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おしえて!知りたい!途上国と社会

第8回 なぜアフリカでは紛争が多いんですか?

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00051413

2019年6月

画像:質問

アフリカの紛争についての報道をよく耳にします。

なぜアフリカでは紛争が多いんですか?

中部アフリカのルワンダでは、1994年に少数派民族(トゥチ)を標的とした大量虐殺が起こり、少なくとも50万人が殺されました。この殺りくの引き金となったのは、内戦のなか、トゥチが反政府武装勢力を支援していると疑った政権中枢の人々が、彼らを抹殺するよう呼びかけたことでした。国民を保護すべき国家の指導者が、国民の殺りくを呼びかけた恐ろしい事件です。

西アフリカのナイジェリアでは、イスラーム急進主義を掲げるボコハラムが、2014年に200人を超える女子生徒を誘拐しました。ボコハラムはナイジェリア北西部地域で既に10年以上武力紛争を続けており、カメルーンやニジェールなどの周辺国を含め、甚大な被害を生んでいます。

なぜアフリカで紛争が多発するのでしょうか? 近年の具体的な事例から考えてみましょう。

アフリカでは近年、紛争が特定地域に集中する傾向があります。図に示した北アフリカのリビア、西アフリカのマリからナイジェリア北部、中央アフリカ共和国とコンゴ民主共和国東部、そして東アフリカの南スーダンとソマリア南部といった地域では、近年深刻な紛争が続いています。しかし、それ以外の地域では、ここ20年くらい、大きな紛争はあまり起こっていません。冒頭に挙げたルワンダも、現在では政治的に安定しています。

アフリカの紛争多発地帯

図:アフリカの紛争多発地帯

近年のアフリカで起きている紛争を考えるうえで、重要な問題が二つあります。一つはイスラーム急進主義、もう一つはアフリカの国家をめぐる問題です。

上で挙げた国々の中で、リビアは今日イスラム国(IS)の主要拠点の一つになっています。また、マリ、ナイジェリア、ソマリアなど、サハラ砂漠周辺地域でも、しばしばアルカーイダやISとの関係を強調しイスラーム急進主義を掲げる組織が紛争の原因となっています。

イスラーム急進主義を掲げる組織が活動を広げる理由は地域によって様々ですが、総じて言えることが二つあります。一つは、地理的に近い中東の影響です。アラブ人が住民の圧倒的多数を占める北アフリカはもちろんのこと、サハラ砂漠南縁部もほとんどの住民がイスラーム教徒です。中東で活発化したイスラーム急進主義の影響が、武器や資金の供与などを通じて、広がりやすい社会環境があります。

もう一つは、国家が信頼を失っていることです。紛争が続く国々では、多くの場合、開発の失敗や汚職などのため政府が人々の信頼を失っています。そこに「正しいイスラーム」を掲げて急進主義勢力が武装活動を活発化させているのです。自爆テロなど許し難い手段を取るとしても、イスラーム急進主義には一種の「世直し運動」という性格があります。そして、政府への不信感と相まって、そうした考えが社会で一定の共感を得ているために、問題の解決を難しくしているのです。

国家をめぐる問題は、サハラ砂漠周辺地域だけでなく、アフリカの紛争や政治について考える際にとても重要な意味を持っています。今日のアフリカ諸国は、19世紀末に植民地列強が引いた国境線によって出来上がりました。もともとの社会のまとまりとは無関係に国家がつくられたことで、その運営はとても難しくなりました。国家という巨大な権力装置を動かすには、人々の間で共通のルールを作り、それを実行しなければなりません。これは簡単なことではありません。

考えてみてください。日本のような比較的同じ民族で構成された国でさえ、明治維新の際の戊辰戦争まで国内で幾多の戦争を繰り返し、ようやく今日の姿にたどり着いたのです。

私たち自身の歴史を振り返れば、アフリカやアジアの独立間もない国家に紛争が多いのは当然です。むしろ、アフリカのように植民地支配によって国家を押し付けられた社会にあって、紛争解決に成功していることこそ驚きです。アフリカの人々の営みから、私たちは共生と共存に向けた多くの知恵を学ぶことができるのです。

回答: 武内進一(たけうちしんいち)

回答者プロフィール

武内進一(たけうちしんいち)アジア経済研究所新領域研究センター・上席主任調査研究員/東京外国語大学現代アフリカ地域研究センター教授。博士(学術)。専門はアフリカ研究、国際関係論。おもな著作に、『現代アフリカの紛争と国家―ポスト・コロニアル家産制国家とルワンダ・ジェノサイド』明石書店(2009年『現代アフリカの土地と権力』(編著)アジア経済研究所(2017年)など。

【連載目次】

おしえて!知りたい!途上国と社会