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(世界はトランプ関税にどう対応したか)第12回 ベトナム――米中の間で高成長を模索

Vietnam: Seeking high growth between the US and China

PDF版ダウンロードページ:https://hdl.handle.net/2344/0002001864

2026年3月

(5,456字)

2025年4月2日、トランプ関税の発表が世界に衝撃をもたらすなか、ベトナムはふたつの点で注目を集めた。ひとつは、予想された打撃の大きさである。ベトナムは当初発表の相互関税率が46%と高く、2024年の対米輸出は国内総生産(GDP)の25%1にも相当する。当時のいくつかの試算において、ベトナムはもっとも深刻な負の影響が予想される国のひとつとされた(熊谷ほか2025; Iyer et al. 2025; Rotunno and Rura 2025)。

もうひとつは、米国に対する協調姿勢である。4月4日には最高指導者であるトー・ラム共産党書記長がトランプ大統領と電話会談を行い、米国に対する輸入関税の0%への引き下げについて協議する準備があることを伝えつつ、交渉開始の合意を取り付けた。米国製品の大型購入契約などの対応も次々と打ち出した。

だが、トランプ関税の発表から1年弱を経たベトナムの状況は、当初の予想とはかなり異なっている。2025年のベトナムの対米輸出は28%の伸びを記録し、GDP成長率は過去20年で2番目に高い8.02%に達した。交渉では、米国は相互関税を20%へ引き下げたが、ベトナムは公式には当初のラム党書記長のオファーを大きく超える譲歩は避けたままである。2026年3月半ばまで、両国は最終合意にはいたっていない。

むろん、こうした展開はトランプ大統領の方針が二転三転したことをはじめとして、様々な要因に規定されている。しかし、ベトナムがどのように対処するかによって、結果は異なるものになっていたであろうとも考えられる。ベトナムはどのようにして深刻な事態を回避してきたのであろうか。相互関税交渉における焦点のひとつはベトナムの対中経済関係であった。これまでの経緯を振り返ると、困難に直面しつつも、米中双方との関係強化に努めるベトナムの状況が浮かび上がる。

米中対立の恩恵と新たなリスク

ベトナムが高い相互関税を課された背景のひとつには、2024年に中国、メキシコに次ぐ第3位にも達した米国の対ベトナム貿易赤字がある。1990年代まできわめて限られていたベトナムの対米輸出は、ふたつの節目を経て急拡大してきた(図1-(a))。

ひとつは、2001年に発効した通商協定による米国の最恵国待遇の獲得である。これは、縫製品、靴など軽工業品を中心に目覚ましい輸出拡大をもたらした。もうひとつは、2018年に始まる米中貿易戦争である。ベトナムは、米国の対中追加関税が誘発した中国からの生産移管の有力な受け皿として浮上した。

図1 ベトナムの対米・対中貿易の推移

(a)対米貿易

図1 ベトナムの対米・対中貿易の推移 (a)対米貿易

(b)対中貿易

図1 ベトナムの対米・対中貿易の推移 (b)対中貿易

(注)2024年、2025年は暫定値。
(出所)ベトナム統計局、ベトナム税関局(2025年)

米中対立の恩恵を享受したかにみえたベトナムだが、米国の貿易赤字の急拡大により、新たなリスクに直面することになった。ベトナムは2019年にすでにトランプ大統領から「多くの企業が(対中関税を受けて)ベトナムに移転しているが、ベトナムは中国よりもさらにひどく我々(米国)を利用している」2と名指しで批判され、第一次トランプ政権末期の2020年12月には為替操作国の認定を受けた。

留意すべきは、対中輸入が対米輸出とほぼ連動しながら拡大してきたことである(図1(b))。米国は、これを根拠のひとつとして中国製品がベトナム経由で迂回輸出されているとの主張を展開することとなる。

確かに、ベトナムの産業の多くは中国から輸入された中間財や原料、機械設備に依存する。ただし、それらは対米輸出のみに用いられるわけではなく、対中輸入には国内市場向けの製品も多く含まれる。実際、ベトナムの対米輸出に占める迂回輸出の規模が限られることは複数の研究によって示されている(Iyoha et al. 2024; Schulze and Xin 2025)。

相互関税発表後の展開――迅速、積極的な初動

ベトナムは、第二次トランプ政権下で保護主義の標的となるリスクを警戒していた。2025年3月には、グエン・ホン・ジエン工商相らが渡米して米通商代表部との会談やエネルギーなどの購入契約締結を行ったほか、同月末には一部の自動車や農産物などに対する最恵国関税の引き下げを実施している。

4月2日、46%の相互関税の発表を受けて、ベトナムは深い遺憾を表明しつつ、迅速な動きをみせた。同月4日のラム党書記長のトランプ大統領との電話会談後、ベトナムはただちに米政権関係者との接触を図り、5月には正式な交渉開始へと漕ぎつける。ただし、ラム党書記長の会談に関し、トランプ政権のピーター・ナヴァロ上級顧問は、ベトナム側の関税撤廃提案は無意味であると発言し、中国製品の迂回輸出などの問題を指摘した3

ベトナムは様々な措置も打ち出した。航空機や農産物などの大型購入契約が相次ぎ発表された。迂回輸出対策として、原産地証明書の発給などの窓口が工商省に一本化され4、違反行為の取り締まりも強化された。トランプ大統領の親族が経営するトランプオーガナイゼーションのベトナム北部におけるゴルフリゾート開発案件は、異例のスピードで認可された。5月下旬に行われた起工式において、ファム・ミン・チン首相は、同案件は両国間関係の強化につながると強調した5

こうした動きは協調姿勢を前面に出しているようにみえるが、ベトナムは米国に対し対米交渉の基本姿勢や要望も示している。基本姿勢を要約すると、(1)ベトナムは米国との包括的戦略的パートナーシップを重視し、互恵的な二国間協力の強化を望んでいる、(2)米国の懸念事項に応えつつ協働することで、互恵的な解決策を見出していきたい、ということになる6。要望としては、市場経済国としての認定、および米国の輸出管理規制における懸念国リストからの除外が挙げられてきた7。前者には、反ダンピング調査や課税における不利な扱いの回避、後者には、米国の技術獲得を通じた科学技術主導の成長促進という狙いがある。

しかし、大国による一方的な関税賦課から始まった交渉において、互恵的な解決策を見出すことは困難であったとみられる。6月に入ると、米国はベトナムに対し厳しい要求を突き付けているとの報道がなされた。とりわけ焦点となったのは、サプライチェーンを中国から切り離し、中国製品の使用を制限するという要求であった8

「相互関税20%」――ディールの経緯と意義

大きな転換点となったのが、7月2日のディールの発表である。トランプ大統領は、ラム党書記長との会談を経てベトナムとのディールを成立させたこと、ベトナムに対する相互関税は20%、積み替え品の関税は40%となること、ベトナムは米国に完全な市場開放を約束したことを自らのソーシャルメディアに投稿した。

トランプ大統領の発表は、英国、中国に次ぐ3番目のディールとして注目を集めた。ただし、ベトナム政府の発表は、両国による「相互的、公正かつ均衡のとれた貿易協定の枠組みに関する共同声明」の合意に言及したが、関税率には触れていない9。7月31日、新たな相互関税率を定めた米大統領令の署名後、ベトナムに対する相互関税率が20%に引き下げられたことが発表された10

この間の経緯については、7月2日時点で、ベトナムの交渉官らは20%に合意していなかったにもかかわらず、トランプ大統領はラム党書記長との電話会談で一方的に20%課税の宣告を行ったとの報道がある(Desrochers, Kine, and Hawkins 2025)。同報道は、米国側関係者の言として、トランプ大統領の発表を受けたベトナム政府の反応が「驚き、そして失望と怒り」であったと伝えている。

ただし、結果的にみると、関税率の46%から20%への引き下げは大きな意義を持つこととなった。7月末にかけて各国に対する関税率が次々と発表され、ASEAN諸国で当初からの引き下げ幅がベトナムより大きかったのは49%から19%となったカンボジアのみであった。当初は10%以上あったタイやインドネシアの関税率との差は1%となり、ベトナムが輸出拡大や投資誘致において競合国に比べ大きく劣後する事態は回避された。

ただし、懸念材料も残る。積み替え品に対する40%の関税である。米国は積み替え品の定義を含む運用指針を明確にしていない。ベトナムで操業する企業はリスクを抱えたままとなっている。

貿易協定枠組みと以後の進捗

貿易協定枠組みが発表されたのは、上記のディールから4カ月近く後であった。10月26日、マレーシアで開催されたASEAN首脳会議の機会に、両国は「相互的、公正かつ均衡のとれた貿易協定の枠組みに関する共同声明」11を発表した。

そこには、米国の相互関税の20%での維持、およびベトナムの様々な分野における対応が記された。(1)実質的にすべての米国製品に対する特恵的市場アクセスの提供、(2)非関税障壁への対処、(3)デジタル貿易、サービス、投資に関する約束の確定、(4)知的財産、労働、環境などの問題に対処するための両国の関与などで、ベトナムにとってセンシティブな分野に関する内容も含まれる。

だが、詳細をみると、ベトナムの具体的な約束は少ない。(1)は4月にラム党書記長がトランプ大統領に提示した事項だが、関税率や対象品目数などの記載はない。そのほかは、(2)や(3)のように「対処する」「確定する」といった文言が目立つ。具体的な約束は、農産物の認証や自動車安全基準など非関税障壁に関するものと、数量や金額が記された航空機や農産物の購入などに限られる。

興味深いのは経済安全保障の項目である。同日に発表されたタイとの共同声明12には、「第三国」との経済関係を制約する記述が含まれ、中国を想定しているとされる。ベトナムとの共同声明にはそのような記述は見当たらず、サプライチェーンの強靭性強化のための協力が謳われるにとどまる。この違いについて、Olson(2025)は、対中関係の重要性というベトナムの事情に米国が配慮している可能性を指摘している。

この段階では、以後数週間で両国は貿易協定を確定するとされていた。しかし、2025年11月および2026年2月の交渉を経ても、合意のめどはたっていない13

2025年の経済実績――対米輸出の伸びと高成長

相互関税がベトナムに深刻な影響をもたらすとの予想は外れた。2025年の対米輸出は前年比28%もの伸びを記録し、輸出総額の伸び(17%)を上回った。

表1には、対米輸出総額および主要品目の輸出額の伸び率を相互関税発効前(1~7月)と発効後(8~12月)に分けて示した。関税発効前には駆け込み輸出が拡大したといわれ、多くの品目が伸びを記録している。関税発効後は、木材・木工品や機械の伸び率が低下しており、関税の影響がうかがわれるが、相互関税の対象外であったコンピュータ・電子製品・部品は飛躍的に伸びた(内閣府2026)。これはベトナムの対米輸出の最大の品目であり、関税発効後の輸出の伸びを主にけん引したと考えられる。

表1 2025年のベトナムの対米輸出(暫定値)

表1 2025年のベトナムの対米輸出(暫定値)

(出所)ベトナム税関局

北部ニンビン省のミートゥアン工業団地に建設された台湾系電子製造サービス(EMS)、クアンタ・コンピュータの工場

北部ニンビン省のミートゥアン工業団地に建設された台湾系
電子製造サービス(EMS)、クアンタ・コンピュータの工場

GDP成長率は8.02%と、過去20年間では、コロナ禍からの回復を遂げた2022年に次いで2番目に高かった。これは様々な要因に支えられているが、輸出の伸びがそのひとつであったことは間違いない。

ただし、好調な実績は新たな懸念ももたらしている。2025年の米国の対ベトナム貿易赤字は44%増の1782億ドルにも達した14。通年ではベトナムは中国、メキシコに次ぐ第3位だが、第4四半期には中国を上回り、メキシコに次ぐ第2位となった。

ベトナムの対中輸入も29%増となった。対米輸出に必要な部品の需要拡大だけでなく、中国の直接投資拡大にともなう設備などの輸入の増加、さらには、米国の関税や中国の景気低迷で行き場を失った中国製消費財の流入などが背景にある。2025年の輸入総額に占める比率は41%にも達し(図1(b))、直接投資(登録資本金額、認可額に相当)でもシンガポールに次ぐ2位となるなど、中国との経済関係はこれまで以上に強まっている。

さらなる高成長に向けた模索

トランプ関税の発表から約1年の間、ベトナムは、当初懸念された最悪の事態を回避してきた。競合国とほぼ同レベルの相互関税20%の適用を受け、交渉では厳しい要求に直面しているとみられるものの、公式には当初のオファーを大きく超える譲歩は避けつつ協議を継続している。関税発動後も、除外品目であるコンピュータ・電子製品を中心に対米輸出を大きく伸ばし、高成長につなげた。

注目されるのは、米中双方との関係が貿易にとどまらず、技術集約的分野を含む投資や協力へと展開していることである。2026年2月のラム党書記長の訪米時には、ベトナム企業による航空機などの購入契約に加え、米スペースX傘下企業に対する衛星通信サービスのライセンス付与が発表され、トランプ大統領は輸出管理における懸念国リストからのベトナムの除外を関係機関に指示すると発言した15。他方、ベトナムは中国企業ともデジタル分野などでの協力を加速させている。

2026年、ベトナムは10%以上という野心的な成長目標を設定し、輸出や投資だけでなく、デジタル経済やグリーン経済の促進を掲げる。そのいずれにおいても、両国との関係は重要な意義を持つ。

2026年2月、米最高裁判所は、国際緊急経済権限法に基づき発動された相互関税に違憲判決を下した。今後も不透明な状況が予想されるなか、可能な限り米中とのバランス維持に努めつつ双方と関係強化を図ろうとするベトナムの模索は続くであろう。

※この記事の内容および意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。
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参考文献
著者プロフィール

藤田麻衣(ふじたまい) アジア経済研究所地域研究センター主任調査研究員。PhD。専門はベトナム経済、産業発展。最近の著作に、「ベトナム トランプ関税と対中関税の間で」(『外交』92号、2025年8月)、「米中貿易戦争とベトナムの経済発展――グローバル経済への統合と後発途上国のジレンマ――」(丁可編『米中経済対立――国際分業体制の再編と東アジアの対応――』アジア経済研究所2023年)など。


  1. ベトナム統計局のデータに基づき算出。
  2. Trump warns China is 'ripe' for new tariffs and suggests Vietnam could be next,” The Guardian, 27 June 2019.
  3. Jesse Pound, “Peter Navarro says Vietnam’s 0% tariff offer is not enough: ‘It’s the nontariff cheating that matters’,” CNBC, April 7, 2025.
  4. 2025年4月21日付工商省1103号決定。従来はベトナム商工連盟(VCCI)などに権限が認められていた。
  5. Trump Organization breaks ground on $1.5b golf resort complex project in Hưng Yên,” Viet Nam News, May 21, 2025.
  6. Thuy Dung, “Viet Nam, U.S. kick off negotiations on economic, trade issues,” Online Newspaper of the Government of the Socialist Republic of Viet Nam, April 24, 2025.
  7. Khanh Phuong, “PM suggests U.S. remove Viet Nam from strategic export control list,” Online Newspaper of the Government of the Socialist Republic of Viet Nam, May 29, 2025. 米国は軍民両用品目を対象とする輸出管理規制においてリスクに応じた国の分類を行っている。ベトナムは、国家安全保障に関わる懸念国(D1)および化学・生物兵器に関わる懸念国(D3)のリストに含まれる。
  8. Francesco Guarascio and Phuong Nguyen, “US made 'tough' requests to Vietnam in trade talks, sources say,” Reuters, June 3, 2025.
  9. Huong Giang, “General Secretary To Lam holds phone conversation with U.S. President Donald Trump,” Online Newspaper of the Government of the Socialist Republic of Viet Nam, July 2, 2025.
  10. MoIT updates on Vietnam - U.S. reciprocal trade talks,” Ministry of Industry and Trade Web Portal, Augst 2, 2025.
  11. Viet Nam, U.S. announce Joint Statement for Reciprocal, Fair and Balanced Trade Agreement,” Online Newspaper of the Government of the Socialist Republic of Viet Nam, October 26, 2025.
  12. The White House, “Joint Statement on a Framework for a United States-Thailand Agreement on Reciprocal Trade,” October 26, 2025.
  13. 2025年11月時点でのベトナムの交渉関係者の情報によれば、米最高裁が相互関税の合法性についての決定を下した後、かつ年内の協定への署名を目指していたという(“Viet Nam and US Near Trade Deal,” November 19, 2025, Viet Nam National Trade Repository, Ministry of Industry and Trade)。2026年2月の第6回交渉の結果について、ベトナム政府は公式発表を出していない。ジェイミソン・グリア米通商代表は、交渉は決定的な段階に入っていると述べた(Bach Quang, “Vietnam-US trade talks enter decisive phase: US official,” The Investor, February 20, 2026)。
  14. 米国国勢調査局のデータに基づき算出。
  15. Thuy Dung, “General Secretary To Lam meets President Donald Trump at White House,” Online Newspaper of the Government of the Socialist Republic of Viet Nam, Feb. 21, 2026.
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