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論考

メキシコ与党・国民再生運動を揺るがす派閥対立――幹事長選出をめぐる混乱

 

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00051715

2020年5月

(12,825字)

メキシコ、ロペス=オブラドール政権の現在

左派の政治家アンドレス=マヌエル・ロペス=オブラドール(Andres Manuel López Obrador) と、彼が創設した新興の左派政党「国民再生運動(morena)」が、2018年のメキシコ大統領選挙で地滑り的な勝利を収めてから、一年余りが経過した。このロペス=オブラドール政権は、その就任前には、ポピュリスト的であるとか予想がつかないとか様々なネガティブな評価にさらされていたが、一年が経ってから見ると、支持率だけを見る限り、おおむね大過ない一年を過ごしたと言えよう。

もちろん、政権が問題を抱えていないわけではない。それどころか、問題山積である。まず、経済成長が停滞している。というのも、当初はバラマキ政策が危惧されたロペス=オブラドール政権であったが、政権が成立してみると、一転して緊縮財政政策を採用することとなったからである。インフレ率は極めて低く抑えられ、2019年を通しての経済成長率はマイナス0.1%に低迷することなった。今や問題は、むしろ行き過ぎた緊縮財政政策となっているとさえ言われている。加えて、現代のメキシコ最大の懸案である治安の問題も悪化した。殺人事件の発生件数が、2018年から2.5%増加して、2019年には過去最悪の3万4582件を記録したのである。

しかし、経済のゼロ成長や治安の悪化といった問題にもかかわらず、一般の有権者のロペス=オブラドールに対する支持率は、依然として高水準にある。2018年12月に世論調査の平均で79%の支持率から出発した政権が、2020年3月時点でも平均して66%の支持率を維持していることからもそれは明らかであろう。前政権(2012年から2018年)の支持率が就任一年目の2013年12月に45%であったことに鑑みれば、現政権の支持率の高さははっきりとしている。

政権のアキレス腱? 与党・国民再生運動内部での派閥対立

だが、ロペス=オブラドール政権にはアキレス腱もある。政権を支える巨大与党・国民再生運動の党幹事長の選出問題である。なお、本稿が「幹事長」と呼ぶのは、国民再生運動の最高執行機関である「全国執行委員会」のpresidenteを指している。幹事長の他に、「総裁」や「党首」といった訳語も考えられたが、全国執行委員会という常設の最高執行機関の長を指す役職であることから、幹事長という言葉を充てることとした。なお、国民再生運動の実質的な創設者であったロペス=オブラドールは、2017年の自らの大統領選挙出馬とともに国民再生運動の役職を離れている。

新聞各紙で報じられ、関心を集めたメキシコ国民再生運動の幹事長選出問題は、2020年2月21日段階で未だに収束しておらず、与党内に根深い派閥対立が存在することを広く一般に知らしめることになった(例えば、La Jornada 2019/12/30) 。本稿で見ていくように、国民再生運動は強力な与党でありながら、その内部では党のトップである幹事長を選出する党大会を開催することができないだけにとどまらず、有力な党の政治家たちが、様々な決定に対して裁判所に訴える事態となっているのである。

写真:国民再生運動本部

国民再生運動本部

そうした党内派閥対立の激化と軌を一にするように、大統領を支えるはずの国民再生運動に対する支持率は着実に低下している。このことは、世論調査の結果からも明らかである。「明日大統領選挙があるとすれば、あなたはどの政党に投票しますか」という世論調査の質問に対して、2019年3月には51.9%あった国民再生運動への支持は、2019年6月には40%、2019年11月には36.3%まで下落しているのである。先に見たように、ロペス=オブラドールに対する支持率が現在でも70%に達していることに鑑みれば、新興の左派政党・国民再生運動の支持率の大幅な低下は、無視できない現象であろう。もちろん、他の野党の支持率は2019年11月時点で、さらに低い。中道で前政権を担った制度的革命党の支持率は6.7%、中道右派の国民行動党の支持率は7.2%である。この数値だけを見れば、国民再生運動の支持率は依然として高い(El Universal 2019/11/25)。とはいえ、世論調査の結果は、ロペス=オブラドールという政治指導者のカリスマが、彼を支える政党にまで及んでいるものではないことを示している。  

問題は、2019年4月ごろから表面化した国民再生運動の党幹事長選挙をめぐる派閥対立である。2021年にメキシコは中間選挙(連邦下院議員選挙)と地方選挙を控えており、そのために2020年後半からは選挙のための準備を進めなければいけないことを鑑みれば、現段階での国民再生運動執行部人事の混乱は、ロペス=オブラドールと彼のプロジェクトにとって、致命傷になりかねない。そこで本稿では、国民再生運動・全国執行委員会の幹事長職をめぐる党内派閥対立の経緯を紹介してみたい。

国民再生運動の軌跡

国民再生運動は、2014年に結党された極めて若い政党である。ロペス=オブラドールがかつて所属していた中道左派政党・民主革命党内において、ロペス=オブラドールの大統領候補指名を目指して2011年に結成されたグループを国民再生運動は基礎にしている。もともと大統領選挙での候補者指名を受けるために組織された国民再生運動であったが、当時の民主革命党から候補者指名を受けられなかった段階で、ロペス=オブラドールとともに民主革命党を離党し、2014年には新政党として正式に認可され、2015年の連邦下院選挙では大躍進を果たした。

そして、2018年の大統領選挙と議会選挙で大勝し、急速に勢力を拡大したのである。ただし、その急激な勢力拡大の結果として、国民再生運動および政権は、その党内(運動内)に様々な派閥を抱えているといわれる(受田2019: 14)。実際、急激に党勢を拡大したことから、党組織の制度化や組織化も進んでいないと思われる。2018年の政権獲得後には、人材が政府機関に流出してしまったために、州レベル・全国の執行委員会が解体しただけではなく、党の基礎的な執行機関である市町村執行委員会も存在していないという(Delgado 2019b: 22)。

こうした党組織の未整備状態を受けてであろうが、ロペス=オブラドールは「政治教育学校(Instituto de Formación Política)」 と呼ばれる組織の設置を定めているが、未だに積極的に活動をしていない。

党幹事長をめぐる党内対立

それでは、具体的に党幹事長をめぐる争いがどのように展開したかを見ていこう。 事の発端は、2019年11月に当時の党幹事長および党執行部の任期が切れることであった。この党幹事長任期切れまでに、次期党幹事長職を狙うと次の4人が表明していた(Milenio 2019/10/15)。

まず一人目の政治家が、2019年11月に任期が切れるジェイドコル・ポレンスキー(Yeidckol Polevnsky)一般書記(secretaria general)兼・幹事長代行(presidente en funciones)である。ポレンスキー幹事長代行は、当初は党一般書記であったが、2017年にロペス=オブラドールが党幹事長を辞任した後、代行として党幹事長職を務めることとなった。国民再生運動の党則は、党役職者の再選を禁じているが、ポレンスキー幹事長代行は、党幹事長代行が幹事長に就任するのは再選には当たらないとして、幹事長への意欲を見せたのである。なお、ポレンスキー幹事長代行は、そのキャリアにおいてかつて商工会議所(La Cámara Nacional de la Industria de Transformación: CANACINTRA)会頭を務めたこともある。

二人目の有力幹事長候補者が、ベルタ・ルハン(Bertha Luján)である。国民再生運動の「最高実行機関(órgano de conducción)」であり、全国執行委員会の選出も行う「全国評議会(Consejo Nacional)」の議長を務めるルハンは、初期から幹事長選挙に出馬する旨を表明していた。国民再生運動の指導者であるロペス=オブラドールとは20年近くも共に働いてきており、大統領との距離は、そのイデオロギーも含めて最も近いと考えられる。筆者が確認できた限りで、2019年4月には雑誌『プロセソ』の記事中においてすでに、党内に支持があるならば、幹事長に就任する意欲があることを明らかにしている(Delgado 2019a: 18)。

三人目が、マリオ・デルガド(Mario Delgado)である。彼は、国民再生運動の下院院内総務(Coordinador Parlamentario)にして、下院政治調整委員会委員長(Presidente de la Junta de Coordinación Política en la Cámara de Diputados)である。デルガドは、下院議員100人近く、5人の上院議員、50の市長、48人の州議会議員に支持され、党幹事長を目指す旨を2019年7月に表明した。ただし、2020年2月の段階では、党首選挙には勝ち目がないとして党幹事長レースから離脱するとも表明した。今後も幹事長選挙を争うかどうかは不明である。

四人目に取りざたされるのが、アレハンドロ・ロハス(Alejandro Rojas)である。アレハンドロ・ロハスは、上院議員のリカルド・モンレアルの補欠議員であり、雑誌『プロセソ』では、モンレアル上院議員の工作員と呼ばれたこともあった政治家である。幹事長に就任する可能性は低いかもしれないが、アレハンドロ・ロハスが、この党内幹事長選挙にまつわる党内対立を表面化させたのも事実である。2019年4月、アレハンドロ・ロハスがポレンスキー幹事長代行と全国執行委員会の面々によって党が牛耳られていると激しく批判したからである。ポレンスキー体制は、「スターリン主義のにおいがするノメンクラトゥーラ」(体制)だというのであった(Delgado 2019a: 18)。批判を行った当時は上院議員モンレアルの工作員として行動していると考えられていたが、ロハスは独自に幹事長選挙への出馬に名乗りを上げたのである。

何が争われているのか――幹事長になることで得られるもの

この党幹事長選挙は、何を争うものなのか。幹事長にはいかなる権限があるのか。これについては、幹事長候補の一人であるアレハンドロ・ロハスによる指摘が参考になる。すなわち、3年の任期を有する党幹事長は、その任期中の選挙において、党が擁立する候補者に強い影響力を及ぼすことができるとロハスは言う。これは、ロハスによれば、党幹事長は党内の党員名簿を操作できるからだという(Delgado 2019a: 19)。

党員名簿の操作によって、実際に候補者を操作できるどうかはわからない。しかし、候補者選出プロセスにおいて幹事長が重要な役割を果たすというのは確かであろう。実際、イベロアメリカ大学の政治学者フアン=ルイス・エルナンデス=アベンダーニョは、与党として国民再生運動の幹事長には「全国の候補者をコントロールできる可能性がある」と語っている(SinEmbargo 2019/7/8)。この政党の候補者指名権限こそが、党幹事長を争う源泉となっているのだと考えられる。そして、2011年の中間選挙における議員を選ぶことはすなわち、最終的には2024年の次の大統領選挙――ロペス=オブラドールを後継する候補者が誰になるかを決めるにあたっても重要になってくる。なお、メキシコの憲法によって大統領は任期6年で再選禁止となっているため、現行憲法の下ではロペス=オブラドールは大統領に再選されることはない。

実際、党のルールである党則を読む限り、幹事長と全国執行委員会が選挙の候補者指名にあたって有する権限は大きい。具体的には、党幹事長がトップを務める全国執行委員会には、選挙に関連して強力な権限をもつ党の委員会、「全国選挙委員会(Comisión Nacional de Elecciones)」を指名する権限が与えられている(morena 2014: 80, artiículo 45)。

そしてこの全国選挙委員会は、選挙にあたって「外部候補」と呼ばれる形で実質的に候補者を選ぶことができる(morena 2014: 76, artículo 43b-d)。具体的には、連邦下院選挙でいえば、300ある小選挙区については定数の50%の150人まで、200ある比例代表区については定数の33%を上限として、全国選挙委員会が候補者を推薦できる。もちろん、全国選挙委員会が推薦した外部候補者は、さらに全国党評議会の承認を受けることになっているが、それでも、外部候補を選ぶ全国選挙委員会を指名する全国党執行委員会は、議員の候補者選抜にあたって多くの権限を有すると言えるだろう。

そもそも、全国評議会議長であり、今回の幹事長選挙を争うルハン自らが、かつて比例代表枠の3分の1は党執行部(dirigencia nacional)が指名すると述べてもいる(Reforma 2018/2/4)。またルハンは、党内幹事長選挙の実施を引き延ばしているポレンスキー幹事長代行に対する「2021年の候補者を選出するために幹事長ポストに留まろうとしているのか?」という記者の質問に対して、「彼女の行動はそうした結論に導く」と答えている(Delgado 2020)。実際、アグアスカリエンテス州の地方選挙では、全国選挙委員会がその候補者の一部を指名している(El Universal 2019/2/26)。

これらの事実から見ても、幹事長に留まることで、2021年の中間選挙に向けての候補者選出プロセスに大きな影響を与えることができるのだと考えられる。また、党の候補者選出過程こそ、政党内政治の重要な一側面であることは政治学においても広く認められている(Gallagher and Marsh 1988)。

党幹事長選出方法

では、党幹事長の選出はいかにして行われるか。基本的には、二段階の間接選挙である。まず党の基層組織の代表者が全国党大会の代議員を選ぶ。そして、党大会の代議員が、大会において幹事長を含む執行部を選ぶことになる。

党則に沿って、より詳しく見ていくと次のようになる。まず、本来ならば幹事長の選出は3年に一度、連邦選挙後に開催される「全国党大会(Congreso Nacional)」で行われることになっている。この党大会の代議員は、党の基層組織「真の変革の主導者委員会(Comités de Protagnonistas del Cambio Verdadero)」で選ばれた代表が出席して300の小選挙区ごとに開催される「選挙区大会(Congresos Distritales)」で選出される(morena 2014: 54-56, artículo 24-25c)。この全国党大会の代議員は、その後に開催される全国党大会において、まず300人の全国評議会(Consejo Nacional)のうち200人を、互選で選ぶ。投票は普通・秘密・投票箱を利用するとされている。残り100人の全国評議会員は、外国および32の州の執行部が充てられる。最も多くの得票を集めた者が、全国評議会議長となる。現在の全国評議会議長は、党幹事長への意欲を示している前述のルハンである。最後に、300人の全国評議会員の中から、全国執行委員会の委員(Comités Ejecutivo Nacional)を、委員一人ひとりごとに選出する(morena 2014: 64-65, artículo 36-37)。

なお、基本的に国民再生運動の党務とは距離を置いているロペス=オブラドールは、今回の党幹事長選挙にあたっては例外的に介入し、幹事長選出にあたって正規の手続きではなく、世論調査を用いることを提案した。しかしながら、党則は通常の小選挙区の候補者を選ぶ際には世論調査を用いることを定めているが、党幹事長についてはそうした定めはない。従って、党則にないため世論調査を用いた幹事長選挙は行えないとして、ルハンは反対を表明した(Politicomx 2019/9/24)。

党内選挙の実施と混乱による無効化

ロペス=オブラドールによる世論調査を実施すればよいという提案は拒絶され、国民再生運動の全国執行委員会は、2019年8月に党大会の「告示(convocatoria)」を出し、11月23日と24日に党大会を開催することが決定された。しかし、党大会開催に先立って、党大会の代議員を選出しなければならない。この代議員を選挙する「選挙区大会」において、混乱が拡大したのである。

例えば、プエプラ州では当選した代議員が、連邦下院議員などが党内選挙を妨害しているとして直接、批判を加えている(Oronoticias 2019/10/21)。

5%の選挙区大会では、暴力沙汰が発生したとされ、こうした混乱を受けて、メキシコにおいて選挙関連の紛争を扱う「連邦司法権力選挙法廷(El Tribunal Electoral del Poder Judicial de la Federación: TEPJF)」は、党大会の代議員選挙を無効とした。その理由は、党員名簿に不備があるというものであった。連邦司法権力選挙法廷は、2018年8月までに党員申請を出した者の名前を更新した党員名簿を作成し、それを用いるように命じた。他方で、国民再生運動の党員集団は、選挙区大会が行われていない70の小選挙区においても、国民再生運動党執行部は大会の実施を告示するべきだと要求し、さもなければ、選挙不正であるとして、共和国検察庁(Fiscalía General de la República)に告訴すると述べるなど、国民再生運動内部の亀裂が広がった(Forbes México 2019/10/30)。

こうした形で、党内選挙を契機に党内の混乱が広がったことに対して、党とは距離をとっている大統領ロペス=オブラドールは次のように述べ、党をけん制した。「もし私が創設を手助けした政党がだめになったならば、私は離党するだけではなく、(国民再生運動という党の)その名前を変えてほしい」(Gil Olmos 2019: 31)と、離党をちらつかせながら党内問題を解決するよう圧力をかけた。

ここで興味深いのは、メキシコの左派政党・民主革命党との比較である。国民再生運動がそこから生まれてくることとなった、かつてロペス=オブラドールが所属していた民主革命党においても、党内選挙の過程で激しい混乱と、内部での派閥対立が起きていた。たとえば、民主革命党が1990年に実施した第一回党大会では、党員名簿が整備されていないままに党内選挙を行った結果として、党内選挙の敗者がその結果を受け入れないという事態が起きた。その際、党内選挙が紛糾したのは、選挙における比例代表名簿枠の決定が争点になったからである。派閥対立の結果として、民主革命党の決定の正当性は大きく傷つけられることになった(例えばMossige 2013 80)。要するに、かつても、候補者選出の在り方をめぐって、左派政党内部では党内派閥対立が激化していたのである。当然ながら、国民再生運動にもまた、「民主革命党化」しているという批判と危惧が寄せられることになった。

党員名簿の不備の問題

連邦司法権力選挙法廷が党内選挙を無効とした論点は、党員名簿の不備である。急速に勢力を拡大した国民再生運動は、党員名簿に不備があるために、党内選挙を実施することができなかったのである。例えば、ある記事によれば、ポレンスキー幹事長代行は党員が180万、ルハンは党員310万、全国選挙機関の2017年の数字は党員31万9449人としている。政党指導者の語る現段階の党員数と、全国選挙機関が発表した2017年11月までの数値が大きく乖離しているのである(Cambio 2019/8/20)。2017年の公式数字からこれほど党員が増加しているとすれば、党員名簿を更新できなくなっているとしてもおかしくはないだろう。プエブラ州の党員についても、非公式数値では、2万4000から2万9000人、全国選挙機関の数値は9768人と登録されている。ポレンスキー幹事長代行はインタビューで、党内選挙の結果が災厄であったこと、名簿管理に問題があったことを認めた(Gil Olmos 2019: 32)。

再度の党大会招集をめぐる混乱――党幹事長代行と全国評議会議長の対立

その後、2019年11月23日にいったんは再度、党大会の告示を行う旨、ポレンスキーとルハンら党有力者を含む人々の間で協定が結ばれたが、ポレンスキー幹事長代行が結局、反対して党大会を告示できなかった(El Sol de México 2019/11/24)。ポレンスキー幹事長代行は、「連邦司法権力選挙法廷」によって命じられた、2018年8月までに党員申請を出した者の名前を更新した党員名簿を作成し、それを用いて党内選挙を実現するまでは、現行の執行委員会が留まることができる」と言ったとされる(MVS Noticias 2019/11/26)。これをポレンスキー幹事長代行による権力への執着と見たメキシコシティ選挙区選出の上院議員シトラリ・エルナンデスは、SNS上で激しい言葉でポレンスキーを批判するに至った。

ポレンスキー幹事長代行のサインがなければ全国党大会を招集できない。これを受けて、ルハンは別のルートから全国党大会の招集を試みる。2019年11月30日、全国党評議会を招集し、臨時全国党大会を2020年1月26日に招集することを決議した(ルハンのウェブサイト)

こうして、党大会の開催は党員名簿を改善するまで不可能だとするポレンスキー幹事長代行と、全国党大会を開催しようとするルハン全国評議会議長の間の対立は深刻化することとなった。

1月26日臨時全国党大会に向けた紆余曲折

その後も、ポレンスキー幹事長代行は2021年までには党内選挙を実施すると表明するなど、幹事長ポストに事実上、ほとんど無際限に留まる意向を示す。2020年9月には連邦選挙プロセスが始まる以上、早めに幹事長を決める党内選挙を行わなければ、幹事長の交代は不可能となることを見越してのことであろう。ポレンスキー幹事長代行の言い分は、連邦選挙司法法廷は、2020年1月までに党内選挙を実施するよう命じていたが、党員名簿を更新するのには、時間がかかるため、幹事長代行職は自動的に延長されるというものであった(INFORMADOR.MX. 2019/12/24)。

さらに、ポレンスキー路線とその他の候補者の路線で、地方党組織が分裂していく兆候もあった(El Sol de Chilpancingo 2019/12/31)。南部ゲレロ州の州執行委員会は、ポレンスキー幹事長代行にならって、2021年までの現行執行部の継続を提案している。というのは、現行の執行部が事実上、州内での候補者選出にあたっての内部プロセスを行っているからだという。連邦選挙プロセスが始まったら、党執行部選挙は不可能となる。また同様にゲレロ州執行委員会は、「全国選挙委員会」に問い合わせたところ、現行の州執行委員会がその職に留まるという証明書をもらったという。

他の候補者はポレンスキーの2021年まで職に留まるという立場に反論した。ルハンは、1月26日に党全国大会を開催して現行の全国協議会・全国執行委員会がその任に就くか否かを決定、新たな執行部を選ぶ選挙は4月に実施する、党員名簿は2017年段階のものを使用するとするなどの立場を明らかにした(24-horas 2020/1/10)。その後ルハンは臨時全国党大会において、全国選挙委員会をも選挙すると主張(El Sol de México 2020/1/10)。同じく幹事長選挙に名乗りを上げたアレハンドロ・ロハスによって、党大会は全国選挙委員会を任命する権限がないとして連邦司法権力選挙法廷に提訴された(El Universal 2020/1/16)。

こうして、1月26日に臨時全国党大会が開催された(El Universal 2020/1/22)。なお、党大会の開催にあたっても、やはりひと悶着あった。というのも、連邦司法権力選挙法廷は、昨年11月30日に開催され、2020年1月26日に党全国大会の開催を決議した全国党評議会(議長・ルハン)は定足数に達していないとして、無効を命じたからである。そのため、ルハンはさらに別ルートを取り、州執行委員会の3分の2の要求の下で、全国党大会の開催を要求した。党則によれば、州執行委員会の3分の2の要求によっても、党大会の招集が可能であったからである。そのため、昨年の全国評議会の決議が無効であっても、ルハンは有効な臨時全国党大会を開催することができたのである(Expansión Política 2020/1/22)。

臨時全国党大会での暫定党幹事長の就任

この臨時党大会の開催にあたっては、あらたに党大会代議員選挙を行わず、2015年に選出された党大会代議員が招集された(morena Consejo Nacional)。ポレンスキー幹事長代行は党大会を欠席し、大会において幹事長代行の任を解かれた(全国執行委員会一般書記のポストには留任)。そのうえで、当時連邦下院議員のラミレス・クエジャル(Ramírez Cuéllar)が4カ月の任期で暫定党幹事長に就任した(El Universal 2020/1/26)。

これに対して、ポレンスキー幹事長代行は、さらに反発する。暫定党幹事長なる役職は党規約に存在しないこと、クエジャルが下院議員の身分をもったまま暫定党幹事長に指名されたことをもって(国民再生運動の党規約は、公職ポストをもったまま党役職者に就任することを禁じている)、連邦司法権力選挙法廷に訴え出た(Proceso 2020/1/28)。暫定的であるが、幹事長代行と暫定幹事長の二人が並び立つこととなったのである。その後、連邦司法権力選挙法廷は、臨時党大会を有効として、クエジャルが暫定党幹事長に就任することになった。

暫定党幹事長の任期は4カ月である。クエジャルは、世論調査によって新執行部を選出するにあたっての合意を調達することを任務としている(El Heraldo de México 2020/2/19)。

結論と今後の見通し

巨大与党・国民再生運動であるが、その内部対立は深刻である。2021年の中間選挙に向けて、その候補者を選ぶにあたって大きな権限を持つ正式の党幹事長を選出する争いは、未だに解決していない。それどころか、対立する候補が法廷闘争に持ち込むために、党としての意思決定は半ば麻痺してしまった感がある

それでは、新規に党大会を開催して正式な党幹事長を選出することができるか。党員名簿の混乱が著しい現状では、再度、党大会を開催するのもかなりハードルが高いだろう。連邦司法権力選挙法廷は2018年分まで党員名簿を更新して党内選挙を実施するよう命じたが、ルハンは2017年までの党員名簿を用いる旨、発言したことがある。選挙法廷とルハンの意見は一致していないのである。このまま再度、党内選挙を実施したところで、2019年10月のように連邦司法権力選挙法廷によって無効にされる可能性がある。それだけ、急激に勢力を拡大した与党・国民再生運動党組織が直面する党組織の整備の問題は深刻だと考えられる。

ロペス=オブラドールが提案したように、世論調査を用いるというのも一つの手段であろう。一般人を対象にした世論調査を行うならば、党員名簿の不備の問題は回避することができるかもしれない。しかし、党幹事長選出にあたって世論調査を用いるとは党則には明白に書かれていない(小選挙区の候補者を選出するにあたっては世論調査を使うことになっている)。もし幹事長選挙にあたって世論調査を使うとするなら、党則にその旨を書き込む必要があるが、党則を変更するためには、党大会を招集せねばならない。そして、暴力沙汰などを避けて、党員名簿に不備のない形で、その党大会を招集するための代議員選挙を実施するのが、現状では難しいのである。それでも現状では、暫定党幹事長であるクエジャルが、幹事長選出にあたって世論調査を実施する意向である。

その後、クエジャル暫定党幹事長の下で、2020年3月30日に党幹事長を選出する第三回党大会の告示が出された。告示(morena 2020)によれば、党大会において全国評議員の中から、党幹事長および一般書記の立候補者を募り、その後、立候補者の中から世論調査によって幹事長を選出することとなった。こうすることで、党大会代議員が参加する選挙を通じた党幹事長の選出は回避できる。しかし、党大会告示直後、同時にコロナウィルス感染蔓延のため、党大会は状況が落ち着くまで延期とされた。

いずれにせよ、国民再生運動内部の派閥対立は激しいが、大統領であるロペス=オブラドールの支持率は未だに高い。この支持率の高さが維持できるとすれば、ロペス=オブラドールの支持に引き上げられて、今度の中間選挙では国民再生運動は相当の議席を確保できるかもしれない。とはいえ、長期的に見た場合には、国民再生運動内部の派閥対立を抑え込むことができなければ、ロペス=オブラドール政権の目指す大変革は失敗する見込みが高くなるのではないか。今後の成り行きが注目される。

写真の出典
  • 筆者撮影
参考文献

<日本語文献>

  • 受田宏之2019.「希望は残っているのか――メキシコ、オブラドールの大勝から一年を経て」『ラテンアメリカ時報』1428: 12-15.

<外国語文献>

  • Delgado, Álvaro 2019a. "La ruda disputa por el control de morena." Proceso 2216.
  • Delgado, Álvaro 2019b. "Morena, ante el riesgo de "perredizarse." Proceso 2228.
  • Delgado, Álvaro 2020. "Polevnsky quiere hundir el Congreso Extraordinario de Morena." Proceso, 1 febrero, 2020.
  • Gallagher, Michael and Michael Marsh 1988. Candidate Selection in Comparative Perspective: The Secret Garden of Politics. London: Sage.
  • Gil Olmos, Josè 2019. "La Elección interna de morena, "un desastre y una vergüenza." Proceso 2244.
  • Mossige, Dug 2013. Mexico’s Left: The Paradox of the PRD. Boulder: First Forum Press.
著者プロフィール

豊田紳(とよだしん) アジア経済研究所地域研究センターラテンアメリカ研究グループ研究員。博士(政治学)。専門は比較政治学、メキシコ政治。研究テーマは独裁体制下の政治制度・政党組織論。