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(世界はトランプ関税にどう対応したか)第11回 台湾 関税か投資か――半導体サプライチェーンをめぐる米台関税交渉
Tariff or Investment? US-Taiwan Tariff Negotiations over the Semiconductor Supply Chain
PDF版ダウンロードページ:https://hdl.handle.net/2344/0002001779
2026年3月
(5,407字)
厳しい選択を迫られた台湾
2026年1月15日の総括会議により、10カ月に及んだ米台関税交渉が妥結した。台湾は、日韓と同水準の相互関税率15%に加え、「米国通商拡大第232条関税(以下、232条関税)」での最恵国待遇も獲得した。
しかし、この合意に至るまでの道のりは容易ではなかった。多くの国が相互関税率の引き下げのみを交渉課題とした一方、台湾は主力輸出品である半導体を含む232条関税の高関税率回避という、もうひとつの課題を背負わされていた。
トランプ大統領が半導体への高関税導入を示唆するなか、台湾は相互関税率引き下げと米232条関税での優遇措置獲得の断念か、対米投資を通じた半導体サプライチェーンの米国内構築かという難しい選択を迫られたのである。
いずれの道を選んだとしても台湾半導体産業に打撃となり得る状況において、台湾はいかに対応したのか。本稿は台湾側の視点から、交渉の背景と経緯を整理し、今後を展望する。
相互関税と232条関税を包括した交渉
2025年4月2日、トランプ大統領は国別の暫定相互関税率を発表した。対米黒字が日韓と比較して大きい台湾の関税率は32%と、高い水準が設定された。相互関税は、当初4月9日に開始の予定だったが延期が繰り返され、各国は税率を引き下げるべく米国との交渉にあたった。その間、各国一律で10%の相互関税が課された。最終的な相互関税率は7月31日に発表され、8月7日から適用された。
台湾の相互関税率は20%と当初の32%から大幅に引き下げられたものの、日本と韓国の15%を上回った。さらに、日本については既存の関税率が15%以下の品目には相互関税も含めて合計15%を上限とし、既存の関税率が15%以上の品目には相互関税を課さずに既存の関税率を維持するという方式が採用されたのに対し1、台湾は既存関税率も上乗せする不利なものだった。
ただ、台湾の主力輸出製品である半導体は、発表当初から相互関税の対象外とされた。これは、トランプ政権が半導体を国家安全保障に関わる品目と位置づけ、相互関税とは別に232条関税で個別に対処する方針だったためだ。232条関税とは、安全保障に影響を及ぼすと大統領が判断した品目に対して商務省が調査を行い、品目別に課される関税である。調査中は追加関税が課されない。そのため、2025年4月の調査開始から2026年1月の関税発動まで、台湾産の半導体チップには実質的に追加関税がかからない状態が続いた2。
一方、相互関税の影響を受けるその他製造業は、関税率で競合国である日韓に差をつけられ、打撃を受けることが予想された3。野党(国民党・民衆党連合)はこの結果を受けて、交渉を担った頼清徳政権を強く批判した。
これに対し頼清徳政権は、交渉は相互関税だけを対象としたものではなく、232条関税も包括した、より広範なパッケージとして進めていると説明した。
表 台湾・韓国・日本の相互関税率推移
Financial Times, “Donald Trump reignites global trade war with sweeping tariff regime,” August 1, 2025
を基に筆者作成
八方塞がりを打破する台湾
台湾は相互関税と232条関税の二軸で関税交渉を進めたが、米国に高い要求を突き付けられ、困難な局面に陥った。関税交渉の過程でトランプ大統領は、台湾にとって極めて厳しい条件を次々と示唆した。例えば、8月6日には半導体に100%の関税を課す可能性に言及し4、さらに8月15日には関税率が200%にも300%にもなり得ると発言した5。こうした高い関税率は、半導体を基幹産業とし、その顧客の大半が米国企業である台湾にとって許容しがたい。仮に100%を超える高関税率が半導体の対米輸出に課されると、半導体産業だけでなく経済そのものが大打撃を受ける。
そのような経済構造を持つ台湾に対し、米国は高関税率を避ける条件として、半導体製造能力の50%を米国国内に移すことを条件として提示した6。この50%が具体的に何を指すのかは不明であり、先端半導体の製造能力なのか、台湾全体の総生産量を意味するのか、といった詳細は明らかにされていない。いずれにせよ、台湾株式市場の時価総額の半分近くを半導体産業が占めている事実を踏まえると、台湾にとって受け入れ難い条件である。かくして台湾は、米国が提示したいずれの条件を受け入れても、経済に大打撃を被る可能性がある危機的状況に置かれたと言える。
八方塞がりの状況に陥ったように見えた台湾だったが、2026年1月15日の米台の総括会議において、最悪の事態を回避することに成功した。台湾に対する相互関税率は20%から15%へ引き下げられたうえ、相互関税導入前から課されていた既存関税の上乗せが撤廃された。さらに、重電機器・機械などを含む2072品目が相互関税適用外となった。
あわせて、232条関税においても免税措置・最恵国待遇が認められた。半導体製品の優遇措置は、対米投資を行う企業に対し、免税措置と最恵国税率が二段階で適用される仕組みだ。免税となる対米輸出は米国内拠点の製造能力を基準に設定され、建設中は計画製造能力の2.5倍分、完成後はその1.5倍分までが対象だ。超過分についても最恵国待遇が適用され、すでに発表されている半導体関税率で最も低いEUと同等の15%を超えることはなく、それ以下の関税率が他国に適用された場合は台湾も同等の待遇が保証される。このほか、自動車部品・木材・製材品および木材派生製品などの232条関税対象品目についても、関税率は合計15%を超えない。鉄鋼・アルミニウム製品については全面的に免税となった7。
この交渉結果について、半導体産業を含む経済界は肯定的に受け止めている。世論は与野党支持層で評価が分かれるものの、大きな反発や不満は広がっていない。
優遇条件を獲得できた二つの理由
では、台湾はどのようにして上記の条件を手にしたのか。対米交渉には二つの柱があった。第一の柱は、半導体産業以外の分野で台湾が行う経済的な譲歩であり、その内容は二点にまとめられる。ひとつは、米国製品の購入拡大とエネルギー投資だ。2026年2月12日に署名された米台相互貿易協定では、2025年から2029年の間に444億ドルの液化天然ガス(LNG)・原油、252億ドルの発電設備、152億ドルの民間航空機・エンジンを購入することが定められた8。この合意には、2025年3月20日に台湾中油と米アラスカ州との間で結ばれたアラスカ産LNGの購入および投資に関する契約も含まれている9。
もうひとつは、市場開放だ。関税交渉が本格化する前の2025年3月31日に米国通商代表部(USTR)が発表した2025年外国貿易障壁報告書のなかで台湾は、コメ・トウモロコシ・大豆・豚肉・牛肉・自動車などの品目で米国に不利な貿易障壁を設けていると指摘された10。こうした批判を受けて米台相互貿易協定では、米国産農産品や工業品への関税が大幅に引き下げられた11。
対米交渉の二つ目の柱は、台湾が総額5000億米ドルの半導体投資パッケージを履行することである12。これは、日本の5500億米ドル、韓国の3500億米ドルの投資と同列に論じられがちであるが、その内容には重要な違いがある。日本や韓国のケースでは、米国側に設置された投資委員会が投資先を選定し、決定された案件に対する資金拠出義務が発生するのに対し、台湾の投資パッケージは二層構造となっている。
ひとつは、台湾民間企業による米国半導体産業に対する2500億米ドルの自主的な直接投資である。これには2025年3月に発表された台湾積体電路製造(以下、TSMC)による総額1000億米ドルのアリゾナ州生産拠点への追加投資計画も含まれる13。残りの1500億ドルに関しても、既に実効性を伴う投資計画が水面下で進行している可能性がある。
もうひとつは、台湾政府が信用保証を付与して供給する、米国国内の半導体サプライチェーンを担う台湾企業に対する2500億米ドル14の融資枠である。これは補助金や公的資金の拠出ではなく、あくまで貸付であるため、資金を利用する企業は返済義務を負う。本制度の取りまとめは台湾の行政院所属の国家発展委員会とされているが、既に運用されている制度15を活用するのか、新たな制度を設けるのかは現段階では明らかになっていない。しかしいずれにせよ、政府が信用保証を通じてリスクを引き受けつつ、資金供給そのものは金融機関を通じて行うため、当面の財政負担を限定しながら台湾半導体企業の米国進出を後押しすることができると言える。
米台間での青写真の相違
交渉は合意に至ったが、その先に想定されている米国国内半導体サプライチェーンの姿について、米台の青写真は異なっている。台湾政府は関税交渉の過程で米国側に対し、米国国内にサイエンスパーク16を建設する「台湾モデル」構想を提示してきた17。その実態は、大手半導体企業は民間直接投資として自主的に新たに設立するサイエンスパークに製造拠点を設立し、中小企業は上限2500億米ドルの融資枠を通じて米国の新設サイエンスパークへ進出する構想である。
しかし、台湾政府と米国政府の間には、この「台湾モデル」のスピード感・規模感の理解において、一定のずれが存在するように見える。台湾半導体大企業が米国進出を加速させるのは間違いない。なぜなら、トランプ大統領は半導体に対する232条体関税について、対米投資を行う企業に対して免除・優遇措置を認めていることからも明らかであるように、大手企業が米国進出に踏み切る動機は十分にあるからだ。一方で、中小企業の米国進出は限定的なものにとどまる可能性が高く、トランプ政権が望む短期間での大規模なサプライチェーン構築は実現性が低い。今回新たに設定された融資枠には、中小企業が高リスク・高コストの米国進出に踏み切ることを促し、大企業・中小企業が一体となった半導体サプライチェーン全体の構築を目指すという意図がうかがえる。しかし、融資が用意され、半導体大手が進出したからといって、米国のサイエンスパークが中小企業にとって十分に魅力的な投資対象となるとは限らない。融資スキームが存在しない事例ではあるが、TSMC熊本工場が建設された際にも、台湾企業による裾野産業への進出は限定的であった。
他方で、米国側の期待値は明らかに異なる。米国商務長官ハワード・ラトニックはテレビ番組のなかで、「トランプ大統領の任期内に台湾の半導体サプライチェーンの40%を米国に持ってくる」ことを目標に掲げていると明言した18。
この認識のずれは、将来的に追加の関税措置や、新たな政策要求として顕在化する恐れがあり、台湾は引き続き潜在的なリスクを抱え続けていると言える。
米国との合意は最終関門ではない、残る国会審議
台湾は相互貿易協定により高い関税率をひとまず回避できたものの、問題が解決されたとは言えない。同協定は執筆時点で文言調整が続いており、近日中の署名が見込まれているが、「立法院(国会)」での批准手続きが進んでいない。特に立法院と「行政院(最高行政機関)」は現在「ねじれ」状態にあり、審議の行方には不確実性が残る。
台湾にとって示唆的なのが、韓国の事例である。2026年1月26日、トランプ大統領は韓国政府が米国との協定で合意した内容を履行していないとして、同国の相互関税率を15%から25%へ引き上げると表明した19。韓国では、与党「共に民主党」が対米戦略投資特別法を国会に提出し、与野党で審議中のタイミングであった。米韓間の投資MOUには、履行を「円滑化(facilitate)」しない場合、追加関税を課し得ると記載されていた。よって、米台の相互貿易協定にどのような条件が記載されているか明らかではないが、立法院での審議の滞りは追加関税の対象に十分なりうる。
台湾は2026年末に統一地方選挙を控えている。日韓と同水準への相互関税率の引き下げと、232条関税における優遇措置の獲得を、産業界は一定の成果として受け止めている。そのため、もし野党の動きによって交渉結果が覆るような事態になれば、野党は産業界からの支持を失いかねない。こうした政治的・経済的コストを勘案すれば、野党が議事進行を妨げず、審議が円滑に進む可能性が高い。
台湾は半導体以外での譲歩と、半導体産業における対米投資を約束したことで急場をしのいだ。ただ、協定の批准や「台湾モデル」に関する認識の齟齬など、リスクや不確実性は残されたままである。
2026年2月20日、米国政府は IEEPA(国際緊急経済権限法)に基づく関税措置が違法と判断されたことを受け、24日から徴収を停止した。IEEPAによる関税には「相互関税」が含まれるが、232条関税は対象外である。
2月24日、米国政府は相互関税率を代替する繋ぎとして、1974年通商法122条を根拠に150日間にわたり全世界共通で10%に既存関税を上乗せする関税措置を開始した20。122条関税は台湾が獲得した相互関税の条件とは異なり、既存関税率が上乗せされ、さらに免除品目も異なるため影響を受ける品目が生じる。また、122条関税の上限は15%であり、関税率が150日間内に上がる可能性がある。150日経過後は1974年通商法301条と米国通商拡大第232条関税を通じて追加的な関税措置を導入する可能性があり、台湾政府は交渉を継続するとみられる。
写真の出典
- ©行政院
著者プロフィール
青木美璃(あおきみり) 地域研究センター動向分析研究グループ。専門は台湾経済、開発経済学、政治経済学。
注
- 韓国もその後、2025年11月に相互関税率に既存の関税率を上乗せしない有利な計算方式を獲得した。“Fact Sheets: Joint Fact Sheet on President Donald J. Trump’s Meeting with President Lee Jae Myung,” The White House, November 13, 2025.
- 2026年1月14日、米国政府は半導体への232条関税措置の第一弾として、「非常に狭いカテゴリー(verry narrow category)」に属する半導体に25%の関税を課すと発表した。第二弾については、交渉妥結後に公表するとし、「相当な(significant)」税率を適用する可能性を示唆している。“Adjusting Imports of Semiconductors, Semiconductor Manufacturing Equipment, and Their Derivative Products into The United States,” The White House, January 14, 2026.
- 実際に半導体以外の製造業は打撃を受けた。相互関税の対象である工作機械は10月の輸出が昨年同月比で23.1%減少した。鍾榮峰 “機械公會:出口值連9紅 匯率影響工具機訂單,”『經濟日報』2025年11月10日.
- Jacob Bogage and Pranshu Verma, “Trump raises tariffs on India to 50%, citing Russian oil purchases,” The Washinton Post, August 6, 2025.
- Hadriana Lowenkron and Kate Sullivan, “Trump Says Semiconductor Tariffs Coming Soon, Could Reach 300%,” Bloomberg, August 15, 2025.
- 高華謙 “美拋台美晶片五五分 經貿辦:審慎以對,” 中央通訊社, 2025年9月29日.
- “20260213臺美對等貿易協定總體說明記者會,” 行政院開麥啦(台湾行政院YouTubeチャンネル), 2026年2月13日.
- “駐美國台北經濟文化代表處與美國在台協會 關於臺灣與美國間對等貿易協定,” 台湾行政院ウェブサイト.
- “Congressional Delegation Visits Taiwan, Standing Up to the People’s Republic of China,” House Committee on Natural Resources, May 29, 2025.
- “2025 National Trade Estimate Report on Foreign Trade Barriers,” United States Trade Representative.
- “Tariff Schedule of the Territory Represented by TECRO,” 台湾行政院ウェブサイト.農産物では、小麦・トウモロコシ・大豆・牛肉などの関税率が0%になった一方、コメの関税率に変化はなく、豚肉においては1、2年目に現行税率を維持し3年目から税率を引き下げる段階的措置が採用された。また、工業品では、米国から台湾へ輸出される小型自動車およびその部品・化学品・機械・バイオ医薬品・電子製品・金属・鉱物などの関税率が0%となった。
- 蘇思云 “信保2500億美元從哪來?國發會研議國家融資保證機制承擔,” 中央通訊社, 2026年1月17日.
- “Howard Lutnick breaks down recent $250B trade deal with Taiwan,”(CNBC TelevisionのYouTubeチャンネル).
- 米国政府が貿易合意に伴い公表したファクトシートにはこの2500億米ドルの融資枠を「少なくとも(at least)」と記載している一方で、行政院副院長の鄭麗君は投資に関する了解覚書(Memorandum of Understanding, MOU)では「まで(up to)」と記載されていると説明した。
- 台湾における行政を司る行政院に所属する国家発展委員会が主導する類似制度は既に存在する。「国家融資保証機制推動法案」がそれであり、民間の環境関連投資に対して、政府系ファンドである国家発展基金と参加を希望する金融機関が原資を拠出し、政府系金融機関である中国輸出入銀行を窓口として融資を行う仕組みである。今回の米国国内の半導体サプライチェーンを担う企業向け融資枠は、この制度を直接活用するか、この制度を基に新たな制度を整備するかのどちらかと見られる。政府が信用保証を通じてリスクを引き受けつつ、資金供給そのものは金融機関を通じて行うため、財政負担を限定しながら台湾半導体企業の米国進出を後押しすることができると言える。
- サイエンスパークとは、ハイテク産業が集積した技術・経済戦略特区を指す。
- 鍾麗華 “關稅談判 打造產業聚落端上桌 鄭麗君:美正面回應 政府對政府合作提議,”『自由時報』2025年10月3日.
- “Howard Lutnick breaks down recent $250B trade deal with Taiwan,”(CNBC TelevisionのYouTubeチャンネル).
- 八十島綾平・小林恵理香「韓国への関税25%に引上げ、トランプ氏表明 合意「不履行」批判」『日本経済新聞』2026年1月27日.
- 八十島綾平「トランプ新関税が発動へ、150日のつなぎ策 最高裁の無効判決受け」『日本経済新聞』2026年2月24日.
この著者の記事
- 第1回 総論――第2次トランプ政権の関税政策の衝撃と世界経済
- 第2回 トランプ2.0が世界の対米輸出に与えた影響――相互関税導入前まで
- 第3回 マレーシア――ASEAN議長国の立場をフル活用
- 第4回 ミャンマー ――「ディール」を模索する軍事政権とトランプ大統領
- 第5回 フィリピン――「特別な関係」が根底に
- 第6回 ラオス――出鼻をくじかれる対米輸出
- 第7回 メキシコ――駆け込み輸出とUSMCAの恩恵
- 第8回 タイ――経済と安全保障のリンケージ
- 第9回 韓国 トランプ関税攻勢下の李在明――「対米巨額投資」をめぐる政治決着とその後
- 第10回 カンボジア――関税交渉の変遷と雇用不安
- 第11回 台湾 関税か投資か――半導体サプライチェーンをめぐる米台関税交渉
