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コラム

おしえて!知りたい!途上国とSDGs

目標5 ジェンダー平等を実現しよう――すべての女性が能力を発揮できる社会に

Goal 5 Achieve Gender Equality and Empower All Women and Girls: Toward a Society Where All Women Can Fulfill their Own Capabilities

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00052844

牧野 百恵
Momoe Makino
2021年10月
(4,047字)

SDGsとジェンダー平等

ジェンダーとは、社会的に意味づけされた性別を指し、生物学的な性別=セックスとは区別されます。SDGsの「目標5ジェンダー平等を実現しよう」は、女性に関するあらゆる差別をなくすことを目指しています(5.1)。

女性差別的で有害な慣行の撤廃(5.3)で挙げられている児童婚(18歳未満の結婚)などは、日本人の私たちにはなじみが薄いかもしれません。しかし、途上国では深刻な問題であり、いまだに世界中の20~24歳の女性のうち5人に1人が経験しています。児童婚は、女性の教育機会を奪うほか、家庭内暴力につながるという懸念もあり、女性へのあらゆる暴力をなくす(5.2)ためにも、その撲滅が目指されてきました。しかし、コロナ禍をきっかけに学校に行けなくなった女子たちの婚期が早まったのではないかといわれています。

私たち日本人がより当事者として考えられる問題は、無償の育児・介護や家事労働がきちんと評価されること(5.4)や、女性の政治や経済の分野への参加を促すこと(5.5)でしょうか。2021年、世界経済フォーラム(World Economic Forum:WEF)が発表した「ジェンダー・ギャップ指数」では、日本は調査対象の156カ国のうち120位という不名誉な結果となりました。先進国どころか、アジア20カ国のなかでもワースト3位です。とりわけ政治(女性議員・閣僚の割合、女性首長の在職年数)、経済分野(女性の労働参加率、管理職・専門職の割合、推定所得、男女賃金格差)での日本のランクはそれぞれ147位、117位と、著しく低くなっています。

図1 各国のジェンダー・ギャップ指数

図1 各国のジェンダー・ギャップ指数

(注)縦軸は指数(0–1)で、男女格差が全くない状況が1、格差解消までの達成状況を表す。
(出所)Global Gender Gap Report 2021をもとに筆者作成。

国連は、ジェンダー平等はそれ自体が目的であるだけでなく、より平和で豊かで持続可能な世界の実現のための手段であるとうたっています。しかし、ジェンダー平等が実現すると、本当により豊かな状態や貧困削減につながるのでしょうか。ジェンダー平等が原因となって、より豊かな社会という結果をもたらすことを因果関係といいますが、この因果関係を証明することはそれほど簡単ではありません。本コラムでは、SDGsが高らかにうたっているようなナイーブな解釈をそのまま受け入れるのではなく、ジェンダー平等について、エビデンス――統計学を使って因果関係を厳密に示した研究結果――として分かっていることを中心に紹介することで、目標5に対する理解をもっと深めたいと思います。

政治の分野で女性が活躍すると?

日本では2021年の自民党総裁選において、初の女性首相が誕生するかが話題となったばかりですが、ジェンダー・ギャップ指数が30位のアメリカですら、女性の大統領はまだ出ていません。ヒラリー・クリントンが2016年の大統領選挙で敗れた後のスピーチで、女性が大統領になるうえで制度的な制約はないけれど「ガラスの天井」があると述べたことはとても有名です。むしろインドやパキスタンなど、ジェンダー格差の大きい南アジアの国々ですでに女性の首相が誕生していることは意外に思われるかもしれません。では、政治の分野で女性が活躍すること(5.5)はなぜ重要なのでしょうか。

女性が政治的な意思決定に参加すると、決められる政策に有意な(統計的に意味のある)違いが生じることが分かっています。たとえば、2019年ノーベル経済学賞を受賞したデュフロ・マサチューセッツ工科大学教授たちによるインドでの研究は、女性が村長になった村では、女性がより関心を寄せているインフラ――飲料水の施設など――の建設が進んだという因果関係を明らかにしました(Chattopadhyay and Duflo 2004)。

各国のデータを比較した研究では、女性の政治家が多いところでは、児童手当などの福祉政策が手厚いことが知られていますが、これについて因果関係ははっきりしていません。女性の政治家を多く生むような土壌では、もともと福祉政策への力の入れ方が違っていたかもしれません。その場合、女性の政治家が増えたから福祉政策が手厚くなったとはいえません。

政治で女性が活躍すると、国が豊かになる、あるいは福祉が充実する、という因果関係があるかどうかは分かりませんが、女性が男性と同じように政治の分野で活躍することそのものが重要ではないでしょうか。デュフロ教授たちは、女性の村長は、女性には政治リーダーなど務まらないだろうといった偏見を払拭する効果も持つことを示しました(Beaman et al. 2009)。女性が政治で活躍することで、彼女たちが次世代の女性たちのロールモデルとなり、もっと多くの女性が能力を発揮できるようになるかもしれません。

では、どうすれば女性の政治リーダーが増えるのでしょうか。もっとも有効だと思われるのは、女性への割り当て議席(クォータ)を制度化することです。現在、130カ国が女性へのクォータを導入しています。女性へのクォータを増やせば、現職の男性議員のいく人かは議席を失うわけですから、男性が多数を占める現職政治家にとってこの制度化は身を切る改革といえ、難しいことが予想されます。クォータ制反対派の根拠としては、それほど能力のない女性が議員になることで議員の質が下がること、クォータ制がなくても当選できる女性にとっては、女性への割り当てによって実力もないのに議員になったのではないかと色眼鏡でみられる恐れがあること、などが挙げられます。しかし、これまでの研究では、クォータ制は女性議員の質の低下にはつながらず、むしろ有能でない男性議員を排除できることなどが分かっています(Besley et al. 2017)。日本には、SDGsという大きな目標を達成するために大局観に立ってものごとを決められる政治家はいないのでしょうか。

写真1 2011年クリントン国務長官(当時)がアフガニスタンの女性政治家と会談

写真1 2011年クリントン国務長官(当時)がアフガニスタンの女性政治家と会談
経済の分野で女性が活躍すると?

経済や公共分野において女性の社会進出が進み男性と同じように働くようになると(5.5)、より豊かな社会の実現につながるのでしょうか。この問いに答えるには、因果関係の証明が必要ですが、それは簡単ではありません。より豊かな社会ほど、女性の社会進出が進んでいるという逆の因果関係も考えられます。女性の労働参加が進むと、経済成長につながるかどうかははっきりしませんが、これまでの研究によって、おおむね女性自身のエンパワメント――自分の人生を自分で決められるような力を身につけること――につながることは分かってきました。

エンパワメントは、実証研究では、女性の自己決定権、移動の自由、暴力からの自由といった指標で測っています。自己決定権以外の指標については、下の「さらに学びたい人へ」を参照してください。女性の労働参加のなかでも、家事手伝いやファミリービジネスでの労働ではなく、夫の支配圏から離れ、有償労働に従事するのであれば、女性の自己決定権が上昇することが分かっています(Anderson and Eswaran 2009)。自己決定権は幸福度を高めることも分かってきましたので(西村・八木 2018)、女性がもっと社会で活躍するようになれば、より女性の幸せにつながるといえそうです。

女性の社会進出はどうすれば進むのでしょうか。男性が家事を分担することが重要でしょうし、女性が働くことにインセンティブをつければよいと思います。日本の場合、後者については、現行の配偶者控除の制度――たとえば、103万円の壁といわれるように、妻の年間の稼ぎが103万円を超えなければ、妻に所得税がかからず、夫も税負担が軽減されること――が女性が働くインセンティブを削いでいることは疑いがありません。廃止することがSDGsの達成にとって近道といえそうですが、政治的に難しいのでしょうか。前者については、2021年6月、改正育児・介護休業法が成立し、男性が育児に積極的に参加することが期待されています。しかし、男性の育児休暇を促す制度が女性の昇進などにとって不利な結果を招いたという研究もあります(Antecol, Bedard, and Stearns 2018)。専門職のケースでは、育児休暇をとった男性たちが、実際には育児を行う代わりに自身の仕事を進めたためです。法改正だけでは状況が改善するどころか、女性にとっては改悪となる可能性も否定できません。男性が育休をとりにくいという会社の風土以上に、そうした状況を問題と認識せず、改善する必要があると思っていない人たちが、男女問わず少なからずいるようです。実際に、内閣府男女共同参画局の調査では、男性の30%、女性の23%が、育児は女性がすべきと回答しています。

SDGsの役割とは?

SDGsは、ジェンダー平等がより豊かで持続可能な社会のために重要とうたいます。本コラムをとおして、それは本当なのだろうか、と一旦立ち止まって考えてみるための視点を提供してきました。ジェンダー平等は、より豊かな社会実現のための手段でなく、それ自体が目的として強調されてもよいのではないでしょうか。

この場合、女性が男性と同じように政治や経済に参加する(5.5)というSDGsの目標は、社会をよりよくするためではなく、より直接的に、男性ができることをなぜ女性ができないのか、という根本的な権利に関する問いと解釈できるでしょう。女性が児童婚の対象となったり暴力にさらされたりしないこと(5.2、5.3)と同様に、政治や経済に参加し能力を発揮できること(5.5)もまた、それ自体が守られるべき権利でしょう。

SDGsの目標5「ジェンダー平等を実現しよう」は、特定の国や地域の問題ではなく、日本にいる私たちが当事者、もしくはパートナーや家族の日常的な問題として身近に感じられる目標の一つだと思います。SDGsが、女性であるからという理由で何かを諦めることがない社会、また男女を問わずすべての人が自分の能力を十分に活かせ、真に活躍できる社会の実現に向けて考えるきっかけとなることを願ってやみません。

※この記事の内容および意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。
さらに学びたい人へ

ここでは、自己決定権以外のエンパワメント指標を用いて、女性の労働参加とエンパワメントの関係を明らかにした研究を紹介します。これらの研究で用いられているエンパワメント指標としては、性比(男性人口に対する女性人口の割合)や児童婚の有無が挙げられます。世界最大の人口を有する中国とインドの2カ国では、性比が不自然に低いことが知られています。性選択的中絶や、女児殺し、栄養失調や適切な医療を受けられないなどの理由で不自然に女性の人口が間引かれているのです。男児を好む文化に加え、中国では2014年まで実施されていた一人っ子政策、インドではダウリー(花嫁が花婿とその家族に持参する金銭・資産)の慣習が、女性の人口が不自然に少ないことの要因であるといわれています。女性の生存権にかかわる性比は、究極のエンパワメント指標ととらえることもできるでしょう。女性が労働参加をすることで家計を経済的に助けるようになると、性比が上がることが分かっています(Rosenzweig and Schultz 1982; Qian 2008)。

児童婚は多くの国で法律により禁止されていますが、その実効性は低いままです。児童婚は親に決定権があることが多いため、女子のエンパワメントを促進し、女子が自分の結婚を自分で決められるようにすることで児童婚を減らすことを狙ったプログラムが実施されています。これまでの研究では、女子が労働参加すると、婚期を後ろ倒しにできることが分かっています(Jensen 2012; Heath and Mobarak 2015; Amin, Makino, and Misunas 2021)。

写真2 児童婚撲滅のためのエンパワメント・プログラム(バングラデシュ、2019年)

写真2 児童婚撲滅のためのエンパワメント・プログラム(バングラデシュ、2019年)
このように、女性の労働参加はおおむね女性のエンパワメントにつながることが分かっていますが、暴力からの自由という指標については、いまだコンセンサスがありません。女性がより社会で活躍すると、家庭内暴力が増えることもあれば、減ることもあることが分かっています(Heath 2014; Luke and Munshi 2011; Aizer 2010)。興味深いことに、家庭内暴力の増加は、法的にも現実的にも女性に離婚という選択肢がない場合に起こりやすいようです。実際に離婚するかどうかは重要ではなく、離婚を十分に現実的な選択肢として女性がもっているかどうかが鍵となります。たとえば、どれほど悲惨な結婚生活であったとしても、インドでは、離婚という選択肢が社会的に現実的ではありません。また、女性が就業していたとしても経済力が低い場合は、離婚という選択肢は経済的に現実的とはいえないでしょう。要するに、夫からみて、妻が離婚などできるわけがない、と思っているような場合に、暴力が増えるようです。
写真の出典
  • 写真1  S.K. Vemmer(U.S. Department of State), U.S. Secretary of State Hillary Rodham Clinton standing with female Afghan politicians in Kabul, Afghanistan(Public Domain).
  • 写真2 筆者撮影
参考文献
  • Aizer, Anna. 2010. "The Gender Wage Gap and Domestic Violence." American Economic Review 100 (4): 1847–59.
  • Amin, Sajeda, Momoe Makino, and Christina Misunas. 2021. "Understanding the Role of Girls’ Schooling and Paid Work in Delaying Marriage." Mimeography. New York, NY.
  • Anderson, Siwan, and Mukesh Eswaran. 2009. "What Determines Female Autonomy? Evidence from Bangladesh." Journal of Development Economics 90 (2): 179–91.
  • Antecol, Heather, Kelly Bedard, and Jenna Stearns. 2018. "Equal but Inequitable: Who Benefits from Gender-Neutral Tenure Clock Stopping Policies?" American Economic Review 108 (9): 2420–41.
  • Beaman, Lori, Raghabendra Chattopadhyay, Esther Duflo, Rohini Pande, and Petia Topalova. 2009. "Powerful Women : Does Exposure Reduce Bias?" The Quarterly Journal of Economics 124 (4): 1497–1540.
  • Besley, Timothy, Olle Folke, Torsten Persson, and Johanna Rickne. 2017. "Gender Quotas and the Crisis of the Mediocre Man: Theory and Evidence from Sweden." American Economic Review 107 (8): 2204–42.
  • Chattopadhyay, Raghabendra, and Esther Duflo. 2004. "Women as Policy Makers: Evidence from a Randomized Policy Experiment in India." Econometrica 72 (5): 1409–43.
  • Heath, Rachel. 2014. "Women’s Access to Labor Market Opportunities, Control of Household Resources, and Domestic Violence: Evidence from Bangladesh." World Development 57 (May): 32–46.
  • Heath, Rachel, and Ahmed Mushfiq Mobarak. 2015. "Manufacturing Growth and the Lives of Bangladesh Women." Journal of Development Economics 115: 1–15.
  • Jensen, Robert. 2012. "Do Labor Market Opportunities Affect Young Women’s Work and Family Decisions? Experimental Evidence from India." The Quarterly Journal of Economics 127 (2): 753–92.
  • Luke, Nancy, and Kaivan Munshi. 2011. "Women as Agents of Change: Female Income and Mobility in India." Journal of Development Economics 94 (1): 1–17.
  • Qian, Nancy. 2008. "Missing Women and the Price of Tea in China: The Effect of Sex-Specific Earnings on Sex Imbalance." Quarterly Journal of Economics 123 (3): 1251–85.
  • Rosenzweig, Mark R, and T. Paul Schultz. 1982. "Market Opportunities, Genetic Endowments, and Intrafamily Resource : Child Survival in Rural India." American Economic Review 72 (4): 803–15.
  • 西村和雄・八木匡 2018. 「幸福感と自己決定――日本における実証研究」RIETI DP 18-J-026.
著者プロフィール

牧野百恵(まきのももえ) アジア経済研究所開発研究センター研究員。博士(経済学)。専門分野は開発経済学、家族の経済学。著作に"Dowry in the Absence of the Legal Protection of Women’s Inheritance Rights" (Review of Economics of the Household, 2019) "Marriage, Dowry, and Women’s Status in Rural Punjab, Pakistan" (Journal of Population Economics, 2019) "Female Labour Force Participation and Dowries in Pakistan" (Journal of International Development, 2021)等。

書籍:Dowry in the absence of the legal protection of women’s inheritance rights

書籍:Marriage, dowry, and women’s status in rural Punjab, Pakistan

書籍:Female labour force participation and dowries in Pakistan

【連載目次】

おしえて!知りたい!途上国とSDGs