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コロナ禍からの中国経済の立ち上がりをみる

 

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00051731

2020年6月

(5,632字)

世界各地で猛威を振るう新型肺炎の流行にも変化が生じている。最初の流行地である中国・湖北省武漢市でロックダウンが解除され、中国は政策の重点を防疫から景気回復に移した。しかし、中国の景気回復は始まっているのだろうか。次のGDP発表を待っていては7月になる。そこで、いま月次統計が中国の景気の転換点について示していることは何かを考えてみた。

3月、4月の投資の回復は急である。生産手段が毀損したわけではないので、人々が現場に戻ることで生産や建設投資は急回復する。だが、かといって天災や戦争の後のようにインフラ復興需要が発生するわけでもない。他方、消費の回復は極めて鈍い。巣ごもり消費はオンライン消費拡大の追い風となることが期待されるが、解雇や給与カットが広がってしまえば元も子もない。政府は3月に雇用安定化策を打ち出しその効果が期待されるが、発表から日が浅いこともあってか調査失業率の低下はみられない。需要の回復テンポが鈍いと分かれば、企業はコロナ禍前に予定していた投資を先送りすることも考えられ、楽観はできない。

大きくマイナスに振れた消費

2020年1-3月期の実質GDP成長率は前年同月比6.8%のマイナスであった(図1)。筆者はリーマンショック時の最悪期(2009年1-3月期)、北京駐在で当時の景気後退を肌で感じたが、その時でも6.4%のプラス成長であった。マイナス6.8%には現実感がない。

2017、18年は内需主導の成長だったが、2019年に入ると外需が成長率の低下を緩和する構図となった。外需による押し上げがなくなった10-12月期も投資(資本形成総額)の増加で6%成長をかろうじて維持したが、コロナ禍に見舞われた2020年1-3月期は内外需総崩れとなった。特に消費(最終消費支出)の寄与度は3.5ポイントからマイナス4.4ポイントに大きく振れた(図1)。

図1 中国の実質GDP成長率の寄与度分解図

図1 中国の実質GDP成長率の寄与度分解図

(出所)CEICのデータを基に筆者作成。
中国国家統計局の見方

中国国家統計局の4月17日の定例記者会見1では、毛盛勇報道官と香港英字紙South China Morning Post(以下、SCMP)の間に次のような応答があった。

SCMP「1-3月期のデータはやはり新型コロナウイルス肺炎流行の中国経済に対する大きな影響がみられるが、4-6月期は中国の今年の成長の転換点になることができるとみるか?」 毛報道官「足元の経済の推移をみると、基本的に3月は1-2月期に比べ明らかに改善していると判断している。この3月(にかけて)の改善のペースは今後も維持していくことが可能だろう。特に『復工復産』(職場復帰・生産再開を意味する中国政府のスローガン)に伴い全体計画は加速し、より強力な政策が切れ目なく打ち出され、4-6月期はさらに改善するだろう。つまり4-6月期は明らかに1-3月期よりも良い、これが基本的趨勢である。」

5月15日の定例記者会見2では、新華社中国経済情報社から「第2四半期にマクロ的に転換のサインが表れる、いわゆる『第2四半期現象』はみられるのか」と問われ、劉愛華報道官は次のように答えた。

「各種の政策の効果、市場主体の共同の努力の下、我々には確かに、経済の持続的な回復と改善の要素も基礎も自信もあり、それを実現する意欲もある。他方、やや大きな不安定・不確実性も確かに存在するので、我々はやはりボトムライン思考(最悪に備える)を堅持しなければならない。経済上の有利な要素をしっかりと押さえ、固有の優位性を発揮し、内需の潜在力を活かし、この難局を乗り越えようとする企業を助け、最終的には経済の平常への回帰を全面的に実現する。」

この会見で劉報道官は1月から4月にかけて様々な経済指標が改善していると説明してはいるが、「ボトムライン思考の堅持」という言葉には当局の慎重姿勢がにじむ。

立ち上がりが早い投資

中国経済はどの程度落ち込んだのか。また、回復についてどうみたらよいのだろう。とりあえず、消費(社会消費品小売総額)と投資(固定資産投資)の水準、季節調整値をみてみる3

季節調整値は消費も投資も2011年1月以降毎月確認できる。驚くべきことに、2011年からコロナ禍直前まで、消費も投資もほぼ9年にわたり減少することなく増え続け、2.5倍に膨れ上がった。コロナ禍以降の推移をみると、投資は1月が前月比3.7%減、2月が同20.0%の大幅減で、2015年10月つまり4年以上前の水準にまで落ち込んだ。しかし3月、4月は6%強の増加が続き、一気に2017年4月の水準にまで戻している。2カ月間で18カ月分巻き返したことになる(図2)。

図2 コロナ禍による固定資産投資の水準の変化

図2 コロナ禍による固定資産投資の水準の変化

(注)2011年1月の季節調整値を100とし各月のデータを指数化。2本の点線は、上(黄緑)が2020年4月の水準、下(赤)が2020年2月の水準。
(出所)CEICのデータを基に筆者作成。

設備投資は生産物への需要の大きさに対する生産能力の不足を補うべく行われるものであり、生産物の需要拡大が見込まれれば投資の勢いは増し、需要減で生産能力が余るようであれば投資の必要性はなくなるという、振れの大きな需要項目である。

今回の場合、単純に人が集まって作業することができないことにより落ち込んだ部分があったと考えられる。例として建設投資が考えられる。そうした落ち込みの解消は、外出や移動の制限が緩和されれば急速に進むはずだ。

問題はその先にある。需要の回復テンポが鈍いとみれば、企業は目指すべき生産能力の水準を引き下げると考えられるからだ。

回復の遅れが目立つ消費
消費はコロナ禍発生以降、2020年1月に前月比13.1%減となり、2018年3月の水準にまで落ちた。つまり約2年前に戻ったことになる。その後は2月0.04%増、3月0.4%、4月0.3%の微増で、底ばいの状況にある(図3)。

図3 コロナ禍による社会消費品小売総額の水準の変化

図3 コロナ禍による社会消費品小売総額の水準の変化

(注)2011年1月の季節調整値を100とし各月のデータを指数化。点線は2020年1月の水準。
(出所)CEICのデータを基に筆者作成。

消費には基礎的な部分とそれ以外とがあり、基礎的な部分(食料や日用品など)に対する支出が安定している半面、それ以外の部分(耐久財、旅行、外食など)は所得や消費マインド次第で変動すると考えられる。コロナ禍の間に解雇や給与削減が広がってしまえば、モノの生産が再開したものの思ったほど売れないということにもなる。

コロナ禍は戦争や自然災害といったショックに比べ、生産手段が毀損していないだけに、生産の再開は比較的容易と考えられるが、生産物に買い手がつくかは別問題で、その点は雇用・所得の状況次第だろう。

求職者数が大幅減

雇用指標でまず思い浮かぶのは失業率である。中国の失業率といえば、かつては「都市部登録失業率」4であった。しかし指標の変動が小さく、注目されることはほとんどなかった。なぜなら、統計の対象が都市戸籍者に限られ農村戸籍の出稼ぎ労働者(農民工)が対象とならず、また国有企業に一頃多くみられた一時帰休(レイオフ)についても、雇用契約が打ち切られたわけではないため、仕事がなくても失業登録の対象とならず、「都市部登録失業率」は失業の実態を反映していないと考えられたからである5。その点、求人倍率は都市戸籍に限定した統計ではなく、雇用の実勢を反映しているとみられていた。

求人倍率(求人数/求職者数)は労働需給が逼迫する好景気の下で上昇するもののように思えるが、コロナ禍に見舞われ好景気からはほど遠い1-3月期に急騰した。これは求人数の減少もさることながら、求職者数が激しく落ち込んだためである(図4)。求職者数の落ち込みについてはコロナ禍による人の移動の厳しい制限、感染への恐怖が大きく影響したと考えられる。他方、2019年7-9月期、10-12月期のデータが確認できないため、そもそもコロナ禍以前に求人数が落ち込んでいたのではないかと疑いたくもなる。

近年、成長率の鈍化が続くなか、求人倍率が上昇傾向にあり、筆者はこれを2012年前後から続く生産年齢人口の減少を背景とする求職者数の減少が一因と考え、求人倍率よりも求職者数・求人数それぞれの推移(特に成長の鈍化に伴う求人数の減少)に注目してきたが6、求職者数・求人数は2019年7-9月期、10-12月期の発表がないまま2020年1-3月のデータが発表されている。

図4 求人倍率の推移

図4 求人倍率の推移

(資料)CEICのデータを基に筆者作成。
調査失業率は高止まり

近年は「都市部登録失業率」に代わって、「調査失業率」が参照されるようになっている。調査失業率は、標本抽出で40万世帯を選び、16歳以上人口の就業状況を世帯訪問で調べるものである。都市部登録失業率と異なり、農民工(農村戸籍の出稼ぎ労働者)でも6カ月以上都市に定住している場合は統計の対象である7

調査失業率は2013年の開始からしばらくは発表が不定期であったが、近年は毎月発表されるようになっている。2018年から2019年にかけ高まる傾向にあったが、2020年に入り急騰した。図5に2つデータがあるが、この調査は主要「31都市」で始まり、のちに全国展開されたためである。両者の動きに多少の違いはあるものの、2020年2月に急騰し高止まりの状態にある点は共通している。

図5 調査失業率の推移

図5 調査失業率の推移

(資料)CEICのデータを基に筆者作成。
雇用安定対策以降の調査失業率の推移に注目

図2、3でみたように、2020年初、消費も投資も未曽有の減少となった。単純に言えば、コロナ禍により中国の経済発展の時計の針は、消費については2年弱、投資については4年以上戻ってしまった。その後、投資の回復は急だが、消費の動きは鈍い。

需要の一日も早い回復を期待したいが、コロナ禍の場合、繰越需要(ペントアップ・ディマンド)はあるにしても、戦争や天災の後のようにインフラ復旧で巨大な需要が生じるというわけでもない。また、厳しい外出制限による業績不振で給与削減、解雇や倒産が広がれば、国民の所得も消費も減少する。

2019年10-12月期から2020年1-3月にかけて、GDP寄与度の振幅が最も大きかったのは消費であった。オフライン消費のうちオンライン消費でカバーされる部分は増えていくであろうが、所得減少による消費の落ち込みまでカバーできるとは思えない。雇用と所得の回復が必要だ。

国務院常務会議のサマリー8をみると、就業関連施策は2019年7月に3度(10日、17日、31日)取り上げられたが、その後12月(4日)まで間が空いた。しかし2020年2月以降は、就業の安定・促進が月に1度議論されている。2月13日には「全国人的資源社会保障系統組織『新型肺炎』雇用対策テレビ電話会議」も開催され、3月18日には「新型コロナウイルス肺炎流行の影響に関する国務院弁公庁の雇用安定対策の強化に関する意見」(国務院[2020]第6号)9が打ち出された。

政府が雇用対策に本腰を入れ始めたのは2月、3月で、効果が表れるにはまだ時間が必要とは思うが、調査失業率が4月も高かったのは気になる。対策の効果が今後、雇用、消費関連指標の改善として確認できるようになることを期待したいが、このままでは、需要の回復の鈍さに企業の期待が萎み、投資の回復も続かなくなる。決して楽観はできない。

写真:封鎖が解除された武漢のショッピングモール(2020年4月12日)

封鎖が解除された武漢のショッピングモール(2020年4月12日)
写真の出典
  • Painjet, With the COVID-19 pandemic in Wuhan being under control, the Aeon Mall in Wuhan Economic & Technological Development Zone, which is the largest one in Asia, resumed operation(CC-BY-SA-4.0).
著者プロフィール

箱﨑大(はこざきだい) アジア経済研究所新領域研究センター主任調査研究員。都市銀行に入行後、日本経済研究センター、銀行系シンクタンク出向、香港駐在エコノミストを経て、2003年にジェトロ入構。北京事務所次長、海外調査部中国北アジア課長を経て2018年より現職。おもな著作に、『2020年の中国と日本企業のビジネス戦略』(共編著)ジェトロ(2015)、『中国経済最前線:対内・対外投資戦略の実態』(共編著)ジェトロ(2009)など。

  1. 中華人民共和国国務院新聞弁公室ウェブサイト、国新办举行一季度国民经济运行情况新闻发布会
  2. 中華人民共和国国務院新聞弁公室ウェブサイト、国新办举行4月份国民经济运行情况新闻发布会
  3. 中国の場合、経済データの変化を原系列の前年同月比や同期比で見るのが普通であるが、1月や2月は春節の連休があり、しかも時期が毎年変わる。経済統計に1月のデータが公表されなかったり、1、2月合算でしか公表されない項目が多いのは、ミスリードを避けるためであるが、毎年初、経済情勢の把握に空白が生じることにもなる。
  4. 労働政策研究・研修機構(2018)「実態に合わせた失業率を所期経済目標に採用」によれば、計算式は、都市部登録失業率={都市部失業登録者/都市部失業登録者+(都市部企業従業員-使用されている農村労働力-雇用されている定年退職者-香港・マカオ・台湾および外国人)+都市部休職休業人員+都市部自営業主+個人事業主+都市部自営業企業と個人事業での従業員}×100%。失業登録とは1970年代末に始まった制度で、すべての都市戸籍を持つ失業者は政府労働部門に登録することが必要となった。
  5. 労働政策研究・研修機構(2018)「実態に合わせた失業率を所期経済目標に採用」。
  6. 箱﨑大(2019)「中国の就業者数、57年ぶりに減少」日本貿易振興機構。
  7. 労働政策研究・研修機構(2018)「実態に合わせた失業率を所期経済目標に採用」。
  8. 中華人民共和国中央人民政府ウェブサイト、国务院常务会议
  9. 中華人民共和国中央人民政府ウェブサイト、国务院办公厅关于应对新冠肺炎疫情影响强化稳就业举措的实施意见(国办发〔2020〕6号)
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【特集目次】

新型コロナウイルスと新興国・開発途上国