲判決と憲法裁長官の解任

10月16日、憲法裁判所は、総選挙法第169条q号に関する法令審査請求に対して、「40歳以上」となっている大統領選挙の立候補要件を違憲と判断、「地方首長を含む選挙で選ばれた公職経験者を例外とする」との解釈を示した。ただし、判事9人のうち4人が違憲判決に対して反対意見を表明し、違憲とすることに賛成した5人の判事のなかでも例外条件を「州知事経験者のみ」にすべきとの意見だった判事が2人いるなど、憲法裁のなかでも意見が大きく割れた。

この裁判の原告は、36歳でソロ市長を務めるジョコウィの長男、ギブランを支援する政党や支持者だった。このことから、40歳未満のギブランが大統領選に立候補できるよう法令審査が請求されたことは明らかであった。彼らの企図どおりとなった判決に対しては、ジョコウィ大統領の親族による権力継承を可能にさせるための恣意的な判断だと学界や市民社会組織から強い批判があがった。さらに、憲法裁副長官のサルディ・イスラが「きわめて異常な出来事だ」と直後にコメントするなど、これまでの憲法裁の判例に照らし合わせて一貫性がない点や、規定に沿わない形で法令審査の手続きが進められた点などを問題視する声が判事からも出された。

とくに問題視されたのは、ジョコウィの妹婿であるアンワル・ウスマン憲法裁長官が、利益相反にあたる事案だったにもかかわらず法令審査に参加していた点や、当該条項に対して違憲判断を下すような言動を判決前にとっていた点であった。アンワル長官は、こうした点が倫理規定違反にあたると法学者や市民社会組織から告発を受け、ジムリ・アシディキ元憲法裁長官を議長とする憲法裁名誉評議会が設置された。11月7日、告発を審査していた名誉評議会はアンワルに重大な倫理規定違反があったことを認め、長官からの罷免を決定した。しかし、問題とされた違憲判決が覆ることはなく、ギブランはプラボウォの副大統領候補として大統領選に立候補することになった(1位の項を参照)。(川村晃一

3位 大型汚職事件の摘発が続く一方、汚職撲滅委員会委員長が解任される

2023年には現職の大臣が2人、副大臣が1人、現職の州知事が2人逮捕されるなど、大型汚職事件の摘発が続いた。2014年からのジョコウィ政権下で逮捕された閣僚はこれで6人となった。

5月に最高検察庁によって逮捕されたのが、ジョニー・プラテ通信・情報相である。携帯電話4G無線基地局の建設などをめぐる汚職容疑で起訴されたジョニーに対しては、11月の一審で禁錮15年の実刑判決が下されている。

次に逮捕された現職閣僚が、シャフルル・ヤシン・リンポ農業相である。シャフルルは収賄や資金洗浄の容疑で10月に汚職撲滅委員会(KPK)によって逮捕された。逮捕された2人の現職閣僚は、ジョコウィ連立内閣に加わっているナスデム党に所属しているが、同党が2024年大統領選で反ジョコウィ路線を掲げるアニス・バスウェダンを擁立する陣営の中心的な存在であるため、これらの汚職事件の摘発には政治的な思惑があるのではないかとの憶測も流れた。

ところが、シャフルル逮捕の直後に、汚職撲滅委員会委員長のフィルリ・バフリがシャフルルと密会している写真がネットで出回り、フィルリが汚職捜査で手心を加えるのと引き換えにシャフルルから賄賂を受け取っていた疑惑が浮上した。これを機にジャカルタ州警察が恐喝および収賄容疑で捜査を開始し、11月22日にフィルリを容疑者に指定した。12月27日には汚職撲滅委員会監督評議会がフィルリに重大な倫理規定違反があったと結論付けたことをうけ、ジョコウィ大統領は12月28日にフィルリの更迭を決定した。2019年の法改正で汚職撲滅委員会の独立性と権限が弱められた直後に委員長に就任したフィルリは、恣意的な汚職捜査の疑いや倫理違反を頻繁に批判されてきた。フィルリの任期中に汚職撲滅委員会に対する国民の信頼は大きく失墜したが、委員長自らが汚職容疑で摘発されたことは、民主化後の汚職撲滅の歴史に大きな汚点を残すことになった。(川村晃一水野祐地

4位 ASEAN議長国としてパートナーを東西に拡大、南シナ海問題は進展せず

インドネシアは2023年の東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国として、自ら主唱し2019年に採択された「ASEANインド太平洋アウトルック(AOIP)」を具体化すべく、ASEANに隣接する東西地域へとパートナーを拡大することに成功した。ASEANインド太平洋フォーラム(AIPF)が開催され、環インド洋連合(IORA)、太平洋諸島フォーラム(PIF)とASEANとの間で協力覚書が交わされた。また、湾岸協力会議(GCC)との初の首脳会議も実現した。

インドネシアは「ASEANは重要:成長の震源地(ASEAN Matters: Epicentrum of Growth)」をテーマに掲げ、5月と9月にASEAN首脳会議、9月にはAIPFと東アジアサミット(EAS)を同時開催した。AIPFではASEANとパートナー国との間で93件、382億米ドルの協力案件が提起された。IORAとPIFの代表国首脳は、ASEAN首脳会議にも参加した。

10月には初のASEAN=湾岸協力会議(GCC)首脳会議がサウジアラビアで開催され、GCCが東南アジア友好協力条約(TAC)に加入した。それぞれの議長国であるインドネシアとサウジアラビアは共同声明に加えて、直前に勃発したハマス・イスラエル戦争に対して「ガザの展開に関するASEAN-GCC声明」をまとめ、停戦と二国家解決を訴えた。

一方、進展が期待されたASEANと中国の南シナ海に関する行動規範(COC)は、早期締結への指針を採択するにとどまり、策定までにはいたらなかった。インドネシアは、ASEAN初の合同演習ASEX-01Nを南シナ海で企画した。ただし、ASEAN内の合意を得るため趣旨を災害救助とし、場所も中国が唱える九段線の外側に移したが、正式参加はマレーシア、シンガポールなど4カ国にとどまった。ただし、ミャンマーとティモール・レステがオブザーバーとして参加した。ミャンマー問題については、インドネシアは議長国として現軍事政権のASEAN公式行事への出席を認めない一方で、2023年を通じて265件ミャンマー各勢力との折衝を行った。(佐藤百合

5位 ジョコウィ大統領が初のアフリカ訪問、BRICS首脳会議にも参加

8月20日から25日にかけて、ジョコウィ大統領はケニア、タンザニア、モザンビーク、南アフリカを歴訪した。インドネシアの大統領がアフリカを訪問するのは2013年のスシロ・バンバン・ユドヨノ大統領以来、ジョコウィにとってはこれが初のアフリカ諸国歴訪であった。各国首脳との会談でジョコウィ大統領は、「バンドン精神こそ私がアフリカ訪問に携えてきたものである」と述べて、1955年に新興独立国29カ国を集めてインドネシアのバンドンで開催された「アジア・アフリカ会議」と、冷戦下で東西両陣営のどちらにも属さない第三世界諸国が進めた「非同盟運動」以来の歴史的つながりを強調した。各国首脳との会談では、貿易の拡大のほか、地熱発電の開発協力などエネルギー分野での投資協力や、新型コロナウイルス・ワクチンの供与拡大など保健分野での協力で合意が成立した。

8月24日には、南アフリカで開催されたブラジル・ロシア・インド・中国・南アによるBRICS首脳会議にジョコウィ大統領が出席した。ジョコウィは、「今日私がここにいるのはインドネシアのリーダーとしてだけではなく、グローバルサウスの仲間のリーダーとしてでもある」と演説し、自らの出席の意義を説明した。この首脳会議ではBRICS加盟国の拡大が議題となっており、インドネシアもサウジアラビアやアルゼンチンとならんで有力な新規加盟国の候補だったが、ジョコウィは「時期尚早」として加盟申請を行わなかった。インドネシア政府は、BRICSの国々とはすでに良好な経済的関係にあることや、BRICSに加わることでアメリカと対立する中国・ロシア寄りとみなされる危険性があることなどを考慮して、加盟に慎重な姿勢をとったのであった。

一方で、7月、アイルランガ・ハルタルト経済担当調整相が、インドネシア政府として経済協力開発機構(OECD)への加盟を申請することを明らかにした。8月にはマディアス・コーマンOECD事務総長がジャカルタを訪れた際に、ジョコウィ大統領が加盟の希望を直接伝えている。8月以降は関係閣僚がOECD加盟国に対して加盟申請への支援を要請するなど、加盟に向けた動きが加速した。OECDは日米欧など38カ国が加盟しており、「先進国クラブ」とも称される。インドネシアは2007年から「主要パートナー」となっている。加盟までには5年以上かかるのが通常だが、OECDと協力しながら経済改革を進めることで、ジョコウィ政権が掲げる建国100年の2045年までに先進国の仲間入りを果たすという目標を実現するのが狙いである。(川村晃一

写真2 BRICS首脳会議に出席したジョコウィ大統領

写真2 BRICS首脳会議に出席したジョコウィ大統領
6位 産業川下化政策と貿易紛争

天然資源の国内加工を通じた川下部門振興策の一環として、政府は6月にボーキサイトの輸出を禁止した。これは改正鉱物・石炭鉱業法(法律2020年第3号)に沿った措置であった。9月には、国内戦略産業への供給確保を目的として、重要鉱物47種類が指定されたが、そこには禁輸されたニッケルやボーキサイトのほか、これまでにも輸出禁止鉱物の対象として名前の挙がってきた錫や銅などが含まれている。

なお、ボーキサイトに先んじて2020年に前倒しで実施されたニッケル鉱石の輸出禁止をめぐっては、世界貿易機関(WTO)の場で欧州連合(EU)と係争中である(2022年の十大ニュース参照)。2023年には、今度はインドネシアがEUを相手取って、1月にはステンレス鋼に課されている相殺関税・ダンピング関税について、8月にはバイオディーゼルに課されている相殺関税について、GATT(関税および貿易に関する一般協定)条項に反しているとしてWTOに協議を要請し、それぞれ小委員会(パネル)が設置された。バイオディーゼルに関しては、EUによる改正再生可能エネルギー指令(RED II)がパーム油由来のバイオディーゼルの輸入制限措置であるとして、2019年末にインドネシアがWTOに紛争協議要請を行っており、小委員会の判定を待っている。このように、近年インドネシアとEUの間ではWTOにおける貿易紛争が激しさを増している。

こうしたなか、EUでは6月に森林破壊防止法(EUDR)が発効し、2026年に本格導入される炭素国境調整措置(CBAM)も10月に移行期間に入った。インドネシアにとっては、前者はパーム油やゴムなどの輸出が規制されることを、後者は鉄鋼などの輸出品が将来的に新たな賦課対象に含まれることを意味しており、さらなる貿易紛争の拡大が懸念される。(東方孝之

7位 排出権取引市場が設置されるも、環境政策の進展は遅々としたものに

気候変動対策に取り組んでいる政府は、パリ協定に基づく国別目標において温室効果ガスの排出量を「2060年までにネットゼロにする」ことを目指している。2023年は、温室効果ガスの削減を促すため、市場メカニズムを利用する制度が導入された。

2月に発電セクターの排出権取引が開始され、その第一段階として国営電力会社PLNの送電網に接続する100MW以上の石炭火力発電所が対象となった。一方、排出枠を超過する場合に炭素税を課す仕組みが導入される予定であったが、これは2025年に延期された。

9月には、カーボンクレジット取引市場(IDX Carbon)がインドネシア証券取引所に開設された。市場開設から2023年末までの取引量は、二酸化炭素換算(CO2e)で合計約50万トン、価格はトンあたり6万ルピア(4米ドル)程度となった。ただし取り引きは散発的で、今後市場が拡大するかはまだ見通せない。

政府は、2022年に「公正なエネルギー移行パートナーシップ(JETP)」を国際社会と合意し、石炭火力発電所の閉鎖を進める予定であったが、実施の困難に見舞われた。資金受領に必要な包括的投資政策計画(CIPP)の策定で、系統電力に接続しない工業団地の石炭火力発電は「事業計画上実施が困難」などの理由でJETPの対象から当面除外されるなど、計画の変更があった。JETPでは200億ドルという巨額の資金が先進国からインドネシアに拠出される約束であるが、政府による投資計画の策定が遅れたこと、また民間資金によるローンの割合が半分を占めることなどから、なかなか進展がみられなかった。(道田悦代

8位 ジャカルタ=バンドン高速鉄道の開業など鉄道インフラの整備が進む

首都ジャカルタのハリム駅と西ジャワ州都バンドン近郊のテガルルアル駅を結ぶ高速鉄道の開業式典がジョコウィ大統領臨席の下、10月2日に行われ、18日から商用運行が開始された。愛称は、インドネシア語の“Waktu hemat, Operasi Optimal, Sistem Hebat”(時間節約、最適な運行、優れたシステム)の頭文字と、高速鉄道の走行音をかけて「ウッシュ(Whoosh)」と名付けられた。東南アジア初の高速鉄道で、最高速度は時速350キロメートルに達する。

この高速鉄道は、2015年に中国が日本との受注競争を制し、2016年1月から中国の技術と資金を使って建設が進められてきた。しかし、土地収用の問題や新型コロナウイルス感染症拡大の影響などにより、開業時期は当初予定の2019年から繰り返し延期された。総事業費は予定より12億ドル増えて73億ドルとなり、超過分にはインドネシア側が当初想定していなかった国費を投入することになった。

しかし、開業記念で運賃が特別に安く設定されていることもあって、乗客数は順調に伸びている。運営会社であるインドネシア中国高速鉄道会社(KCIC)によれば、開業後の乗車率は平均で90%に達し、2023年末までにのべ100万人が利用した。

ジャカルタ中心部と高速鉄道の始発であるハリム駅を結ぶ鉄道の建設も同時に進められ、8月28日にジャカルタ中心部のドゥク・アタスと周辺地域のボゴール、デポック、ブカシを結ぶLRT(Light Rail Transit)が開業した。2015年より建設が開始されたが、こちらも開業時期が当初予定の2018年から繰り返し延期され、総事業費は予定より2.6兆ルピア増の32.5兆ルピアとなった。

LRTの開業により深刻化するジャカルタの渋滞や大気汚染の改善が期待されているが、開業前から事故や故障などの問題がしばしば発生している。運行主体の国営インドネシア鉄道会社(KAI)によれば、2023年末時点で1日の利用者は3万5000〜7000人に達した。(猪口絢子)

写真3 ジャカルタ=バンドン高速鉄道の車両

写真3 ジャカルタ=バンドン高速鉄道の車両
9位 ソーシャルコマース規制が導入される

ソーシャルメディア(SNS)上で商品やサービスを販売する「ソーシャルコマース」は、インドネシアでは2021年頃から広がり始めた。中国系動画投稿SNSのティックトック(TikTok)はインドネシアでも急速に利用者が拡大し、2023年にはアメリカに次いで2番目に多い119万人が利用するようになった。そのTikTokが運営するティックトック・ショップ(TikTok shop)は2021年に公開され、フェイスブック・ショップ(Facebook shop)やインスタグラム・ショップ(Instagram shop)よりも人気のあるソーシャルコマースのプラットフォームとなった。

ソーシャルコマースで販売される商品は衣料品、コスメ用品、食品・飲料など低価格なものが多い。そのため地場中小零細企業の経営を脅かすとして、政府は9月25日に商業大臣令2023年第31号を公布・施行し、SNSは商品やサービスの宣伝のみに限定し、SNS上での販売を禁止した。さらに、海外から輸入してネット販売する場合、100米ドル未満の商品の販売を禁止するなど、中国などから輸入される低価格商品と競合する国内の中小零細企業を保護した。

この大臣令に従って、TikTokは10月4日からTikTok shopのサービスを停止したが、2カ月後の12月11日に、配車サービス会社大手ゴジェック(Gojek)とインターネット通販大手トコペディア(Tokopedia)が統合してできた持ち株会社GOTOとEコマース戦略的パートナーシップに合意したと発表して人々を驚かせた。さらに、今後長期的にTokopediaに15億米ドル以上の投資をすることも明らかにされた。

12月14日には、TikTokがGOTOからTokopedia株式75.01%を8億4000万米ドル(13兆ルピア)で買い取って経営権を取得し、TokopediaはTikTokからTikTok shopの事業契約とインドネシア国内での運営・管理の独占権を3億4000万米ドル(5.3兆ルピア)で取得したことをGOTOがインドネシア証券取引所に報告した。この買収劇により、財政難にあったTokopediaは資金を得ることができた一方、TikTok shopはインドネシアにおけるEコマース市場での運営の場を得たことになる。(濱田美紀

10位 天皇皇后両陛下、即位後初の外国訪問がインドネシアに

日本との国交樹立65周年およびASEANと日本の友好協力50周年を迎えた2023年、天皇皇后両陛下が6月17日に来訪した。国際親善を目的とした天皇皇后両陛下の外国訪問は即位後、初めてであった。両陛下は、日本が建設を支援したジャカルタ都市高速鉄道(MRT)の車両基地や日本への留学経験者らが創設したダルマ・プルサダ大学などを訪問した。天皇陛下はジョグジャカルタ特別州でスルタンのハメンク・ブウォノ10世と会談し、世界遺産のボロブドゥール寺院も訪れた。

また、2023年にはジョコウィ大統領が日本を2度訪問した。まず5月19日に広島で開催された先進7カ国(G7)サミットにASEAN議長国として参加した。ジョコウィ大統領は「グローバルサウスの声を届ける」と意気込みを語り、途上国が未加工の鉱物資源の輸出のみでしか利益を得られていないと問題提起した。サミット期間中に行われた日本とインドネシアの首脳会談では、日本側から首都移転に対する支援が表明された。

さらに、12月16日からは日本ASEAN友好協力50周年を記念する特別首脳会議が東京で開催され、ジョコウィ大統領と岸田首相が共同議長を務めた。会議では海洋も含めた安全保障協力の強化や、人的交流プログラム「次世代共創パートナーシップ」の立ち上げなどが合意された。また、日本・インドネシア両政府間で2019年から進められてきた経済連携協定(EPA)の改正交渉が大筋合意に至り、2024年第1四半期には改正EPAが署名・施行される予定である。(土佐美菜実)

※この記事の内容および意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。
写真の出典
著者プロフィール(執筆順)

水野祐地(みずのゆうじ)アジア経済研究所地域研究センター
川村晃一(かわむらこういち)アジア経済研究所地域研究センター
佐藤百合(さとうゆり)アジア経済研究所名誉研究員、国際交流基金理事
東方孝之(ひがしかたたかゆき)アジア経済研究所地域研究センター
道田悦代(みちだえつよ)アジア経済研究所新領域研究センター
濱田美紀(はまだみき)アジア経済研究所開発研究センター
猪口絢子(いのくちあやこ)アジア経済研究所新領域研究センター
土佐美菜実(とさみなみ)アジア経済研究所学術情報センター