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コラム

おしえて!知りたい!途上国と社会

 
第17回 開発途上国は気候変動にどのように対応しているのですか?

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00051950

2021年1月
(2,560字)

画像:質問

気候変動に対して開発途上国ではどのような対応をしていますか? 先進国と違う取り組みはありますか?

温室効果ガス濃度の上昇が原因とみられる異常気象や高温化・寒冷化は、先進国、開発途上国(以下、途上国)を問わず深刻な影響をもたらすため、各国は対応を迫られています。ただ、経済規模が大きく技術も進歩した先進国や新興国とは異なり、多くの途上国は、先進諸国や国連のような国際機関などから資金や技術面の援助を受けながら対処するのが一般的です。

温室効果ガスに起因するとみられる気候変動への対応には、一般的に二つのアプローチがあります。一つは「緩和(Mitigation)」といい、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量を削減し、問題の原因を直接解消しようとする対応策です。緩和策として世界的に最も普及しているのは、太陽光や風力など、二酸化炭素を出さないエネルギー源を使っての発電です。先進国の事例がよくクローズアップされますが、一部の途上国も積極的に取り組んでおり、太陽光パネルや風力発電などを導入する事例がみられます。しかし、一口に途上国と言ってもその状況は国によって異なるため、取られる緩和策も多様です。

例えば、途上国の多くの家庭やレストランでは、今でも薪や炭を使用しています。南部アフリカの内陸に位置するボツワナでは、国際的な支援の下で薪や炭を太陽光発電に替える事業を実施しました(写真1)。このような取り組みは森林の保護に加え、薪や炭を燃やすときに出る二酸化炭素の排出削減や大気汚染の軽減にもつながります。また、電気が届いていない地域に再生可能エネルギーを普及させる試みもあり、化石燃料による温室効果ガス排出を避けながら、そうした地域で暮らす人々の生活水準を引き上げることができれば、一石二鳥の取り組みになると期待されています。

写真1 ボツワナのモチュディ市で使用される太陽光発電ポンプシステム

写真1 ボツワナのモチュディ市で使用される太陽光発電ポンプシステム

しかし、再生可能エネルギーの導入には注意すべき事もあります。例えば、先進国・途上国問わず、地球温暖化の緩和策であるはずの太陽光や風力の発電所建設が、土地の乱開発による農地や生態系の保護地域の縮小・消失、建設時の騒音など、別の環境問題を引き起こす事例がでてきています。また、一部の途上国では、再生可能エネルギー事業に従事する労働者の人権が十分に守られていない事例も報告されています。発電所を建設する際には、環境アセスメントを適切に行い、企業、労働者、自治体、環境保護団体など関係者の間で対話を重ねたうえで再生可能エネルギーを普及させていくことが、本当の意味での「持続可能な」緩和策につながります。

近年、「巨大台風」や「爆弾低気圧」のような異常気象が世界各地で頻発しており、気候変動が原因となっていると考えられています。特に途上国では、都市のインフラや建築物が比較的脆弱な場合が多く、河川の氾濫や家屋の倒壊などにより甚大な被害が出ています。こうした自然災害に備えるための対策が急務となっていますが、資金や技術、人材が十分にない途上国では、被害がより深刻になっています。

このため、「適応(Adaptation)」と呼ばれる、気候変動に対応するためのもう一つのアプローチが重要となります。これはいわゆる対症療法で、実際に異常気象が起きているなか、その被害を避けることができないのであれば、ダメージをできるだけ小さくしようとする手法です。

適応策もまた、途上国が抱えている多様な課題を踏まえて、それぞれの土地に合った方法で進める必要があります。例えば、ツバルやキリバスのような太平洋にある小さい島国は海面上昇の進行による国土消失が危惧されています。このため、海岸浸蝕を遅らせるインフラ整備を進めながら、住民を安全な場所(国外も選択肢の一つ)に移住させる計画を立てています(写真2)。こうした取り組みにおいては、住民同士の衝突を避けるため、移住先の理解と協力が不可欠となります。調整には慎重さが必要ですし、時間もかかります。

写真2 海面上昇で国土消失の危機に直面しているツバル

写真2 海面上昇で国土消失の危機に直面しているツバル

このほか、気候変動がもたらすと考えられる水不足、砂漠化、洪水、あるいは災害発生時の衛生状況悪化といった問題に対しては、給水設備の改修・整備、荒廃地の回復・植林事業の推進、護岸や堤防の整備、保健医療システムの強化といった適応策が必要です。しかし、実施には多くの資金と高度な技術を要するため、途上国だけの努力ではなかなか進まない場合もあります。国際社会は、途上国が過去に排出した温室効果ガスが先進国に比べて少ないにもかかわらず、地球温暖化の重大な影響に直面していることを理解し、適応策の支援を進めています。日本では、独立行政法人国際協力機構(JICA)のような組織が積極的に途上国支援を行っています。


気候変動の影響はますます深刻化しており、対応するための時間的余裕はあまりありません。途上国は、自国の状況に応じて「緩和」と「適応」両方のアプローチを組み合わせながら、今後もそれぞれの国の状況に適した対応策を講じていく必要があります。

写真の出典
  • 写真1 Paul tk, Another solar pumping solution + electric fencing done at Mochudi, a city lost in the southeasternmost corner of the sun-belt country of Botswana in southern Africa. (CC BY-SA 4.0)
  • 写真2 NASA, bearbeitet HT, Funafuti (Tuvalu) from space.(Public Domain)
回答者プロフィール

鄭方婷(ちぇんふぁんてぃん) アジア経済研究所 海外研究員(台湾・台北市) 。博士(法学)。専門は国際関係論、国際政治学、国際環境問題(気候変動)、グローバル・ガバナンス論。主な著作に、『「京都議定書」後の環境外交』三重大学出版会(2013年)、『重複レジームと気候変動交渉――米中対立から協調、そして「パリ協定」へ』現代図書(2017年)など。 

【連載目次】

おしえて!知りたい!途上国と社会

(2021年3月3日文字修正)