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第23回 なぜ内戦が終わらないのですか?

What prolongs civil war?

PDF版ダウンロードページ:https://hdl.handle.net/2344/0002001766

2026年2月
(2,654字)

画像:質問

内戦のニュースをよく目にします。なぜ内戦が終わらないのですか?何が内戦の終結を難しくするのでしょうか?

内戦とは、ひとつの国のなかで政府と反政府勢力が武力で争っている状態を指します。世界の紛争関連のデータを集めたウプサラ紛争データプログラムによると、1946~2024年に起こったすべての内戦のうち、約4割が1年以内で終わるのに対して、少数であるものの数十年続くものもあります。たとえば、2017年のフィリピン政府とイスラーム系武装組織マウテ・グループとの戦いは、激しい市街戦の末に国軍が5カ月で武装勢力を制圧しました。これに対して、コロンビア政府と左翼ゲリラであるコロンビア革命軍(FARC)との内戦は約50年間に及び、2016年に和平合意で終結しました。

なぜ終わらない内戦があるのでしょうか?何が内戦の終結を難しくするのでしょうか?複雑な状況が絡み合うため、要因を特定することは簡単ではありませんが、ここでは構造的要因と国外からの介入に焦点を当てて説明します。

構造的要因として地理的条件、経済状況、武装勢力の資金源の3つが挙げられます。まず地理的条件としては、都市部から離れた僻地で展開される内戦は長引きやすいといわれています。このような地域は中央政府の管理が届きにくく、国軍がその土地の情報を十分にもっていないことがあります。そのため、武装勢力の居場所を特定しにくく戦ううえで不利です。一方、その地域を拠点とする武装勢力にとって山岳地帯や森林地域は、彼らの「隠れ家」となり態勢を整える場所となります。また、国境付近であれば近隣国の同じような武装勢力から加勢や支援が得やすくなります。

冒頭のフィリピンやコロンビアの例にあてはめると、フィリピンのマウテ・グループとの戦いは市街地で展開され国軍が標的を定めやすかったために5カ月で内戦が終結し、コロンビアのFARCは森林地帯を拠点とし移動を繰り返したために国軍から大規模攻撃を受けにくく、内戦が長期化したと考えられるでしょう。

経済状況としては、国の豊かさの指標となる所得水準と貧富の差が内戦の長期化に影響しています。貧しい国では政府の力が弱く武装勢力をなかなか制圧できないため、内戦が長引きやすくなります。また、多くの貧しい国では産業が乏しく、生活していくのに十分な賃金を得られる働き口が限られています。一部の上層の人々だけが富み、多くの人々が貧困に苦しむ状況の中では、貧しい人々が武装勢力に参加するハードルは低くなります。国の経済力が弱く貧富の差が大きいと人々が武装勢力として戦闘に参加しやすい環境をつくり、内戦の継続を下支えするというわけです。もちろん、自ら望んで武装勢力に参加したわけではなく、誘拐や強制により武装勢力の兵士として活動することを強いられた人々も多くいます。

武装勢力の資金源となっている天然資源や密輸品の取引も内戦を長引かせる要因のひとつです。内戦に深くかかわる天然資源としては金銀、ダイヤモンド、石油などの鉱物資源が、密輸品としては麻薬などの禁輸品や天然ゴム、カカオ豆などが挙げられます。たとえば、アンゴラ全面独立民族同盟(UNITA)やシエラレオネの革命統一戦線(RUF)はダイヤモンドの採掘・密売により、またペルーのセンデロ・ルミノソや上記のFARCはコカインの製造・密売により活動資金を得ていました。

これらの取引が内戦の長期化に関係するのは、武装勢力が内戦の継続に利益を見出すようになるからです。ダイヤモンドの鉱床やコカインの原料となるコカの栽培を自分たちの支配下に置いておけば、継続的に莫大な利益が見込めます。そのため、自グループの要求を実現するために戦闘を続ける、もしくは政府に対する勝利を目指すのではなく、「戦い続けること」自体が武装勢力の利益となることがあります。

和平合意を締結し握手を交わすサントス大統領(中央左)とロンドニョFARC最高司令官(中央右)。署名式典には潘基文(パン・ギムン)国連事務総長も出席(左端)

和平合意を締結し握手を交わすサントス大統領(中央左)とロンドニョFARC最高司令官(中央右)。
署名式典には潘基文(パン・ギムン)国連事務総長も出席(左端)

次に、国外からの介入に目を向けてみましょう。国外からの第三者介入は内戦の継続や終結に影響しますが、介入の仕方や対象により、その影響は一様ではありません。ここでは大国・周辺国と国連による介入についてみていきます。

自国の利害に基づいて大国や周辺国が内戦に介入することがあります。内戦の当事者である政府もしくは武装勢力のどちらか一方を支援する「偏った」介入は、支援された側の戦闘コストを減らし、内戦を長引かせると考えられています。

たとえば2011年に始まったシリア内戦では、当初はアサド政権と反体制派による戦闘でした。アサド政権側をロシアやイランが軍事支援し、異なる反体制派それぞれにトルコや米国がつき、内戦が複雑化・長期化しました。国連人権高等弁務官事務所によるとシリア内戦の発生から10年で35万人以上が犠牲となり、そのうちの少なくない人々が国外からの軍事介入の犠牲となっています。2024年末にアサド政権は崩壊しましたが、2025年末時点でシリアはいまだに内戦状態にあり、国外からの軍事支援が続いています。

一方で、内戦終結支援を目的に派遣される国連の平和維持活動(PKO)が大規模に展開されると、戦闘にともなう犠牲者数を減らしたり、和平合意による内戦の終結を早めたりすると指摘されています。国連PKOは内戦国の政治に干渉せず、内戦の当事者に政治的解決を強制しない公平・中立の原則のもとで活動しています。このため、和平合意の前段階となる停戦合意に国軍や武装勢力が従っているか監視したり、両者のコミュニケーションの橋渡し役となることで和平合意に向けた意思疎通を促したりでき、PKOの規模が大きければそうした機能がより強く発揮されるからです。

たとえば、1991年に始まったシオラレオネの内戦に派遣されたPKO(1999~2005年)は最大で1万7500人ほどにのぼり、派遣された2年後の2002年には和平合意により内戦が終結しました。同PKOは和平合意の履行監視や内戦後の国家建設支援といった平和構築もサポートし、国連PKOの成功例と考えられています。

国連PKOは最大の拠出国であるアメリカの予算削減などにより、近年その活動が縮小されています。また、国連の決議に拒否権をもつ安全保障理事会の常任理事国であるアメリカとロシア・中国の対立の深まりにより、新たなPKOミッションの設置が難しくなっています。こうした状況は国連PKOが大国の思惑に左右されうるという限界を示しています。他方で、内戦に直面する国の中では国内が情勢不安に陥ったとしても内戦を回避しようと努力する人々がいます。内戦が発生した場合でも、沈静化に向けて尽力するそうした人々がいることを忘れてはいけません。

※この記事の内容および意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。
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回答者プロフィール

渡辺綾(わたなべあや) アジア経済研究所 新領域研究センター法・ガバナンス研究グループ研究員。専門は比較政治学、内戦研究、フィリピン政治。主な著作に” Electoral Incentives and Negotiated Settlements: Legislative Deliberation on the Mindanao Conflict in the Philippines” (Developing Economies 63巻1号, pp. 47–69, 2024)。

【連載目次】

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