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2055年に向けた体制の立て直し――ラオス人民革命党第12回大会
/ 山田 紀彦
2026年1月6~8日にかけて、ラオス人民革命党第12回全国代表者大会(党大会)が、全国の党員約42万人を代表する834名(女性123名)が参加して開催された。5年に一度開かれる党大会では、今後5年間の党路線や国家建設方針を定めた「政治報告」が提示され、その実施を担う新執行部が選出される。したがって党大会はラオスでもっとも重要な政治イベントである。第12回党大会のポイントは大きく3つに整理できる。第1は、党支配や国家建設にとって重要な節目で開催されたことである。今大会は党にとってどのような位置づけにあったのか。第2は、1972年の第2回党大会以来54年ぶりに「政治綱領」が策定され、党創立100周年にあたる2055年までのビジョンが掲げられたことである。なぜいま党は「政治綱領」を国民に示す必要があったのか。またそれはどのような内容なのか。第3は、執行部人事である。国民の最大の関心は80歳と高齢のトーンルン党書記長の再任の有無と、執行部の世代交代にあった。今回の人事からはどのような特徴がみえるのか。以下、第12回党大会の概説を通じてそれぞれの問いに答えていく。
2026/02/10
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過渡期のバングラデシュ――7月政変から第13回総選挙に向かって
/ 松浦 正典
バングラデシュでは、2024年7月から8月にかけて発生した政変(以下、7月政変)以降初の第13回国民議会総選挙が2026年2月12日に実施される予定である 。7月政変以降、ムハンマド・ユヌス(以下ユヌス)首席顧問を中心に成立した暫定政権はシェイク・ハシナ(以下ハシナ)前政権の政治体制から大きな転換を図り、政策金利引き上げなどの経済政策を実施してきた。本稿では暫定政権による政治・経済改革と外交状況をまとめ、総選挙に向けた各党の動きと総選挙の要点を検討する。
2026/02/06
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(世界はトランプ関税にどう対応したか)第8回 タイ――経済と安全保障のリンケージ
/ 塚田 和也
2025年に発足した第2次トランプ政権は、米国の巨額な貿易赤字を「国家安全保障に対する脅威」と位置づけ、世界各国に対して「相互関税」(Reciprocal Tariff)を軸とする強硬な通商圧力を展開した。タイも当然のようにその標的となり、また相互関税をめぐる交渉の過程ではタイとカンボジアの国境紛争がとりあげられ、経済と安全保障に関する複雑なリンケージが顕在化した。本論では、タイの対米貿易黒字、交渉の経緯と枠組み合意に対する国内評価、米国が関税交渉と地域の国境紛争を結び付けた背景などを論じることで、タイの置かれている状況を整理したい。
2026/02/03
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(世界はトランプ関税にどう対応したか)第7回 メキシコ――駆け込み輸出とUSMCAの恩恵
/ 橋口 義彦
2025年3月、不法移民や合成麻薬フェンタニルの国内への流入を理由に、米国のトランプ大統領は、米国・メキシコ・カナダ協定(United States-Mexico-Canada Agreement:以下、USMCA)の原産地規則(Rules of origin)を満たさないメキシコからの輸入品に対して25%の追加関税を発動した。メキシコ経済は米国に強く依存している。2023年時点で、全輸出額の約8割を対米輸出が占めており、それはGDPの約30%に相当する。そのため、メキシコは追加関税を是が非でも回避する必要があり、また、関税が発表された当初、IMFや世界銀行もメキシコの輸出が停滞することを予想していた。しかし、7月までのメキシコの対米貿易の推移をみると、輸出の減少は4月のみで、むしろ全体では前年よりも輸出は増加している(図1)。それでは、なぜ追加関税はメキシコの貿易にマイナスの影響をそれほど与えなかったのか。本稿では現在までのトランプ関税の流れとUSMCAを概説し、関税発動前の駆け込み輸出、USMCAの枠組み維持による貿易転換効果、USMCAに基づく特恵関税利用の拡大、の以上3点を追加関税の悪影響を緩和した理由として指摘する。
2026/01/23
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混迷するイランの抗議運動と情報収集の壁――何が情勢把握を困難にしているのか
/ 松下 知史
昨年末にイランで発生した大規模抗議運動は、本記事執筆時点で4週目に入った。この運動は、物価高騰と通貨価値の急落による経済的不満を背景に、首都テヘランのバーザール商人らによるストライキを発端として始まり、短期間のうちに全国規模の抗議の波へと拡大した。国際社会の厳しい経済・金融制裁による国民経済の長期的困窮のなかで、こうした経済改革の訴えはかつての大規模抗議運動(2017年、2019年)の再来を予感させるものであり、幅広い国民の支持を獲得しやすいテーマであった。イランの体制は当初、全国民を対象とする現金給付を含む緊急経済対策を打ち出すなど、一定の融和姿勢を示していた。しかし、運動の拡大と一部での過激化・暴力化、さらには全国的な反体制運動へと変質していく過程で、体制は抗議者を「暴徒」や「テロリスト」「外国勢力の手先」と位置付け、弾圧を強化している。その結果、イランは、抗議者と治安部隊の双方に多数の死傷者を出す、極めて深刻な政治的危機に直面している。
2026/01/21