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清水達也編『次世代の食料供給の担い手――ラテンアメリカの農業経営体――』

学術書

CC BY-ND

次世代の食料供給の担い手――ラテンアメリカの農業経営体――

著者/編者

清水達也 編

出版年月

2021年3月

ISBNコード

978-4-258-04645-4

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内容紹介

内容紹介

21世紀に入って新興国が成長し、基礎食料に加えて肉類や青果物の消費が増加している。今後、どのような農業経営体がこれらを供給する担い手となりうるのか。本書は、国際市場への食料供給を増やしているラテンアメリカの農業経営体に注目する。メキシコ、チリ、ブラジル、アルゼンチンの経営体を分析し、その戦略、構造、経営管理手法の工夫を明らかにすることで、次世代の食料供給の担い手の姿を描いている。

目次

まえがき

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序章 次世代の食料供給を担う農業経営体

著者:清水 達也

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第1章 メキシコにおける小規模穀物生産者の再編過程――生産コーディネート企業の事例――

著者:谷 洋之

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第2章 チリの輸出向け果樹栽培における雇用型経営――季節労働者の調達・配置・管理に関する考察――

著者:村瀬 幸代

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第3章 チリ農業の経営形態の変化と労働生産性

著者:北野 浩一

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第4章 ブラジル・セラード地域における大規模農業経営体の経営管理

著者:清水 達也

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第5章 ブラジルおよびアルゼンチンの農業金融の特色――大豆生産における運転資金からの一考察――

著者:林 瑞穂

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まえがき

まえがき

今日の私たちの食生活はとても豊かである。スーパーに行けば1年中、さまざまな食材が手に入る。コンビニに行けばいつでも、すぐに食べられる食品が並んでいる。ファミリーレストランでは、手頃な価格で満足な食事ができる。このような豊かな食生活は、安くて質の良い農畜産物を年間をとおして生産する食料供給の担い手がいなくては成り立たない。

編者らは、アジアやラテンアメリカでダイナミックに成長する農業生産者を、次世代の食料供給の担い手と位置づけ、その姿を『途上国における農業経営の変革』(アジア経済研究所、2019年3月)としてまとめた。本書はその続編という位置づけで、対象をラテンアメリカの担い手に絞った。

ラテンアメリカ農業の特徴として一般に挙げられるのは、規模が大きく、輸出指向が強いことである。編者は、フィールド調査で訪れたブラジル・セラード地域の大規模農業経営体で、桁違いの大きさに圧倒された。この経営体は、数万ヘクタールの規模の農場を複数所有し、大豆、トウモロコシ、綿花などを生産している。街にある本社のオフィスで話を聞いたあと、農場を訪れるために空港から軽飛行機に乗って移動し、農場内にある滑走路に降り立った。農場に立つと360度、見渡す限り畑が広がる。畑の彼方のところどころに、木立にかこまれた農場の事務所やサイロが、島のように浮かんでいるのがみえた。このような大きな農場をいかにして経営できるのだろうか、という疑問に導かれて調査を進めた。

小規模零細農家が多い日本では、農業経営体の競争力の向上には規模の拡大が必要であるといわれている。それは間違いではない。しかし、規模が大きければ競争力があるかというと、決してそうではない。規模が大きいがゆえにさまざまな問題が生じる。それらを克服するために数々の工夫を重ねることが、競争力の向上につながる。執筆者らは、南米の大規模農業経営体だけでなく、メキシコの小規模生産者も対象として、競争力向上に努める農業経営体の姿を描いた。

本書はアジア経済研究所において2018~2019年度に実施した「次世代の食料供給の担い手:ラテンアメリカの農業経営体」研究会(主査:清水達也)の成果である。ラテンアメリカを対象とする地域研究者が、フィールド調査を通じて得たデータを分析して、それぞれの章をまとめた。研究会の実施に際しては、東京農業大学の内山智裕教授に、国内外の「新しい農業経営」を対象とした研究動向について話をうかがった。加えて、研究会成果の一部をラテン・アメリカ政経学会第55回全国大会(2018年12月)と第57回全国大会(2020年11月)で報告し、政策研究大学院大学の飯塚倫子教授をはじめ、参加者からコメントをいただいた。また、国内でのヒアリングのほか、メキシコ、ブラジル、チリでの現地調査の実施に際しては、分析対象となった農業企業のほか、現地の機関や関係者にも協力をお願いした。協力をいただいた方々に執筆者を代表して深くお礼を申し上げる。

本書の電子書籍をアジア経済研究所のウェブサイトで無料で公開しているほか、冊子版をオンデマンドで提供している。ラテンアメリカ農業に関心のあるビジネスマンや学生だけでなく、日本で農業に携わり、経営の参考となるようなヒントを探している生産者の目にも触れるとうれしく思う。ラテンアメリカの農業はさまざまな点で日本とは異なるが、工夫を重ねるという点においては、これらの農業経営体から多くのことを学ぶことができる。内容に関する疑問やコメントがあれば、ぜひ編者までご連絡いただきたい。

2021年1月 編者 清水達也(tatsuya_shimizu