IDEスクエア
パキスタン総選挙後の議席配分をめぐる政府と最高裁の攻防
Dispute over Seat Allocation between Government and Supreme Court after the 2024 General Election in Pakistan
PDF版ダウンロードページ:https://hdl.handle.net/2344/0002001153
2024年12月
(7,426字)
なぜ選挙後に議席が確定しないのか?
2024年2月、パキスタンにおいて連邦下院選挙が実施された。いずれの政党も単独で過半数を制することができず、選挙後の連立交渉を経て、パキスタン・ムスリム連盟ナワーズ派(PML-N)を中心とする連立政権が誕生した。しかしながら、選挙実施から半年以上経過した現在においても、20以上の議席の行方が確定していない。野党パキスタン正義運動党(PTI)への議席配分をめぐって最高裁と政府与党が対立し、選挙管理委員会(以下、選管)が最終的な議席配分を実施できていないためである。
連立与党は、下院336議席のうち200以上の議席を確保している。他方、現在係争中の議席は22議席のみであり、仮にすべての議席が野党に配分されたとしても、与党勢力は政権を維持し続けることができる。それにもかかわらず、連立与党は強引な法改正を行い、PTIへの議席配分を命じた最高裁判決を無効化して議席を確保しようとしている。なぜ与党は、司法判決の履行を妨害してまで20余りの議席を獲得しようとしているのだろうか。
本稿では、まず、議席確保にこだわる与党側の狙いが憲法改正にあったことを示す。次いで、議席問題の決着を見ぬまま10月に憲法改正が成立するに至った過程を分析する。そのうえで、この憲法改正が今後のパキスタン政治にもたらす影響について検討する。
「無所属」候補が最多議席を獲得した異例の連邦下院選挙
議席問題を検討するための準備作業として、まず2月に実施された下院選挙について概観しておこう。パキスタン連邦下院議会は、小選挙区266議席と留保議席70議席の計336議席から構成される。留保議席は、議会における少数派の代表性を確保するために、特定の集団に対して割り当てられている議席である。パキスタンでは、女性と宗教的少数派(非ムスリム)にそれぞれ60と10の議席が割り当てられている。有権者は小選挙区議席について投票を行い、当選者が確定したのち、小選挙区での獲得議席数の比率に応じて、各政党に留保議席が配分される仕組みとなっている1。
今回の選挙は、PTIにとって非常に不利な状況下で実施された。PTIは、前回2018年選挙で勝利して政権を握ったものの、経済政策での失敗や、人事と対外政策をめぐる軍部との不和などを契機に求心力を低下させ、2022年4月に内閣不信任決議を受けて下野した。野党になってからは、党幹部と党員の逮捕・訴追や選挙活動の制限など、その後の2つの政権2からあからさまな弾圧を受けた。なかでも、選管がPTIの選挙シンボル使用を認めなかったことは、同党の選挙戦に重大な影響を与えた。選管は、党幹部を選出する党内選挙が非民主的であったとの理由で、選挙法第215条に基づきPTIの選挙シンボルの使用を差し止め、PTIの政党としての選挙参加を事実上禁じた。その結果、PTIの候補者は無所属候補として扱われることになった3。
こうした劣勢にもかかわらず、2月の選挙ではPTI系無所属候補が小選挙区で最多議席を獲得し、PTIと党創設者であるイムラン・ハーン元首相への根強い支持が示された4。最終的には、選挙後の連立交渉を経てPML-Nを中心とする連立政権が誕生したものの、今回の選挙は、小選挙区で「無所属」候補が最も議席を獲得するという異例の結果となった。
ここで問題となったのが、政党に配分される留保議席である5。最大勢力であるPTI系無所属候補の小選挙区議席は、政党の議席としてカウントされないため、留保議席配分には反映されない。そのためPTIは、自党の無所属議員の議席を留保議席配分の計算に反映させるために、当選議員をスンニー統一会議(SIC)という小政党に合流させた6。SICは、無所属として出馬・当選した同党党首が選挙後にその所属をSICに移したため、党としての議席を有していた7。PTIは、自党の無所属議員をこのSICに合流させることによって、SICとしての留保議席の確保を試みたのであった。
しかし、現実はPTIのシナリオどおりに進まなかった。3月4日に選管は、SICを留保議席配分の対象政党とはみなさないと判断した。SICが期限(2023年12月24日)までに留保議席の候補者リストを提出しておらず、また同党が選挙後に無所属から鞍替えした議員のみで構成され、小選挙区での当選者を一人も擁していないことが理由であった。さらに選管は、本来SICに割り当てられる予定だった留保議席を他政党に振り分けることと決定し(Sadozai 2024)、その結果、表1に示すとおり、これら議席の大部分が与党の手に渡ることになった。SICは同決定を不服として司法闘争に訴え、問題は最高裁に持ち込まれた8。
表1 連邦下院議会における議席状況(3月4日時点)
(注1)このうち9名は選挙結果確定後に無所属からPML-Nに新たに参加した。
(注2)このうち1名は選挙結果確定後に無所属からPML-Qに新たに参加した。
(注3)参照した選挙管理委員会の通知ではSICの議席は無所属(Independent)としてまとめられている。さらに、PTI系無所属議員のなかにはSICに合流せず無所属であり続けている議員もいることから、表中では無所属議員を含めた形でSICの議席数を明記した。
(注4)3月4日時点では、266の小選挙区のうち3つの選挙区の結果が確定していない。
(出所)選挙管理委員会の2月22日付および3月4日付通知に基づき筆者作成
PTIへの救済を与える最高裁判決
司法は選挙前から、PTIの創設者であるイムラン・ハーン元首相に対する有罪判決やPML-Nのナワーズ・シャリーフ元首相の汚職事件に関する有罪判決の撤回など、PML-Nにとって有利な判決を下してきた。そのため、留保議席問題についても、SIC(実質的にはPTI)への議席配分が否定されることが予想された。しかし、7月12日に最高裁は、SICではなくPTIに対して留保議席を与えるという驚きの判決を下した(Momand 2024)。
判決の要点は以下のとおりである。まず最高裁は、小選挙区議席を獲得した政党のみが留保議席を獲得できるという見解を示した。これにより、党として小選挙区議席を獲得できなかったSICは留保議席を獲得する資格がないと判断された。その一方で、最高裁は、選管による選挙シンボル差し止め措置は、政党の憲法上認められた権利を制限するものではないと判断した。つまりPTIは、選挙シンボルを差し止められたとしても、政党として選挙に参加し候補者を擁立することができるとみなされた。これらの見解に従って最高裁は、PTI候補を無所属として扱った選管の対応を違法と判断したのである。
また、無所属からSICに鞍替えした議員80人のうち39人が立候補届とともにPTIの党籍証明書を提出していたことが、裁判を通じて明らかになった。最高裁はこの事実に着目し、39人を小選挙区から選出されたPTI所属議員と宣言した。その結果、PTIは小選挙区議席を獲得した「政党」となり、留保議席配分の対象とみなされた。残りの41人については、15日以内にPTI(もしくはその他政党の)候補者として選挙に参加したことを証明する文書を選管に提出することが求められ、選管による審査を経て、議員の政党帰属が決定されることになった。同時に最高裁は、選管に対し、PTIの最終的な小選挙区議席を確定し、その議席数に基づいてPTIに留保議席を配分するよう命じた。
このように、当初SICへの留保議席配分の可否をめぐって争われていた裁判は、憲法上保障された政党の権利を重んじるという最高裁の判断により、PTIに救済が与えられる結果となった9(最高裁判決に従ってPTIへ留保議席が配分された場合の議席状況については、表2を参照)。
表2 最高裁判決が履行された場合の連邦下院議会の議席状況
(注)小選挙区の議席状況が表1のそれと異なっているのは、係争中であった選挙区の結果や重複立候補、議員死去などに伴って実施された補欠選挙の結果が反映されているためである。
(出所)連邦下院HP掲載の議席情報を参考に、筆者作成(2024年11月20日アクセス)
対抗措置に出る与党と最高裁判決を履行できない選管
最高裁判決が下ると、政府与党はすぐさま対抗措置をとった。自陣営への議席配分を否定する最高裁判決を事実上無効とするため、選挙法を改正したのである(Express Tribune 2024a; Jamal 2024)。具体的には、①選挙シンボルの割り当ての際に政党所属を証明する書類を提出しなかった候補者は、無所属とみなされ、特定の政党の候補として認められないこと、②選管が定める期限までに候補者リストを提出できなかった政党は、留保議席獲得の資格を有さないこと、③当選後に一度他政党へ鞍替えした無所属候補は、以後その加入を取り消すことができないこと、が明文化された。さらに、この改正は選挙法が制定された2017年に遡って適用され、司法判決より優先されると定められた。
これらの改正条項に照らせば、PTIとSICはいずれも、選管が定めた期限内に留保議席の候補者リストを提出できなかったため、留保議席を受け取る資格を有していないことになる。また、無所属からSICに鞍替えした80人の議員のうち、PTIの党籍証明書を提出していた39人は、選挙後に一度無所属からSICへの鞍替えを行っているため、PTI所属の議員として認定されない。さらに、残りの41人の議員についても、そもそも立候補届提出時に党籍証明書を提出していなかったため無所属候補とみなされる。このように、選挙法改正が最高裁判決の無効化を意図したものであるのは明らかである。
こうしたなか、議席配分の決定権限を有する選管は、相反する最高裁判決と選挙法改正の板挟みになり、最終的な議席を確定することができていない。最高裁判決が下された後の7月24日、選管は、最高裁判決で言及された39人の議員をPTI所属の議員と宣言したものの、残りの41人の政党帰属に関する決定を保留した(Khan 2024b)。それは、選管が、党内選挙を適切に実施できていないPTIには正当な党総裁と幹事長が不在であり、議員の所属を認定する代表者がいないものとみなしているためである。議員側がPTIによって発行された証明書を選管に提出しているにもかかわらず、選管がその書類を正当なものとして認めないために、41人の議員の政党帰属が確定しておらず、留保議席の最終的な配分も実施できていない。選管の対応に対して、PTIへの議席配分を支持する最高裁判事8人は、問題となっている41人のうちPTIの党籍証明書を提出した者を同党所属議員とみなすと一方的に発表し(Iqbal 2024b)、選挙法の改正によって7月12日の判決が取り消されることはないと主張した(Abbasi 2024)。これに対して、下院議長も司法判断に対する法改正の優位性を主張し(Khan 2024c)、司法府と立法府がその権限の正当性を主張し合う状態となった。
憲法改正を見据えた議席確保
政府与党は、最高裁判決を無視するだけでなく、選挙法を改正して同判決の履行を防ごうとしたわけであるが、なぜそこまでして留保議席にこだわるのだろうか。仮に係争中の全議席が野党勢力に配分されたとしても、連立与党は依然として定数の6割弱にあたる215議席を維持しており、政権を失うことはない。それにもかかわらず、なぜ与党は、強引な法改正を行って司法判決を無効化し、議席を確保しようとしたのか。
それは、政府与党が最高裁長官人事に介入するために憲法改正を画策していたためである。今年10月25日に任期満了を迎えたイーサー最高裁長官は、上述の最高裁判決においてPTIへの留保議席配分に反対する立場を取るなど、現政権に親和的な判事とみられていた。他方、当時の憲法規定で後任者にあたるシャー判事は留保議席問題でPTIへの議席配分に賛成の立場を示し、現政権と対峙する裁判官と目されていた10。そのため政府は、長官人事制度を改定し、シャー氏の長官就任を阻止しようと考えていた。
最高裁人事は憲法で規定されている事柄であるため、政府がその狙いを実現するためには憲法を改正する必要があった。憲法改正には上下両院でそれぞれ3分の2以上の賛成票が求められるため、与党は留保議席を勝ち取ることで下院の3分の2の議席(224議席)を確保しようとした。つまり、与党は憲法改正を成立させるために20あまりの留保議席を確保しようとしたのであった。
留保議席が確定しないなかでの憲法改正の成立
こうした政府の思惑にもかかわらず、留保議席問題は解決されず、下院での議席確保の目途は立たなかった。そのうえ、連立与党は上院においても憲法改正で必要となる議席数を確保できていなかった。こうしたなかで、イーサー長官の任期満了が迫っていた。
この状況を打開するため、与党は、野党を切り崩して上下両院で勢力を確保しようと試みた。とくにその標的とされたのは、両院で数議席を保有していたイスラーム・ウラマ―党ファズルル・ラフマン派(JUI-F)であった。与党はまず、9月中旬までに憲法改正案を上程しようとしてJUI-Fとの交渉を進めたが、その時は改正内容に対する支持を取り付けることができなかった(Express Tribune 2024b)。その後与党は、議会特別委員会を開催して改正内容を各政党と協議し、この過程でJUI-F側の主張を部分的に改正事項に取り込むことで、最終的に同党の支持を取り付けることに成功した。加えて、PTI系無所属議員などその他野党議員に対する引き剥がし工作も行われた。その結果、上下両院で必要な議席が確保され、イーサー長官任期満了の4日前の10月21日、第26次憲法改正が成立するに至った(Guramani 2024a)11。
注目されていた最高裁長官の人事については、当初政府が画策していたイーサー長官の任期延長は実現しなかったが、従来の人事体系が見直された。具体的には、これまでの年功序列型の制度から、国会議員で構成される特別委員会12が年長の最高裁判事3人から1人を指名する仕組みに変更された。憲法改正の直後、特別委員会はイーサー長官の後任として、候補者3人のなかで最年少のアーフリーディー判事を指名し、その後アーフリーディー判事が新長官に就任した。アーフリーディー判事は、他2人の候補者と異なり、留保議席判決でPTIへの議席配分に反対の立場をとっており、現政権にとっては「話の分かる」裁判官と目されていた。
司法に対する政治的統制の懸念
今回の憲法改正の大きな目的は、司法に対する政治的統制の強化であったと考えられる。というのは、改正内容が最高裁長官を含む上位裁判所(最高裁と高等裁判所)の判事人事や最高裁の管轄範囲の変更などの司法改革を含むものであり、その多くが与党による司法介入を意図した内容であったからである(Abdullah 2024)。
なかでも、司法委員会の構成変更と憲法法廷の設置は、今後の司法の独立性に深刻な影響を与える可能性がある。司法委員会とは、最高裁や高裁等の判事任命の権限を有する司法府の委員会で、複数の最高裁判事や法務大臣、司法長官などがその委員を務める。今回の憲法改正では同委員会の構成が変更され、委員となる最高裁判事の人数が減らされる一方、国会議員4人、ならびに国会議長から推薦された女性もしくは非ムスリム1人が新たな委員として加えられることとなった13。これにより、上位裁判所の人事を含む司法委員会の決定に、政党(特に与党)の意向を反映させる経路が確保されたといえる。
もう一つの懸念事項である憲法法廷の新設は、最高裁の審理に関わる問題である。パキスタン憲法は、社会一般の利益や国民の権利を保護するために、最高裁に対して行政機関や個人などへ命令を発する権限を与えている。最高裁はこの権限に基づき、自発的に訴訟・調査を開始して政府の決定や政策を差し止めるなど、積極的に政治に介入してきた。また、留保議席問題のような政治の展開に重大な影響を与える問題についても、独立した立場から審理を行うことで、政権による権力濫用に一定の歯止めをかけてきた。その一方で、連立与党の中核を占める二大政党のPML-Nとパキスタン人民党(PPP)は、こうした司法による介入を不当なものと認識し、立法府や行政府の権限が司法府によって侵害されているという問題意識を持ってきた。こうした背景から、現政権は憲法改正を行い、最高裁の権限を制限した。具体的には、これまで認められてきた自発的提訴権限(スオ・モト)の発動や憲法解釈に関わる訴訟の管轄権が、最高裁内に新設される憲法法廷の専権事項となり、その憲法法廷の審理は、司法委員会によって選出された最高裁判事が担当することとなった。このため、政府の意向が反映されうる司法委員会を通じて、政府と敵対しない裁判官が憲法法廷判事に選出された場合、憲法法廷が政治権力の濫用を抑制するような判決を下せなくなる可能性があり、最高裁全体としての権力抑制機能が損なわれることが危惧される。
このように、今回の憲法改正を通じて、政権による司法への統制が強化され、司法の独立が損なわれることが予想される。確かに、これまでの司法府が権力分立機構の立場を逸脱して、事実上の政治アクターとして権限を行使し(Oldenburg 2017)、過度に政治に干渉してきたという政府側の主張には首肯できる部分もある。しかし、司法を政治的統制下に置くことになれば、権威主義的な政治体制にあっても政権による権力濫用を一定程度抑制してきたパキスタン司法の独立性が完全に失われ、行政府と立法府に対する監視が機能不全となり、権威主義的な統治が加速する可能性は否定できない。
今後さらなる憲法改正が容易に
最後に、留保議席問題に立ち返ろう。政府与党は、憲法改正のために留保議席を確保しようとしたが、司法府との対立の末に議席が確定されなかったため、最終的に野党工作を行って強引に憲法改正を実現した。それでは、憲法改正を成し遂げた政府与党は今後、留保議席に固執せずに野党への譲歩をみせるのであろうか。
その可能性は低いとみるのが妥当である。なぜなら、政府与党が今後も憲法改正を行う可能性があり、そのために引き続き留保議席にこだわり続けると考えられるためである。与党は2024年10月の第26次憲法改正で27項目を改正したが、9月時点の改正草案には56もの改正項目があったとされる(Ahmed 2024)。つまり、与党は野党からの支持を取り付けるために、画策していた改正事項の一部を取り下げたのであり、今後、残された改正事項の実現を目指すことが十分に考えられる14。確かに、第26次改正のように、野党工作を行うことで賛成票を確保する方法もあり得る。しかし、野党工作は必ずしも成功するわけではない。確実に下院での議席を確保するためにも、与党は留保議席の獲得を追求する必要がある。今後の展開次第では、新設された憲法法廷で留保議席問題が再審理される可能性もあり、その場合の結果は、政治的統制の影響が反映されたものになることが予想される。
写真の出典
- TahirSultanBhutta(CC BY-SA 4.0)
参考文献
- Abbasi, Jehanzeb. 2024. “Amendments can't undo July 12 ruling: SC.” Express Tribune, 19th October.
- Abdullah, Sumair. 2024. “Explainer: What are ‘judicial reforms’ in the new amendment?” Dawn, 21st October.
- Ahmed, Waqas. 2024. “Details of 56 constitutional amendments revealed.” Express Tribune, 16th September.
- ARY News. 2024. “PTI decides to ally with Sunni Ittehad Council.” 18th February.
- Express Tribune. 2024a. “NA approves Election Act Amendment Bill amid opposition dissent.” 6th August.
- Express Tribune. 2024b. “Fazlur Rehman rejects government’s draft on constitutional amendments.” 18th September.
- Guramani, Nadir. 2024a. “ICJ derides ‘blow to judicial independence’ as 26th Constitutional Amendment becomes law.” Dawn, 21st October.
- Guramani, Nadir. 2024b. “26th Constitutional Amendment awaits presidential assent after sailing through NA in late-night session.” Dawn, 20th October.
- Iqbal, Nasir. 2024a. “Reserved seats judgement beyond jurisdiction: judges.” Dawn, 4th August.
- Iqbal, Nasir. 2024b. “SC assails ECP for ‘dilatory tactics’ over reserved seats.” Dawn, 15th September.
- Jamal, Asad. 2024. “Will the govt’s latest attempt to sap PTI’s strength survive in court?” Dawn, 7th August.
- Khan, Iftikhar A. 2024a. “Ruling coalition loses two-thirds majority in NA.” Dawn, 14th May.
- Khan, Iftikhar A. 2024b. “‘Parliamentary’ status for PTI after ECP nod.” Dawn, 26th July.
- Khan, Iftikhar A. 2024c. “Lawmakers can’t join PTI under new law: speaker.” Dawn, 20th September.
- Mahmood, Amjad. 2024. “Ruling allies gearing up for another amendment?” Dawn, 28th October.
- Malik, Adeel, and Maya Tudor. 2024. “Pakistan’s Coming Crisis.” Journal of Democracy, 35(3): 69-83.
- Momand, Abdullah. 2024. “Major win for PTI as Supreme Court rules party eligible for reserved seats.” Dawn, 12th July.
- Oldenburg, Philip. 2017. “The Judiciary as a political actor.” In Pakistan at the Crossroads: Domestic Dynamics and External Pressures, edited by Christophe Jaffrelot. Haryana: Penguin Books, 89-120.
- Sadozai, Irfan. 2024. “ECP rejects Sunni Ittehad Council’s plea seeking allocation of reserved seats.” Dawn, 4th March.
- Wasim, Amir, and Iftikhar A. Khan. 2024. “Opposition outraged by ‘arm-twisting’ over constitutional tweaks.” Dawn, 18th October.
著者プロフィール
工藤太地(くどうたいち) アジア経済研究所地域研究センター動向分析研究グループ研究員。修士(地域研究)。専門は南アジア地域研究。
注
- 宗教的少数派(非ムスリム)議席は、全小選挙区での獲得議席数に応じて各政党に配分される。他方、女性議席は州人口の割合に応じて州別に議席数が割り当てられており、州ごとの小選挙区の獲得議席に基づいて各政党に配分される。
- 2022年4月から2023年8月までのPML-Nとパキスタン人民党(PPP)を中心とする連立内閣と、2023年8月から2024年3月までのアンワールル・ハク・カーカル上院議員を首班とする暫定内閣である。
- 非識字者が各政党の候補者を識別して投票できるよう、投票用紙には選管に登録された政党の選挙シンボルが描かれている。他方、選挙法第215条によると、ある政党が党規に則して党内選挙を実施したことを示す証明書を選管へ期限内に提出できなかった場合、選管はその政党に選挙シンボルを割り当ててはならない。今回の選挙で、選管はPTIの党内選挙が党規に基づくものではなかったと判断し、同党の選挙シンボル(クリケットのバット)の使用を差し止め、PTIの候補者にそれぞれ個別の選挙シンボルを割り当てた。これにより、PTIの候補者は無所属候補として扱われることとなった。
- 選挙結果に関する考察については、Malik and Tudor(2024)を参照されたい。
- 留保議席問題は、連邦下院だけでなく、2024年2月8日に選挙が実施された各州議会においても与野党間で争われている事柄である。しかし、本稿では紙幅の制約上、連邦下院の留保議席問題のみを扱うこととする。
- 憲法第51条に基づき、当選した無所属候補は、選挙結果に関する官報が発行されてから3日以内であれば、ほかの政党に参加することが許されている。そして、新たに党へ鞍替えした(無所属)議員を含む小選挙区の議席数に応じて、留保議席が政党ごとに配分される。この条項に基づき、PTIの無所属候補はSICに参加した。ただし、一部のPTI系無所属議員は、SICに参加せずに無所属のままであり続けた。
- SICは、これまで一度も選挙で議席を獲得したことがない弱小政党であった。また、党首であるサーヒブザーダー・ハーミド・ラザー氏は、今回の選挙で無所属候補として出馬・当選したものの、実際の選挙戦ではPTIからの支援を受けていた(ARY News 2024)。党首であるラザー氏が無所属候補として出馬した理由は、弱小政党の公認候補ではなく、PTIの支援を受けながら無所属候補として出馬する方が、当選確率が高まると判断したためとみられる。当選後、ラザー氏は憲法第51条に基づき、その所属を無所属からSICに変更した。PTIとSICの協力関係が選挙前から存在していたことを考慮すると、PTI系無所属候補によるSICへの合流は、選挙前から考えられていた留保議席獲得のための戦略であったかもしれない。
- 5月、最高裁は審理を開始するにあたり、3月の選管の決定を差し止める命令を下した。これを受けて選管は、3月に配分した留保議席を差し止めた。この時点で、与党勢力は下院議席の3分の2以上を確保できていない状態となった(Khan 2024a)。
- 大法廷での審理を経た同判決は、13人の判事のうち8対5の多数決で判断されたものであり、最高裁判事のなかでも意見が分かれていた(なお、与党が任期延長を目論んでいたイーサー最高裁長官は同判決に対して反対の立場であった。最高裁人事問題とイーサー長官については後段で論じる)。例えば、訴訟の直接の当事者ではないPTIに救済が与えられた点は、判事間の意見不一致の論点の一つであった。反対派の意見については、Iqbal(2024a)を参照されたい。
- 最高裁長官職は、最高裁の最年長判事が務める年功序列型の制度であり、その任期は65歳の定年を迎えるとともに満了とされた。そのため、イーサー長官の次に年長であるシャー判事がその後任者とされた。
- 野党工作の結果、改正案は、上院で65票、下院で225票の賛成を得て可決された(Guramani 2024b)。他方、野党議員に対する工作が強制力を伴うものであったとの疑いがあり、野党側は、一部の議員やその家族が何者かに拘束され、賛成票を投じるように脅迫されたと主張している(Wasim and Khan 2024)。
- 下院議員8人と上院議員4人から構成され、政党の獲得議席の比率に応じて、委員の構成が決定される。
- 改正前は、最高裁判事(長官を含む5人)、元最高裁判事(1人)、法務大臣、司法長官、最高裁弁護士1人から構成されていたが、改正後は、委員となる最高裁判事が4人に減らされ、元最高裁判事の代わりに新設の憲法法廷の最年長判事、そして国会議員4人(上下両院各2人)と国会議長から推薦された女性もしくは非ムスリム1人という構成となった。
- 連立与党を構成する統一民族運動(MQM)は第26次憲法改正の後に、連立の中軸であるPML-NとPPPに対して、地方分権改革のための憲法改正を求めている(Mahmood 2024)。
この著者の記事
- 2024.12.11 (水曜) [IDEスクエア] (世界を見る眼)パキスタン総選挙後の議席配分をめぐる政府と最高裁の攻防