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おしえて!知りたい!途上国と社会

第9回 発展途上国で食料に困っている人はどれくらいいますか?

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00051442

2019年7月

画像:質問

発展途上国には貧しい人がたくさんいて、食料に困っていると聞いたことがあります。具体的にはどれくらいの人が食料に困っているのですか?

「食料に困っている」状態といえば、まず飢餓(きが)が思い浮かびます。

私たちは食料を通じてエネルギーを取り入れて生きています。健康な生活を送るために必要な1日のエネルギー量は、生命活動を維持するために必要なエネルギーである基礎代謝量に、身体活動の水準を示す係数をかけたものになります。例えば日本人男子高校生の場合、基礎代謝量1610キロカロリーに、軽いスポーツをする程度であれば、係数の1.75をかけた2818キロカロリーが1日に必要なエネルギー量になります。このエネルギー量を下回るような食料摂取が長期にわたって続くと、飢餓になります。

国連食糧農業機関(FAO)がまとめた報告書「世界の食料安全保障と栄養の現状2018年版」は、2017年に世界人口の10.9%にあたる8億2080万人が飢餓に苦しんでいると推計しています(図1)。地域別にみると、飢餓人口の割合が最も高いのがアフリカで、特にサハラ砂漠以南のアフリカ(サブサハラ・アフリカ)では人口の23.2%、2億3650万人が栄養不良に苦しんでいます。このほかに高いのが、インドをはじめとする南アジア諸国です。飢餓の割合は14.8%ですが、この地域は人口が多いため、その数はアフリカを上回る2億7720万人にのぼります。

図1 飢餓人口の割合

図1 飢餓人口の割合

飢餓は子どもの成長に大きな影響を与えます。そのひとつが、身長の伸びが止まる「発育障害」です。同じ年齢の子どもと比べて、身長が著しく低い子どもの割合で示します。もうひとつが、食料をとれないために起きる「衰弱」です。身長と比べて体重が著しく少ない子どもの割合で示します。5歳未満で発育障害に苦しむ乳幼児の割合は、サブサハラ・アフリカで32.6%、南アジアで33.3%であり、3人に1人にのぼっています。衰弱に苦しむ子どもの割合もそれぞれ6.9%、15.3%に達しています(図2)。

食料に困っている状態には、飢餓による発育障害や衰弱のほかに、「肥満」があります。肉、魚、野菜、果物は、タンパク質やビタミンなどさまざまな栄養素を豊富に含んでいますが、比較的値段が高いです。これに対して、清涼飲料水、スナック菓子、ファストフードなどの加工食品は、糖分や脂質などを多く含みカロリーが高い割には比較的値段が安いです。そのため、貧しい人の食事は炭水化物や脂質に偏り、消費する以上のカロリーを摂取するため、肥満になります。

肥満は、途上国のなかでも経済成長を遂げつつある新興国において問題となっています。成人に占める肥満の割合は、サブサハラ・アフリカ全体では8.0%ですが、この地域の新興国である南アフリカでは27.0%にも達しています。新興国が多いラテンアメリカでも成人の約4人に1人が肥満です。中東や太平洋諸島には、乳幼児の発育障害と成人の肥満の両方が問題となっている国があります。

図2 栄養状態に問題がある人口の割合

図2 栄養状態に問題がある人口の割合

FAOの報告書によれば、飢餓の状態にある人口の割合は、経済成長や農業生産における新しい技術の導入などにより2015年までの10年間にわたり毎年少しずつ減少してきました。しかしここ2年間は、わずかですが増加しています。その原因として気候変動や紛争の増加を指摘しています。干ばつや大雨など極端な現象が以前よりも多く発生するようになり、それが原因で土地や水をめぐる争いが増え、特に貧しい人々の農業生産に大きな影響を与えています。

食料に困っている人を減らすためには、安定した農業生産のほかにも、効率的な保管や輸送、食料価格の安定や食生活の改善など、幅広い面での対応が求められます。

回答: 清水達也(しみずたつや)

回答者プロフィール

清水達也(しみずたつや)アジア経済研究所ラテンアメリカ研究グループ長。博士(農学)。ラテンアメリカの経済開発のほか、途上国の食料生産について研究。

【連載目次】

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