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新型コロナ禍のなかのインドネシア――感染の拡大と景気後退

 

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00051890

2020年11月

(5,238字)

はじめに――増え続ける感染者
インドネシアでも新型コロナウィルス感染者数の増加に歯止めがかからない。世界第4位の約2億7千万の人口をかかえたインドネシアでは、2020年10月24日時点で感染者は累積で38万2千人、死亡者も合計1万3千人を超えたとみられる。人口の違いを考慮して100万人当たりの人口比でみるならば、死亡者数は48人に上る。これは東南アジアのなかではフィリピンの63人に次いで大きく、また、日本(13人)の約3.7倍に相当する(図1)。

図1 100万人当たりでみた感染者数と死亡者数の推移(2020年2月~10月、累積値、対数表示)

(注)図中の赤い円はインドネシアを、青い円は他の東南アジア諸国をあらわしている。円の大きさは各国の人口規模の違いを示す。
(出所)Our World in Dataの資料(2020年10月26日アクセス)をもとに筆者作成。

感染拡大を受けて経済にも大きな影響が出ている。過去5年にわたってインドネシアは5%前後の安定した経済成長を維持してきた。経済が堅調に推移していた様子は他の指標からも確認できる。貧困人口比率はほぼ一貫して減少しており、2019年にはついに二桁を切る水準に達している。失業率も、2020年2月にかけて5%まで順調に低下してきた。

しかし、2020年に入ってこの流れは大きく変わってしまった。インドネシア国内で最初の感染者が確認されたのは3月であったが、2020年第1四半期(1~3月)の経済成長率は3%(前年同期比、以下同)と大きく減速。感染者が各地に広がり始めた第2四半期(4~6月)にはマイナス5.3%と、アジア通貨危機から脱しつつあった1999年第1四半期以来のマイナス成長となった。そして、第3四半期(7~9月)以降もインドネシアでの感染者数ならびに死亡者数は伸び続けている。11月5日に発表された第3四半期の経済成長率もマイナス3.5%と二期連続でマイナスを記録した。

このパンデミックはインドネシア国内にどのような経済的影響をもたらしているのだろうか。今回の報告では、インドネシア国内での感染状況の推移を州ごとにまとめるとともに、第2四半期までの州別経済指標を用いて感染拡大の影響の一端を探ることにしたい。

図2 インドネシア全図

図2 インドネシア全図

(出所)筆者作成。
感染はどの地域で広がっているのか?

インドネシアで最初の感染者が確認されたのは3月2日のことであった。ジャカルタ首都特別州(以下、ジャカルタ)で2名の感染が報告された。それから7カ月以上たった10月24日現在、同州の感染者数(累積値)は他の州を大きく引き離して10万人に達している。2番目以降には、東ジャワ州(5万1千人)、西ジャワ州(3万4千人)、中ジャワ州(3万2千人)が続いている。死亡者数の合計では、東ジャワ州が最大の3647人、次いでジャカルタ(2146人)、中ジャワ州(1665人)、西ジャワ州(668人)となっている。

人数だけでみた場合、ジャワ島内の州に感染者・死亡者が集中しているのは、ジャワ島だけで全国の人口の56%を占めていることも一因であろう。インドネシアの州人口には74万人(北カリマンタン州)から4932万人(西ジャワ州)と大きな偏りがある。そこで次に、人口10万人当たりの感染者数・死亡者数を確認してみよう(図3)。

図3 インドネシアにおける感染者数と死亡者数の推移(2020年3月~10月、累積値、人口比)

(注)円の大きさは各州の人口規模の違いを示す。
(出所)国家災害対策庁(BNPB)の資料(2020年10月26日アクセス)をもとに筆者作成。州別人口には統計庁(BPS)の統計年鑑(Statistik Indonesia 2020)から得た2019年時点の推計値を用いている。

図をみると、人口比でみた場合には、感染者数・死亡者数ともにジャカルタが常に突出した値を記録していること、そして、カリマンタン島などジャワ島外の地方にも感染が急速に広がっており、それに伴って死亡者も増え続けていることが分かる。

10月24日時点でのジャカルタにおける感染者・死亡者は、それぞれ10万人当たりでみて、949人ならびに20.3人であった。ジャカルタに次いで感染者数が多いのは、西パプア州(404人)、東カリマンタン州(348人)、南カリマンタン州(274人)、バリ州(260人)である。死亡者数では、東カリマンタン州(12.3人)、南カリマンタン州(11人)、東ジャワ州(9.2人)、バリ州(8.6人)が続いている(以上、括弧内は10万人当たりの人数)。また、変化に注目するならば、第3四半期(7~9月)に入ってからの東カリマンタン州での感染拡大が特に際立っている。

感染拡大の地域経済への影響
こうした感染拡大は各地域にどのような負の影響をもたらしているのだろうか。経済的な影響については政府統計により少しずつ明らかになってきている。統計庁(BPS)が公開している第2四半期の州別域内総生産からは、感染による死亡者数の増加に伴い、州の経済状況が急速に悪化していく様子を垣間見ることができる(図4)。

図4 6月末時点の累積死亡者数と2020年第2四半期の州別経済成長率

図4 6月末時点の累積死亡者数と2020年第2四半期の州別経済成長率

(注)円の大きさは各州の人口規模の違いを示している。
(出所)統計庁(BPS)の資料ならびに国家災害対策庁(BNPB)の資料をもとに筆者作成。

図は、6月末までの(10万人当たりの)累積死亡者数と、第2四半期の州別経済成長率(前年同期比)との関係をまとめたものである。図から分かるように、第2四半期の州別域内総生産の成長率は、パプア、西パプアの2州を除いてすべての州でマイナスとなっている。バリ州は、人口比でみた死亡者数が少ないにもかかわらず、経済成長率がマイナス11%と最も低くなっている。支出項目ごとに調べてみると同州では純輸出の急落がみられることから、これはやはり観光業の落ち込みによるものであろう。

また、図からは、10万人当たりの死亡者数が最多のジャカルタで、経済成長率がバリ州についで低くなっていること、そして、西ジャワやバンテンといったジャカルタに隣接する州では、6月末までの死亡者数が少ないにもかかわらず、域内総生産の減少が大きかったことなどを確認できる。これは時期的にみて、ジャカルタを中心に4月から導入された大規模社会制限(PSBB)――インドネシア版の「都市封鎖(ロックダウン)」――の影響と思われる。

この大規模社会制限は、4月3日付保健大臣令(根拠法は衛生検疫に関する法律2018年第6号)に基づき、ジャカルタでの4月10日の導入を手始めに、その隣接州でも実施されていった。なお、それ以前の3月15日、大統領は感染拡大への対応措置の強化を指示する声明を出しているが、それと相前後してジャカルタや西ジャワ、バンテン、そして中ジャワといったジャワ島内の州では高校までの教育機関はすべて休校となっていた。さらにジャカルタ州知事は、3月20日からの公共交通機関の利用制限や企業の事業所活動の一時的停止などを要請していたが、4月に入り、法的拘束力を伴った大規模社会制限が導入された。

大規模社会制限は、具体的には、娯楽公共施設の閉鎖、社会・文化的儀式の制限、屋外での5人を超える集まりの禁止、生活上必要不可欠な部門を除く事業所活動の停止、公共交通機関の利用制限などから構成されている。ジャカルタでは、5月14日以降の出入域も制限されたが、その後、6月4日には一部制限が緩められ、7月17日に出入域規制も撤廃された。しかし図3でみたように感染拡大は止まらず、9月14日に大規模社会制限が再強化されて今に至っている1

こうして、図4でみたように、第2四半期には感染の拡大に伴う景気の悪化が全国的にみられたが、これにより特に懸念されるのはその低所得層への影響である。国内感染者が確認されはじめた3月に実施された家計調査によれば、ジャワ島では早くも貧困人口比率の急上昇が観察される。

図5 貧困人口比率の変化分の推移 (2016年3月~2020年3月、前年同月比、%ポイント)

図5 貧困人口比率の変化分の推移 (2016年3月~2020年3月、前年同月比、%ポイント)

(注)グラフの縦軸は、各州で貧困人口比率が前年同月比でみて何%ポイント変化したかを示している。マイナスの場合は貧困人口比率が低下したことを意味する。
(出所)統計庁(BPS)の資料をもとに筆者作成。

図5は、州ごとの貧困人口比率について、前年同月の調査から何%ポイント変化したかをまとめたものであるが、2020年3月には、ジャワ島内の州(図中の31~36)では0.6%ポイントから1.1%ポイント程度の貧困人口比率の増加がみられる。1.1%ポイントも増えたジャカルタは、これによりほぼ2007年時点の水準(4.6%)にまで貧困人口比率が上昇したことになる。ジャワ島内の他の州も、2年から5年ほど前の水準に逆戻りしている。

4月以降の感染拡大をみると、それ以降の貧困人口比率の水準が気になるであろう。インドネシアでは年に2回、3月と9月に実施される家計調査結果をもとに貧困人口を推計しており、直近の詳細な状況を知るためには、(通常であれば)翌年1月に発表される9月時点の推計値を待たなければならない。

そこで最後に、参考までにインドネシアの研究機関SMERUの予測値を紹介したい。4月に公開されたワーキングペーパーでは、世界銀行などの経済成長予測を下敷きに、2020年のインドネシアの経済成長率が1~4%の間におさまるという想定のもと、2020年の貧困人口比率の予測値を推計している。その予測によれば、一番悪いシナリオとして、1%成長のもとで貧困人口比率は12.4%まで上昇する可能性があるとしている。これは2011年9月時点の水準に相当する値である。

その後、世界銀行は、2020年通年で見たインドネシアの経済成長率の(ベースラインの)予測値をマイナス1.6%まで引き下げている。国際通貨基金(IMF)も同じくマイナス1.5%に下方修正している。ここから単純に類推するならば、インドネシアの貧困人口比率はSMERUによる最悪シナリオの予測値すら上回ることになるかもしれない。

おわりに
今回の報告では、第2四半期(4~6月)までの政府統計をもとに、新型コロナウィルスの感染が国内にもたらした影響の一部をみてきた。その後も、10月にかけて感染が拡大している様子からは、第3四半期以降にも深刻な経済的影響が各地で生じているであろうことは想像に難くない。また、こうした地域別にみられる感染拡大の違いは、政治的にも大きな影響を及ぼすであろう。近いところで注目されるのは12月9日に実施予定の統一地方首長選挙である。感染が広がっている地域では、選挙運動の制約から現職が有利になりやすいと予想されるほか、投票率の低下も懸念されているが、こうした政治面での影響についても、感染状況の推移や経済的影響とあわせて、また別の機会に報告することにしたい。
インデックス写真の出典
  • Dennys codet, Bahasa Indonesia: Wabah pandemik yang melanda tak menyurutkan niat dan janjinya untuk tetap menikahi sang pujaan hatinya, walau mereka tak jadi merayakan resepsi (CC BY-SA 4.0).
著者プロフィール

東方孝之(ひがしかたたかゆき) アジア経済研究所海外調査員(在シンガポール)。専門は開発経済学、インドネシア経済。近著に「第1期ジョコ・ウィドド政権期の経済――経済成長と雇用・貧困削減の分析」・「2019年大統領選挙――社会の分断と投票行動の分極化(共著)」(川村晃一編『2019年インドネシアの選挙――深まる社会の分断とジョコウィの再選』アジア経済研究所、2020年)、"The Effect of Local Government Separation on Public Service Provision in Indonesia: A Case of Garbage Pickup Services in Urban Areas,"in Michikazu Kojima ed. Regional Waste Management: Inter-municipal Cooperation and Public and Private Partnership, ERIA Research Project Report, No.12, 2020.などがある。

  1. 大規模社会制限の導入をはじめとして、新型コロナ感染拡大へのインドネシア政府の対応についてはCovid-19対策促進タスクフォースのウェブサイト(インドネシア語)に情報が集約されている。日本語では在インドネシア日本国大使館の「新型コロナ関連情報」が詳しい。
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新型コロナウイルスと新興国・開発途上国