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インドネシアの大規模デモと暴動――プラボウォ政権「利権分配」体制と政治エリートの慢心
Mass Protests and Riots in Indonesia: Patronage Politics and Elite Complacency under the Prabowo Administration
PDF版ダウンロードページ:https://hdl.handle.net/2344/0002001544
2025年10月
(7,248字)
インドネシア各地で議会や警察に対する抗議運動が激化
2025年8月29日から9月1日にかけて、インドネシア各地で発生していた大規模デモが暴動に発展した。公共交通インフラや地方議会議事堂、警察施設などが放火され、一部地域では略奪行為が発生した。今回の暴動は、スハルト独裁体制の崩壊に直結した1998年の動乱を想起させるほど、近年類を見ない規模と激しさをみせた。2024年10月に発足したプラボウォ・スビアント政権にとって初めての試練となったこの暴動の政治的背景には何があったのだろうか。
これに先立つ8月25日から、国会議員の住宅手当をめぐって学生による抗議デモが行われ、警察機動隊との衝突が起きていた。事態を急速に悪化させたのは、8月28日夜、デモとは無関係のバイクタクシー運転手が警察機動隊の装甲車に轢き殺された事件であった。これを機に、抗議デモは主に議会と警察に対する暴動へと発展した。この記事では、暴動の背景とその経過を整理するとともに、就任から一年を迎えようとしているプラボウォ政権の今後の行方について考察する。
黒い服を着ているのはジャカルタ州知事プラモノ・アヌン
暴動の背景にあった政治エリートの癒着構造
そもそもプラボウォ政権は、就任早々から物議を醸す政策を次々と打ち出してきた。2024年大統領選挙で掲げた目玉公約は、幼児から高校生、および妊産婦に無料の食事を配布する「無料栄養食プログラム」である。このプログラムを2025年から2029年までの5年間実施するうえで必要となる予算は、約450兆ルピア(約4.05兆円1)と見積もられている。これは2025年度国家予算の12%に匹敵し、また、ジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)前政権の目玉政策であった新首都「ヌサンタラ」の総建設費と同等の規模の金額である2。庶民の支持を得るための大衆迎合的な政策といえるだろう。
また、プラボウォ政権は、シンガポールのテマセク・ホールディングスをモデルとした政府系投資ファンド「ダナンタラ」を設立した。その初期運用資金として、さらに約325兆ルピア(約2.93兆円)を捻出する必要があった。
これらの財源を確保するため、プラボウォは2025年1月、大統領訓令(Inpres)2025年第1号を出し、省庁および地方政府の予算削減を指示した。当初予算から総額306.7兆ルピア(約2.76兆円)減らされたことにより、公共サービス、教育、インフラ整備など、国民生活に直結する政府機能にしわ寄せがいくこととなった。省庁によっては、電気代を節約するために明かりを消して業務を行ったと言われている。
プラボウォ政権がこれらの政策をトップダウンで実行できた背景には、政治エリートの癒着構造があった。「紅白内閣」と銘打たれたプラボウォ政権は、政権基盤の安定を図るため、閣僚や政府高官ポストの分配を通じて可能な限り多くの政党や社会勢力をステークホルダーとして取り込んだ。いわば「利権分配」体制を確立したと言えよう3。国会では8割を与党連合が占める状況となり、プラボウォの政策に対して異議を唱えることができる政治勢力はほとんど存在しなくなった。政権支持率が就任直後に8割に達していたこともあり、無料栄養食プログラム、ダナンタラ設立、省庁・地方政府予算削減のいずれも、十分な審議はなく矢継ぎ早に進められた4。
予算削減の影響が地方に及ぶなか、地方自治体は増税で対応することを迫られた。100以上の地方自治体で地方/都市土地建物税(PBB-P2)の引き上げが行われ、うち20の自治体ではPBB-P2が100%以上上昇した。特に注目を集めたのが、中ジャワ州パティ県の事例である。同県では、インフラ予算を捻出するためPBB-P2が250%上昇した。2011年以来見直しが行われていなかったことが理由とされたが、コメや燃料価格の高騰で生活が困窮する住民にとって到底受け入れられるものではなかった。その結果、8月13日に県庁舎や県議会を狙った暴動が起き、警察機動隊が放水砲や催涙ガスなどで対応した5。大幅な増税が計画された他の地域にも抗議デモが飛び火し、8月25日以降のジャカルタで抗議運動が起こる前に、すでに全国的に不満が募っていたのである。
導火線に火をつけた議員の住宅手当
予算削減の影響で経済状況への不満が募るなか、8月中旬以降、国会議員の手当が注目を集めた。事の発端は、8月12日に闘争民主党の国会議員T・B・ハサヌディンが、議員の月収が給与と手当を合わせて毎月1億ルピア(約90万円)に上ると発言したことである。なかでも、住宅手当が毎月5000万ルピア(約45万円)に達する点は波紋を呼んだ。
そもそもジャカルタの最低賃金は月額約540万ルピア(約4.8万円)であり、国会議員が住宅手当だけでその10倍の額を受給することに、国民の間で即座に反発が広がった。住宅手当の支給は2024年9月末に決定されたもので、政府の説明によれば、議員用住戸の維持が困難になったことによる代替措置であった。しかし、NGO「インドネシア汚職ウォッチ(ICW)」は過大な支出であると当初から批判していた。また、どのくらいの期間支給されるのかなど、国民への説明は十分になされたとは言えなかった。
さらに火に油を注ぐように、議員たちは次々とこの手当を正当化した。例えば、ナスデム党の議員ナファ・ウルバクは、自宅から国会までの深刻な交通渋滞を理由にあげた。しかし、交通渋滞は首都圏の市民誰しもが日常的に直面する問題であるだけに、「議員だけが特別扱いを受けている」という印象を与えた。議員への不満を反映して、ソーシャルメディア上で「国会を解散せよ(#BubarkanDPR)」というスローガンが広まった。これに対して、ナスデム党の国会議員アハマド・サハロニは、「『国会を解散しろ』としか言わないような奴は世界一の馬鹿者だ」と極めて挑発的な発言を行った。
国民の反発は、TikTokなどショート動画プラットフォームでの切り抜き動画によって一層強まった。国会と地方代表議会からなる国民協議会(MPR)の年次総会が8月15日に開催されたが、その閉幕時、オーケストラ演奏に合わせて複数の議員が踊る場面が撮影された。この「議員のダンス」は、「国民の困窮をよそに毎月5000万ルピアの住宅手当を受給して喜ぶ国会議員」というナラティブの下で拡散した。
さらに、スリ・ムルヤニ財務大臣が「国家の負担となっているのは学校教師の給与だ」と発言したかのようなAIディープフェイク動画が流布した6。だが、実際にそのような発言はなく、誰がどのような意図でこの動画を作成したのかはわかっていない。それにもかかわらず、「国会議員の住宅手当を容認した人物」として、予算策定を担うスリ大臣にも怒りの矛先が向けられ、この虚偽動画は十分に真偽を問われることなく拡散したのである。
引き金となった警察の暴力
政治エリートに対する社会の不満を代弁する形で、8月25日に学生による大規模な抗議デモが行われた。一部の学生団体は「国会を解散せよ」というスローガンを掲げ、議員の住宅手当など不当な特権に抗議した。デモは首都ジャカルタだけでなく、メダンやマカッサルなどの地方都市でも行われ、各地で警察機動隊と衝突した。インドネシアでは近年、民主主義の後退とも評されるような法改正が続いており、そのたびに大規模な学生デモが行われてきた。今回もそれらと同様に学生の抗議運動へと発展することとなった(表1)。
とはいえ、当初の段階では、政府はその場しのぎの対応でやり過ごし、事態は深刻化することなく終息するかのように見えた。2月にも省庁・地方政府予算削減や国軍法改正に反対する「暗闇のインドネシア(#IndonesiaGelap)」デモが行われたが、抗議運動の波は長続きしなかった。8月26日にスフミ・ダスコ国会副議長は、住宅手当は2025年10月までのものであると説明したが、ICWはその法的根拠が示されていないことを批判した。また、「馬鹿者」発言で炎上したサハロニ議員は26日に、「無秩序なデモ参加者は未成年であっても逮捕せよ」と高圧的な態度で応じた。
表1 近年の主要な学生抗議運動
しかし、8月28日夜に事態は急変した。中央ジャカルタでのデモの最中、警察機動隊の装甲車が、配達業務中のオンライン配車サービスのバイク運転手アッファン・クルニアワンを轢き殺したのである。アッファンはわずか21歳にして7人家族を養う一家の大黒柱であり、ジャカルタの典型的な低所得層の若者を象徴していた。事件の一部始終を捉えたショッキングな映像は瞬く間にソーシャルメディアで拡散した。
そもそも、警察の不適切な対応や過剰な武力行使は、インドネシアにおいて慢性的な政治問題である。2022年10月には、サッカーファンと警察との間で衝突が発生して135人が犠牲となる「カンジュルハン・スタジアムの悲劇」が発生している。その後も警察のスキャンダルは続いており、近年において警察は政党や国会と並んで国民の信頼度が最も低い国家機関の一つである(図1)。「国会議員の不当な特権に反対するデモの最中に、警察の暴力が庶民のバイクタクシー運転手を殺害した」という事実は、庶民の怒りを爆発させるには十分すぎるものであった。
図1 国家機関への信頼度の変遷
暴動の標的と主体
翌29日にはアッファンの葬儀が営まれ、ジャカルタ中心部のスディルマン通りにて数千人のバイクタクシー運転手による追悼行進が行われた。アッファンの葬儀にはジャカルタ首都警察本部長アセップ・エディ・スヘリが参列し、追悼式にはジャカルタ州知事プラモノ・アヌンや国会議長プアン・マハラニが参列した。プラボウォも公式声明を出し、アッファンの遺族の生活を保障することを述べ、夜には遺族の自宅を訪れて哀悼の意を表した。同日夜には国家警察長官リスティオ・シギットも遺族に対して謝罪を行った。
しかし、政府や警察関係者によるこれらの形式的な対応だけでは庶民の怒りは収まらなかった。8月29日早朝から警察機動隊本部前に群衆が集まり始めて徐々に暴徒化し、夕方以降にはジャカルタ首都警察本部前でも抗議デモが暴徒化した。暴動に合わせて、ジャカルタの路線バス網の停留所や歩道橋などの公共インフラが何者かに狙われ、22のバス停が放火または破壊された7。8月29日夜からは地方都市でも暴動が激化した。マカッサルでは地方議会議事堂が全焼、バンドン、ソロ、クディリ、マタラムなどでも地方議会の建物が放火され、スラバヤでは複数の警察施設や歴史的建造物の一部が破壊された。
また、今回の暴動は、国会議員や政府閣僚の私邸に対する略奪行為という、民主化後のインドネシアで前例のない事態へと発展した。8月30日の夕方から夜にかけて、「馬鹿者」発言で炎上したサハロニの私邸に暴徒が押し寄せ、徹底的な略奪が行われた。続いて、同日夜に「議員のダンス」動画で注目を浴びた国民信託党の二人の議員の私邸も襲われた8。その後、8月31日未明にはスリ財務大臣の私邸までもが略奪の対象となった。スリは、サハロニらとは異なり、財務大臣として政権の中枢を担う人物である。そのような人物が標的となったことは、政府閣僚の誰しもが安全ではないという印象をもたらし、強い衝撃を与えた。
暴動の主体については議論が分かれている。放火行為や略奪行為は組織的に行われた形跡があるが、誰がどういう意図で主導したのか真相はわかっていない。調査報道誌Tempoは、現場に私服の国軍関係者がいたことなどを元に、国軍の工作員が放火行為を扇動した可能性があると指摘している。国軍は当然ながらこれを否定している。
また、抗議運動の主体に関する分析は、参加者を主に大学生、都市貧困層の若者、専門学校生、そして扇動者に分類している。この分析によると、上位中間層が占める割合が大きい大学生は規律立って平和的に抗議活動を行う。一方、低所得層と下位中間層がそれぞれ占める都市貧困層の若者と専門学校生は煽動されやすく、特に夕方以降に暴徒化しやすい9。アッファンの死は、低所得層および下位中間層の共感を呼び、特にこの層の怒りを爆発させた可能性がある。
強硬な手段も厭わなかった政府の対応
政府は事態の沈静化に苦戦した。8月30日、16のイスラーム団体の指導者がプラボウォの私邸に招集され、事態の平常化を求める声明を出した。同時に、プラボウォは予定していた上海協力機構(SCO)首脳会議のための訪中を中止した10。翌31日には、議席を有するすべての政党党首を招集し、その後の演説にて、住宅手当の見直しを行い、議員の海外出張を一時的に停止することを約束した。さらに、物議を醸した国会議員は、所属する政党によって議員活動の停止処分を受けることとなった。
これら譲歩の姿勢を見せると同時に、政府は強権的な対応をとった。31日の演説でプラボウォは、暴動を「外国勢力の煽動」によるものと主張し、「反逆やテロ行為は許さない」と述べ、暴動を国家に対する脅威と位置付けた。また、シャフリ・シャムスッディン国防大臣は、警察と国軍が連携して「無政府主義的な行為」に対し徹底した取り締まりを行うと表明した。
実際に、ジャカルタだけで7万6千人の国軍兵士が警備に動員されたと言われている。国軍兵士は時には警察よりも穏健な対応を取ったが、これはイメージ戦略との疑いが持たれた。事態が悪化するなかで国防大臣が戒厳令の発令を検討したという調査報道もあるが、国防省はこれを否定している。総じて、危機に便乗して国軍が文民政治への影響力を拡大することへの懸念を呼び起こした。
警察による強権的な取り締まりはその後も継続した。9月1日夜にはバンドンの複数の大学キャンパスに催涙弾が打ち込まれた。また、同日、プラボウォは負傷した警察官を昇進させることを決定し、優先順位を履き違えていると批判を買った。9月2日には人権派NGO「ロカタル財団」の代表が扇動の容疑で逮捕され、警察による恣意的な逮捕が疑われた。
並行して、8月30日にTikTokはライブ配信機能を一時的に停止した。TikTokは、ソーシャルメディア空間の安全と秩序を維持することを目的とし、政府の要請ではなく自社判断によるものと説明した。しかし、これは政府による制裁を恐れて行われたという指摘がなされている。情報の透明性が求められる状況にあって、TikTokの判断は情報統制の懸念を呼んだ。
暴動やそれに伴う混乱は9月3日頃には沈静化した。この一連の出来事で、アッファンの他に、デモに参加した学生や、巻き添えとなった議会職員および市民など9人が犠牲となった。国家警察の発表では、5444人が身柄を拘束され(9月8日時点)、959人が逮捕された(9月24日時点)。また、NGO「行方不明者と暴力被害者のための委員会(KontraS)」の報告によれば、9月10日時点で3人が行方不明である。
暴動とそれに対する政府の対応を受けて、9月1日、ソーシャルメディアのインフルエンサーが主体となって「17+8項目の国民の要求」が提示された11。これは、政府の対応をめぐる17項目の即時的な要求(9月5日が期限)と、政治経済状況の改善に向けた8項目の長期的な政策的要求から成る。後者には国会と警察の改革が盛り込まれており、政府は警察改革チームを設置するなどして対応を迫られる形となっている。プラボウォは、9月6日にメディア関係者と面会した際に、この要求について言及し、「多くは理にかなっている」と述べた。ただし、同時に「抗議運動は平和的でなければならず、18時以降のものは法的ではない」と述べるなど、今回の暴動を違法行為と捉える見方を維持した。
プラボウォ政権の今後
なぜ今回の暴動が発生し、磐石だと思われていたプラボウォ政権を動揺させたのだろうか。そもそも、社会の不満が蓄積するだけでは社会運動が激化するうえでの十分条件を満たさない(Tilly 1977; Skocpol 1979)。政治エリートの結束が強固であれば、社会運動が変革につながる可能性は小さくなる(McAdam 1996)。しかし、政治家が大規模な汚職を行っているという認識 (Lewis 2021) や暴力的な死に対する集団的な悲しみと憤り(Tarrow 2011) によって、蓄積した不満は時として爆発する。住宅手当の争点化とアッファンの死は、その引き金となったと言えるだろう。とはいえ、プラボウォ政権が強固な「利権分配」体制を今後も維持する限り、本質的な変革の可能性が十分に開かれているとは言い難い。
暴動の余波は続きそうである。9月8日に突然の内閣改造が行われたが、規律ある財政運営で国際的に高い評価と信頼を得ていたスリ財務大臣が交代した。財務大臣交代の理由は定かではない。略奪に深く傷ついたスリが辞意を表明したことが報じられている一方、財政運営に一層直接関与したいプラボウォがこの機にスリを事実上解任した可能性も否定できない。いずれにしても、スリの交代とプルバヤ・ユディ財務大臣の就任はプラボウォ政権の経済政策における大きなターニングポイントとなるだろう。
また、抗議運動の要求に応える意味合いで、汚職疑惑が持たれている内閣閣僚が複数更迭されたが、その多くはジョコウィ前大統領の側近であった。ジョコウィ派がこの先、プラボウォの「利権分配」体制から排除されることがあれば、エリート間対立の火種となり、今回のような暴動が利用される恐れが生じる。
さらに、一部の地方政府は、暴動の再燃に備えて市民を主体とした自警活動を組織するよう促している。プラボウォが民主的要求を汲み取りつつ経済状況を改善するのではなく、自らの裁量権を拡大しつつ警察国家体制を築く選択をとれば、次の大規模デモのカウントダウンが始まることになるだろう。
写真の出典
- Government of Jakarta(Public Domain)
参考文献
- Aspinall, E. (2025) “Mass protest and the two worlds of Indonesian politics.” New Mandala. September 2.
- Lewis, J. S. (2021) “Corruption Perceptions and Contentious Politics in Africa: How Different Types of Corruption Have Shaped Africa’s Third Wave of Protest.” Political Studies Review, 19(2): 227–244.
- McAdam, D. (1996) “Conceptual origins, current problems, future directions.” In D. McAdam, J. D. McCarthy, & M. N. Zald (eds.), Comparative Perspectives on Social Movements: Political Opportunities, Mobilizing Structures, and Cultural Framings. Cambridge University Press, pp.23-40.
- Skocpol, T. (1979) States and Social Revolutions: A Comparative Analysis of France, Russia, and China. Cambridge University Press.
- Tarrow, S. G. (2011) Power in Movement: Social Movements and Contentious Politics (Rev. and updated 3rd ed.). Cambridge University Press.
- Tilly, C. (1977) From Mobilization to Revolution. Addison-Wesley.
著者プロフィール
水野祐地(みずのゆうじ) アジア経済研究所地域研究センター北東・東南アジア研究グループ研究員。修士(地域研究)。専門はインドネシア政治研究、イスラーム地域研究。最近の著作に、“Digital Anti-Islamist Activism at the Forefront of Political Polarization in Indonesia,” Trending Islam: Cases from Southeast Asia. Singapore: ISEAS – Yusof Ishak Institute (2023) など。
注
- 本記事内の日本円換算は、すべて1インドネシアルピア=0.0090円の為替レートに基づいて算出した。
- 新首都「ヌサンタラ」の総建設費は官民支出合わせて約466兆ルピア(約4.19兆円)と見積もられている。
- この利権分配構造は民主化後インドネシアのどの政権においても一定程度見られるものであったが、ジョコ・ウィドド政権二期目以降特に顕著となった。この現象について、政治学者ダン・スレーターは「過剰包摂的なパワーシェアリング」と呼び、インドネシアに固有の政党カルテルのあり方を指摘する。また、インドネシア政治研究者マルクス・ミーツナーは「連立型大統領制」と捉え、政党だけでなく、治安機関や地方政府、宗教団体なども政権のインフォーマルなステークホルダーとして取り込まれていると主張する。
- 2025年上旬以降、主要な世論調査機関による政権支持率に関する調査は実施されていない。プラボウォ政権の支持率低下を示す情報が出ることを世論調査機関が恐れているという指摘がある。
- 暴動を受けて、パティのPBB-P2の引き上げはその後中止された。
- 非正規教員の月給はわずか約100〜200万ルピア(9000円〜1万8000円)にとどまり、その社会的責務に対して給与水準が著しく低いことで知られる。
- 2020年の反雇用創出法デモの最中にも、ジャカルタの路線バス網の停留所が抗議運動とは別行動を取る何者かによって放火された。今回の暴動における放火と手口の共通性を指摘する見方がある。
- 「議員のダンス」問題で略奪の対象となったのは、エコ・パトリオとウヤ・クヤである。この二人は元芸能人として知名度が高かったこともあって特に狙われやすく、ソーシャルメディア上で謝罪動画を出したものの効果はなかった。また、サハロニやパトリオは、28日以降のデモの最中に海外渡航している様子が報じられ、国民感情を一層逆撫でする形となった。一方、住宅手当を正当化したナファ・ウルバクも標的となったが、実際に略奪を受けたのは彼女自身の住居ではなかったことが後に判明した。
- 都市貧困層の若者や専門学校生の間では、「タウラン」(学生同士の集団的な喧嘩)の文化が根付いている。そのため、この層が暴動に参加する際には刃物や凶器が用いられることが頻繁にあり、また、警察機動隊との抗争が戦術的に行われる傾向があるとされる。
- これに伴い、バランス外交として予定されていた訪中の後の訪日および訪韓も中止された。ただし、事態がある程度収束したことを受けて、プラボウォは9月3日に開催された中国の抗日戦勝80周年記念式典には出席した。
- 各項目の進捗状況はウェブサイトにおいて確認できる。
この著者の記事
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