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コラム

おしえて!知りたい!途上国と社会

第19回 なぜ社会主義国で格差が生じるのですか?

Why does inequality occur in socialist countries?

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00053547

2023年1月
(2,277字)

画像:質問

平等を重んじる社会主義国でも格差があると聞きます。格差が生じるきっかけや要因は何でしょうか? また、そもそも格差は問題なのでしょうか?

社会主義とは貧富の差がない社会の実現を目標とする思想・社会体制です。しかし実際には、社会主義国でも経済格差が生じています。たとえば中国やベトナムは社会主義国ですが、いずれの国にも世界的に億万長者と称される大富豪が存在します。中国ではジャン・イーミン(Tik Tokを運営するバイトダンスの創業者)やジャック・マー(Eコマースの巨大企業アリババグループの創業者)、ベトナムではファム・ニャット・ヴオン(不動産を中心とするコングロマリットのビングループ創業者)などが挙げられます。一方で、いずれの国でも僻地の農村には日々の暮らしにも困るような貧しい人々がいるのも実態です。

グローバル化が進展するなか、社会主義国に限らず世界各国で所得格差が拡大する傾向にあります。そこでまずは、一般的な格差の問題点や原因についてみてみましょう。経済発展を持続させるうえで、ある程度の格差が生じるのは仕方がありません。しかし、格差が大きくなりすぎると、新たな技術を習得するために教育を受けようという意欲を持つ人が少なくなったり、社会に対する不満が高まって情勢が不安定になったりすることにより、持続的・安定的な経済成長が阻害される恐れがあります。

ではなぜ格差が生じるのでしょうか。格差の発生にはさまざまな要因が複雑に絡んでいますが、あえて主因を挙げるとすれば職業間での賃金格差です。労働市場でより賃金・給与の高い仕事に就くための条件として、日本を含む資本主義国でしばしば注目されるのは「教育」です。近年、教育の機会が誰にでも平等に開かれているわけではない、すなわち親の所得や学歴による不平等があることが問題視されていますが、それは教育が出世のチャンスを開くからこそでもあります。

次に、社会主義国における格差について考えてみましょう。経済的な平等を目指している社会主義国は、かつて計画経済を推進していました。計画経済とは、土地や原材料などの生産資材から食糧や生活必需品まですべての資源を国家が計画に従って配分する経済体制です。計画経済の下では、国家が労働者に仕事を計画的に割り振り、給与水準も決定します。社会主義が目指す平等な社会を実現するために、国家は貧富の差が生じないよう経済を運営できるように思われます。しかし実際は、政権を担っている共産党や国家機関の幹部など、一部の特権階級に富が集中する状況が生じていました。

現在、ほとんどの社会主義国では、社会主義が維持されつつも、経済面では計画経済から市場経済への移行が進められています。市場経済では、国家計画ではなく市場の価格調整メカニズムによって資源が配分されます。市場経済化に伴う経済発展の過程で、賃金・給与の異なるさまざまな職業が生まれるとともに、よりよい職業に就くための教育の重要性も高まってきました。そうしたなか、社会主義国でも、資本主義国が経験しているような原因によって、格差が生じるようになってきました。

ただし、社会主義国の市場経済では競争原理が往々にして不完全な形で導入されています。すなわち、計画経済下で特権的な地位にあったグループが、市場経済下でもなお資源配分において有利な条件を維持する傾向がみられます。そのため、格差の要因や発生のメカニズムに、資本主義国とは異なる特徴も見出せます。

筆者の調査対象国であるベトナムを事例に、詳しくみてみましょう。ベトナムでは市場経済化に伴って民間の経済活動が活発化してきました。そのなかで、冒頭で紹介したファム・ニャット・ヴオン氏のような民間大企業を経営する超富裕層が登場してきました。ベトナムでは純資産額が3000万ドル以上の「超富裕層(super rich)」の数が、2016年の589人から2021年には1234人と、世界的にみても速いスピードで増加しています。しかしこれらの人々は必ずしも自由な市場競争を勝ち抜いて台頭してきたわけではありません。たとえば、ベトナムでは土地は依然として国家の管理下に置かれているため、ヴオン氏のように不動産業で成功するうえでは、「国家関係者とのコネクションを持つ人々が有利である」という状況が残っています。民間大企業を創業して超富裕層になるには、学歴を獲得するだけでは越えられない壁があるわけです。

コネクションが有利に働く状況は、その他のエリート職、たとえば一般的に大卒以上の学歴が必要とされる職業(国際労働機関[ILO]の分類でいう「専門職」)への就職においても同じです。ベトナムでは民間大企業の数がまだ少なく、専門職に就く人の65%が国家セクター(国有企業や官公庁)で働いています。国家セクターの専門職に就くには、高い学歴に加えて共産党員の資格やなんらかの政治的コネクション、さらには賄賂が求められることもあります。そうした条件を満たせない貧しい家庭、とくに少数民族の家庭では、学歴を積んでもよい仕事には就けないだろうという見込みから、教育への投資を早々に控えて、所得の低い単純労働に就くという選択がとられがちです。

このような状況のもと、ベトナムではごく少数の上層(「エリート職」に就く人々)と大多数の中・下層という社会構造が成立し、上層と中・下層との間には経済力の大きさや学歴の高さに圧倒的な差が生まれています。このまま格差が大きくなると、いずれは社会主義体制を揺るがしかねない社会的不安定につながっていく可能性も否定できません。社会主義国においても、経済・社会の安定的かつ持続的な発展のために、格差の是正は重要な課題といえるでしょう。

※この記事の内容および意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。

第12回ベトナム共産党全国代表者大会のポスター(2016年1月)

第12回ベトナム共産党全国代表者大会のポスター(2016年1月)
全人民が等しく豊かになることを目標として掲げている

回答:荒神衣美Emi Kojin

写真の出典
回答者プロフィール

荒神衣美(こうじんえみ) アジア経済研究所 新領域研究センター ジェンダー・社会開発研究グループ研究員。専門はベトナム地域研究(農村経済社会)。おもな著作に、『多層化するベトナム社会』(編著、アジア経済研究所、2018年)など。

【連載目次】

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