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コラム
第16回(サッカーW杯特集)女子サッカーW杯――途上国の女子サッカー事情
Women’s World Cup: Women’s Football in the Developing Countries
PDF版ダウンロードページ:https://hdl.handle.net/2344/0002002010
佐々木 晶子
Akiko Sasaki
2026年8月
(4,063字)
サッカーと私の接点
世界中の人々を熱狂させた男子サッカーW杯が閉幕した。次は来年、2027年にブラジルで開催される女子サッカーW杯がやってくる。W杯特集の原稿執筆の依頼をいただいた時、「地域研究の専門家でもサッカーに特別詳しくもない私に何が書けるのか?」と悩んだ。ふと、同じ競技なのだから、女子サッカーでもいいじゃないか、と思いついた。
筆者とサッカーをつなぐのはプレイヤーとしての経験である。子供の頃からサッカーが大好きだったが、一緒にボールを蹴ってくれる女友達はいなかった。大学に入って念願の女子サッカー部に入り、同年代がフラペチーノを片手に楽しく過ごす週末、私は土埃の舞うグラウンドで汗まみれになってボールを追いかけた。筆者がサッカーをプレーしていたのは、なでしこジャパンが2011年のW杯で優勝する前のことで、「女子なのにサッカーするの? マネージャーではなく?」と珍しがられた。今はどうかわからないが、当時は女子サッカー用品がなかなか見つからず、筆者は男子小学生用のスパイクを履いていた(サイズはぴったりでも子供用なので壊れやすかった)。部員数はサッカーの試合ができる11人は揃っていたものの、数人欠けたら試合への参加が危ぶまれるような状態だった。女子日本代表が出場する国際試合でさえ男子に比べたら集客力はなく、簡単にチケットが手に入った。
そうした女子サッカーをめぐる状況は近年大きく変わってきている。これは日本に限った話ではない。筆者はアジ研に入所し、様々な途上国研究に触れることができる環境で、今まで知らなかった途上国・地域について学ぶ機会をいただいている。このコラムでは、自分なりに大好きなサッカーとそれをプレーする世界の女性たちのW杯をめぐる現状や課題についてご紹介したい。
国際的な女子サッカー競技の発展
国際サッカー連盟(FIFA)によると、女子サッカー競技は世界各国で発展しており、競技人口が増えているという。FIFA自身も、2027年のW杯に向けて競技人口を6000万人まで拡大させるという大きな目標を掲げて、ルワンダ、ブータン、バングラデシュといった女子サッカーの競技基盤が十分に整っていない加盟国に対して様々な開発プログラムを提供している1。
こうした背景から、W杯もその規模を拡大させている。サッカー女子W杯は1991年に初めて開催されたが、当時の出場国はわずか12カ国であった。以降、出場国数は拡大を続け、2023年の前回大会には32カ国まで増加した(図1参照)。地域別にみると、強豪国の多い欧州の出場国が多いが、参加は様々な地域に広がっており、2023年の前回大会から、北中米カリブ海、アジア、アフリカからの出場枠が増えている。さらに2031年大会には出場国が48カ国まで拡大することが決定している2。
図1 サッカー女子W杯 近年の地域別出場国の推移
(注)2027年大会は全出場国が決まっていないため、プレーオフ枠を含む。2031年大会は地域別の出場国数が未定
(出所)FIFA公式サイト情報をもとに筆者作成。デザインには一部ChatGPTを使用した
サッカーとジェンダー ――女子サッカーを取り巻く構造的な課題
こうした発展の一方で、女性とスポーツを取り巻く構造的な課題はサッカーに限らず広く存在してきた。サッカー業界で働く女性のサッカー選手、コーチ、審判、スタッフなどを支援する非営利団体Women in Football(WIF)の2025年の調査によると、そうした女性たちのおよそ8割が職場での差別を経験しており、男性と同等の評価や待遇を受けるためには男性以上に努力が必要だと感じていることや、サッカー業界における男性優位などが課題として挙げられている[WIF 2025]。また、男子サッカーに比べて集客力に劣るため、スポンサー企業を集めることが難しいという構造的な問題も抱えている。また、FIFAは女子サッカーへの積極的な支援を行う反面、FIFA自身がこうした男子W杯を中心にサッカー競技を通じて莫大な富を生産する構造を作り出し、ジェンダー平等の実現にはなお課題が残ると指摘されている[Krech 2020]。
女子サッカー競技において、選手たちの待遇の悪さや不十分な資金などは依然として課題であり続けている。その背景にはジェンダーに起因する問題があり、待遇や労働環境、あるいは宗教、政治情勢に結びついた課題として顕在化している。例えば、サッカーが盛んな中南米において、女子サッカー選手の処遇改善を求めた動きは活発に行われてきた。コロンビアは南米の強豪国のひとつであり、2023年のW杯前回大会でもベスト8に入るなど目覚ましい活躍をしている。しかしながら、その選手たちのプレーする環境は恵まれているとはいえず、女子サッカー代表チームの待遇の悪化、セクシャルハラスメント被害といった度重なる困難に見舞われてきた。合宿遠征の渡航費や日当の未払い、監督の不在期間が長いなど、選手たちからは同国のサッカー連盟の不当な扱いに対して抗議の声が上がった3。こうした女子サッカー選手への差別的な扱いに対して、政府や男子サッカー選手からも批判が相次ぎ、FIFAや政府を巻き込んだ人権やジェンダー不平等の問題となった4。同様の動きはコロンビアだけでなく、アルゼンチン、ブラジルなどの国々でも問題視されている。
一方で、女子サッカーは宗教や政治情勢に関連した課題も抱える。イスラム教徒の女子選手のヒジャブ着用をめぐっては様々なスポーツ種目で論争となっており、女子サッカーでは、2023年大会でモロッコ代表のヌハイラ・ベンジナ選手がW杯で初めてヒジャブを着用して出場したとして話題となった5。FIFAは宗教的な理由から被り物をすることを長らく禁止していたが、2014年から承認された6。しかし、フランスのように試合中のヒジャブ着用を禁止している国もある。フランスでは、2024年のパリ五輪においても多くのイスラム教徒の女性選手が出場機会を奪われたとして国際的な批判を集めた7。
アフガニスタンでは、2021年にタリバン政権が復権し、女性によるスポーツ活動が禁止されたことで、サッカー女子代表チームは活動ができなくなった。その後、国外へ逃れた選手たちによるアフガニスタン難民のチームが2025年にFIFAによって認定され、今年公式戦に出場した8。女子サッカーはこうした男子サッカーでは存在しない障壁を抱えながらも、サッカーをプレーしたいという女子選手たちや業界を支える人々によって発展を続けている。
フィリピンのサッカー女子たちとの出会い
このように世界各地で女子サッカーを取り巻く課題が存在している。しかし、ボールを夢中で追いかける楽しさは、どの国でも、男性でも女性でも同じだろう。一昨年の夏、筆者はフィリピンのマニラでFairplay For All FoundationというNGOを訪れた。この団体は、コミュニティでカフェを経営し女性の就労機会を創出するとともに、スポーツを通じて子供たちを支援している。そのNGOの活動拠点は、かつてフィリピン最大級のゴミの埋立地が存在し、その周辺でウェストピッカーとして働いていた人々が暮らす地区である。現在でも経済的に厳しい状況に置かれている家庭が多い。「今夜子供たちのサッカー練習があるから一緒にプレーしない?」。同地区を案内してくれたNGOの方にお誘いいただき、筆者は女子サッカークラブの練習に参加した。
写真1 筆者が訪れた女子サッカーチームの練習風景
NGOが地区で初めての練習場を整備しており、地元の女の子たちはそこでサッカークラブの練習に参加していた。フットサルコートのような屋内型練習場で、壁にはチームの横断幕や選手たちのにこやかな写真が並んでいた。同クラブの子供たちはそこで技術を磨き、大きな大会にも出場している。2025年には同クラブからフィリピンの女子フットサル代表選手も生まれ、同国史上初のFIFAフットサルW杯への出場も果たした9。
そんな彼女たちの足元の技術にはもちろん及ばないが、筆者もウォームアップのパス練習から実践型のミニゲームまで参加させてもらった。久しぶりにボールに触れて、足がまったくついていかなかったし、ボールコントロールもおぼつかなかった。けれども少女たちはそんな筆者を快くチームに受け入れてくれ、優しくパスを回してくれた。ミニゲームでは筆者にアシストをしてくれて、ゴールも決められた。フィリピンの経済的に豊かとはいえない地域で暮らすティーンエイジャーの彼女たちと筆者は国籍も生活環境も異なるが、ひとたび同じピッチに立てば、パスをつないでひとつのゴールを目指す仲間になれる、というとても新鮮な経験だった。
世界中でサッカーを通じた女子の教育や健全な育成を目的とした支援プログラムは数多く実施されている。スポーツが青少年へ与える影響は大きく、自分の居場所や仲間、夢中になれるものを与え、時には貧困の連鎖から抜け出す機会となることはこれまで本やニュースなどを通じて理解していた。職場でも日頃から研究者たちの途上国研究に触れる機会も多い。それでも、現地で少女たちとサッカーをプレーした経験は、文字や映像で知っていた知識を実感へと変えてくれた。月並みな経験談かもしれないが、筆者にはそうした支援活動や調査研究の重要性を改めて感じる得難い機会となった。
フィリピンは女性・男性ともにこれまでW杯への出場経験がなかったが、前回大会で女子がW杯への初出場を果たした。近い将来、一緒にボールを蹴った女の子たちが大きな舞台で活躍する日も来るかもしれない。夜のサッカーコートの照明の下で笑う明るく親切な彼女たちを今でも時折思い出している。
写真2 女子サッカーチームの選手たち、コーチと筆者(中央)
おわりに
女子サッカーは世界中で競技人口を増やし、発展を続ける一方で、様々な課題も抱えている。それでも、筆者がフィリピンで出会ったようなサッカーを愛する少女たちは今後も世界の舞台を目指して努力を続けていくのだろう。2027年大会にはオーストラリア、中国、韓国、日本、フィリピンなどの出場が決定している(2026年6月時点)。来年の女子サッカーW杯観戦の際は、ぜひ試合の向こう側でボールを追いかけ続ける途上国の女性たちにも思いを馳せてもらえたらと思う。
写真の出典
- 写真1、2 Fedor Myasoedov(同行者)撮影
参考文献
- Krech, Michele 2020. “Towards Equal Rights in the Global Game? FIFA’s Strategy for Women’s Football as a Tightly Bounded Institutional Innovation.” Tilburg Law Review 25(1): 12–26.
- Women in Football 2025. Be Part of the Change: Annual Survey Results 2025 Part One. Women in Football.
著者プロフィール
佐々木晶子(ささきあきこ) アジア経済研究所研究推進部研究推進課 研究マネジメント職。関心分野は気候変動、都市研究など。大学時代、サッカー審判4級を取得するも副審としてオフサイドフラッグを挙げるタイミングが分からず、後ろからコーチについてもらい「二人羽織」してもらった経験あり。男子サッカーではドイツの往年のゴールキーパー、オリバー・カーン選手のファン。
注
- “Growing the women’s game (April 2026).” FIFA, 6 May 2026.
- “FIFA Council confirms Women’s World Cup expansion.” FIFA, 9 May 2025.
- Garry, Tom 2019. “Colombia women’s players alleging discrimination receive men’s team’s support.” BBC, 6 March.
- Garry, Tom 2019. “Colombia women’s players alleging discrimination receive men’s team’s support.” BBC, 6 March.
- Pandey, Manish and Iqra Farooq 2023. “Women’s World Cup 2023: ‘Nouhaila Benzina is a role model to us’.” BBC, 30 July.
- Pandey, Manish and Iqra Farooq 2023. “Women’s World Cup 2023: ‘Nouhaila Benzina is a role model to us’.” BBC, 30 July.
- “France: Hijab ban during sports, ‘discriminatory and must be reversed’ say experts.” UN News, 28 October 2024.
“France: Hijab ban in all sports would violate human rights and target Muslim women and girls.” Amnesty International, 18 February 2025. - Feliu, Max 2026. “FIFA allows Afghan women to play for their country, defying Taliban.” CNN, 30 April.
- “From Payatas to the World: Regine to Play at FIRST Ever Futsal Women’s World Cup!” Fairplay For All Foundation, 15 November 2025.
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