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コラム

おしえて!知りたい!途上国とSDGs

 
SDGsのここってどうなの?――SDGsの専門家に聞いてみた

How to achieve the SDGs: Expert suggestions

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00053084

<インタビュー> 蟹江 憲史
<Interviewee> Norichika Kanie
2022年7月
(6,392字)

写真1  蟹江憲史教授

写真1  蟹江憲史教授

連載コラム「おしえて!知りたい!途上国とSDGs」では、SDGsの17の目標ひとつひとつについて、それと関連する途上国の最新の現状を交えながら解説してきました。最後に、番外企画として、SDGsの専門家をお招きし、コラムの編集担当(川村晃一金信遇熊谷聡坂田正三藤田麻衣道田悦代箭内彰子)が連載を通して気になったことを質問しました。質問に答えてくれたのは、慶應義塾大学の蟹江憲史教授です。蟹江先生は国際交渉、環境政策がご専門で、SDGsの最前線で研究を続けていらっしゃいます。

――SDGsの特徴として指摘されている「目標ベースのガバナンス」とは何でしょうか。

蟹江 今まで国連を中心にさまざまな分野で国際的な規範が作られてきました。例えば、気候変動に関しては京都議定書などを作ることによって、世界の進む方向性を示してきたのです。これが、いわゆる「ルールベースのガバナンス」です。ただ、世界各国が合意するルールを作るには時間がかかります。一方で、気候変動や環境問題、貧困や格差の状況はどんどん悪化しており、ルール策定のペースが追いつかなくなりました。そこで、今までのルールを積み重ねていくアプローチではなく、あるべき姿からスタートしましょうという意見が出てきました。あるべき姿を考えたときに、ルールは作らないで、まずは目標を提示していきましょうということです。それがSDGsの「目標ベースのガバナンス」です。SDGsが出てきた当初、これは国際的なガバナンスを変える可能性があるなと感じました。

――強制力が弱い分、目標達成が難しい、あるいは途上国の貧困や飢餓といった実世界の問題解決には結びつかないのではないかという意見もあります。

蟹江 SDGsの目標のほとんどは途上国の状況を変えていくところにつながっています。SDGsは、経済、社会、環境面の課題がいわばTo doリストのように並んでいるものです。幅広い目標がセットで出ているということが課題解決に及ぼす意味は大きいです。特に、国連が目標を提示することで、国連系の開発援助機関(UNDPなど)や世界銀行がSDGsをひとつの柱として動きだすことになり、世界的な開発資金の流れに影響が出てきます。そういうことを考えてもSDGsは途上国の課題解決に貢献し得ると考えています。

 各目標が競合してしまい、同時に達成できるのかなという心配があります。例えば、目標13の「気候変動に具体的な対策を」と目標7の「エネルギーをみんなに」は両立できるものでしょうか。地球環境を考えると早急な気候変動対策が必要ですが、途上国の経済発展のためには化石燃料が魅力的なのも事実です。

蟹江 現状からすると、トレードオフ(両立できない関係)があるのは事実です。だからこそ目標期限が2030年という少し長めのタイムフレームになっています。例えば、途上国のエネルギーへのアクセスを考えたら、石炭火力のほうが早いかもしれませんが、それでは地球環境が壊れてしまいます。むしろ途上国に先に太陽光や風力などを導入することによって、先進国と同じステップを踏まなくても一気に先に行ける余地があるのではないかと思います。その余地を見せるのがSDGsだと思います。開発や経済発展に向けた通常の道のりとは別のことを言っているので、従来の考え方や価値観を変えなければいけないものだと思っています。

そのためには資金が必要です。化石燃料補助金なども見直すことができればいいと思います。そこには確かに政治的な難しさというのもありますが、それを乗り越えられないと温暖化が進んで災害も増えることになります。途上国が発展しようとしていたところでも、一気に駄目になってしまうのです。このままでは世の中自体を続けていくことができないという、非常に強い危機感を抱いた方がよいです。

――各国ではSDGsがどのように取り組まれていますか?

蟹江 現在私が住んでいるアメリカ(インタビュー時はアメリカで在外研究中)はSDGsに関しては非常に静かです。国連では途上国も含めて各国がSDGsの進捗状況に関する自発的国家レビュー(Voluntary National Review: VNR)を発表していますが、アメリカだけ唯一、何もやっていません。SDGsの活動としては、アメリカは非常に遅れています。その代わりに、サステイナビリティという言葉はよく聞きます。また、州としてはけっこう進んでいるところがあり、カリフォルニア州やニューヨーク州などは熱心に取り組んでいます。一方でヨーロッパ、とりわけ北欧諸国はSDGsの最先端を走り続けている感じです。

熊谷 途上国ではSDGsがあまり普及していないという話もありますが、私が研究しているマレーシアはかなり意識の高い国で、例えば、5カ年計画などでは、この目標はSDGsの何番と関連しているというマークを付けたパンフレットを作ったり、各年の予算ではSDGsの目標ごとに予算額を集計して示していたりするので、ある程度の影響力はあるのかなと思います。

川村 私はインドネシアについて研究していますが、マレーシアの話を聞きながら隣の国なのに状況がここまで違うのかと思いました。インドネシアではSDGsの話はほとんど聞かないです。ただ、気候変動対策はそろそろ始めましょうという話が少しずつ出ています。

蟹江 国際的にみると、インドネシアもマレーシアも比較的目立つ発言をしています。MDGs(ミレニアム開発目標)が終わりに近づき、「ポストMDGs」を考えるときに、インドネシアの大統領も国連有識者会議の15人のメンバーに入っていました。

――実態をともなわず、流行りだけに乗るグリーンウォッシュやSDGsウォッシュの問題も指摘されていますが、この問題はどう解決できるでしょうか。

蟹江 SDGsはルールではないので、「できることを、やりたいように、やれる範囲で取り組む」ことが基本です。だから、私自身は「ウォッシュ」という言葉はできるだけ使わないようにしています。やったふりをしていても実態がともなわないと自然に淘汰されていくからです。また、実態を見抜く力を持つ人が徐々に増えてきていると思います。

ルールがないなか、唯一国連が実施しているのは進捗を測るということです。私がかかわっている持続可能な開発に関するグローバル・レポート(GSDR)もそうですし、毎年指標で進捗を測るというのもそうです。ウォッシュしていても、測る人がきちんと測れば、その実態はすぐにわかります。ウォッシュを防ごうとするよりもむしろ測り方をしっかり考えた方がいいと思います。

また、ウォッシュをするということは、「SDGsはよいことだ」と認めているとも考えられます。サステイナビリティという考え方が、世の中にとって、会社にとって、あるいは人々にとってよいものだという認識が普及してきたというのは、むしろ一歩前進だと思います。今までは持続可能な開発と言ったら「環境系の人たちがやっている話だろう」といった反応だったのが、「そういうふりでもしなきゃちょっとやばいぞ」というところまで来たというのは、プラスではないかと思います。

川村 途上国の場合、本当にグリーンエコノミーなのか、それともSDGsウォッシュなのか、判断が難しい場合があります。インドネシアでは気候変動対策のひとつとしてEVバッテリー製造に取り組んでいます。もともとインドネシアにはニッケルが豊富にあるので、それを活かして国内で精製からリサイクルまで一貫した体制を作ろうという、どちらかといえば環境政策を絡めた産業政策に近い政策が進められています。途上国のなかでSDGsが実際効いているのか、懐疑的に感じざるを得ないというのも事実です。

蟹江 そうですね。多分、ウォッシュをしたくて、というよりも、SDGsのことを理解していないため、結果的にウォッシュのように見えてしまっているのだと思います。欧米の企業は、取り組む課題や順番を明確にした上で実行に移しているので、インドネシアでもそういったロードマップを掲げて進めるとよいのではないかなと思います。

――SDGsは、持続可能性に関する基準や認証の策定にも影響を与えていますか?

道田 パーム油の認証と持続可能性やSDGsとの関係について、マレーシア、インドネシア、ヨーロッパ、日本などいろいろなところから話を聞いていますが、どの基準を持続可能とするかの議論に大きな影響力を持っているのはヨーロッパです。マレーシアやインドネシアもパーム油に関して自国の認証を作っていて、環境のほか、貧困削減や経済発展に関する内容も含まれています。これら途上国の認証に対して、ヨーロッパは環境、とりわけ地球温暖化の基準がもっと強くないと認めないというスタンスです。国によって重視するSDGsの目標が異なっていて、これなら認める、これは認めない、という国があるなかで、結局どれならいいの?という状況です。

蟹江 ヨーロッパは、地球環境に関する危機感を後ろ盾にするなど、基準の導入の仕方がとても上手だと思います。ヨーロッパの基準がすべてではないというのを示すためにはマレーシアとインドネシアがばらばらにやっていてはだめで、力をあわせた方がよいと思います。各国が自主的にルールを決めていくなかでグローバルスタンダードというものが決まってしまうと、結局それをフォローしなければいけないという状況になりますね。そこで、基準作りに関しても、やはりSDGsというものをうまく活用する必要があると思います。

川村 EVバッテリーの場合も、ヨーロッパの基準に合わないプロセスで生み出されたものをヨーロッパに輸出するときは高い関税がかかる、そうすると、結局はヨーロッパが先導して作った基準に途上国が合わせるという状況になっていくのではないかと感じてしまいます。その一方で、中国企業がどんどん入ってきてインドネシア政府と組んで、インドネシア政府がやりたい方向に協力してやっていくという状況になっています。

道田 パーム油もそういう状況です。持続可能性に対してプレッシャーをかけてくる市場は欧米諸国ですが、多くの企業にとって一番大きな市場は中国やインドです。欧米諸国がそこまでプレッシャーをかけてくるなら別の市場を探す、という状況になっています。途上国の市場が大きくなっているということもありますね。また、中国は内政干渉のようなことはしないといっているので、インドネシアにとってみれば厳しいスタンダードにあわせなくて済むため働きやすいパートナーであると。世界的に分断が起きる可能性のある危険な状況なのでは、と思います。

蟹江 途上国にとってはやらなければいけないというよりも、ビジネスチャンスを広げるという観点からSDGsを考えた方がインセンティブが湧いてくるので、そのための初期投資について、国と国の間で話を進めていけるとよいのではないかと思います。今や日本でもSDGsはけっこう浸透していますが、2016年ぐらいから徐々にこういう議論が始まって、浸透するまで5年ほどかかりましたし、変化には時間がかかると思います。

――企業に付与する「SDGs認証」は必要ないですか?

坂田 私が最近まで駐在していたバンコクでは、現地の日本企業の方に「SDGsの認証、どこで取れるの?」とよく質問されました。SDGsに企業として取り組むためには、わかりやすい指針が欲しいということだと思います。

蟹江 今は教育プログラムのようなものを作ってSDGsに関する認定や認証を出すところも出始めています。長野県など、自治体レベルで認定制度や登録制度を作っているところもあります。ビジネス現場の皆さんがSDGs認証を求めているということであれば、やはり国レベルで何か考えてもいいかもしれませんね。

坂田 中小企業の方々のなかには、SDGsは大きい企業がやる話だよね、という認識を持っている方も多い気がします。

蟹江 例えば、日本の地方にある中小企業などは、納品先の大手企業から2025年までに再生可能エネルギーに変えたり、人権侵害をしていないところから調達したりしないと、その先取引しませんよ、と言われることも多いようです。中小企業にも徐々にそういう波が押し寄せてきていると思います。自発的にSDGsの旗を掲げる中小企業も増えてきており、その結果として取引先が増えたり、質の高い新入社員が増えたりというメリットがあるようです。

――現時点の達成状況と今後の展望はどう見ていらっしゃいますか。

蟹江 端的に言って2030年までの達成というのはかなり厳しいと感じています。特にコロナ禍でいろいろなものが停滞してしまっていますし、ウクライナの戦争も厳しさに拍車をかけています。一方で希望もあります。それは、停滞からの回復期に社会の仕組みを一気に変えてしまう可能性があることです。SDGsが掲げられている文書(持続可能な開発のための2030アジェンダ)の正式なタイトルは「Transforming Our World」です。このトランスフォーメーション、大きく変えないといけないという点が非常に大事だと思います。

日本に関しては、コロナ禍の影響もあると思いますが、持続可能とはどういうことなのかについて多くの人が考え始めています。コロナ禍で止まってしまったということは、持続可能ではないことが明らかになったということですので、今後、持続可能にしていくためにはどうすればよいのか、皆、意識的あるいは無意識的に考えています。そういった考えと社会変革を結び付けるのがSDGsです。この先どう変えていくか。ここからの数年が勝負だと思います。

――SDGs達成のために日本が貢献できることはありますか。

箭内 先ほどの話にもありましたように、サステイナビリティの基準はヨーロッパ発祥でヨーロッパ中心。最近の日本はあらゆる世代でSDGsが意識されている状況なので、日本がSDGsに関する基準作りをリードするよい機会だと思います。そのためには何をすればよいのでしょうか。

蟹江 理想的なのはSDGsを掲げなくても「サステイナビリティは当然のこと」となっていくことです。SDGsの目標をいろいろな仕組みの中に組み込んでしまえば、標準化や基準作りの面で世界に発信していけると思います。そうした仕組みを考えるのが私自身の次の課題でもあります。SDGsの今の状況はインターネットが出てきた時の状況とよく似ていると言われています。インターネットが出てきた当時はみんながインターネット、インターネットと言っていたのですが、その後、インターネットという言葉自体はもう当たり前になりましたよね。ブームではなくなっているけれど、社会に根付いている。そういう状態にうまく持っていくための仕掛けづくりが大事だと思います。

箭内 ブームが過ぎても根付いてくれるとよいのですが、昔のメセナ活動のように一過性のもので終わってしまわないか少し心配しています。

蟹江 ブームで終わってしまうのではないかというのは、私も若干心配しています。ただ、SDGsは2030年まで続く目標であるというのと、残り3年ぐらいになったら関心が低くなってしまうこともあり得るかなと思いつつ、その時には次の目標に関する話も出てくると思います。そうすると、少なくとも日本では新しい目標に向けて行動を続けていこうという話にはなると思います。また、2025年の大阪万博もSDGsを柱にしていますよね。

写真2  SDG Action CampaignによるGlobal Festival(2018年)

写真2  SDG Action CampaignによるGlobal Festival(2018年)
――最後にユース世代へのメッセージをお願いします。

蟹江 最近ユース世代の勢いはすごく感じますし、グレタ(トゥーンベリ)さんのように影響力のある若者もいます。前に比べると、ツールもいっぱいあって、いろいろと発信しやすい時代になっていると思います。じっくり考えて正しいことを発言することも大事ですが、まずは発言してみることも大事です。そうすると、そこから議論が始まると思いますので、まずは行動に移してみて、駄目でも「おお、面白いじゃないか。でもそれ、もうちょっとこうしたほうがいいんじゃない?」と意見をもらう。

変わらなければいけないのはむしろ大人の側だと思いますので、どんどん発信していただきたいです。いいと思ったことは、まず口に出してみてください。

※この記事は、2022年1月27日に実施したインタビューをもとに編集したものです。この記事の内容および意見はインタビュイーと聞き手個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。
写真の出典
  • 写真1 本人提供
  • 写真2 SDG Action Campaign、Global Festival of Action for Sustainable Development #SDGglobalFEst.(CC BY-ND 2.0
参考文献
  • 蟹江憲史(2020)『SDGs(持続可能な開発目標)』中公新書
著者プロフィール

蟹江憲史(かにえのりちか) 慶應義塾大学教授。博士(政策・メディア)。大学院では環境問題解決のための環境ガバナンスとミドルパワーと呼ばれる中小国の役割について研究。ヨハネスブルク・サミット など、持続可能な開発に関する大きな会議を見ていくなかで、国際的な意思決定に注目し、SDGsに関する研究を始める。現在はサステイナビリティに関する動向を分析しながら、持続可能な開発に関するグローバル・レポート(GSDR)の2023年版をまとめる15人の研究者の1人として研究を進めている。

【連載目次】

おしえて!知りたい!途上国とSDGs