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コラム

おしえて!知りたい!途上国とSDGs

 
第2回 激論!SDGsってなに?(後編)――私たちにできることは何があるの?

What are the SDGs? (2)——What can we do?

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00052838

<対談> 山形 辰史 × 佐藤 寛  <聞き手> 金 信遇
<Interviewees> Tatsufumi Yamagata & Sato-Kan Hiroshi <Interviewer> Shinwoo Kim
2021年10月
(5,412字)

持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)について、国際協力と途上国開発の研究を続けてきた立命館アジア太平洋大学の山形辰史教授とアジア経済研究所の佐藤寛上席主任調査研究員の2人の専門家に議論してもらうインタビューの後編です。前編ではSDGsの定義や役割、SDGsと途上国との関係について聞きましたが、後編では、途上国支援やSDGs推進のために私たちにできることは何か、国際協力の仕事にかかわる方法は何か、といった疑問をお二人にぶつけてみました。

――SDGsの実践が日本国内に向いている現状についてはどう考えていますか。

山形 新型コロナウイルスの感染拡大によってこの2年くらい、とにかく海外に行って現地の状況を詳しく知ることが難しい状況が続いています。それが、SDGsを国内向けにする要因として大きく働いていると思います。日本にも、子どもの貧困や障害者の問題などいろいろ課題はありますから、日本人の若者が日本に目を向けることを否定する必要はないと思います。また、女性、LGBTQ(性的マイノリティ)、障害者、子どもなど、まだ取り残されている層がいることを日本社会に伝えていく必要があると思います。

佐藤 それは全く同感です。現地に行けないという状況下で人々の関心が国内に向くということ自体は悪くないと思います。重要なのは、日本国内の問題が途上国に結びついているんだということに気づくことだと思います。私は現在、日本国内の外国人労働者の問題を研究しています。それはなぜかというと、日本にやってくる労働者――技能実習生だったり留学生という名目で働きに来る人だったり――は、今、コロナ禍のなかで一番取り残されがちな人々だからです。日本での出稼ぎ労働が、それぞれの国でどういう意味を持つのか、本国の発展プロセスにどういう役割を果たしているのかは重要なテーマです。出稼ぎ労働が途上国にとってとても重要な開発戦略であるならば、そして、われわれ日本人として途上国の開発をサポートしようと思うのであれば、彼らが働きやすい環境を作ることはとても大事です。このことは、日本の問題であると同時に途上国の問題でもあります。そういうつながりに気づかせてくれたのがSDGsだと思います。

図1 日本に在留する外国人労働者数の推移

図1 日本に在留する外国人労働者数の推移

(出所)厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」各年版により作成。
――外国人労働者の話を聞くと、やはりSDGsが掲げている目標は、各国が協力し、世界規模で取り組まないといけないものだと感じます。

佐藤 そのとおりです。不均衡とか格差の問題、格差には国と国の間の格差もあれば、一国の中の格差もありますが、この格差の拡大と環境破壊の進行が、SDGsを合意に至らせる重要な契機になったと思います。そして、格差を縮小するためには途上国の人たちへの直接的なアプローチも必要ですが、格差を拡大させているメカニズムそのものの改善も必要です。たとえば、世界のODA(政府開発援助)の額はどんどん減っています。でも、途上国に流れていくお金にはODAだけでなく、企業の投資や出稼ぎ労働者による送金もあります。われわれができるサポートのひとつは、より働きやすい環境と適正賃金を提供することです。それによって出稼ぎ労働者の送金額を増やすことができ、途上国の開発にもつながります。もうひとつは新型コロナウイルスのワクチンに関するものです。途上国にはなかなかまわっていかないワクチンを、世界で取りまとめて途上国にもまわるようにしましょうというCOVAX(ワクチンを共同購入して途上国に配る枠組み)のような取り組みも、SDGsの「誰一人取り残さない」という精神に合致していると思います。

山形 ひとつ注意していただきたいのは、SDGsは国連に参加しているいろいろな国のそれぞれの利益の調整の落としどころとしてできたものだということです。つまり、すべて善意によって形成されたものだととらえるべきではないと思うのです。これは悲観すべきという意味では全くありません。たとえば新型コロナウイルスのワクチンの配分も、国益や民間企業の利益といった利己的な目的と、国連の傘の下での協調という2つの動きによるものです。どの国も自分たちの国が他からどうみられるかを意識してワクチン外交を展開するなかで、非常に早い段階で多種類のワクチンが開発されました。どこかの会社が独占することなく価格もそこまで高くない水準に設定されています。ワクチン外交といった利己的な動きとCOVAXのような協調的な動きを組み合わせることによって、途上国の人にもワクチンがまわるような仕組みができたのですが、私はSDGsも同じようなところがあると思います。ですので、国際社会や市民社会は、利己的に動く人たちと協調的に動こうとする人たち両方を見据えてサポートすることが必要だと思います。理念として世界のためにならないと企業も国も評価されないので、理念も大事にされていますが、理念100%で動いているわけではないと思います。

佐藤 理想論と現実論の二者択一ではないですし、SDGsという大義名分があったからCOVAXの仕組みの理解が加速された部分もあると思います。たとえば、3回目のワクチンを打つか打たないかという議論が現在進んでいて、先進国は3回目のブースターを打ちたいと主張していますが、世界保健機関(WHO)は「それは待ってくれ」と言っているんですね。取り残されている人たちにちゃんと2回打ってからにすべきだという考え方です。こういう問題は世論によって決まることが多いのですが、幼稚園や小学校からSDGsを学んだ人とそうでない人とでは、自分たちが3回目を打つのか、それとも途上国の人に先に打ってもらうのか、という判断の基礎が多少違うのではないかと思います。

写真1 COVAXファシリティを通じて西アフリカのベナン共和国の空港に到着した新型コロナウイルスのワクチン(2021年3月)

写真1 COVAXファシリティを通じて西アフリカのベナン共和国 の空港に到着した新型コロナウイルスのワクチン(2021年3月)
――途上国が抱えている問題を日本国内でもっと伝えるべきだということには、お二人とも同意されているかと思います。どういう方法が考えられますか?

山形 その質問は私の悩みでもあります。たとえば、アフガニスタンはタリバン政権になりましたが、それを見てイギリス国内では「もっと難民を受け入れろ」というプレッシャーが国民からジョンソン首相にかかっているそうです。しかし日本ではあまりそういう動きはありません。2015年にシリア危機がありましたが、3歳くらいのシリア難民の男の子が海辺で溺れて亡くなり、その写真が出回ったのをきっかけにヨーロッパでは難民受け入れの機運が国民レベルで高まり、実際に難民受け入れが加速しました。また、ミャンマーでロヒンギャ難民が多数発生したときに、インドネシアのイスラーム教徒がすごく怒ったんですね。ムスリムとしての同胞意識が強くて、厳しい環境に置かれて苦労している自分たちの仲間を、国を越えて支援しようという共感を持ったのがその理由です。私はそうした他国で苦境のなかにいる人々に対する共感が、どうやったら日本でも一般の人たちに芽生えるのかなと悩んでいます。日本に住む人たちにも途上国のことを身近に感じてほしい、他人が置かれている状況に共感してほしいと思っています。でも、SDGsはそうした共感につながる材料を与えてくれていません。むしろ、佐藤さんが先ほど取り上げてくださった外国人労働者に接する機会が増えていたり、先日開催された東京オリンピックやパラリンピックなどで活躍する外国人選手を応援する機会があったり、というのが良い入口になるのではないかと期待しています。日本に途上国支援の意識を浸透させるためには、そういう多文化共生の価値観や習慣をつけていく方向性しかないように思います。ただ、徐々にしか進まないとは思います。

佐藤 企業の取り組みもかなり重要だと考えます。私がコロナ禍の前まで日本全国を行脚して、特に地方の中小企業の人たちに語りかけてきたことは、「SDGsに取り組むということは、あなた方のためなんですよ」ということです。自社がかかわっているすごく長いサプライチェーン(原料調達、生産、流通、販売などの一連の流れ)のサイクルの中のどこかに倫理的なリスクがあると、自身のビジネスの持続可能性(サステイナビリティ)にも影響を与えます。日本には「三方よし」という商売の概念がありますよね。売り手良し、買い手よし、世間よしで、「世間よし」の部分がSDGsなので、自分のビジネスを維持するためにも、SDGsに気を配りながらサプライチェーン・マネージメントをしましょう、ということを伝えています。「利己的なところでいいから、取り組みを変えましょう。世界はそっちに向かっています」という語りかけをいつもしています。

――今後、途上国支援やSDGsにかかわりたいと考えている若い世代にアドバイスをお願いします。私たちには何ができますか。

佐藤 まずは、良き消費者になるということをきちんと貫徹すれば、あなたもSDGsが目指す世界に貢献できるということを伝えたいですね。そういう活動を続けていくなかで、意味あるのかなと行き詰まる時が来るんです。そのなかで出てきた疑問があればそれについて考える。それを繰り返していくと、いつの間にか賢い消費者になれます。フェアトレードは最もわかりやすい事例ですが、現状どんなに頑張ってもマーケットシェアは1%を越えないんです。賢い消費者になるということで途上国と先進国がつながりますし、一番の変化をもたらすと思います。

山形 たとえば私がまだアジア経済研究所に勤務していた時代に、中学生や高校生の方が訪ねてきて、開発途上国のために「私たちに何かできることはないですか?」と尋ねられたことがあります。そういう時には、真剣に聞いてくる方であればあるほど、私は「はっきり言って、中学生や高校生にできることはありません」と答えていました。食品ロスを減らすといった手近な答えに飛びつくのではなく、むしろ時間をかけ、ちゃんと勉強してプロになってください、と言いたいです。そのプロとしての専門性は、農産物の増産かもしれませんし、環境にやさしいごみ処理方法の開発なのかもしれません。それが何であれ、専門性を持つプロになれるように頑張ってくださいと伝えたいです。国際開発に文系として携わる実際の具体的なキャリアパスとしては、途上国開発にかかわる国連機関の正職員になるという選択肢があります。その方法は以前とあまり変わっていません。ジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO)という制度がありまして、修士号と2年の実務経験という資格を満たして審査に合格すれば、日本政府が賃金を負担して国連機関の職員としてスタートを切ることができます。日本人で国連職員になる方々は、だいたいここからキャリアをスタートさせています。ただ、今は以前と違っていろいろな道があります。たとえば、民間企業に就職してお金をためてから非政府組織(NGO)や社会問題解決を事業とする企業を立ち上げたりする人もいます。国連機関に入ってから非営利団体(NPO)に移るとか、またはその逆とか、行ったり来たりもできますし、国際協力機構(JICA)や外務省も含めて、多様なキャリアプランがあります。

写真2 国際連合ジュネーブ事務所前広場。読者のみなさんのなかにも将来ここで働く人が出てくるかも?

写真2 国際連合ジュネーブ事務所前広場。読者のみなさんのなかにも将来ここで働く人が出てくるかも?
――そういう仕事をするためにはどういう勉強をしたほうがいいでしょうか。

山形 いわゆる理系の勉強のほうが専門職に直結することが多いと言えます。医学であったり、農業であったり、建築工学であったり、途上国開発に必要な何らかの分野で専門家になるという道です。文系の場合、教育などの専門家を目指すこともできますが、社会科学分野(政治、経済、法律、経営等)を勉強して、より広い知識と視野を持つゼネラリストになるというキャリアも考えられます。それは社会や組織の仕組みを理解して、各分野の専門家を配置する戦略を立てたり、計画・評価をする仕事です。高校生の場合、専門家(主に理系)かゼネラリスト(主に文系)か、まずはどちらになるかを決めて将来設計をしていただくのがいいかもしれません。

――民間企業ではどういうキャリアが考えられますか。

佐藤 最近、各企業にサステイナビリティ推進室やCSR(企業の社会的責任)推進室なども設置されています。しかし、そういうところに新卒は絶対に入れません。すぐには活躍できないからです。まずは、賢い消費者になることを意識しながら自社内の別の部門で力を蓄えることに集中していただきたいです。どうしても直接かかわりたい場合は、NGOをサポートするようなボランティアに参加するか自分でNGOを立ち上げたほうがいいかもしれません。

――最後に、途上国支援やSDGs推進のために研究機関にできることは何でしょうか。

山形 コロナ禍で途上国に直接足を運べない今だからこそ、アジ研(アジア経済研究所)やAPU(立命館アジア太平洋大学)のような研究・教育機関が途上国のことを伝える必要があると思います。ミャンマーで何が起きているか、アフガニスタンで何が起きているか。遠く離れた人の立場に立って語る材料を用意したり、そういった思考様式を育てたりすべきだと思います。

佐藤 日本にいるわれわれが何かすることと、その遠くの状況がどうつながっているかを学術研究によってきちんと伝えることが、アジ研やAPUの仕事だと思います。

――貴重なお話をありがとうございました。

2回にわたってSDGsの多様な側面と途上国開発に関する議論をお届けしました。世界が直面している問題や途上国について少しでも興味を持っていただけたでしょうか。この対談に続いて、SDGsの目標1から17まで、各目標と途上国の現状に関する連載コラムが始まります。今、世界では何が起きているかを知り、日本に住む私たちには何ができるのかを考えるきっかけにしていただければと思います。途上国社会や開発の問題については、IDEスクエアの姉妹コーナー「教えて!知りたい!途上国と社会」もおすすめです。ぜひそちらもお読みください。

図2 SDGsの17の目標

図2 SDGsの17の目標

(出所)国際連合広報センター
※この記事は、2021年8月24日に実施した対談をもとに編集したものです。この記事の内容および意見は対談者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。
写真の出典
  • 写真1 Présidence de la République du Bénin, Réception de la première partie du vaccin covax contre la covid-19-54, CC BY-NC-ND 2.0.
  • 写真2 Ank gsx, United Nations Building, Geneva(Ank Kumar), CC BY-SA 4.0.
対談者プロフィール

山形辰史(やまがたたつふみ) 立命館アジア太平洋大学教授。経済学博士。専門は開発経済学、バングラデシュ経済。おもな著作に、紀谷昌彦・山形辰史『私たちが国際協力する理由――人道と国益の向こう側』日本評論社(2019年)、黒崎卓・山形辰史『開発経済学――貧困削減へのアプローチ』(増補改訂版)日本評論社(2017年)、高橋和志・山形辰史編『国際協力ってなんだろう――現場に生きる開発経済学』(岩波ジュニア新書668)岩波書店(2010年)など。

書籍:私たちが国際協力する理由

佐藤寛(さとうかん) アジア経済研究所研究推進部上席主任調査研究員。専門は、開発社会学、地域研究(イエメン)、援助研究、日本の開発経験研究。主な著作に、佐藤寛他編『コンビニからアジアを覗く』日本評論社(2021年)、デイビッド・ヒューム著、佐藤寛監訳『貧しい人を助ける理由――遠くのあの子とあなたのつながり』日本評論社(2017年)、佐藤寛他編著『開発社会学を学ぶための60冊――援助と発展を根本から考えよう』明石書店(2015年)など。

書籍:貧しい人を助ける理由

聞き手プロフィール

金信遇(きむしんう) アジア経済研究所研究推進部地域研究推進課。研究マネージメント職として外部資金獲得支援、研究成果発信等の業務を担当。修士(地域研究)。関心分野はチュニジア社会経済、マグリブ地域研究。著作に"Regional demography and social change in Tunisia in the early 20th century." (British Journal of Middle Eastern Studies, 2021)など。