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おしえて!知りたい!途上国とSDGs

 
目標17 パートナーシップで目標を達成しよう――持続可能な開発に向けてグローバルなパートナーシップを活性化する

Goal 17 Partnerships: Revitalizing the global partnership towards sustainable development

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00052933

佐藤 寛
Sato-Kan Hiroshi
2022年3月
(4,869字)

途上国のためのパートナーシップ

SDGsの目標17はパートナーシップです。これは、ミレニアム開発目標(MDGs)の目標8を引き継いだものです。MDGsは、「途上国」の「貧国削減」を主目的にした8つの目標からなっていました。これに対してその後継と言えるSDGsは、先進国も含めた「地球全体」の「持続可能な開発」を目指しています。

本コラムシリーズの第1回第2回の対談でも議論したように、MDGsが途上国にフォーカスしたものだったのに対してSDGsが地球全体をフォーカスするようになったことで、日本など先進国に「自分の国のこと」に関心を移す言い訳を与え、途上国の貧困削減への関心が薄れた、という批判があります。しかし、筆者は必ずしもそうは言えないと思っています。それは目標17の下にある19項目のターゲットを眺めてもわかります。下表にあるように、19項目のうち12項目は明確にパートナーシップの目的を「開発途上国」あるいは「後発開発途上国」であると明言しているのです。

表 目標17の途上国に関連するターゲット

目標17の途上国に関連するターゲット

(注)政府開発援助(ODA)技術バンク特恵関税について
は、それぞれ関連するウェブサイトを参照してください。
(出所)筆者作成

これらは、貧困削減を目指していたMDGsの目標8「開発のためのグローバル・パートナーシップの構築」をより詳細にしたもので、ゴール17は途上国のSDGs達成のために、地球全体、特に先進国がこれまで以上に支援・協力することを求めているのです。

しかし現実をみると、先進国の協力は必ずしも進んでいません。世界のODAは減少傾向にあり、ターゲット17.2が遠ざかります。先進国から途上国への直接投資の減少は、ターゲット17.5と逆行しています。途上国出身の移民労働者が先進国から自国の家族に送金する金額も減少しているので、部分的にターゲット17.1を妨げます。ですから目標を掲げるだけでは不十分で、目標達成のための具体的な手段が明確にされなければなりません。そこで、目標17の正式な説明文には、「グローバル・パートナーシップを活性化する」という言葉の前に、「持続可能な開発のための実施手段を強化し」という一文が加えられています。「実施手段を強化」するためにも、さまざまなアクター間のパートナーシップが求められているのです。

誰と誰のパートナーシップなのか?

日本の国連広報センターのSDGsサイトでは、目標17の解説に以下のように記されています。

「SDGsを成功に導くためには、各国政府と民間セクター、市民社会のパートナーシップが必要です。原則と価値観、共有のビジョン、そして人間と地球を中心に据えた共有の目標に基づく包摂的なパートナーシップが、グローバル、地域、国内、地方の各レベルで必要とされています。」

ここから読み取れるメッセージは3つあります。1つめは、政府、民間(企業)、市民社会の3種類のセクターのパートナーシップが期待されていることです。2つめは、個々のアクターの利害を棚上げした(=人間と地球を中心に据えた)SDGs(=共有の目標)がその結節点になることです。3つめは、この3種類のアクターの様々な組み合わせが、グローバルレベル(国連や各国政府、多国籍企業や国際NGO)のみならず、地域(例えばアジア太平洋地域、アフリカ地域)でも、一国の国内レベル(例えば日本なら、政府、経団連、大企業、中小企業、国内NPOやNGO)でも、さらには地方レベル(例えば地方自治体、地場の中小企業や地方銀行、地元の市民団体、小中高大学などの教育機関)でも生み出されることが必要だ、と主張していることです。

同じ趣旨のことが、ターゲット17.17でも強調されています。そこでは、「さまざまなパートナーシップの経験や資源戦略を基にした、効果的な公的、官民、市民社会のパートナーシップを奨励・推進する」ことが謳われています。

地方創生とパートナーシップ

筆者は日本各地で、地方の中小企業、市民団体、地方自治体の方々向けのSDGs入門講座を行う機会があるのですが、その時に強調するのは、上で述べた「地方レベルでのパートナーシップ」の必要性です。そして、地方レベルでの異なるアクター間のパートナーシップを形成する契機となるのは、日本独自の「SDGs未来都市」の仕組みです。

これは内閣府が2017年度から主催しているもので、全国に約1700ある自治体(都道府県、市町村)から、毎年30自治体を「SDGs未来都市」として選定し、そのうち10自治体にはSDGs推進事業に対する補助金が支給される仕組みです。一種の懸賞公募なのですが、コンサルタントに委託して策定する画一的な将来計画ではSDGs未来都市には選定されません。県庁や市役所、町役場がSDGsの精神を十分理解したうえで、環境、経済、社会の3側面を網羅する計画を、それぞれの地域の特性を生かした戦略の中に組み込むことが期待されているのです。

環境関連の活動を進めるためには企業や市民の協力が必要です。経済活性化は地場産業の促進と表裏一体です。少子高齢化社会の課題を解決するには地域住民の協力が不可欠です。地方創生のためにこうしたパートナーシップを形成・育成する契機となるという意味で、SDGsは地方創生のための重要なツールとなりうるのです。政府のSDGsアクションプランの中にも「ソサエティ5.0」「次世代・女性の活躍」と並ぶ3本柱の1つとして「地方創生」が挙げられています。これは、MDGsにはなかったSDGsの日本社会へのインパクトです。

サプライチェーンマネジメント――3つのアクターの連係プレー

SDGsに地方創生という観点から取り組むだけでは「内向きだ」という批判にさらされそうです。しかし、必ずしもそうではありません。国内でのSDGs達成とグローバルなSDGsとは密接につながっているからです。

例えば環境問題への取り組みは、CO2の削減であれ、食料廃棄の削減であれ、海洋プラスチックの削減と回収のための取り組みであれ、日本の国境の中だけで完結する問題ではありません。また、地場産業としての繊維産業を活性化しようとしても、その原材料(例えば綿花)の調達先で労働者の人権侵害、環境に悪影響を与える農薬・肥料の過剰投入、農薬散布時に農民がきちんとした防護服を与えられていない、などのSDGsにそぐわない問題が発覚すれば、どれほどおしゃれなブランディングをしても水の泡となります。

とはいえ、地方の中小企業がいきなり地球規模のSDGsに貢献しろと言われても途方に暮れるだけです。地方経済の活性化と、海外のSDGs課題への貢献を結ぶ鍵は「サプライチェーンマネジメント」です。

目標16「平和と公正をすべての人に」で示されているとおり、SDGsの根底には「あらゆる人々の人権を実現する」という考え方があります。また、目標12「つくる責任、つかう責任」で明らかにされているように、今や企業の責任は製品のサプライチェーン全体にわたって問われます。モノやサービスを生産する企業が、自らのサプライチェーン(直接取引関係がなくても、数珠つなぎになっているサプライチェーン)上の途上国の企業、仲買人、生産者のレベルで人権侵害があることが発覚すると、サプライチェーン全体が批判され、特に最終製品に近い先進国の企業の評判に傷がつきます(レピュテーション・リスク)(図)。

図 サプライチェーンと倫理的リスク

図 サプライチェーンと倫理的リスク

(出所)筆者作成

こうした人権リスク・倫理的リスクには様々なものがあります。例えば、コーヒー農民が仲買人に買いたたかれて、生産コストを賄うこともできずに困窮している場合、そのコーヒー豆を販売して自社の利益を上げることは、倫理的に許されるでしょうか。ファストファッションは消費者の財布にはやさしいですが、そのTシャツの縫製工場で労働者が長時間にわたり低賃金で労働を強いられているとしたら、その服でおしゃれを楽しめるでしょうか。甘くておいしいチョコレートの原材料になるカカオの採取に児童労働が用いられていて、子どもたちが学校に行くチャンスを奪われているとしたら、そのチョコレートをバレンタインのプレゼントに使えるでしょうか。

今や、企業は自社が扱う生産のサプライチェーン上の人権リスクに目をつぶっていることは許されなくなっているのです。ただ、こうした様々なリスクを回避するためには入念な調査とモニタリングが必要ですが、それを個々の企業で実施することは世界的な多国籍企業であっても困難です。ましてや地方の中小企業が単独で処理できる問題ではありません。そこで登場するのがパートナーシップです。

まず、政府の役割が期待されます。サプライチェーンマネジメントにおいては、人権侵害をして生産コストを抑制している企業が抜け駆けすることがないように、国際社会、あるいは政府レベルで規制を制定する――国際的に土俵をならす(level playing field)――ことがまず必要です。しかしながら、特に途上国では政府の規制監視能力が不十分なことが多いのが実情です。

そこで登場するのが市民社会です。市民社会(環境NGO、人権NGO、開発NGOなど)が人権侵害を告発するということもSDGs達成に向けた一種のパートナーシップと言えます。もちろん、途上国政府の能力強化のためのODA(ターゲット17.9や17.17)、人権被害状況がすぐに報告できるようなインターネットなどの技術支援(ターゲット17.6、17.7、17.8)も相乗効果を持ちます。このような政府、市民社会など他のアクターの活動があってはじめて、企業自身が主体的に人権侵害の効果的な予防、早期対処に取り組むことが可能となるのです。


NGOと世界的企業のコラボレーションの一例

NGOと世界的企業のコラボレーションの一例。世界有数の水道企業であるヴェオリア社がバングラデシュ
のグラミン銀行の子会社との合弁で給水会社を作り、安価で村人に飲料水を販売しています。写真中央の正
面を向いている女性がグラミン・ヴェオリアに雇われて「管理人」をしており、水汲みに来た女性たちから
水代を徴収しています。

また一部の自治体(北九州市、横浜市、鹿児島県大崎町など)は、自らの地域で培った環境関連技術をODAと連携して途上国に移転するという形のパートナーシップに取り組んでいますし(本連載コラム目標12参照)、地元企業が関連したビジネスをSDGsの取組みとして途上国で展開するという事例も見られます(例えば北九州のシャボン玉石けん)。

こうした公的機関(日本国政府や自治体)とのパートナーシップは、企業にとってはビジネスチャンスを拡大するというメリットがあるばかりでなく、サプライチェーンマネジメントの強化という点でも貢献します。

SDGsでつなげるエコシステム

このような異なるセクターとのパートナーシップだけでなく、同じような課題を抱える同業他社とのパートナーシップも有効です。例えば、パーム油を輸入する食品メーカーであれば、同業他社と協働してオイルパーム生産地の状況をモニターすることで調査コストの削減と網羅性の向上が実現します。

また、サプライチェーンの上流部門に位置して原材料などを生産する企業や、下流部門に位置して流通などを担う企業とのパートナーシップも有効です。例えば、住宅設備メーカーのLIXILは途上国で水を使わないトイレの普及を目指していますが、この事業のためには、トイレの建物を建設する業者、たまった排泄物を収集・運搬する業者、それを処理・再利用する業者などと「エコシステム」を形成することを目指しています。

エコシステムという考え方は、福祉や環境などの社会課題をビジネスの手法で解決することを目指すソーシャル・ビジネスの分野で盛んになっています。上記の事例のような新たなエコシステムの構築に成功すれば(それは基本的にはビジネス原理での連携ですが)、参加するそれぞれの企業のビジネスの持続可能性が増すと同時に、個々の企業単位では不可能な社会的な変革をもたらす可能性があります。

時に利害が対立することもある政府と企業と市民社会、時にライバルでもある同業他社とパートナーシップを組むことは容易ではありません。しかし、その際に有効なのが、目標17の説明にも記されているように、「原則と価値観、共有のビジョン、そして人間と地球を中心に据えた共有の目標」、つまりSDGsを共有することです。これが、SDGsが「共通言語」あるいは「パートナーシップの接着剤」と言われる理由なのです。

※この記事の内容および意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。
さらに学びたい人へ

この記事のなかで触れた2つの重要ワードについて簡単に解説します。

  • サプライチェーンマネジメントとは?――サプライチェーンとはひとつの商品(チョコレート、Tシャツ、パソコン、自動車など)を生産するのに必要な素材が集められ、それらが組み合わされて商品になって消費者の手に届くまでの、原材料、部品調達、加工工程、輸送工程、販売工程などのつながりを指し示す概念です。商品の流れを追って原材料の生産を「上流」、最終製品の販売を「下流」と捉えることが一般的です。また、場合によっては消費者が使用した後の廃棄⇒リサイクル⇒次の商品の素材化の連鎖もサプライチェーンに含めて考えることがあります。完成品の販売までを「動脈産業」、廃棄からリサイクルまでを「静脈産業」という場合もあります。

    従来は、自社が直接調達している先(サプライヤー)、直接販売している先(顧客)だけを考えていれば十分でしたが、現在では直接取引関係がなくても、数珠つなぎになっているサプライチェーン全体に対して責任をもって管理すべき(サプライチェーンマネジメント)という考え方が主流となっています。特に先進国の最終製品販売者(自動車やパソコンのメーカー、食品の小売り業者など)となる多国籍企業には、サプライチェーン全体を適切にモニター、管理する倫理的責任があることが、2015年のG7エルマウサミットで合意されています。

  • エコシステムとは?――本来は「生態系」を意味する環境用語です。哺乳類を頂点とする食物連鎖や、ひとつの環境での「棲み分け」などが生物界にあるように、企業活動も自社の利益だけを模索するのではなく、ひとつの商品・サービスを成り立たせる「エコシステム」を持続可能なものにすることが必要である、という考え方が登場しています。

    特に21世紀に入ってから、BOP(経済的底辺層)ビジネス、社会課題解決型ビジネス、インクルーシブビジネスなどの議論が活性化し、それと共に経営学でもビジネスの「エコシステム」という概念が主流化しました。

写真の出典
  • 筆者撮影
著者プロフィール

佐藤寛(さとうかん) アジア経済研究所研究推進部上席主任調査研究員。専門は、開発社会学、地域研究(イエメン)、援助研究、日本の開発経験研究。主な著作に、佐藤寛他編『コンビニからアジアを覗く』日本評論社(2021年)、デイビッド・ヒューム著、佐藤寛監訳『貧しい人を助ける理由――遠くのあの子とあなたのつながり』日本評論社(2017年)、佐藤寛他編著『開発社会学を学ぶための60冊――援助と発展を根本から考えよう』明石書店(2015年)など。

【連載目次】

おしえて!知りたい!途上国とSDGs