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論考

2019年

  • 中ロ台頭下のトランプ政権の対キューバ政策とキューバの選択肢 / 山岡 加奈子 トランプ米政権は、2017年6月と2019年6月の2度にわたり、オバマ前政権が緩和した対キューバ経済制裁を再強化した。2017年の制裁強化は、キューバの非民主的政権を支える革命軍に外貨(米ドル)収入を与えないため、という理由であり、キューバの現政権に対する締め付けが主な目的であると説明されていた。しかし2019年の再強化は、キューバのベネズエラ軍・治安維持組織への支援に対する懲戒であると説明されている。 2019/12/18
  • ワンマンショーとしてのモーディー政治――インド総選挙での与党の圧勝と政治プロパガンダ―― / 湊 一樹 2014年5月にインド人民党(BJP)を中心とする新政権が発足して以降、ナレーンドラ・モーディー首相の政治スタイルを評して、「ワンマンショー」(one-man show)という言葉がたびたび用いられてきた。モーディー政権のもとでは、首相(および首相府)があらゆる権限を掌握する一方、大臣には政策の決定権ばかりか担当省庁の人事権さえ十分に与えられず、政府が上げた(とされる)成果はすべて首相の指導力と手腕によるものであるとされ、さらには、首相の方針に異を唱えることは政府・与党内では一切許されないといった点が、「ワンマンショー」という表現の背景にある 。 2019/08/08
  • 流動化する東南アジアの選挙政治 / 川中 豪 世界各国で選挙政治が流動化している。そこには、特定の政治指導者個人に依存する政治のパーソナライゼーション、そして特定の社会の亀裂が強調される分極化という二つの流れが、既存の政治秩序に挑戦するという現象がみられる。東南アジアも例外ではない。 2019/07/24
  • ベトナムの国有企業改革の新局面――どこまで到達したか、何が新しいのか―― / 藤田 麻衣 ベトナムは、1986年に市場経済化を主な柱とするドイモイ路線を採択してからも、国有企業の迅速かつ大規模な民営化は回避する方針を貫いてきた。初期の赤字国有企業の整理の後、改革の中心は株式会社への転換(以下、株式化)へと移行した。だが、その進展は漸進的であり、主要産業の担い手として総公司や国家経済集団と呼ばれる大規模国有企業グループが設立されるなど、国有企業強化の動きもみられた。大規模国有企業グループの多くは国の手厚い支援にもかかわらず競争力を向上できず、2010年頃からはいくつかの企業で深刻な経営上の問題が露呈するに至る。これを契機として、大規模国有企業グループの改革の必要性が叫ばれるも、進捗は大幅に遅れていた。 2019/05/30
  • 工業化・近代化に伴う農村社会変動――ベトナム社会把握の枠組みに関する試論 / 荒神 衣美 本稿は、ベトナム社会全体の変動を理解する前段階として、ベトナムが工業化・近代化期に経験している、農村のなかでの経済的分化という現象について論じようとするものである。 2019/05/14
  • キューバ経済政策の二重基準――ディアスカネル新体制の緩やかな改革 / 山岡 加奈子 2018年4月、キューバの国家元首にあたる国家評議会議長職が、87歳のラウル・カストロから58歳のミゲル・ディアスカネル=ベルムーデスに譲られた。それから1年が過ぎたが、新議長就任後の経済政策を見ると、海外メディアなどで期待されたような経済改革は実施されておらず、革命体制を維持するために非常に保守的な経済政策が引き続き採用されている。 2019/04/23
  • 米中ハイテク摩擦と台湾のジレンマ――JHICC-UMC事件からみえるもの / 川上 桃子 2018年半ば頃から鮮明になった米国と中国の経済的対立には、米国が高率関税の賦課を交渉手段として中国に貿易黒字の削減を迫る「貿易摩擦」としての側面と、ハイテク産業での覇権をめぐる大国間対立から生じる「ハイテク摩擦」としての側面がある。いずれの面での対立も、米中双方と密接な経済関係を持つ東アジアの国々に大きな影響を及ぼすものであるが、なかでも台湾は、ハイテク・エレクトロニクス産業に傾斜した経済構造を持ち、かつ同産業において米中両国と強いリンケージを有するがゆえに、米中間のハイテク摩擦の影響を強く受ける可能性が高い。 2019/04/04
  • 中国の有機農業ビジネス――現代の「四千年農夫」をめざして / 山田 七絵 1909年(明治42年)2月19日、ひとりのアメリカ人農学者が横浜港に降り立った。彼はそこから4カ月半かけて当時の日本、中国、満州、朝鮮各地の農業をつぶさに視察し、帰国後その成果を一冊の著作にまとめた。彼の名はF・H・キング、当時ウィスコンシン大学農業物理学教授の職にあり、農務省土壌管理部部長を歴任した人物だ 。調査旅行の成果は彼の死後、King(1911)として刊行された。著作のなかで彼は、土壌物理学者の曇りのない眼で東アジア農業の特長を見抜いている。四千年の長い農耕の歴史のなかで膨大な人口を養い続けてきた労働集約的な農法、し尿や廃棄物の循環的な利用による地力の維持を高く評価し、当時すでに近代農法による地力の衰えが表れ始めていたアメリカ農業にとっても学ぶべき点が多い、としているのである 。 2019/03/29