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コラム

おしえて!知りたい!途上国と社会

第10回 途上国に外国企業が工場を作ると、その国の発展につながるのですか?

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00051447

2019年8月

画像:質問

多くの外国企業が途上国に工場を立てているようです。これは、その国の経済にどのような影響を与えるのですか?

インターネットなどの情報通信技術の発展や、途上国の外国資本に対する規制の緩和などによって、多くの企業が途上国に工場を建てるようになりました。

では、先進国の企業が途上国に工場を建てると、その国の経済にはどのような影響を与えるのでしょうか? 日本の企業が洋服を作るためにカンボジアに工場を建てるという例から考えてみましょう。

通常、工場で洋服を作るにあたり企業は現地の労働者を雇います。ミシンなどの機械は日本から輸入できますが、日本から労働者を連れてくるのは難しいからです。日本の高い生産技術を活用し、賃金が低いカンボジア人を雇うことで、品質が高くて価格の安い製品を作ることができます。途上国の労働者を搾取しているのではないか、という批判もありますが、カンボジアの労働者の多くは収入の不安定な農業で働いています。彼らにとって、毎月安定した高い給料を得られる外国企業の工場はよい職場なのです。彼らは、工場で働くことで家族のためにいい家や健康な食事にお金を使ったり、子どもを学校に通わせたりできるようになります。

工場で作った洋服は、カンボジアで販売するほか、船で輸送して市場の大きなアメリカやヨーロッパで売ることもできます。カンボジアで生産して製品を大量に輸送すれば、洋服一着当たりの輸送費も低く抑えられます。その結果、より多くのカンボジア人に雇用が生まれます。

カンボジアの多くの労働者は、工場で働いた経験も洋服を作った経験もありません。そのため、企業は新たに雇った労働者に対して研修を行い、洋服の裁断や縫製、仕上がりのチェックなどの技術を指導します。こうした研修や指導によって、洋服をより効率的に作れるようになります。例えば、当初は1人の労働者が一日1着の洋服しか作れなかったのが、3着の洋服を作ることができるようになります。これは、生産性が向上したと言うことができます。

企業で働くことを通じて現地の人たちはさまざまな知識やスキルを獲得していきます。工場の労働者は、すばやく服を作り、ミスを少なくする方法を学んでいきます。工場管理者は、どのように労働者を指導すれば工場全体で効率的に洋服を生産できるのかを学んでいきます。営業担当者は海外の企業の取引を通じてどのように外国市場に製品を売るのかというマーケティングの知識やネットワークを得ることができます。もっと意欲的なカンボジア人は、自分で工場を建てて経営すれば、もっとお金が稼げることを学んでいきます。これを技術移転と呼びます。

以上をまとめると、外国企業が工場を建てることはその国にさまざまなよい影響をもたらします。新しく雇用が生まれ、外国との貿易が盛んになります。だんだんと新しい知識や技術が伝わっていき、現地の人が得た給料はより豊かな生活に使われるようになります。また、技術移転によって新しい産業が生まれ、国全体の経済が発展する可能性もあります。

外国企業が工場を建てることによってもたらすさまざまなよい影響の循環図

しかしながら、外国企業の工場が問題を起こすこともあります。例えば、工場が環境汚染を引き起こす、あるいは、外国企業との競争によって現地企業が倒産してしまうなどの影響が考えられます。そこで、実際に現地でどのような影響が起きているかを明らかにするため、私たち研究者は、インタビューによる調査やデータを使った分析を実施しています。インタビューでは、実際に途上国で工場を運営している企業を訪問して、現地工場のマネージャーに現場の状況を聞き取ります。途上国の政府で働いている役人からは、どのような政策を採用しているのか聞くこともあります。さらに、技術移転によって生産性が向上しているのかといったような仮説を、経済データを用いて検証していきます。近年、ますます多くの外国企業が途上国に進出しているため、外国企業の工場が現地でどのような影響を持つのか、いまでも盛んに研究されています。
回答者プロフィール

田中清泰(たなかきよやす)。アジア経済研究所開発研究センター研究員。博士(経済学)。王立プノンペン大学開発学部に客員教授として滞在し、カンボジアにおける外国企業、インフォーマルセクター、観光産業など調査研究。

【連載目次】

おしえて!知りたい!途上国と社会