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コラム
第14回 「アジア連合」ってないんですか?
PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00051843
2020年10月
(2,359字)
図 アジアにおける主な地域的グループ
(注)TPPは、2017年にアメリカが離脱した結果、CPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)として2018年に署名された。
たくさんのグループがありますが、それぞれ含まれる国や地域は微妙に違います。例えば、東南アジア諸国連合(ASEAN)は東南アジアのみを対象としていますが、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)は日本やASEAN諸国の一部に加え、カナダやペルーといった米州諸国など、通常アジアには分類されない国々も入っています。また、図からは同じメンバーが複数のグループに参加していることもわかるでしょう。
直感的に考えれば、同じメンバーで違うグループをいくつも作るより、ひとつにまとめる方が効率は良さそうです。それなのに、なぜこのようにたくさんの国家間グループが形成されたのでしょうか?
その理由としては、これらの国々が、環境が変わるたびに新たな課題を見出し、協力相手を探してグループを作ることを繰り返してきたという経緯が考えられます。その様子を、ご質問で挙げてくださったASEANを中心にみてみましょう。
ASEANは、1967年にインドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイの5カ国によって設立されました。当時、世界はソビエト連邦に代表される共産主義陣営と、アメリカや日本を含む自由主義陣営が激しく対立していました。いわゆる冷戦です。新興の小国であるASEAN諸国は、冷戦に過度に巻き込まれることなく、自分たちの力で国の安全と発展を実現することを目指し、自立のための協力グループとしてASEANを設立しました。
他方で、1987年に米ソが和解して冷戦が終結に向かうと、今度は世界各地で貿易や投資の自由化を進めるための仲間を作る動きが起きました。欧州や北米でこうした動きが進むなか、アジアの国々は何もしなければグループから取り残されて貿易自由化の恩恵を受けられなくなります。そうした事態を回避しようと、1989年、日本、オーストラリア、ASEANなどの国々は、自分たちの間で貿易投資自由化や経済協力を進めるための新たなグループを作りました。これがアジア太平洋経済協力会議(APEC)です。
ASEANの参加国が途上国のみだったのに対し、APECには、ASEAN諸国のような途上国の他、アメリカや日本などの先進国、共産主義の大国である中国や、香港のような一地域も加わっています。貿易自由化を効果あるものにするためには、政治体制の違いや経済格差を越え、密接な経済関係を持つ国々の協力が不可欠だったからです。
その一方、APECができたことでASEANの存在意義がなくなることもありませんでした。むしろ日本やアメリカなどの大国に主導権を奪われないために、ASEAN諸国は結束してメンバーを拡大する道を選びます。
例えば1990年代には、それまで政治体制の違いからASEAN諸国と対立してきたベトナム、ラオス、カンボジア、国際的に孤立してきたミャンマーが相次いでASEANに加わりました。
また1994年に創設されたASEAN地域フォーラム(ARF)は、ASEANと日中韓、北朝鮮、アメリカ、ロシアなどの国々による、紛争予防のための協議の場です。さらに1997年には、日本、中国、韓国との話し合いの場として「ASEAN+3」が設けられました。APECもそうですが、ARFやASEAN+3は、意思決定の方法や議長国の役割など、ASEANと同じ運営ルールを採用しています。そうすることで、ASEAN諸国は域外の大国に対して主導権を握ろうとしたのです。
このように、ASEANをはじめとするアジア諸国は、国際環境が変わるごとに、新たな課題を設定し、協力相手を見つけてグループを作ることを繰り返してきました。またすでにあるグループも、その存在意義をメンバーが認め続ける限り、解消されることなく存続してきました。その結果、「アジア」と名の付く多くのグループが、重なり合いながら米州諸国もおおう協力のネットワークを形成したのです。
アジアには、政治体制も経済規模も様々な国々が存在します。貿易自由化のように、アジア以外の国々の協力が必要となることもあります。またかつての冷戦や近年の米中対立に見られるように、大国間の関係が急に変化することもあり、そのたびに中小国は協力相手を組み替えたり、異なる相手とそれぞれグループを作ったりすることで、自国の安全を確保してきました。
多様な国々が変化の激しい国際環境でも協力するためには、単一のグループを作るより、その時々の状況に合わせて仲間を作るほうが「効率が良い」のかもしれません。
回答:青木まき(あおきまき)
回答者プロフィール
青木まき(あおきまき) アジア経済研究所地域研究センター東南アジアI研究グループ。専門は国際関係、タイ外交とメコン地域協力。主な著作に、青木まき編著『タイ2019年総選挙――事政権の統括と新政権の展望――』(アジア経済研究所、2020年3月)、青木(岡部)まき「メコン広域開発協力をめぐる国際関係の重層的展開」(『アジア経済』第56巻2号、2015年6月)。
(2021年1月6日修正)
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