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米中経済対立――国際分業体制の再編と東アジアの対応――
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内容紹介
内容紹介
米中対立を契機に、東アジアをめぐる国際分業体制は、大きな変容を迫られている。生産の面では、中国を中心とするグローバル・バリューチェーンの再編が急ピッチで進められている。研究開発の面では、技術デカップリングが進み、従来の開かれたイノベーションシステムが閉ざされつつある。さらに、経済体制の異なる国同士では、果たして国際分業が展開できるのか、経済活動の根幹にかかわるところまで疑念が深まっている。本書では、経済学、国際政治、そして地域研究の専門家を集めながら、米中経済対立が国際分業体制の最もコアな部分を担う東アジアに与えるインパクトを分析し、関係諸国・地域の対応について解説する。
まえがき
まえがき
本書は、2020〜2021年度に実施したアジア経済研究所「米中貿易戦争と東アジア経済の変容」研究会の成果である。研究会を企画した段階で、米中対立はまだ貿易戦争やハイテク摩擦などの経済分野に限定されていた。しかし、その後、情勢が次第にエスカレートし、米中関係はいまや政治、外交、軍事といった側面にまで緊張が高まった。
それでも2年間の研究会において、われわれは経済対立に焦点を絞って、議論を進めてきた。米中対立は、米ソ対立とも日米摩擦とも異なり、経済面での高度に相互依存した状況下で生まれた大国間競争だからである。米中はともにGlobal Value Chain(GVC)やGlobal Supply Chain(GSC)、Global Production Network(GPN)と呼ばれる国際生産分業体制に深く参入しており、主導的な役割を果たしている。イノベーションや研究開発の面においても、両国はグローバルかつオープンなイノベーション体制の下で、緊密な協力関係を構築してきた。このような経済相互依存の現状を把握し、その変化の趨勢を解明することは、米中対立の今後を展望するうえで、極めて重要である。
本研究会では分析の対象地域として、東アジアを取り上げている。半導体製造をはじめ、グローバル・サプライチェーンの最もコアな部分は、いまや東アジアに集積しつつある。そしてこの地域における国際分業体制の形成と発展において、米中は最も重要な役割を果たした。アメリカは、巨大消費市場を提供するとともに、ハイテク技術と人材の最も重要な供給源としても機能した。その一方で、中国は生産と需要の両面において東アジア生産ネットワークのけん引役を演じてきた。東アジアを検討することによって、米中経済対立の影響をより深く理解することが可能である。なお、本書の検討の対象には日本は含まれなかった。東アジアの関係する国や地域に対する分析から、日本の対応を考える上での手がかりを見出していただければ幸いである。
本研究会では、経済学、地域研究、そして国際政治の専門家を集めながら、共同作業を進めた。経済現象を解明するためには、地域固有の制度や初期条件、そして地政学的なファクターを視野に入れながら、学際的に把握することが必要なためである。研究会委員のあいだでは、国際分業体制の再編は、比較優位や市場の変化といった経済的な要因により、米中対立以前の時期にすでに始まっていたこと、米中経済対立やコロナウイルスの大流行により、グローバリゼーションが後退したとはいえ、米中における徹底した経済の分断は非現実的であること、さらに東アジアは今後も、米中を分業体制に組み入れながら経済発展を進めていくしかないなどといった多くの点において、共通の認識をもつに至った。しかし、米中対立が現在進行中であるため、部分的なデカップリングはどこまで進行するのか、個別の産業や地域は、米中のどちらのより強い影響下に置かれるのか、相互依存による紛争抑止はどこまで機能するのかなど、今後、時間をかけて検証する必要がある課題も数多く残した。
コロナウイルスが幅を利かせていたなか、本研究会は、幸いにもファーウェイ・ジャパンおよび三井物産の方々と意見交換する機会に恵まれた。立正大学の苑志佳先生には、中国の半導体産業に関して、興味深いご講演をいただいた。また、東京大学未来ビジョン研究センターとは、研究会やセミナー参加の形で交流を重ねてきた。さらに、本書の執筆に際して、2名の査読者および猪俣哲史氏をはじめとする研究所の同僚から多くの助言を賜った。記して感謝の意を表したい。当然ながら、本書の各章で示された見解は、執筆者個人に属するものであり、研究会や所属機関の見解を代表するものではない。
編 者