IDEスクエア

論考

ワンマンショーとしてのモーディー政治
――インド総選挙での与党の圧勝と政治プロパガンダ――

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00051448

2019年8月

(25,921字)

ある意味では、党の世界観の押し付けはそれを理解できない人々の場合にもっとも成功していると言えた。どれほど現実をないがしろにしようが、かれらにならそれを受け容れさせることができるのだ。かれらは自分たちがどれほどひどい理不尽なことを要求されているのかを十分に理解せず、また、現実に何が起こっているのかに気づくほど社会の出来事に強い関心を持ってもいないからだ。理解力を欠いていることによって、かれらは正気でいられる。
ジョージ・オーウェル1

2014年5月にインド人民党(BJP)を中心とする新政権が発足して以降、ナレーンドラ・モーディー首相の政治スタイルを評して、「ワンマンショー」(one-man show)という言葉がたびたび用いられてきた。モーディー政権のもとでは、首相(および首相府)があらゆる権限を掌握する一方、大臣には政策の決定権ばかりか担当省庁の人事権さえ十分に与えられず、政府が上げた(とされる)成果はすべて首相の指導力と手腕によるものであるとされ、さらには、首相の方針に異を唱えることは政府・与党内では一切許されないといった点が、「ワンマンショー」という表現の背景にある2

モーディー首相の政治スタイルにこのような際立った特徴があることを示す具体例は、それこそ枚挙にいとまがない。例えば、モーディー政権が発足した途端、それまで気軽に取材に応じていたBJP幹部との接触ができなくなり、何とか連絡の取れたある閣僚がその理由について、「個別にメディア対応するなと首相から命じられている」とこっそり打ち明けてくれたというエピソードは、実に象徴的である(貫洞 2018)3。当然、モーディー首相を正面切って非難する声が政府・与党内から上がることはなく、首相を暗に批判していると少しでも取れるような発言が政権内部から出ると、それだけで大きなニュースになるほどである。一方、制度的な側面に目を向けると、モーディー首相は行政機構へのコントロールを強めるために、グジャラート州首相時代に重用していた官僚を中央行政に異動させ、首相府を中心に枢要ポストに多数配置している(Gupta 2019)。さらに、省庁の局長(Joint Secretary)以上の幹部などを任命する内閣任命委員会(Appointment Committee of Cabinet)の構成と任命に関する手順がモーディー政権のもとで大幅に変更され、その結果、幹部クラスの官僚人事は首相が一手に握るようになった。

このように、一人の政治指導者が絶対的な権力と圧倒的な存在感を誇っているという意味で、「ワンマンショー」という比喩的表現は確かに的を射ている。しかし、それだけではモーディー政権の本質的な特徴を十分に捉えているとはいえないのもまた事実である。なぜなら、モーディー首相の政治スタイルが諸刃の剣であるのは明らかであり、その点を考慮すれば、次のような疑問が生じてしかるべきだからである。つまり、「ワンマンショー」の当事者として、経済改革、雇用創出、農村開発などの政策分野で期待された成果をまったく上げられなかった責任を一身に負わなければならないはずのモーディー首相が、その個人的人気を背景に今回の総選挙で与党を圧倒的な勝利に導くことができたのはなぜなのだろうか。

そこで本稿は、モーディー政権の本質的な特徴の一つとして、権力の維持・拡大を図る狙いから、首相個人のカリスマ性と国民的人気を高めるための情報操作が政府・与党によって大規模かつ組織的に行われているという点を指摘する。具体的には、モーディー首相が絶対的な権力と圧倒的な存在感を誇っているという、比喩的な意味での「ワンマンショー」としてよりも、傑出した政治指導者である「モーディー首相」という作り上げられた架空のキャラクターをモーディー首相という実在の人物が演じる、文字通りのワンマンショー(独り舞台)としてモーディー政治を捉えることによって、政府・与党によるプロパガンダの内容と手法を明らかにする。

写真1 ロンドンのウェンブリー・スタジアムのステージに立ち、現地在住のインド系住民を前に演説するモーディー首相

写真1 ロンドンのウェンブリー・スタジアムのステージに立ち、
現地在住のインド系住民を前に演説するモーディー首相(2015年11月)。
「非政治的」なインタビューの政治性

モーディー政権によるプロパガンダの内容と手法を詳しく論じる前に、おおまかなイメージをつかんでもらうために、一つの具体例を見ていくことにしよう。

2019年4月24日、インドの通信社ANIがモーディー首相への単独インタビューの動画を配信し、その直後から、新聞やテレビなどの主要メディアもインタビューの内容を盛んに取り上げた。総選挙の期間中、モーディー首相はメディア各社から個別にインタビューを受けていたが、そのなかでもANIとのインタビューは特に話題となり、大きな注目を集めることとなった。

実は、これには明らかな理由がある。まず、人気ボリウッド俳優のアクシャイ・クマールが聞き手となり、様々な話題についてモーディー首相に語ってもらうという形式だったこと、そして、番組の冒頭でクマールがわざわざはっきりと断っているように、政治に関する堅苦しいテーマには一切触れない「非政治的」な内容だったこと、という2つの点である。このインタビューでは、「マンゴーはお好きですか」「(マンゴーが好きだとの回答を受けて)どのようにして食べますか」「映画はご覧になりますか」「着る服はご自身で見立てられるのですか」など、かなりくだけた感じの質問がアクシャイ・クマールからモーディー首相へと投げかけられ、誰もが知る二人の間で和やかな会話が交わされた。

しかし、この一見親しみやすい内容のインタビューが、果たして本当に「非政治的」なものだったかというと、それには大きな疑問符がつく。実際、アクシャイ・クマールとモーディー首相のインタビューをある論者は、「(選挙向け)広報の傑作」とまで呼んでいる(Shah 2019)。というのも、人気俳優をダシにして、モーディー首相のソフトな側面を幅広い層へアピールするような映像を選挙期間中に公開することに、政治性があるのは明らかだからである。また、インタビューの聞き手が、『トイレ――ある愛の物語』(Toilet: Ek Prem Katha)と『パッドマン』(Pad Man)という2つの映画に主演したアクシャイ・クマールであったという点も注目に値する。これらの「社会派」作品については、「高揚感を抱かせ、気を紛らわしてくれるようなストーリー展開によって、モーディー政権のプログラムを売り込んでいることを必死に隠そうとしている」(Chowdhury 2019)との指摘があるように、アクシャイ・クマールが現政権にとって都合のよい人物であることは間違いないからである4

さらに、インドの巨大メディアグループであるZee Mediaと通信社のANIという、親BJP的な報道をすることでよく知られる両社が見事な役割分担をしていたという事実からも、「非政治的」なインタビューに色濃い政治性を読み取ることができる。つまり、モーディー首相への質問内容の検討から、インタビューの撮影とその後の番組制作までをZee Mediaが取り仕切る一方、他のメディアが映像を使いやすいよう(つまり、メディア各社を通してより幅広い視聴者や読者にインタビューの内容が行き渡るよう)、通信社であるANIの動画として配信されたと指摘されているのである5

このインタビューに関しては、モーディー政権のあからさまな政治的意図を非難する意見も数多く見られ、その意味でも大きな注目を集めた。例えば、インドの主要テレビ局NDTVの報道番組「Prime Time」でアンカーを務めるラヴィシュ・クマールは、「モーディー首相が『非政治的』なインタビューをするのなら、私たちもそれにならって……」と述べて、番組の冒頭で(アクシャイ・クマールとモーディー首相の会話でも話題になった)マンゴーに関する映像――例えば、マンゴーの早食い大会の模様など――を延々と流し続けるという痛烈な皮肉を放って話題を呼んだ6

ただし、この「非政治的」なインタビューというのは、モーディー政権によるプロパガンダのほんの一例にすぎない。政府・与党による巧妙な情報操作は、テレビや新聞・雑誌をはじめとする既存メディアから、インドで急速に普及しているデジタルメディアまで、あらゆる手段を通して大規模かつ組織的に行われているのである。

架空のキャラクターとしての「モーディー首相」

モーディー政権によるプロパガンダとは、一言でいうならば、「モーディー首相」という作り上げられた架空のキャラクターをモーディー首相という実在の人物が演じるワンマンショー(独り芝居)である。ワンマンショーのストーリーは、「恵まれない境遇を自らの力で乗り越えていった主人公が、強い指導者としてインドを偉大な国へと導いていく」という、きわめてパターン化された筋書きに沿ったものであり、主人公の「モーディー首相」(実際は、その役を演じるモーディー首相)につねにスポットライトが当たり続ける。つまり、政府・与党によるプロパガンダの最大の目的は、傑出した政治指導者である「モーディー首相」という架空のキャラクターのイメージを国民に刷り込み、実在のモーディー首相があたかも「モーディー首相」そのものであるかのように信じ込ませることにある。そして、モーディー首相のカリスマ性と国民的人気を高め、それを梃子にして権力の維持・強化を図ろうというのである。

では、ワンマンショーのストーリーのなかで、主人公の「モーディー首相」はいかなる人物として描かれ、どのような側面が強く打ち出されているのだろうか。さらに、それにはいかなる政治的メッセージと情報操作の意図が込められているのだろうか。主に4つの点を指摘することができる。

第1に、ワンマンショーをドラマチックな立身出世物語に仕立てるために、恵まれない境遇に生まれ育ち、多くの苦労を経験してきたという点が強調される7。モーディー首相が低カーストの貧しい家庭の生まれであり、子ども時代には駅でチャイ(お茶)売りをして家計を支えていたという話は、その真偽のほどは別として、インド人なら誰もが知っているといってよいほど繰り返し語られてきた。また、上記の「非政治的」なインタビューでのやり取りのなかにも、恵まれない出自を思い起こさせるエピソードがさりげなく登場する。例えば、マンゴーについての話の流れのなかでモーディー首相が、「子どもの頃はマンゴーを買うお金がなかったので、木に生っているマンゴーを取って食べていた」と問わず語りに話す場面がある。さらに、靴を買ってもらえないほど貧しい子ども時代だったとか、恵まれない境遇に生まれ育った自分が首相になるとはまったく想像もしておらず、そこそこの仕事に就いただけでも母親は大喜びしただろうなどとも語っている。

ちなみに、「モーディー首相の母」というのは、ワンマンショーに時折姿を現す例外的な登場人物である。これから順を追って見ていくように、政府・与党によるプロパガンダは、モーディー首相を「聖人」かつ「英雄」として祭り上げることに最大の力点を置いている。そのため、ワンマンショーのストーリーに欠けがちな、親しみやすさや現実味といった要素を補うために、「モーディー首相の母」という登場人物に重要な役割が与えられるのである。例えば、モーディー政権のイメージ戦略に関して、「人間的な温かみが必要であると感じられる場合」には、母親の乗った車いすを押すモーディー首相の写真が使われるとの指摘がある(Gupta 2019)。

写真2 2014年総選挙での勝利を母親に祝福してもらうモーディー首相

写真2 2014年総選挙での勝利を母親に祝福してもらうモーディー首相(2014年5月)。

第2に、つねに「刻苦勉励」に励みながら、「清廉潔白」であることを決して忘れず、いざという時には「勇猛果敢」に行動するという、類まれな資質を備えた「聖人」のような人物として描かれる。2014年の前回総選挙の期間中に出版された、『勇敢なナレーンドラ』(Bal Narendra)というマンガは、その典型の一つといえる。モーディー首相の子ども時代を描いたと称するこのマンガについて、ある論者は主人公のモーディー少年がまるで「非の打ち所のない若き聖人」のようであり、その内容があまりにも非現実的であると述べている(Basu 2014)。同様の指摘は、モーディー首相の子ども時代から着想を得て制作されたという短編映画にもそのまま当てはまる。人生の意味を問い続ける求道的な少年が主人公のこの映画は、連邦議会上院で催された試写会で披露され、出席したモーディー政権の大臣たちからは次々と称賛の声が上がった8

モーディー首相の人物像として、「刻苦勉励」「清廉潔白」「勇猛果敢」というイメージを植え付けるためのメッセージは、「非政治的」なインタビューにも随所に織り込まれている。例えば、モーディー首相の睡眠時間がいかに短いかという話題をアクシャイ・クマールが持ち出し、それに本人が答えるという一連のやり取りには、モーディー首相がインドという国にどれだけ奉仕しているかを巧みにアピールする狙いがある。実は、「モーディー首相は1日に18時間から20時間も国のために身を粉にして働いている」という話は、毎日の睡眠時間が3時間程度と極端に少ないという話と対をなして繰り返し語られてきた、ワンマンショーにおける重要な挿話の一つである。例えば、首相府に勤務する親戚から聞いた話として、「モーディー首相は1日平均18~20時間働く」「36時間寝ていなかった」といった内容がSNSに投稿され、それが大規模に拡散したという事例があるが、基本的な事実関係の誤りが含まれている点などから、もともとの投稿が完全な創作であることが強く疑われている9

なお、「聖人モーディー」の人格がどのように形成されたかを物語る際に、青年時代から所属していた民族奉仕団(RSS)で学んだ自己犠牲と自己修養の精神が大きな役割を果たしたことが強調される。これには、ヒンドゥー至上主義団体であるRSSとその過激なイデオロギーについて肯定的なイメージを世間一般に広めようとする意図――つまり、ヒンドゥー至上主義をメインストリーム化しようとする意図――が読み取れる。「非政治的」なはずのインタビューで、モーディー首相がたびたびRSSに言及していたのも、同じような狙いによるものであると考えるのが自然であろう10

第3に、国際社会におけるインドの存在感が飛躍的に増大し、世界から「大国」として認められるようになったのは、モーディー首相の卓越した指導力と手腕によるものであるという点が繰り返し主張される。2019年総選挙のBJPのマニフェストに掲載された次の文章(アミット・シャハ総裁からのメッセージの一部)は、その典型といえる。

「現在、インドは世界第6位の経済規模を誇り、ビジネスのしやすさの点では、世界でも最良の投資先の一つとして台頭してきている。国際社会におけるインドの威信は、独立して以降、これまでにないほどの高まりを見せている。インドは、ナレーンドラ・モーディー首相のリーダーシップのもと、友好国が賞賛し、競争国が尊敬し、敵国が恐れるような国になることができたのである。」(Bhartiya Janata Party 2019, p.6)

このような主張には、モーディー首相がわずか5年間でいかに歴史的な変革をインドにもたらしたかをアピールしようという狙いだけでなく、インドが「大国」になったと強調することで国民の自尊心をくすぐりつつ、「大国インド」を「偉大なモーディー首相」へと巧みにすり替えようとする狙いも透けて見える。とはいうものの、インドが経済や外交の面で世界各国から重要視されるようになってきたのは、この20年ほどの一貫した流れであり、過去5年間だけの話ではないことはいうまでもない。そのため、インドの国際的地位がにわかに上昇したのはひとえにモーディー首相のお陰であるという、現実離れした議論をもっともらしく聞こえるようにするためには、何らかの印象操作が必要となる。

モーディー政権が経済面でのインドの大国化をアピールする際に、国際機関などによる経済統計やインド経済への評価を恣意的に利用しようとする姿勢が顕著である理由は、まさにこの点にある。つまり、モーディー政権に都合のよいものは熱心に喧伝するが、そうでないものは徹底的に無視するという、非常に極端な対応が取られるのである。例えば、世界銀行が公表する国別ランキングでも、インドの順位が近年上昇している「ビジネスのしやすさ」(Ease of Doing Business)指標については、モーディー政権の経済改革の成果であるとして盛んに言及する(上記の引用文でも触れられている)が、それとは対照的に、157カ国中115位とインドが下位に沈んだ「人的資本指標」(Human Capital Index)については、政府として結果を「無視することに決定した」と明言している11

また、政権を引き継いだ2014年の時点では、インド・ルピーが「フラジャイル・ファイブ」(脆弱な新興国通貨)の一つに数えられるほど経済状況が悪かったが、「モーディー政権は5年のうちに、世界の主要国のなかで最も急速に経済成長し、マクロ経済が安定した光り輝く場所へとインドを変えた」(Bhartiya Janata Party 2019, p.17)というのも、インドの大国化をアピールする際の定型化した語りのパターンである(ちなみに、この「光り輝く場所」というのは、国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事がインド経済について言及する際によく使っていた表現であり、最近では、国際機関のお墨付きを得たといわんばかりに、政府・与党関係者が盛んに「二次利用」している)。実際には、この数年間にわたってインドのGDPの数値や推計方法に次々と疑問が投げかけられ、中国を追い越してインドが世界で最も経済成長率の高い国になったという主張の信憑性が揺らいでいるが、この点についてもモーディー政権は無視を決め込んでいる12

第4に、国民を守るためにつねに決然と行動する「強い指導者」というイメージが強く打ち出される。その際に、印象操作をより効果的なものにするために強調されるのが、国民の安全を脅かす「敵」の存在である。例えば、パキスタンから越境してきたテロリスト、国内のイスラム過激派、周辺国から流入した「外国人」(具体的には、バングラデシュから不法入国してきたイスラム教徒)などは、インドに安全保障上の脅威をもたらす「敵」として位置付けられ、その差し迫った脅威が煽り立てられる。今回の総選挙で与党BJPは、マニフェストの最初の節を「国家第一」(Nation First)という項目にあて、「この5年間、モーディー首相の決断力溢れるリーダーシップのもと、インドの安全保障の枠組みは抜本的な変化を遂げた」(Bhartiya Janata Party 2019, p.11)と成果を主張する一方、上記の「敵」の脅威から国民を守るためには、モーディー政権による安全保障への取り組みの継続とさらなる前進が必要であると訴えている。

しかし、イスラム教徒を標的とした集団的暴行や組織的迫害がモーディー政権下で一気に深刻化していることを考えると、このような「敵」の設定に基づく安全保障政策には、イスラム教徒に対する偏見や敵愾心を助長することで、多数派のヒンドゥー教徒からの支持を固めようという政治的狙いがあるのは明らかである13。今回の総選挙でBJPは、国民の安全を守ると訴えつつも、イスラム教徒を狙った爆破テロ事件に関与したとして起訴されているヒンドゥー至上主義者(マディヤ・プラデーシュ州のボーパール選挙区で当選を果たしたプラギャー・タークル)を候補者として擁立しており、「敵」というものがいかに都合よく設定されているかが一目瞭然である。

モーディー政権がターゲットにするもう一つの「敵」が、一般市民を搾取し続けてきた「腐敗したエリート層」である。つまり、「クリーンな一般市民」を「腐敗したエリート層」に対置させたうえで、政府・与党は一般市民の味方であるという政治的レトリックが用いられる。その一つのクライマックスといえるのが、「腐敗したエリート層」が不正に貯め込んでいるブラックマネーを根絶することを旗印に、2016年11月8日に突如として発表された高額紙幣の廃止措置である14。さらに、総選挙の投票開始まで1カ月を切った2019年3月中旬、モーディー首相は、腐敗した特権階級から庶民を守る「ガードマン」(Chowkidar)に自らを擬し、国民にも「ガードマン」として反腐敗キャンペーンに加わるように訴えるメッセージをツイッターの個人アカウントに投稿した。

「あなたのガードマン(引用者注――首相自身のこと)は、強い意志を持って国のために奉仕しています。でも、私は一人ではありません。腐敗、汚職、社会悪と戦っている人は誰もがガードマンなのです。インドの発展のために力を尽くしている人は誰もがガードマンなのです。いま、すべてのインド人が#MainBhiChowkidar(引用者注――ヒンディー語で「私もガードマン」を意味するハッシュダグ)と声に出しています。」15

さらに、このツイートが投稿された翌日、モーディー首相は自身のアカウント名を「Narendra Modi」から「Chowkidar Narendra Modi」に変更し、BJP関係者や支持者もそれにならって、アカウント名に「Chowkidar」を付けるという前代未聞のキャンペーンが、ツイッターを舞台に展開された。

このように、国民の安全を脅かす「敵」の存在とその脅威を強調することによって、「強い指導者」としてのモーディー首相をアピールするというやり方は、あらゆる公的議論を善悪二元論的な単純化されたストーリーへと落とし込み、モーディー政権の政策を批判したり、疑問を差し挟んだりする主体に対して、「敵」を擁護している、さらには、「敵」そのものであるという主張を可能にする。実際、(大きな成果を上げたとモーディー政権が主張する)パキスタンに対する越境空爆の実態について疑問を差し挟んだり、高額紙幣の廃止がインド経済に多大な悪影響を及ぼしたと批判したりする意見は数多く上がったが、政府・与党側は、「そのような反インド的な非難をするのは非国民である」と逆に反撃し、疑問や批判に一切答えようとしないというのが一つのパターンになっている。

一方通行の情報発信、応答と議論の軽視、メディアの監視と抑圧――ワンマンショーの舞台裏

政府・与党によるプロパガンダは、「モーディー首相」という架空のキャラクターをモーディー首相という実在の人物が演じるワンマンショーとして捉えることができるという点をこれまで述べてきた。つまり、ドラマチックな立身出世物語のような筋書きに沿って、傑出した政治指導者としての「モーディー首相」のイメージが繰り返し強調されると同時に、インドがより偉大でより安全な国になったことを「モーディー首相」の登場に重ね合わせることで、歴代の会議派政権の「悪夢」を乗り越えて新たに生まれ変わったインド――現政権のスローガンの一つである「新しいインド」(New India)――が強烈にアピールされるのである。

では次に、プロパガンダの内容(ワンマンショーのストーリー)があたかも現実であるかのように国民に信じ込ませるために、モーディー政権がどのような情報操作の手法を用いているのかを検討してみよう。政府・与党は、都合のよい情報やメッセージを国民に向けて直接かつ一方的に発信することに(おそらく、実際の政策と同程度かそれ以上に)力を入れており、そのためにあらゆる媒体を活用している。具体的には、「心のメッセージ」(Mann ki Baat)と題した月例ラジオ講話、高額紙幣の廃止や人工衛星の破壊実験などの重要政策に関する首相のテレビ演説、SNSをはじめとするデジタルメディアによる発信などが含まれる。そして、前節で説明したストーリーに沿った情報やメッセージを組織的に発信するために、数名の特別官を中心とする専門チームが首相府内に置かれ、表舞台には決して姿を現すことのない裏方としてワンマンショーを取り仕切っている(Gupta 2019)。さらに、草の根レベルには、SNSやスマートフォン用アプリWhatsUpなどを使ってプロパガンダ活動を行う実働部隊がおり、その規模は120万人にも及ぶといわれる(Freedom House 2019)。この「サイバー部隊」によって、政府・与党に都合のよいフェイクニュースや特定の宗教・カーストへの反感を煽るメッセージ(例えば、イスラム教徒を標的としたヘイトなど)がBJPとは無関係の組織を装って大量に流されている16

写真3 モーディー首相による月例ラジオ講話「心のメッセージ」のイメージ画像

写真3 モーディー首相による月例ラジオ講話「心のメッセージ」のイメージ画像。「公共ラジオを通して、首相が『心のメッセージ』を市民と共有します」という一文が付されている。「ポピュリスト」と称される政治指導者が自らの番組を持ち、一般市民と直接つながっているとアピールするのは、それほど珍しいことではない(Müller 2016)。

モーディー政権および首相個人による情報発信の際立った特徴としてよく指摘されるのが、デジタルメディアの活用に特に力を入れているという点である。その成果はSNSのフォロワーの多さにも表れており、首相の個人アカウント(@narendramodi)と首相府のアカウント(@PMOIndia)のフォロワー数は、ツイッターでそれぞれ4884万と2972万、フェイスブックでそれぞれ4364万と1369万にも達している。また、ツイッターやフェイスブックほどは活用されていないが、インスタグラムのモーディー首相の個人アカウントには2490万ものフォロワーがいる(いずれも2019年7月末時点の数字)17。SNSの他にも、モーディー首相の公式アプリ「NaMo App」や複数のウェブサイトが設けられており、モーディー政権が情報発信のためにデジタルメディアを最大限に活用していることがうかがえる。なお、SNSやアプリによる情報発信は、各種イベントでの首相の演説やラジオ講話などの事前告知だけでなく、過去の映像や音声のリンク先への誘導にも使われており、デジタルメディア以外の従来型の情報発信を補完する役割も果たしている。

プロパガンダを目的とした情報発信は、2019年総選挙の直前や期間中に一層盛んに行われた。具体的には、上述の「非政治的」なインタビューに加えて、モーディー首相の選挙演説の映像などを一日中放送する衛星チャンネル「NaMo TV」が突如として登場したり、モーディー首相の半生を描いた伝記映画(を自称する)『首相 ナレーンドラ・モーディー』(PM Narendra Modi)の公開が発表されたりするなど、政府・与党による選挙プロセスへのあからさまな介入が頻発し、政治的にも大きな問題となった(Ahmad et al. 2019)。

「NaMo TV」は総選挙の直前にBJPの出資によって立ちあげられ、プロパガンダの役目を果たし終えたためか、選挙終了とともに突然その姿を消した。BJPのシャハ総裁やジェートリ財務大臣(当時)など、BJPの主要メンバーが取り上げられることもあったが、(その名の通り)モーディー首相に焦点を当てた番組を主に放送していた。また、「NaMo TV」にはエンターテインメント的な要素もあり、ある日の放送では、モーディー首相の子ども時代から着想を得て制作された短編映画とアクシャイ・クマール主演の『パッドマン』という、前節にも登場した2本の映画が放送されていた18

一方、『首相 ナレーンドラ・モーディー』については、総選挙の第一回目の投票日(4月11日)に合わせて公開することが当初予定されていたという点だけでなく、多くの映画評論家が指摘しているように、モーディー首相を異常なまでに美化する内容があたかも「聖人伝」(hagiography)のようであるという点から見ても、この「伝記映画」に政治的意図が込められていることに疑問の余地はない。さらには、チャイ売りをしていた貧しい少年時代や母親についての描写、カシミール地方を手放さないパキスタンを「ぶっつぶす」という愛国心を煽るセリフ、「(モーディーは)賄賂を一切受け取らず、寝ずに働き、我々にもそれを求めるので気が狂いそうだ」と閣僚が不平を漏らす場面など、ワンマンショーについての前節の指摘を裏書きする要素を映画のなかに容易に見つけることができる19

なお、総選挙に影響を及ぼす可能性があるとして、選挙委員会が選挙期間中の公開を差し止めたため、『首相 ナレーンドラ・モーディー』の上映は総選挙の終了を待たなければならなかった。プロパガンダ映画の限界というべきか、そもそも映画としての出来がよくないと低評価を下す専門家が多かったが、そのなかでも特筆に値するのが、モーディー政権によるプロパガンダの本質を見事に突いた、以下の評である。「2時間15分の上映時間中、あなたはヴィヴェーク・オベロイ(引用者注――モーディー首相の役を演じた主演俳優)と我らが首相をつねに比較して、おそらくモーディーの方が役者としては優れていると思うことになるだろう。」20

モーディー政権は、あらゆる手段を使って政府・与党に都合のよい情報やメッセージを大規模かつ組織的に発信する一方、プロパガンダがより効果を発揮するよう、ワンマンショーに水を差す要素を徹底して排除することにも余念がない。具体的な手法としては、以下の2点があげられる。

第1に、批判・疑問への応答や討論などの双方向的コミュニケーションを可能な限り回避しようとする。モーディー政権のこうした姿勢は、情報発信についての積極性とはあまりにも好対照をなしており、そのために、現政権の政治コミュニケーションは「一方通行」であるという揶揄が絶えない(Gupta 2019; Palshikar 2019; Philipose 2017)。この点をもっともよく象徴するのが、「勇猛果敢」なはずのモーディー首相が、政権一期目の5年間で記者会見を一度しか開かなかったという事実である。さらに、この唯一の記者会見というのも、今回の総選挙の終了直前になって開かれたものであり、モーディー首相が10分あまり一方的に話しただけで、質問は一切受け付けない(その代わり、シャハ総裁が質問に答える)という名ばかりの記者会見だった。

また、モーディー首相は、メディア各社から個別にインタビューを受けることがよくあるが、質問内容は政府側からの事前チェックを経なければならないため、厳しい質問が首相に直接ぶつけられることはなく、質問に対する回答もあらかじめ用意されているといわれる21。つまり、インタビューが丁々発止の議論の場になることは決してなく、実質的にはモーディー首相が一方的に自説を述べるだけの場になっているのである。実は、日印首脳会談で訪日する直前に、日本メディアの現地特派員との間で行われる共同インタビューも事情はまったく同じである。例えば、2014年の首相就任後初の訪日前に行われたインタビューでは、日本メディアからの質問は一つに制限されたうえに、それに対するモーディー首相の回答も肝心な点には一切触れない不十分なものであり、「実質的な内容のある発言は一つも得られなかった」(貫洞 2018)。日本メディアの複数の特派員から筆者が聞いたところによると、2016年に日印首脳会談で訪日する直前に行われたインタビューも同様であり、さらに、2018年の訪日直前には、NHK、読売新聞、共同通信の3社のみがモーディー首相へのインタビューを許され、インドに支局を置く他社は排除される形となった。

第2に、モーディー政権は既存メディアを組織的に監視しており、「非友好的」なメディアには様々な圧力を加えている。BJPは数百人規模のメディア監視部隊を設け、新聞記事、ニュース番組、ジャーナリストのツイッターを監視し、それらを「親BJP」「反BJP」に分類している(Mishra 2018)。また、政府内にも、24時間体制で全国のニュースチャンネルを監視し、報告書を毎日作成するメディア監視部隊が置かれている(Bajpai 2018a)。そして、モーディー政権に批判的な内容を報じるメディアやジャーナリストには、「非友好的」な報道を慎むよう政府筋から「助言」が与えられ、それでも批判的な報道が続く場合には、様々な圧力が加えられていく。そのなかには、(1)テレビ番組やメディアが主催するイベントなどへの政府・与党関係者の出演拒否、(2)政府広告や政権に近い企業・団体の広告の引き上げ、(3)オーナーなどのメディア関係者に対する税務当局の家宅捜索、(4)視聴者がテレビ番組を観れないようにするための衛星電波の妨害、といった手法が含まれる22

その他にも、モーディー政権に批判的な内容や政府・与党に都合の悪い事実を報じたジャーナリストが、SNSなどで頻繁に「荒らし」(troll)の被害に遭ったり、殺害予告を受けたりする事例が数多く報告されている。興味深いことに、このような荒らしを働く者のなかには、ツイッター上でモーディー首相にフォローされている一般人が少なからずおり、首相の承認(フォロー)が一般の支持者を荒らしへと駆り立てているのではないかという見方もある。つまり、モーディー首相は、批判的なジャーナリストを攻撃するための手段としてもツイッターを活用しているというのである23

メディアに対する厳しい監視と抑圧の結果、モーディー政権の成立以降、政府に批判的な報道をメディアが控える風潮が急速に強まっている(Dev 2018; Freedom House 2019; Ninan 2019)24。この点を裏書きするように、代表的な民主主義指標の一つである「多様な民主主義(V-Dem)指標」によると、インドでは2014年以降、「メディアによる自己検閲」と「印刷媒体・放送における政府批判」のスコアが急速に悪化している(図1)。

図1 「メディアによる自己検閲」と「印刷媒体・放送における政府批判」のスコア

図1 「メディアによる自己検閲」と「印刷媒体・放送における政府批判」のスコア

(出所)V-Demのデータ(https://www.v-dem.net/en/analysis/CountryGraph/)を使って筆者作成。
(注)1970~2018年のインドにおける「メディアによる自己検閲」(Media self-censorship)と「印刷媒体・放送における政府批判」(Print/broadcast media critical)のスコア(ともに0から3の間の値を取る)の推移を示している。近年のスコアの低下は、メディアが政府・与党を忖度する傾向が強まったことを示唆する。
そして、ワンマンショーは続く――二期目を迎えるモーディー首相

今回の総選挙では、選挙委員会が投票を見送った1つの選挙区を除く542議席について、2019年4月11日から5月19日にかけて7段階に分けて投票が実施され、5月23日に一斉に開票が行われた。結果は、苦戦が予想されていた与党連合の圧勝であった。2014年の前回総選挙で282議席(得票率31.3%)を得て第一党に躍進したBJPは、21議席増となる303議席(得票率37.4%)を獲得して再び過半数を超え、政権を維持することとなった。これとは対照的に、5年前に歴史的惨敗を喫した会議派は、前回の44議席(得票率19.5%)をわずかに上回る52議席(得票率19.5%)を獲得するにとどまり、ラーフル・ガンディー総裁は地盤としていた選挙区でBJP候補に敗れた。また、特定の州で大きな影響力を誇り、連合政治の時代には中央政治でも重要な役割を果たしていた地域政党は、退潮がさらに鮮明となった。つまり、今回の総選挙は、BJPによる「一党優位体制」という新たな段階をインド政治が迎えようとしていることを印象付ける結果となったのである25

選挙戦においてBJPは、モーディー首相という指導者個人に焦点を当てた「大統領選挙型の選挙キャンペーン」(Palshikar, Kumar and Shastri 2019)を展開し、BJPのその他の主要リーダーはもちろんのこと、党の存在さえもかすんでしまった。実際、BJPの選挙マニフェストは、「この5年間でインドが著しい前進を遂げることができたのは、モーディー首相の卓越した指導力と手腕によるものである」という筋立てで貫かれており、「BJP」という党名よりも「モーディー」という個人名への言及回数の方が多いほどであった26。また、マニフェストの表紙を前回と今回の総選挙で比べてみると、首相候補のモーディーを中心にBJPの主要リーダーの顔がずらりと並んでいた前回とは異なり、今回はまさにモーディー首相の独壇場というべきデザインの表紙になった。

モーディー政権による大規模かつ組織的なプロパガンダが、総選挙でのBJPの圧勝にどれほど貢献したのかを知ることは容易ではない27。しかし、ワンマンショーのストーリーに沿うような形で、一人の政治指導者に最大限の焦点を当てた選挙キャンペーンを与党が展開したという点は、すでに述べたとおりである。そして、モーディー首相の個人的人気がBJPの圧勝を大きく後押ししたことも確かである。例えば、発展途上社会研究センター(CSDS)が行った出口調査の結果によると、総選挙で与党候補に投票した有権者(特に若年層)の多くは、投票先を決めた理由として首相個人に対する評価をあげている。さらに、BJPに投票した有権者の3分の1が、もしモーディー首相が与党連合の首相候補でなかったならば、他の政党に投票していたと回答している(Shastri 2019)。

以上の点を踏まえると、「モーディー首相」という架空のキャラクターをモーディー首相という実在の人物が演じるワンマンショーは、一方通行の情報発信、応答と議論の軽視、メディアの監視と抑圧を伴いながら、今後も続いていくことが予想される。ただし、首相が売りにしてきた経済の分野では、最近になって多くの関連指標が悪化傾向を示しているように、政府・与党によるプロパガンダには一分の隙もないわけではない。モーディー政権は、「新しいインド」というスローガンの一環として、インド経済を5年で「5兆ドル経済」にするという野心的な目標を掲げているが、GDP成長率の減速がますます鮮明になっている現状では、「5兆ドル経済」の達成はかなり厳しいという見方が一般的である(Reddy 2019)。それに対してモーディー首相は、2019-20年度予算案の発表直後に、このような後ろ向きの見方は「プロの悲観主義者」がすることであり、「彼らは庶民とはまったく異なる人種である」と(例によって)自らを庶民の側に置いて「敵」を非難した28

このような政治的レトリックを駆使しただけの反論がどこまで通用するかは、ワンマンショーが現実ではないということにどれだけ多くの国民が気付くかという点に大きくかかっている。したがって、BJPの台頭の前にますます存在感を失いつつある野党勢力は、モーディー政権とは異なる政策の方向性を明確に示すだけでなく、政府・与党によるプロパガンダへの対抗策を打ち出すことが同時に求められている。特に会議派にとって、これは避けて通ることのできない喫緊の課題である。

政府・与党は、ワンマンショーのストーリーをもっともらしく聞こえるようにするために、独立後のインド政治の中心を占め続けてきた会議派とその屋台骨であるネルー・ガンディー家を徹底的に貶める戦略をとってきた。つまり、「モーディー首相」による「新しいインド」をより輝かしいものに見せようという狙いから、「会議派を牛耳ってきたネルー・ガンディー家」による「古いインド」という負のイメージで独立後の歴史を塗り固めたのである29。「2014年の総選挙で、強く決断力のある政府を求めて国民が投票してくれたおかげで、50年に及ぶ王朝支配(引用者注――ネルー・ガンディー家のメンバーが首相の座に就くことが多かった会議派政権)が残した最大の欠陥のうちのいくつかを、私たちはわずか5年で解決することができた」(Bhartiya Janata Party 2019, p.4)という、モーディー政権が繰り返してきた主張に対して、会議派がより説得力のある政治的議論の枠組みを提示できるかどうか、「世界最大の民主主義」の真価がいま問われている。

付記
本稿は、2019年5月18日に東京外国語大学本郷サテライトで行われた、2019年度第1回FINDAS研究会「インド メディアの現場」での報告に基づいている。有益なコメントをしてくださった、研究会参加者ならびに佐藤宏、拓徹、中溝和弥の各氏に感謝の意を表したい。
写真の出典
  • 写真1:Prime Minister's Office, Government of India, Indian Prime Minister Narendra Modi at the Wembley Stadium, London, via Wikimedia Commons[Government Open Data License - India (GODL)(https://data.gov.in/sites/default/files/Gazette_Notification_OGDL.pdf)].
  • 写真2:Prime Minister's Office, Government of India, Shri Narendra Modi seeks blessings from mother after victory in 2014 Elections, via Wikimedia Commons[CC-BY-SA-2.0(https://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.0/deed.en)].
  • 写真3:Prime Minister's Office, Government of India, Prime Minister’s ‘Mann ki Baat’ on All India Radio, via Wikimedia Commons[CC-BY-SA-2.0(https://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.0/deed.en)].
参考文献
  • 貫洞欣寛 2018. 『沸騰インド――超大国をめざす巨象と日本』白水社。
  • 中溝和弥 2019. 「モーディーはなぜ圧勝したか――2019年インド総選挙の分析と展望」『世界』、2019年8月号。
  • 湊一樹 2019. 「『世界最大の民主主義』はどこへ向かうのか――2019年インド総選挙(後編)」『IDEスクエア』、2019年4月。
  • Ahmad, Salahuddin et al. 2019. "Crisis of Credibility." Economic and Political Weekly 54(15).
  • Andersen, Walter K. and Shridhar D. Damle 2018. The RSS: A View to the Inside. New Delhi: Penguin.
  • Bajpai, Punya Prasun 2018a. "A 200-Member Government Team is Watching How the Media Covers Modi, Amit Shah." The Wire, 10 August.
  • _______ 2018b. "Exclusive: Punya Prasun Bajpai Reveals the Story behind His Exit from ABP News." The Wire, 6 August.
  • Basu, Samit 2014. "Bal Narendra is a Deeply Dull Comic Book that I cannot Imagine any Child Voluntarily Reading." The Caravan, 28 April.
  • Bhartiya Janata Party 2019. Bhartiya Janata Party Sankalp Patra, Lok Sabha 2019. New Delhi: Bhartiya Janata Party.
  • Centre for the Study of Developing Societies 2019. Social Media and Political Behaviour. Delhi: Centre for the Study of Developing Societies.
  • Chowdhury, Sayandeb 2019. "Bollywood's Propaganda Wheels Have Been Set in Motion." Economic and Political Weekly 54(21).
  • Dev, Atul 2018. "Same Old News: History Repeating at Shobhana Bhartias Hindustan Times." The Caravan 10(12).
  • Donthi, Praveen 2019. "The Image Makers: How ANI Reports the Governments Version of Truth." The Caravan, 1 March.
  • Freedom House 2019. Freedom and the Media 2019: A Downward Spiral. Washington, DC: Freedom House.
  • Gupta, Smita 2019. "The Modi PMO." In Re-Forming India: The Nation Today, edited by Niraja Gopal Jayal. New Delhi: Penguin Books.
  • Jaffrelot, Christophe and Shreyya Rajagopal 2019. "One Man Show." Indian Express, 21 June.
  • Kumar, Ravish 2019. "Bad News." In Re-Forming India: The Nation Today, edited by Niraja Gopal Jayal. New Delhi: Penguin Books.
  • Mishra, Ishita 2018. "Pro-BJP or Anti-BJP: Inside the Modi-Shah Media Tracking ‘War Rooms." The Wire, 11 August.
  • Mudde, Cas and Cristobal Rovira Kaltwasser 2017. Populism: A Very Short Introduction. New York: Oxford University Press(永井大輔・髙山裕二訳『ポピュリズム――デモクラシーの友と敵』白水社 2018年).
  • Müller, Jan-Werner 2016. What is Populism? Philadelphia: University of Pennsylvania Press(板橋拓己訳『ポピュリズムとは何か』岩波書店 2017年).
  • Nagaraj, R. 2019. "Make in India: Why didnt the Lion Roar?" The India Forum, 3 May.
  • Ninan, Sevanti 2019. "How India's Media Landscape Changed over Five Years." The India Forum, 8 June.
  • Palshikar, Suhas 2019. "Modi Has Brought into Practice a Style of One-way Communication: Giving out Messages." Indian Express, 21 May.
  • Palshikar, Suhas, Sanjay Kumar, and Sandeep Shastri 2019. "Post-poll Survey: Explaining the Modi Sweep across Regions." The Hindu, 26 May.
  • Philipose, Pamela 2017. "Award Wapasi 2.0." Indian Express, 3 October.
  • Reddy, C. Rammanohar 2019. "A Budget that Goes Nowhere." The Hindu, 6 July.
  • Shah, Nishant 2019. "Digital Native: Narendra Modis Interview by Akshay Kumar is a PR Masterpiece." Indian Express, 5 May.
  • Shastri, Sandeep 2019. "Leadership Sweepstakes and the Modi Factor." The Hindu, 20 May.
  • Subramanian, Arvind 2019a. "India's GDP Mis-estimation: Likelihood, Magnitudes, Mechanisms, and Implications." CID Faculty Working Paper No. 354.
  • ______ 2019b. "Validating India's GDP Growth Estimates." CID Faculty Working Paper No. 357.
  • Thaper, Karan 2018. Devils Advocate: The Untold Story. New Delhi: Harper India.
  • United States Commission on International Religious Freedom 2019. Annual Report 2019. Washington, DC: United States Commission on International Religious Freedom.
  • Varshney, Ashtosh 2019. "The Emergence of Right-Wing Populism in India." In Re-Forming India: The Nation Today, edited by Niraja Gopal Jayal. New Delhi: Penguin Books.
著者プロフィール

湊一樹(みなとかずき)。アジア経済研究所地域研究センター研究員。専門は南アジアの政治経済。最近の著作に、「非政党選挙管理政府制度と政治対立――バングラデシュにおける民主主義の不安定性」(川中豪編著『後退する民主主義、強化される権威主義』ミネルヴァ書房、2018年)および"Politicisation of the Appointment and Removal of Judges in a Declining Democracy: The Case of Bangladesh," (with Noriyuki Asano), IDE Discussion Paper No. 758, 2019がある。訳書に、アマルティア・セン、ジャン・ドレーズ『開発なき成長の限界――現代インドの貧困・格差・社会的分断』(明石書店、2015年)がある。

書籍:開発なき成長の限界


  1. オーウェル, ジョージ 2009. 高橋和久訳『一九八四年』早川書房、241ページ。
  2. 最近の例としては、Jaffrelot and Rajagopal (2019)がある。「one-man show」と同じような意味で、「one-man band」や「one-man army」などの表現も用いられる(例えば、"India’s one-man band." The Economist, 23 May 2015を参照)。ちなみに、英語の「one-man」という単語そのものには、日本語の「ワンマン」のような「独裁的」といった含意はない。
  3. モーディー政権になって、メディアが政府・与党の有力者にアクセスすることが厳しく制限されるようになったという点は、Gupta (2019)やPhilipose (2017)なども指摘している。
  4. 例えば、『トイレ――ある愛の物語』のストーリーは、モーディー政権が推し進めてきた、トイレ建設による屋外排泄の解消の取り組み(クリーン・インディア・キャンペーン)を想起させる。
  5. Zee Media とANIの役割分担については、"The inside story behind Akshay Kumar’s interview with PM Modi." The Quint, 27 April 2019を参照。両社の親BJP 的傾向については、"Zee News: we are pro-BJP, we are pro-Hindutva." Cobrapost, 25 May 2018およびDonthi (2019)をそれぞれ参照。なお、Zee Mediaのオーナーであるスバーシュ・チャンドラは、2016年にBJPの支援を受けてハリヤーナー州から上院議員に選出されている。
  6. この番組の動画については、"Trending: Ravish Kumar on the PM Modi-Akshay Kumar interview." NDTV, 25 April 2019を参照。
  7. モーディー首相が恵まれない出自を強調することをポピュリズムという視点から捉えた議論に、Varshney (2019)がある。なお、「ポピュリズム」という言葉の学術的定義については、Mudde and Kaltwasser (2017)およびMüller (2016)を参照。
  8. "Inspired by Narendra Modi's childhood, short film ‘Chalo Jeete Hain’ gets a big screening." Indian Express, 26 July 2018を参照。
  9. "BUSTED: ‘True' story by Manish Malhotra about Modi working 18-20 hours a day." Altnews, 9 March 2017を参照。
  10. 総選挙の前年に出版されたAndersen and Damle (2018)は、RSSに関する研究書という体裁を取りつつ、実際にはRSSについて肯定的なイメージを広めようという政治的意図があるのではないかと指摘されている。例えば、この本についての書評である"Instead of offering objective analysis, Andersen-Damle book helps RSS perpetuate convenient myths." Scroll.in, 20 August 2018を参照。
  11. 「人的資本指標」を無視するというインド政府の発言については、"India ranks 115 in World Bank's Human Capital Index; govt dismisses report." Business Standard, 12 October 2018を参照。「ビジネスのしやすさ」指標でのインドの順位の上昇については、製造業の成長や海外直接投資の増加に結びついていないなどの点が指摘されている(Nagaraj 2019)。なお、世界銀行は、「ビジネスのしやすさ」指標に対する様々な批判を退ける一方で、同指標は「ビジネス環境を包括的に計測するものではない」と注意を促している。
  12. 最近の例では、モーディー政権で主席経済顧問を務めたアルヴィンド・スブラマニアンが、2011-12年から2016-17年のGDP成長率は、インド政府が公表している7%よりも2.5ポイントほど低い4.5%程度であるという独自の推定結果を公表した(Subramanian 2019a)。その直後、首相直属の経済諮問委員会は、学術研究が満たすべき水準に達していないとして、スブラマニアンの分析を全面的に退けたが、この批判に対して、スブラマニアンは反論を行っている(Subramanian 2019b)。GDPの推計方法をめぐる議論については、"Parley: Is India overestimating its economic growth?" The Hindu, 21 June 2019を参照。
  13. この点については、米国務省による信教の自由に関する年次報告書の最新版(United States Commission on International Religious Freedom 2019)を参照。モーディー政権のもとでイスラム教徒に対する差別と迫害が深刻化しているという報告書の指摘に対して、インド外務省は内政干渉であると強く反発し、BJPからも米国に対して非難の声が上がった。なお、この報告書は次のように指摘している。「インドなどの国々では、宗教と政治を分離することがますます難しくなっており、特定の宗教コミュニティを差別したり、その権利を制限したりしようとする人たちによる計画的な策略という場合もある。さらに、このような迫害行為を野放しにしている当の政府が、宗教的自由と人権が踏みにじられているという正当な勧告に対して、『内政干渉である』と声高に反論することがよくある」(p.2)。
  14. 高額紙幣の廃止のもう一つの目的として、テロ活動の資金源となっている偽造紙幣の根絶が唱えられていた。つまり、高額紙幣の廃止は、インドに安全保障上の脅威をもたらす「敵」に対する攻撃としても位置付けられていた。ただし、ブラックマネーの撲滅と偽造紙幣の根絶という2つの目的はいずれも達成されず、経済活動と市民生活に混乱をもたらしただけだった(湊 2019)。
  15. 2019年3月16日付のモーディー首相によるツイート
  16. 一例として、BJPの実働部隊の一員として活動していた人物へのインタビュー記事である"Former BJP data analyst on how the party wins elections and influences people." The Caravan, 29 January 2019を参照。この人物は、会議派をはじめとする野党もデジタルメディアを使ったプロパガンダを行うようになってきたが、企業側のフェイクニュース対策が進んだため、以前からプロパガンダ活動に力を入れていたBJPの方がはるかに有利な立場にあると指摘している。
  17. BJPの公式アカウント(@BJP4India)のフォロワー数は、ツイッターが1148万、フェイスブックが1599万である。SNSでの影響力という点でも、モーディー首相がBJPを大きく上回っていることがわかる。
  18. "We watched NaMo TV, this is what it's all about." India Today, 7 April 2019を参照。
  19. この映画の予告編と「インド首相の伝記映画、選挙前公開に『待った』 『個人を過度に美化』、選管が禁じる」(『朝日新聞』2019年5月16日)を参照。
  20. "PM Narendra Modi Movie Review: Modi wins India to make Vivek Oberoi a star." India Today, 24 May 2019を参照。
  21. 政府関係者の手違いや予想外の出来事などのせいで、モーディー首相との間の質疑応答がすべて事前に準備されたものであることが露見した事例がいくつかある。例えば、"As interpreter reads answer, Modi is accused of ‘scripted’ interview again." The Wire, 5 June 2018および"Consider filtered answers: Rahul's jibe at Modi's Puducherry gaffe." The Quint, 26 December 2018を参照。
  22. 詳しくは、Bajpai (2018b); Kumar (2019); Thaper (2018); "Raids in India target founders of news outlet critical of government." New York Times, 5 June 2017; "Income Tax raids on Raghav Bahl, Quint and News Minute raise questions of media intimidation." Scroll.in, 12 October 2018; "Modi government freezes ads placed in three Indian newspaper groups." Reuters, 28 June 2019などを参照。
  23. 詳しくは、"How Modi's Twitter strategy of following his supporters—even trolls—worked in his favour." Quartz India, 3 June 2019を参照。なお、モーディー首相の個人アカウントは、2200を超えるアカウントをフォローしているが、トランプ大統領(@realDonaldTrump)やトルコのエルドアン大統領(@RTErdogan)などの政治指導者の公式アカウントは、フォロワー数が数千万にも上る一方で、フォロー数は100にも満たないのが普通である。
  24. モーディー政権下で、メディア各社がホームページに掲載した記事をその直後に取り下げた事例については、"Ten news reports that were retracted during Modi’s first term as prime minister." The Caravan, 27 May 2019を参照。
  25. 今回の総選挙の結果とその背景については、中溝 (2019)を参照。
  26. 英語版マニフェストでは、「BJP」または「Bharatiya Janata Party」という党名は26回、「Modi」という個人名は32回それぞれ言及されている。2014年の前回総選挙での英語版マニフェストでは、「BJP」または「Bharatiya Janata Party」という党名が111回も登場する一方、「Modi」という個人名はわずか3回しか言及されていないのとは対照的である。
  27. Centre for the Study of Developing Societies (2019)によると、SNSの使用頻度とBJP候補への投票の間にははっきりとした関係性は認められない。ただし、これは単純な相関関係を見ているにすぎないうえに、モーディー政権によるプロパガンダはSNSだけに限ったものではないという点に注意が必要である。
  28. "‘Professional pessimists’: PM Modi slams those criticizing Budget 2019." NDTV, 6 July 2019を参照。
  29. 2019年1月に公開された『偶然の首相』(Accidental Prime Minister)という映画は、会議派を中心とする統一進歩連合政権(2004~2014年)の内幕を描いたという触れ込みであったが、実際は、「会議派を牛耳ってきたネルー・ガンディー家」とそれに担ぎ出された「弱い指導者」のマンモーハン・シン首相の対比を印象付けるような内容になっている。この映画がモーディー政権によるプロパガンダ戦略(ネガティブ・キャンペーン)の一環であることは、その内容や公開のタイミングに加えて、シン首相の役を演じた主演俳優のアヌパム・ケールが熱烈なBJP支持者であり、妻のキロン・ケールは2014年からBJP所属の下院議員を務めていることからも明らかである。
この著者の記事