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「改革派」と「泥棒政治家」の奇妙な連立――2022年マレーシア総選挙

 

A Bizarre Coalition of ‘Reformers’ and ‘Kleptocrats’: General Elections in Malaysia 2022

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00053559

2023年1月

(12,387字)

不可解な帰結をもたらした第15回総選挙

昨年11月19日に投票が行われたマレーシアの第15回総選挙は、大方の予想を裏切る不可解な帰結をもたらした。欧米メディアから改革派(reformer)と謳われたアンワル・イブラヒム希望連盟(PH)代表が、泥棒政治家(kleptocrat)と蔑まれるアフマド・ザヒド・ハミディ国民戦線(BN)議長と結託して新たな連立政権を立ち上げ、それぞれ正副首相の座におさまったのである。

この選挙では、2020年3月から連立政権を組んでいた、ムヒディン・ヤシン元首相が率いる国民同盟(PN)とBNとが対立し、PHと三つ巴の争いを繰り広げた。いずれの党派も過半数を制することができず、選挙後に連立交渉が行われることになったが、そこでBNとPNが元の鞘に収まるのではなく、長らく敵対してきたPHとBNが組むことになった。なぜこのような連立政権が発足することになったのか。「野合」の極みともいえるこの政権は、はたして持続可能なのだろうか。ここでは総選挙結果と連立形成過程の分析を通じて、アンワル政権成立に至った要因を示すとともに、この政権がもつ強みと弱みの双方を指摘したい。

図1 政党・政党連合間連携関係の変遷

図1 政党・政党連合間連携関係の変遷

(注)BNとPH,PN,GPS,GRSは政党連合。その他の組織は政党。点線の内側は連立与党の加盟組織。
政党、政党連合の正式名称は表1に記載。
(出所)筆者作成。
選挙結果の概要

今回行われたのは、連邦議会下院とプルリス州、ペラ州、パハン州の州議会の選挙である。前回総選挙までは、連邦議会が解散するとまもなくマレー半島部11州の議会が解散し、同時に選挙を行うのが慣例であった。ところが今回は、PHが州政権を握る3州とPNが過半数を占める3州の州議会が解散を見送り、BN政権の5州のうち2州では先に解散総選挙を済ませていたため、下院と同時選挙になるのは上記3州のみとなった。プルリス州ではPNが州政権を獲得する一方、ペラ州とパハン州では連邦と同様にBNとPHの連立政権が成立した。

表1は、連邦議会下院選挙結果の概要をまとめたものである。有権者総数は2117万3638人で、2018年に行われた前回選挙の1494万624人から41.7%も増えた。これは、有権者年齢が21歳から18歳に引き下げられたことと、有権者登録の方式がこれまでの任意登録制から自動登録制に切り替えられたことによる。投票率は73.9%で、2018年選挙の82.3%を大きく下回った。しかし、自動登録制への変更によってこれまで選挙人登録をしていなかった人々が分母に含まれるようになったことを鑑みれば、今回も比較的高い投票率が維持されたといえる。

表1 2022年マレーシア連邦議会下院選挙 政党別獲得議席数・議席占有率・得票率
(2022年11月19日投票,定数222,有権者数21,173,638人,投票率 73.9%)

表1 2022年マレーシア連邦議会下院選挙 政党別獲得議席数・議席占有率・得票率

(注)12月7日に投票が行われたパダンスライ選挙区の結果を含む。マレーシア統一プリブミ党の略称と
して現地メディアはBersatuを用いることが多いが日本の報道ではPPBMで統一されているため後者を用
いた。クランタン州とトレンガヌ州において、PNの選挙戦術上の理由でPAS候補として登録されたPPBM党員5人はPPBM
側にカウントした。MudaはPHに未加盟だが、選挙協力を行うなど加盟政党と同様の
行動を取っているためここではPHに算入した。選挙後、サバPPBMの議員4人が10月初頭に同党を離
党しGRSが直接公認する候補になっていたと主張し始めたが、ここではサバPPBMの党員としてカウントした。
(出所)マレーシア政府官報 P.U. (B) 605-P.U. (B) 620ならびに各種報道をもとに作成。

定数222のうち、マレー半島部の165議席をめぐっては、おもに3つの政党連合、すなわちPHとBN、PNの候補による争いとなった。一方、サバ(26議席)とサラワク(31議席)ではそれぞれの地方政党が中心的存在であり、そこへほぼすべての選挙区に候補を擁立したPHが絡む展開になった。その他の政党や無所属候補のほとんどは泡沫候補である。マハティール・モハマド元首相が新たに結成した祖国運動(GTA)は124人の候補を擁立したものの、供託金の没収を免れるのに必要な得票率12.5%を上回った候補は1人もいなかった。

昨年11月の記事に記したとおり、10月10日に連邦議会が解散した時点では、総選挙の早期実施を強く求めていたBNが優勢と見られていた。しかし解散後に行われた各種世論調査でBNの劣勢が明らかになり、かわって改選前に最大勢力だったPHがさらに議席を伸ばすとの予測が大勢を占めた。ところが実際には、BNが42議席から30議席へと大きく減らしただけでなく、PHもまた91議席から82議席まで減らした。伸びたのはPNであり、39議席から74議席へと予想を超える躍進を遂げた。

各政党連合の内訳を見ると、もっとも議席を増やしたのはPNの汎マレーシア・イスラーム党(PAS)である。PASは改選前の17議席から44議席へと伸ばして、初めて議会内第1党となった。一方もっとも議席を減らしたのは、BNの統一マレー人国民組織(UMNO)である。UMNOは議会内第2党から第5党へと凋落した。

分極化か、与党への信任投票か

第1党となったPASは、「イスラーム国家の樹立」を目標に掲げる政党である。同党のアブドゥル・ハディ・アワン総裁は、かつて「PASが政権をとったら一般法廷を廃止し、イスラーム法廷を全面的に機能させる」と述べて物議を醸したことがある。今回の選挙でのPNの躍進は、PASの党旗が緑を基調とするものであることから「緑の波」と呼ばれている。一方、第2党の民主行動党(DAP)は華人やインド人が主体の非ムスリムの政党であり、PASとは宗教政策などをめぐってしばしば対立してきた。対極的な立場をとるPASとDAPに支持が集まったことを重視するなら、今回の選挙結果をマレーシア社会における民族的、宗教的な分極化の現れと解釈することもできよう。

実際、マレー人有権者と華人・インド人有権者では投票の傾向が明確に異なる。図2は、マレー半島部の165選挙区を対象に、マレー人有権者の比率1と3政党連合の獲得議席数の関係を示したものである。マレー人の比率が低い、すなわち華人、インド人の比率が高い選挙区ではPHが議席をほぼ独占しているのに対し、マレー人の比率が80%以上の選挙区の大半をPNが獲得している。華人・インド人の票がPHに集中する一方、マレー人票はおもにBNとPN、とりわけPNに流れたと考えられる。PHでマレー人が多い選挙区を担当した人民公正党(PKR)と国家信託党(Amanah)は、民族混合区では華人・インド人票の後押しによって善戦したものの、マレー人の比率が7割を超える選挙区では2議席しか取れなかった。他方、PNにおいてマレー人が少ない選挙区を配分されたマレーシア人民運動党(Gerakan)は1議席も取ることができなかった。

図2 選挙区のマレー人比率と主要3党派の獲得議席数の関係

図2 選挙区のマレー人比率と主要3党派の獲得議席数の関係

(出所)表1記載の資料および『星州日報』の選挙サイトにもとづき作成。

では、今回の選挙でPNが躍進したのは、PASの宗教政策に共鳴するマレー人が増えたためなのだろうか。ここで解散前のPNが連立与党の一角を占めていたという事実を重視するなら、異なる見方が成り立つ。マレー半島部では、与党だったPNとBNを合わせた議席数が改選前の77から94へと大幅に増えた。サバとサラワクでも旧連立与党の議席が改選前より増えている。全国的に旧連立与党の議席が増えていることから、2020年3月に成立したマレーシア統一プリブミ党(PPBM)のムヒディン・ヤシンが率いた政権、ならびにその後継者となったUMNOのイスマイル・サブリ・ヤアコブが率いた政権を高く評価する有権者が多かったのだと考えられる。そうしたなかで、マレー半島部の選挙区ではBNとPN、PKRの三つ巴の争いとなったため、与党支持の有権者はPNかBNのどちらかを選ばざるを得なくなった。よってPNとBNへの投票は基本的に与党に対する信任投票であり、与党のなかでPNとBNを比較するならPNがベターと考える有権者が多かったためにPNが議席を増やしたと見ることもできる。

「緑の波」のメカニズム

PN躍進の要因を探るため、マレー半島部における3政党連合間の議席の動きをもう少し詳しく見てみよう(図3)。マレー半島部でPNは、BNの政治家が現職議員を務める選挙区のうち20区で議席を奪った。またPNは、PHが現職の選挙区からも15議席を奪っている。つまりPNは、前回選挙でBNに投票した有権者とPHに投票した有権者の双方から多数の票を獲得したのである。

前回選挙までのBNは独立以来唯一の政権党であり、PHは野党として政権を監視し、ガバナンスの改善を図る役割を担っていた。2020年に発足したPNが今回の選挙でBNとPHの双方から議席を奪取できたのは、BNのオルタナティブとして政府と社会をつなぐ役割を果たすことと、PHのオルタナティブとしてガバナンス改善に努めることの双方を期待されたからではないだろうか。

図3 マレー半島部における主要3党派間の議席移動

図3 マレー半島部における主要3党派間の議席移動

(出所)表1記載の資料にもとづき作成。

BNは、PNからもPHからも2議席ずつしか獲得できていない。与党としてPNよりBNの方が好ましいと考える有権者は大きく減ったといえる。前回選挙にBNのUMNOから出馬して当選した後、マハティール政権期にPPBMに鞍替えした議員が10人いたが、今回の選挙でUMNOはそれらの選挙区をひとつも取り返すことができなかった。

他方PHは、BNからは議席を奪えなかったが、PNから6議席を得ている。ただし、PHはPNの地盤を切り崩したのではない。PH候補に敗れたPNの現職は皆PPBM所属で、うち4人は2020年2月政変を機にPHのPKRからPNのPPBMへと鞍替えした議員である。つまり、PHは元々もっていた議席を取り返しただけである2

ムヒディン政権とイスマイル・サブリ政権は、どちらも宗教に関わる領域で何か目立った新機軸を打ち出すということはなかった。新型コロナウイルス感染症への対応とその後の経済の立て直しに追われた実務派内閣という印象が強い。したがってPNの躍進は、イスラーム化の推進を求める有権者の増加によるものと見るより、改選前の連立政権に対する信任と、汚職裁判の被告であるザヒドが率いるBNの利権体質への忌避感が合わさった結果と見るのが妥当ではないだろうか。

PH-BN連立が成立した経緯

今回の選挙では単独で下院の過半数を制する党派が現れなかったため、選挙後に政党間の連立交渉が行われた。マレーシアでは、国王が「下院議員の過半数の信任を得そうな議員」を自らの判断で首相に任命する[憲法43条(2)(a)]。投票日翌日の11月20日にアブドラ・アフマド・シャー国王は、下院議長に対して政党指導者に連立交渉を促すよう求め、政党指導者に対しては、翌21日午後2時までに誰を首相に推薦するか報告するよう命じた。

連立交渉のキーパーソンとなったのは、BNのザヒド議長である。BNは選挙で惨敗したために新たな連立政権の軸にはなれなかったが、3番手に沈んだ結果、PNとPHによる主導権争いのキャスティングボートを握ることになった。20日の国王声明の後、サラワク政党連合(GPS)代表のアバン・ジョハリが、GPSはPN、BNならびにサバ人民連合(GRS)と連立政権を組むことに合意したと発言した。するとザヒドはこれを否定し、BN議員は自分に連立相手の決定権を委ねたと主張するとともに、規律違反は党籍剥奪を招くと警告を発した。

このときBN議員30人のうち10人は、水面下でPN代表のムヒディンを首相に推薦すると約束していた。PNとGPS、GRSにBNから10人が加われば112人でちょうど過半数に達する3。一方、もしBNが一致してPHと組むことになれば、両党派合わせて112人となる。ザヒドはBN議長、UMNO総裁の立場を利用して、PHとの連立に向けてイニシアティブを発揮する。

11月21日にはアンワルほかPHの幹部とBNのザヒド、イスマイル・サブリ前首相らとの会談が実現する。またBN議員30人のうち26人が集まり、首相推薦の期限延長を国王に求めた。これを受けて国王は期限を24時間延長する。一方PNは、ムヒディンを首相に推す議員112人の宣誓供述書を国王に提出した。この日の午後、BNは幹部会を開いて連立相手について協議するが結論が出ず、夜になってモハマド・ハッサンUMNO副総裁がSNSを通じて「BNは野党として残るべき」との考えを表明するにいたった。

翌22日午前、BNは再び幹部会を開催してPNとPHのどちらも支持しないことを決定し、ムヒディンを首相に推薦したBN議員10人の宣誓供述書の取り下げを国王に伝達した。すると国王は、同日午後にPHのアンワル、PNのムヒディンと会談し、PHとPNが連立するかたちでの挙国一致政府の形成を提案する。国王の提案に対し、ムヒディンは自身が過半数議員の支持を得ていると主張してPHとの連立を拒んだ。国王は同日中に再び声明を出し、翌23日にBN議員30人から個別に意見を聴取すると発表した。

国王の声明を受けて、BNは同日中に改めて幹部会を開いた。その席上で、この日の午後にザヒドが「BN議員はアンワルを首相に推薦する」との内容の書簡を独断で国王に送っていたことが発覚し、会議は紛糾する。結局この場では、議員からの意見聴取の延期を国王に要請することしか決まらず、連立形成の動きは停滞した。

続く11月23日、国王はBN幹部とGPS幹部を王宮に呼び、挙国一致政府に加わるよう求めた。また国王は、翌24日に各州スルタンを集めた特別会議を開催し、首相任命について協議すると発表した。首相が決まらない政治的空白を早急に解消しようとする国王の動きは、膠着した事態を動かすことになる。ザヒドBN議長は、「国王はBN議員に挙国一致政府に参加せよと命じた」と述べ、野党に留まるとした前日の決議は「国王の命に反する」と主張した。UMNOは同日夜から翌24日未明にかけて最高評議会会合を開催し、「BN議員に挙国一致政府への参加を求めた国王の命を支持する」ことと、「PNが主導する挙国一致政府には加わらない」ことで合意した。これはすなわち、「PH主導の政権に参加する」ことを意味すると解釈された4

11月24日午後、国王は他のスルタンとの会合の後、PH代表のアンワルを第10代首相に任命した。その日のうちに首相就任式が行われ、PHの幹部とともにUMNOのザヒド総裁とモハマド・ハッサン副総裁が出席した。国王はアンワルが過半数の支持を得たと判断した根拠を示さなかったが、BN議員が全員一致でアンワルを支持したと見なしたのだろう。首相がアンワルに決まるとGPS、GRSなどが挙国一致政府への参加を次々に表明し、表立ってアンワル支持を拒否するのはPN議員のみとなった。

このように選挙後の連立形成に向けた動きが二転三転した後、問題の早期解決を求める国王の要請によって「挙国一致政府への参加」が正当性を得たために、BNとPHの連立が実現した。しかし、もし投票日の翌日にBN議長のザヒドがPNと再び連立政権を組むことに同意していたら、その時点であっさり決着がついたはずである。PHとの連立に向けて粘り強く事を運んだザヒドこそ、アンワル政権誕生の最大の「功労者」といえる。

では、ザヒドはなぜPNではなくPHとの連立を選んだのか。アンワルが首相に選出された直後、ザヒドはSNSを通じて、「国王の決定が気に入らなかったとしても、逆らってはならない。挙国一致政府を形成せよとの国王の命に我々は従う」とのメッセージを発した5。それ以降もザヒドは、PHと組んだのは国王の命があったからだというポーズをとり続けている6

しかし、ザヒドが自身の権力維持のためにPHに接近したのは明らかである。ザヒドは2021年8月にムヒディンに対する不信任を突きつけ、首相の座から引きずり下ろした。ゆえにもしムヒディンが首相に返り咲けば、何らかの報復を受けるのは必至であった。一方PHは、連立交渉においてBNから副首相を選ぶことを約しており7、PH-BN連立が実現すればBN議長であるザヒドが副首相に抜擢される可能性が出てきた。昨年11月の記事で見たように、ザヒドとアンワルは旧知の仲である。ムヒディン政権下で冷遇されたザヒドは、2020年9月から10月にかけて、連立政権を再度組み替えてアンワルと組もうと試みている8。選挙という絶好の機会を得て、アンワルと組むことによって復権を果たそうするザヒドの試みはついに成就した。

新政権の構成

新たな連立政権には旧連立与党を構成していたBNとGPS、GRSが加わっており、選挙前の政権との連続性が高い。しかし、改選前は野党だったPHの代表が首相になったことから、今回の連立組み替えを政権交代と呼んでも差し支えないだろう。

新内閣の大臣は12月2日、副大臣は同9日に発表された。アンワルは首相を務めるのに加えて財務相を兼任する(表2)。また、BNのザヒドとともにGPSのファディラ・ユソフが副首相に就任した。副首相が2人任命されるのは今回が初めてである。PHが与党になるのは2度目ということもあり、新内閣には閣僚経験者が多い。

表2 アンワル内閣名簿(2022年12月2日発表,同3日就任)

表2 アンワル内閣名簿(2022年12月2日発表,同3日就任)

(出所)各種報道にもとづき作成。

大臣、副大臣ポストの政党間の配分を見ると(表3)、連立与党内の最大党派であるDAPからの大臣の登用が目立って少ない。これは、DAPがPH主軸の連立実現と安定政権の樹立を優先し、閣僚人事をアンワルに一任した結果である。前回選挙後に発足したPH政権ではリム・ガンエン書記長が財務相を務めるなど、閣内におけるDAPのプレゼンスが目立った。そのことがマレー人有権者の離反を招き、補欠選挙での連敗につながったため、同じ轍を踏まないよう配慮したと見られる。

表3 党派間の閣僚ポスト配分

表3 党派間の閣僚ポスト配分

(出所)各種報道にもとづき作成。

一方、UMNOからは大臣6人、副大臣5人が登用され、閣内でPKRに次ぐ勢力となった。しかも国防相、外相などの要職が割り当てられている。閣僚に抜擢されたのは、モハマド・ハッサン副総裁(国防相)のほか、モハムド・カレド・ノールディン副総裁補(高等教育相)、ザンブリ・アブドゥル・カディールBN幹事長(外相)などザヒドと比較的良好な関係にある党幹部である。前政権から引き続き登用されたのはトゥンク・ザフルル・アブドゥル・アジズ国際貿易産業相(前財務相)のみで、前政権期にUMNO内の「閣僚クラスター9」と呼ばれた人々は外れた。アンワル政権成立の功労者であるザヒドの党内の立場に配慮した人選といえる。

アンワル政権は本格政権になり得るか?

選挙運動期間中、PH側とBN側の双方がこの2つの政党連合が連立する可能性を否定していた。選挙結果を受けて態度を一変させた訳だが、長らく対立してきた両者による連立政権は、はたして持続可能なのだろうか。

2018年選挙以降、マハティール政権、ムヒディン政権、イスマイル・サブリ政権と短命政権が続いた。それらと比べた場合、アンワル政権にはいくつか有利な点がある。まず規模が大きい。議会内でアンワルを支持する議員は148人で、定数の3分の2に達した。ぎりぎりで過半数を維持していたムヒディン、イスマイル・サブリとは大きな違いである。

また、PHとBN、GPS、GRS、およびサバ伝統党(Warisan)との間で、議員数に応じて閣僚ポストを割り振ることなど連立に関する基本合意ができている。上記5党派が12月16日に調印したこの文書には、政権の存亡に関わる案件、すなわち首相の信任、不信任に関わる採決と予算案などの採決においては首相を支持するという合意が盛り込まれた。

昨年7月に下院議員の党籍変更を規制する法改正がなされたことも、政権維持に有利に働く。この法改正によって、議員が選挙に当選したときに所属していた政党を離党した場合には議員資格を失うことになった 。2020年2月の政変ではアズミン・アリPKR副総裁らが鞍替えしたことがムヒディン政権誕生につながったが、法改正によって同様の事態が再発するリスクは低下した。

政権の正統性の点では、国王の要請に応えるために連立したという体裁が取れたことは非常に大きい。連立の大幅な組み替えから生まれたムヒディン政権は、有権者の意に反する「裏口政権」だと批判された。アンワル政権も、有権者の意に反するという点では同じである。選挙前に連立はあり得ないと言明していたBNとPHが組んだのだから、少なからぬ有権者が騙されたと感じたはずだ。しかし、国王が挙国一致政府の結成を要請したために、その後になされた連立を批判しづらくなった。新政権側はこの状況を利用し、国王の意向を持ち出して批判を封じる言動を取り始めている11

これらの好条件に支えられて、アンワル政権が5年後の次期総選挙まで存続する可能性は十分にある。しかし当然、この政権には弱みもある。まず、汚職裁判の被告であるザヒド副首相の存在があげられる。アンワルは、ザヒドらと組んで権力を奪取しようと試みた2020年9月の騒動について、あの時は司法に介入しないことをUMNOとの提携の条件としたために首相になれなかったと語っている12。では、今回はどうなのか。ザヒドに無罪判決が出た場合、公正な裁判が行われたと国民は信じるだろうか。あるいは有罪判決が出たとしたらどうか。刑が確定するまでは有罪ではないとアンワルは述べているが、ザヒドに有罪判決が出ても副首相を続けさせるのだろうか。続投させた場合、国民はそれを許すだろうか。逆に有罪判決を理由にザヒドを解任した場合、BNとの連立は維持できるだろうか。結局、判決がどちらに転んでも政権はやっかいな問題を抱えることになる。

ザヒドがUMNO総裁の立場を保てるかという問題もある。UMNOは今年半ばまでに役員選挙を行う予定である。ザヒドら現執行部の指導者は、イスマイル・サブリ前首相に圧力をかけて解散総選挙に持ち込んだあげく、惨敗を喫するという結果を招いた。にもかかわらず、「アンワルやDAPとは提携しない」とした2021年3月の党総会決議をないがしろにして彼らと手を結び、正副総裁がともに閣僚の座を手に入れた。その彼らを、中央役員選挙の投票権をもつ16万人あまりの党地方幹部たちは支持するだろうか。ザヒド派の幹部は総裁選と副総裁選を対抗馬のいない無投票選出にするべく動き始めているが13、もし挑戦者が現れたらザヒドが勝てる保証はない。

さらに、遅くとも今年9月までに行われるマレー半島部6州での州議会選挙がどうなるのかという問題がある。PHとBNの連立を安定的なものにするためには、統一候補を擁立して選挙での競合を避ける必要がある。今回の総選挙では、公示後に候補者が死去したために投票が延期された選挙区が下院選挙で1区、パハン州議会選挙で1区あった。12月7日に投票が行われたこれら2選挙区では、下院選挙ではBN側、パハン州議会選挙ではPH側の候補が辞退を表明して選挙協力が実現した。こうした協力関係を、州議会選挙が実施される6州でまず構築し、次いで全国へ拡大する必要がある。それが不可能だと判明すれば、旧連立与党がそうであったように、その時点で新たな連立与党も深刻な内部対立を抱えることになろう。

選挙戦などでPNからの攻勢を受けたとき、連立与党の結束が揺らぐ可能性もある。今回の連立組み替えによって、与野党間関係は与党側がさまざまな民族政党の連立であるのに対し、野党側はマレー・ムスリムの政党という構図になった。2018年選挙後に同様の状況になった際には、野党のUMNOとPASが結託して人種差別撤廃条約(ICERD)への批准に反対する街頭デモを実施するなど、民族問題を積極的に争点化した。それが一因となって補欠選挙での与党候補の敗北が続き、当時の連立政権は破綻した。

PNはいまのところ、民族問題や宗教問題を煽ろうとする姿勢は見せていない。むしろPASのハディ総裁が同党は過激派ではないと主張したり14、タキユディン・ハッサン幹事長が同党はサバ・サラワクに対して抑圧的な政策を取らないと発言したりするなど15、穏健化をアピールしている。連邦政府の政権党という立場を経験したことで、政権維持には宗教、民族を異にする政党との協調が不可欠だということを認識したのであろう。しかし、この認識がいつまでも続くとは限らない。もし選挙戦などをきっかけに民族問題、宗教問題が重要争点になれば、PH側でマレー人の支持に頼るUMNOはむずかしい対応を迫られることになろう。

最後に、新たな連立政権は有権者を納得させられるのかという問題がある。PHとBNのどちらの側にも、仇敵との連立に抵抗感のある党員、支持者が多数存在するに違いない。12月7日に投票が行われた下院パダンスライ選挙区の選挙では、PH(PKR)の候補がPN(PPBM)の候補に大差で敗れた。前回選挙と比較すると、PH候補の得票率は6ポイントあまり低下した。BN支持票が丸ごとPNに流れただけでなく、前回PHを支持した層の票までPNに奪われた格好である。同選挙区はPHに有利な民族混合区(マレー人比率63%)で、2008年選挙から3期連続でPHが勝利していただけに、PHにとっては手痛い敗北である。今後行われる州議会選挙や補欠選挙でも敗北が続くようなら、各党派内で提携関係の見直しを求める声が出るだろう。アンワル政権は、議員に対する党籍変更規制などのおかげで当面は存続しうるが、PHとBNの奇妙な連立に対する有権者の不信感を払拭できなければ、次期総選挙の先をも狙えるような本格政権となるのはむずかしいだろう。

※この記事の内容および意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。

インデックス画像の出典
  • (左)アンワル首相 United State Embassy of Kuala Lumpur(cropped).(Public Domain)
  • (右)ザヒド副首相 U.S. Department of State(cropped).(Public Domain)
著者プロフィール

中村正志(なかむらまさし) アジア経済研究所地域研究センター主任調査研究員。博士(法学)。専門は比較政治学、マレーシア現代政治。おもな著作に、『パワーシェアリング――多民族国家マレーシアの経験』東京大学出版会(2015年)、『ポスト・マハティール時代のマレーシア――政治と経済はどう変わったか』(共編著)アジア経済研究所(2018年)など。


  1. 選挙区の民族構成データは『星州日報』の選挙サイトによる。
  2. 2018年の下院選挙にPKRから出馬して当選し、後に鞍替えした議員は12人に及ぶ。2022年選挙でPKRは、この12人の選挙区のうち7区で議席を取り返した。うち4つは前述したPPBM所属議員が現職の選挙区、残る3つは2021年に結成されたマレーシア民族党(PBM)に移籍した議員の選挙区である。
  3. パダンスライ選挙区での投票が12月7日に延期されたため、この時点でのPN議員の数は73人だった。
  4. Mohamed Basyir and Luqman Hakim, “GE15: Umno says no to unity government with PN,” New Straits Times, November 24, 2022.
  5. Zahid calls for calm, urges people to respect King's decree on Anwar as PM,” New Straits Times, November 24, 2022.
  6. 12月27日にザヒドは、PNとはマレー・ベルト(マレー人人口比が高い半島北部)で競合することになるのでPNとの連立は害が大きいと考えたとの説明を加えている(Isabelle Leong, “Zahid sees collaboration with PN to be 'harmful to Umno',” Malaysiakini, December 28, 2022)。
  7. GE15: The PH and BN pact unveiled,” New Straits Times, November 23, 2022.
  8. このときアンワルは、自身が過半数議員の支持を得たと国王に訴えたが、誰が支持しているのかを明らかにしなかったため国王は受けいれなかった。ザヒドは表立って自らアンワル支持を表明することはなかったが、「UMNOは所属議員がアンワルを首相に推すのを止めない」と言明した(Sira Habibu, “Zahid: Umno will not stop its MPs from supporting Anwar for PM, The Star, September 23, 2020)。
  9. イスマイル・サブリ前首相、ヒシャムディン・フセイン前国防相、カイリー・ジャマルディン前保健相、アヌアル・ムサ前通信・マルチメディア相ら、ムヒディン政権下で閣僚に登用された者を指す。UMNO内で彼らと対立関係にあったグループは、その指導者がザヒド党総裁、ナジブ元首相ら汚職裁判の被告であったため「法廷クラスター」と呼ばれた。
  10. 自発的な離党ではなく、党から除名された場合には議員資格を失うことはない。しかし、党議拘束違反は除名処分とすることが党規約で定められている場合、党議拘束違反を犯して除名処分を受けた議員は議員資格を失う。
  11. 5党派合意には、信任投票などで首相をしない議員は失職するとの規定が盛り込まれた。この規定は違法だと主張して警察に告発したPN側に対して、ファフミ・ファジル通信・デジタル相は、そのような行為は国王、スルタンの意向に反すると批判した(“Fahmi disappointed with PN Youth's police report against govt,” Bernama, December 19, 2022)。
  12. Hariz Mohd, “Anwar: 'Convincing, formidable, strong' majority failed due to principles,” Malaysiakini, April 19, 2022.
  13. Decision soon on 'no-contest' proposal for top 2 Umno posts - Ahmad Maslan, Malaysiakini, December 26, 2022.
  14. Hadi denies PAS is extremist, confirms MCA, MIC support,” Malaysiakini, November 30, 2022.
  15. PAS assures no oppressive policies, especially in Sabah, S'wak,” Malaysiakini, November 21, 2022.
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