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コラム

おしえて!知りたい!途上国とSDGs

 
目標2 飢餓をゼロに――現在と将来の世代に十分な食料を供給する

Goal 2 End Hunger: Food Security for Current and Future Generations

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00052901

清水 達也
Tatsuya Shimizu
2022年1月
(3,378字)

10人に3人は十分な食事がとれない

今日、日本に住む多くの人々は、豊かな食生活を楽しむことができます。スーパーでは一年を通して、新鮮な肉や魚、野菜や果物を手頃な価格で買うことができます。外出中におなかが減れば、街中のコンビニで、弁当、おにぎり、サンドイッチなどがいつでも手に入ります。今晩の食事の準備が面倒なら、ファミレスから高級レストランまで、予算や目的にあわせて外食を楽しむことができます。空腹を満たすことはもちろん、栄養、利便性、味などの点において、さまざまな選択肢から選ぶことができます。

しかし、このように豊かな食生活を楽しむことができる人は世界には多くありません。健康な生活を送るために必要な栄養を長期間にわたって摂取することができない状態を飢餓とよびます。国連食糧農業機関(FAO)によると、飢餓の状態にある人は2019年までの約10年間、世界人口の約8%にあたる6億人台で推移してきました。それが2020年には、新型コロナウイルスによるパンデミックにより、約10%の7億6800万人に増えました。このうち、南アジアに3億600万人、サブサハラ・アフリカに2億6400万人が集中しています。現在のペースで行けば、パンデミックによる悪影響を乗り越えたとしても、飢餓に苦しむ人々は2030年までに6億6000万人までしか減らないとFAOは推計しています(FAO 2021)。「目標2:飢餓をゼロに」の達成には、既に赤信号がともっている状態です。

飢餓に加えて、最低限必要な栄養は摂取できるものの、ときどき食べるものが十分になかったり、栄養に偏りがあったり、同じものしか食べられない人まで含めると、世界の3割の人々が食料に困っています。そこから生じる発育障害、衰弱、肥満については、「発展途上国で食料に困っている人はどれくらいいますか?」(IDEスクエア)の記事で詳しく説明しました。

途上国の人々の飢餓を想像するのが難しいという人は、日本ユニセフ協会のウェブサイトにある「南スーダン:壊滅的な飢餓との闘い」の動画を見てみてください。紛争が続く南スーダンで、野草しか食べることができない家族の食生活や栄養状態を紹介しています。少年は「食べるものがないので野草を食べるしかない」と語り、少女は重度の急性栄養不良と診断され、治療食を受け取りました。このような状況をみると、「飢餓をゼロに」という目標を一刻も早く達成する必要があることが理解できるでしょう。

ユニセフの栄養センターで栄養治療食を摂取するジェンティちゃん

ユニセフの栄養センターで栄養治療食を摂取するジェンティちゃん(2020年11月、南スーダン)

© UNICEF/UN0372533/Ryeng

食料へのアクセスの格差

なぜこれほど多くの人が食料に困っているのでしょうか? SDGsの目標2の内容を詳しくみることで飢餓の問題について理解を深めることができます。その内容を整理すると、飢餓や栄養不良を撲滅する(ターゲット2.1、2.2)と、小規模食料生産者の生産性と所得を倍増する(ターゲット2.3)は、食料へのアクセスには大きな格差があり、多くの人々が必要な食料を確保できないという現在の危機に対処するための目標です。一方で、強靱で持続可能な農業を実践する(ターゲット2.4)と、遺伝的多様性を維持し、遺伝資源(農産物などの品種)に誰でもアクセスができ、そこから得られる利益を公平に配分する(ターゲット2.5)は、このままのやり方を続ければ食料供給に問題が生じうるという将来の危機に対処するための目標です

食料へのアクセスの格差についてみてみましょう。FAOのデータをもとに、日本、スーダン、米国における主要な穀物と畜産品の1人あたりの年間供給量をまとめた表1をみてください。穀物の供給量をみると、米国(105キログラム)や日本(138キログラム)よりも、スーダン(158キログラム)が多くなっています。しかし畜産品の供給量、とくに食肉については、米国が圧倒的に多く(122キログラム)、スーダンはわずかです(18キログラム)。

食肉1キログラムを生産するには、その何倍もの穀物を飼料として与える必要があります。この量を飼料要求率とよび、牛肉で11倍、豚肉で6倍、鶏肉で4倍程度です。例えば米国では、37キログラムの牛肉を供給するために409キログラムの穀物が必要になります。主要穀物と畜産品の穀物換算量を合計すると、米国の1167キログラムに対して、スーダンは397キログラムになります。スーダンの人々がアクセスできる穀物は、米国の3分の1程度にすぎません。

表1 穀物と畜産品の供給量

穀物と畜産品の供給量

(注)飼料要求率とは畜産物1キログラムを生産するのに必要な飼料の量。羊肉・ヤギ肉はデータがない
ため、豚肉と同じと仮定した。なお、数字は総数点以下を四捨五入してある。
(出所)供給量はFAOSTAT、飼料要求率は農林水産省(2020: 16)など。
小規模生産者の収穫改善

それでは、飢餓や栄養不良をなくすにはどうすればよいのでしょうか? この問題を理解するうえで鍵となるのがターゲット2.3にある小規模食料生産者です。小規模食料生産者とは、主に家族が持つ土地や労働力を利用して農業生産を行う生産者のことです。途上国の小規模食料生産者の多くは、限られた広さの土地しか所有していません。FAOがとりまとめたデータによると、世界111カ国の生産者のうち、農地面積が小さい1ヘクタール未満の生産者は72%を占めます(Lowder, Skoet and Raney 2016)。そして多くの小規模食料生産者は、生産に必要な種子、農薬、肥料などを買うためのお金や、知識や技術を手に入れることが難しく、わずかな農産物しか作ることができません。図1では、日本、スーダン、米国、そして世界における主要穀物の1ヘクタールあたりの収穫量を比べてみました。スーダンの人が最も多く消費する穀物であるソルガムの収穫量は0.5トンで、米国の4.5トンはもちろん、世界平均の1.4トンと比べてもとても少ないことがわかります。このように、農地の規模が小さいうえに1ヘクタールあたりの収穫量が少ないため、途上国の多くの小規模食料生産者は十分な食料を手に入れることができないのです。

さらに途上国では、農産物の保管や流通のインフラや農産物を売買する市場が整備されていないために問題が生じています。スーダンでは、生産されたソルガムの15%、食肉のなかで最も消費量が多い羊肉の13%が消費者に届くまでに失われています。このために飢餓や栄養不良の問題がさらに深刻になっています。

これらの問題を解決するには、農薬や肥料をそれほど使わなくても収穫量が増加するような技術開発、農業資材を購入する資金を借りやすくする制度、農産物流通のインフラの整備などが求められています。

図1 主要穀物の1ヘクタールあたりの収穫量

主要穀物の1ヘクタールあたりの収穫量

(注)ソルガムは日本ではほとんど作られていないためデータがない。
(出所)国連食糧農業機関データベース(FAOSTAT)。
食料生産の持続可能性

将来の危機についてもみてみましょう。農産物の生産量が増えたことで私たちの食生活は豊かになりました。しかし今日の農業生産は持続可能性という点で大きな問題に直面しているとSDGsは指摘しています。

まず、地球温暖化による気候変動が農業生産に与える影響が懸念されています。私たちはもともと農業に適した土地で農産物を生産してきました。そして農業生産を増やす過程で、それほど農業に適していない土地でも農産物が生産できるように、灌漑設備の建設や農薬の開発などを進めたほか、熱帯雨林を大規模に伐採し農地に転換してきました。しかし近年、干ばつや豪雨などの極端な気象現象の多発や気温の上昇により、これまでと同じやり方では農業生産が難しくなっています。また、熱帯雨林の大規模な伐採は地球温暖化やそれにともなう気候変動を加速させています。

次に多様な遺伝資源の維持とアクセスの問題です。気候変動やそれにともなう未知の病虫害の発生により、現在生産されている農産物の品種は大きな被害を受ける恐れがあります。そのときに頼りになるのが遺伝資源の多様性です。これまでに開発された農産物の品種や、それのもととなった野生の品種などを種子銀行で保存しておき、誰もがアクセスできるようにしておけば、それらの遺伝資源を用いて新たな品種を開発することができます。

このように目標2「飢餓をゼロに」は、食料をめぐる現在と将来の危機に対応するための目標を定めています。ただしこの目標は、農業部門の取り組みだけでは達成することは困難です。写真を示したスーダンでは、長年続く紛争のために人々が苦しんでいます。食料と安全な水の確保や衛生状態の改善はもとより、社会の安定が最重要です。また、途上国の小規模食料生産者が所得を増やすには、農業以外の収入を得ることも有効な手段です。SDGsのほかの目標と一緒に取り組むことが必要になります。

※この記事の内容および意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。

さらに学びたい人へ

世界における飢餓や栄養不良の状況については、FAOが毎年とりまとめている報告書『世界の食料安全保障と栄養の現状(The State of Food Security and Nutrition in the World)』が参考になります。また、世界各国の農林水産業の生産や食料供給に関するデータは、FAO統計資料のサイトFAOSTATから入手できます。

農業や食料供給について経済的な視点から理解するには、生源寺(2018)がおすすめです。世界と日本の食料生産の現状や課題をわかりやすく説明しています。遺伝資源の多様性に興味がある人は、種子銀行を取り上げたドウォーキン(2010)や、多様性の喪失を指摘するダン(2017)をぜひ読んでみてください。

写真の出典

https://weshare.unicef.org/ (© UNICEF/UN0372533/Ryeng)

参考文献
  • FAO 2021. The State of Food Security and Nutrition in the World. Rome: Food and Agriculture Organization of the United Nations.
  • Lowder, Sarah K., Jakob Skoet and Terri Raney 2016. “The Number, Size and Distribution of Farms, Smallholder Farms, and Family Farms Worldwide.” World Development (87): 16-29.
  • 生源寺眞一2018.『新版 農業がわかると、社会のしくみが見えてくる 高校生からの食と農の経済学入門』家の光協会.
  • 農林水産省2020.「知ってる?日本の食料事情2020――食料自給率・食料自給力と食料安全保障」農林水産省ウェブサイト.
  • ドウォーキン、スーザン(中里京子訳)2010.『地球最後の日のための種子』文藝春秋.
  • ダン、ロブ(高橋洋訳)2017.『世界からバナナがなくなるまえに――食糧危機に立ち向かう科学者たち』青土社.
著者プロフィール

清水達也(しみずたつや) アジア経済研究所ラテンアメリカ研究グループ長。博士(農学)。ラテンアメリカの経済開発、農業開発のほか、ペルーの政治経済の動向を研究。おもな著作に、『ラテンアメリカの農業・食料部門の発展――バリューチェーンの統合』アジア経済研究所(2017年)、『次世代の食料供給の担い手――ラテンアメリカの農業経営体』(編著)アジア経済研究所(2021年)など。

【連載目次】

おしえて!知りたい!途上国とSDGs