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「シャリーク」考──イラン企業における資金調達と経営
/ 岩﨑 葉子
イランのビジネスシーンでよく耳にする言葉に「シャリーク(sharīk)」という語がある。その意味するところは「仲間」だが、実業界ではなんらかの事業における「共同出資者」を指している場合が多い。複数名がそれぞれ資金を出し合って、物資輸入や店舗の経営などの事業を行い、その利益をあらかじめ定めた比率ないし額で分け合う。またそうした商売でなくとも、古くなった自宅の建て替えに際して所有者が建築家をシャリークとして迎え、集合住宅への建て替え工事に共同で出資して完成後に建物の一部を建築家がもらって売却する、などの事例が多く見られる。
2024/10/29
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プラボウォ新政権の下でインドネシアの民主主義はどうなるのか?――政権移行期の法案改正の動きと「民主主義の後退」
/ 川村 晃一
インドネシアはいま政権の移行期にある。2024年2月に行われた大統領選挙では、プラボウォ・スビアントとギブラン・ラカブミン・ラカの正副大統領候補が当選を果たし、開票結果に対する対抗陣営からの異議申立も憲法裁判所が却下して、最終的な選挙結果が4月24日に確定した。8月下旬時点では組閣作業はまだ水面下で進められている段階だが、連立与党の組み替えや現ジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)内閣の一部改造など、10月20日の新政権発足に向けた動きが本格化しつつある。プラボウォ新大統領は現職のジョコウィ大統領の支持を全面的に受けて当選したこともあり、政権移行の過程で大きな混乱が発生する可能性はない。
むしろ、ジョコウィとプラボウォ、そして権力に群がる諸政党が、新政権成立後に思いのままに政治をコントロールできるようにしようとする談合が議会で進んでいる。大統領選と同時に選挙が行われた国会(DPR)は、政権発足に先立つ9月末に任期満了を迎える。その任期終了を前に、新政権を構成する与党連合が、執政府の権限を強めたり、権力抑制の機能を弱めたりすることを目的とした法案を次々と上程しているのである。こうした動きは、ジョコウィ政権下でみられた「民主主義の後退」がいまも進行中であることを表している 。本稿では、現在の国会での法案審議を「民主主義の後退」という文脈に位置づけて分析することで、プラボウォ政権下における民主政治がどこに向かうのかを考えてみる。
2024/09/09
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ベネズエラふたたび政治の季節――権威主義体制下の選挙と国際的要因
/ 坂口 安紀
過去10年ベネズエラは民主主義の崩壊、ふたりの大統領が並び立つ政治的混乱、ハイパーインフレと経済縮小、食料や医薬品の欠乏で犠牲者が出る人道的危機、770万人(人口の2割弱に相当)の国外脱出など、複層的な危機下にある。国際社会からはニコラス・マドゥロ(Nicolás Maduro)政権に対する非難が集まり、国際仲裁の動きも活発化した。2019年後半以降はマドゥロ政権がいっそう権威主義的対応を強めたことと反政府派の弱体化により、ベネズエラ政治は混乱したまま約4年間膠着状態に陥っている。
2024/02/28