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コラム
第15回 地球温暖化をめぐり途上国は先進国と対立しているのですか?
PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00051886
2020年11月
(2,525字)
このため、途上国はこれまで、地球温暖化に対して先進国がより率先して責任を取り、温室効果ガス排出量の削減などを実行するよう強く求めてきました。こうした歴史的排出量に基づく考え方は、地球温暖化の解決を目指すための国連条約にも反映されており、「共通だが差異ある責任」(Common but differentiated responsibility, CBDR)という重要な表現が登場します。「共通だが差異ある責任」とは、「地球温暖化の阻止に取り組む責任はすべての国にあるが、その責任の重さは国によって差がある」という考え方で、現在先進国と途上国双方に受け入れられています。当然先進国にはより重い責任が課されており、その責任とは、途上国より厳しい温室効果ガスの削減目標の設定や、途上国に対する資金援助・技術支援などです。
しかし、近年はそのような先進国と途上国との対立の構図に変化が見られます。さきほどの温室効果ガス歴史的累積排出量のグラフを見ると、2016年には先進国グループの28%に対し、途上国グループはその2倍以上の61%に達しており、途上国グループの多くの国で起こった急激な経済発展や人口の増加が主な原因と考えられています。こうした状況に、途上国グループよりも重い責任を負う先進国のなかには不満の声もあり、「先進国が地球環境を破壊し繁栄してきたのだから、我々も貧困削減や発展のためには温室効果ガスを排出する権利がある」と強く主張してきた途上国グループとの間で対立の火種となっていました。
ただ、途上国側も状況は一様ではありません。例えば、温暖化による海面上昇で国家消滅の危機が差し迫っている太平洋の小さな島嶼国は、早急な温暖化対策を求めています。一方でBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)のように人口、経済規模、温室効果ガスの排出量も桁違いの巨大「新興国」群は、温暖化で国土が近いうちに消えるわけではなく、経済成長を優先する傾向があります。
さらに近年、温暖化に伴う異常気象をはじめ、地球規模の災害が日々先進国、途上国の区別なく、国境を越えて大きな被害をもたらしています。先進国だけでなく、インフラや対処能力(資金、技術、人など)が先進国と比較して貧弱な途上国においても、温暖化による災害への対応は差し迫った課題となっています。
このようななか、国際社会の意識の変化が形となって表れた出来事が、2015年に国連気候変動枠組条約締約国会議で採択されたパリ協定です。パリ協定は、すべての国連加盟国が一致して温暖化、気候変動に立ち向かう姿勢を示したという点で歴史上非常に重要な合意となりました。
このような歴史的合意がなされた背景として、近年、先進国であろうと途上国であろうと関係なく、温室効果ガスの排出を続ける姿勢に対して国際社会から非常に厳しい視線が注がれるようになっていることが挙げられます。実際に温室効果ガスの削減に対し消極的な姿勢をとっていると、環境意識の低さを理由に海外からの投資が呼び込めず、経済活動が制限されてしまう可能性が高いため、BRICSのような新興国も、温室効果ガスを無制限に排出するわけにはいかなくなっています。
温室効果ガスの削減を目指すことは、例えば、太陽光や風力を使って発電しようとしたり、工場で化石燃料を効率的に使うための投資を行ったりする必要があり、経済活動にとって負担は決して小さいとは言えません。しかし、既に多くの途上国ではこれをチャンスととらえようとしています。技術が進んでいる先進国と協力して地球温暖化と環境問題の解決に取り組むことは、自国を温暖化の悪影響から守るだけでなく、化石燃料を減らすことで大気汚染を改善し、技術力の向上、新しい産業への投資を呼び込むことによる雇用の増加、さらには国際社会での発信力の強化など、さまざまメリットがあるからです。つまり、現在の新興国にとっての課題は、途上国としての立場を利用して国益を守る一方で、温暖化や気候変動といった環境問題で先進国と協力して積極的に取り組み、自国のビジネスチャンスを増やすことなのです。
環境問題をめぐる先進国と途上国の激しい対立は過去のものとなりつつあります。今、先進国と多くの途上国は、互いに環境分野で協力し改善を目指しながら、それぞれ自国の経済成長を目指す方向に舵を切ったと言えるでしょう。
回答者プロフィール
鄭方婷(ちぇんふぁんてぃん) アジア経済研究所 海外研究員(台湾・台北市) 。博士(法学)。専門は国際関係論、国際政治学、国際環境問題(気候変動)、グローバル・ガバナンス論。主な著作に、『「京都議定書」後の環境外交』三重大学出版会(2013年)、『重複レジームと気候変動交渉――米中対立から協調、そして「パリ協定」へ』現代図書(2017年)など。
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