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第24回 K-POPアイドルはなぜ兵役にいくのですか?

Why did BTS join the army? K-Pop artists and South Korea’s military service

PDF版ダウンロードページ:https://hdl.handle.net/2344/0002001775

2026年3月
(2,776字)

画像:質問

“推し”が兵役に行くのがショックです。どうして韓国には徴兵制度があるのですか? 兵役は実際どれくらい大変なのですか?

世界的に人気を博しているK-POPアーティスト、BTS。兵役に就いていたメンバー全員の服務期間が終わり、2026年3月から「完全体」での活動再開を発表しました。一方、13人組のボーイズグループSEVENTEEN(セブンティーン)は、年長のメンバーから順次入隊を開始しています。ステージ上で輝きを放ち、愛と夢を伝える彼らは、なぜキャリアの絶頂期に軍隊に入るのでしょうか。

「韓国には徴兵制度が存在するから」がその答えですが、なぜ韓国は徴兵制をとっているのでしょうか。実は、徴兵制を敷いている国は韓国だけではありません。日本の自衛隊が募兵制であるのに対し、2026年時点で世界の68カ国が国民に兵役を義務付けています。紛争当事国のみならず、一見平和に見える北欧諸国も徴兵制を採択しています。

国家が必要とする兵士の数は、その国が置かれた地政学的な状況や軍事費に支出できる財政事情など、さまざまな要因によって決まります。最新の韓国『国防白書』(2022年)によれば、韓国の常備兵力は約50万人。これは、韓国国民の100人に1人が軍人である計算です。韓国の軍事力は世界5位という分析もあります。この兵力を維持するため、韓国は兵役法第3条で「大韓民国の国民である男性は、大韓民国憲法とこの法律が定めるところにより、兵役義務を誠実に遂行しなければならない」と規定しています。男性は18歳になる年に兵役義務の対象者となり、韓国の民法で成年とされる19歳になる年に兵役の遂行能力を判断する兵役判定検査を受け、順次入隊します。原則として例外は認められず、2023年の検査で兵役免除と判定された人は全体のわずか0.3%にとどまりました。ただし、学生である場合などは一定期間の入隊延期が可能で、この制度が一部の男性芸能人の大学院への進学を促しているようだと指摘する声もあります。

韓国が徴兵制度を維持する理由

では、なぜ韓国はこれほど大規模な兵力を維持し続けるのでしょうか。韓国ドラマや旅行を通じて触れるソウルなどの華やかな雰囲気からは想像するのが難しいかもしれませんが、この国は今なお北朝鮮との戦争の脅威に晒されています。朝鮮半島は1945年に日本の植民地から独立しましたが、その後の米ソ対立の中、北緯38度線を境界に南北に分断されました。そして1950年6月、北朝鮮が韓国への侵攻を開始し、朝鮮戦争が勃発しました。激しい戦闘の末、1953年7月に停戦協定が結ばれ、以来70年以上その状態が続いています。韓国にとって戦争は「終結」したのではなく、あくまで「停止」しているに過ぎません。こうした背景から、両国は有事に備えて強大な兵力を維持し、互いをけん制し合う状態を続けています。つまり、軍事力が戦争の再開を抑止する力として機能しているため、兵力の安易な削減はできないのです。

また韓国社会では、過去の歴史から社会の不平等や特権の問題が繰り返し議論されてきたことから、「公平性」と「公正性」を重んじる傾向があります。そのため、兵役は国民に課された法律上の義務であると同時に、男性であれば誰もが平等に経験する社会的な通過儀礼としても機能しています。どのような仕事に就き、どれほどの人気を博していようと、韓国人である以上、兵役から逃れることはできません。BTSSEVENTEEN、過去には東方神起やBIGBANG(ビッグバン)のメンバーたちが、マイクを銃に持ち替えなければならなかったのは、これが理由です。

兵役の実態と若者への負担

兵役生活は韓国男性に大きな負荷をかけると言われますが、具体的にどのような点が大変なのでしょうか。第一に、キャリアや経済活動の断絶という問題があります。平均して2年弱の服務期間中は、仕事も学業も中断せざるを得ません。人気絶頂期にあるK-POPアーティストが2年間活動を休止することは個人にとっても社会にとっても大きな経済的損失になります。芸能人以外でも、自分の専門とは無関係な分野に約2年を費やすことはキャリア形成にマイナスの影響を及ぼす可能性があります。また、その期間に見合う対価が十分に支払われているかについても議論が続いています。長年の課題だった兵士の給与は近年大幅に引き上げられたものの、韓国の最低賃金と比べるとまだ低いのが実情です。

兵士の月給と最低賃金の推移

兵士の月給と最低賃金の推移

(注)徴兵された兵士の中で給与が最も低いのが二等兵、最も高いのが兵長である
(出所)韓国人事革新処および最低賃金委員会の情報をもとに筆者作成

第二に、兵役では軍事組織の一員として、戦闘に関わる技能を習得し運用できるよう過酷な訓練を受けるという身体的・精神的負担があります。軍の目的は戦争に備えることです。日々の体力訓練はもとより、各自の任務に応じて、実弾射撃、手りゅう弾の使用、戦車の操縦など、さまざまな戦闘訓練を行います。有事の際には人を殺傷することを前提とし、逆に自らの命を落とす危険も想定して日々の訓練に臨んでいます。宗教や信念を理由とした「良心的兵役拒否」をめぐっては、長年にわたり合法性や代替制度の在り方が議論され続けています。

軍事訓練の様子

軍事訓練の様子

最後に、兵役は生活環境の面でも大きな負担を伴います。軍部隊の多くは市街地から離れた山中にあり、兵士たちは基地での厳格な規律に基づく団体生活を強いられるため、身体と精神の自由が極度に制限されます。24時間、閉鎖的な集団の中で過ごし、個人の時間や自由な行動はほとんど許されません。また、残念ながら人間関係のトラブルや、いじめ、ハラスメントといった問題も存在します。こうした環境の厳しさから、極限の選択を迫られた若者たちがいるのも事実です。韓国国防部の統計によれば、2023年に軍内部で発生した死亡事故は79件で、そのうち68件が自死によるものでした。

“推し”の入隊から考える安全保障

徴兵制のあり方については韓国国内でも議論が続いています。2024年の世論調査では、回答者の約7割が募兵制の導入に賛成しています。人口減少に対応した兵力構造の見直しや、職業軍人増加による専門性の向上がその主な理由です。一方で反対派は、南北が依然として軍事的に対峙する停戦状態である以上、志願者だけで必要な兵力を確保するのは難しいという懸念を示しています。韓国国防部も、現在は幹部が中心となっている志願兵の割合を徐々に増やしており、志願兵比率は2017年の31.6%から2022年には40.1%まで上昇しています。こうした議論の背景には、深刻な人口減少と安全保障をめぐる考え方の違いがあり、兵役は現代の韓国社会が抱える構造的課題を象徴するキーワードの一つとなっています。

人類が軍事力に頼らず暮らせる社会を目指すべきなのは確かですが、現在の世界情勢において、軍隊の即時撤廃は残念ながら難しいのが現実です。 “推し”の入隊をきっかけに、彼らが背負う現実を通して、平和と安全は決して当たり前のように存在するものではないことを考えてみてはいかがでしょうか。

※この記事の内容および意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。

回答:金 信遇

写真の出典
回答者プロフィール

金信遇(きむしんう) アジア経済研究所研究マネジメント職。研究推進や研究広報業務を経て、2025年9月より在フランス海外派遣員として、フランスの研究ガバナンスと学術情報流通に関する調査研究に従事中。

【連載目次】

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