村上 薫
研究歴
トルコの社会を、人類学的フィールドワークとトルコ語の資料の両面から研究しています。これまで縫製工場で働く若い女工、困窮世帯の主婦、不妊治療を受けるキャリアウーマンなど、異なる社会階層・立場の女性から聞き取りを行い、ジェンダー規範の作用と、女性たち自身による規範への応答に注目してきました。また、「理想の国民像」の価値観と制度化、そこに適合しない人たちの排除に関心をもち、「公的福祉と慈善」や「女性の労働参加」、「名誉殺人」をキーワードに、公文書や法律、報道の分析を行ってきました。現代研究を主としつつ、テーマによって20世紀初頭の建国期や第2次大戦後の高度成長期に遡及し、長い時間軸で考察することを心がけています。
現在取り組んでいるテーマ
受給者バッシングが横行するトルコで、公的扶助制度の利用がもつ意味を、当事者の立場から考察しています。トルコでは公的扶助の受給者は自らの権利を熱心に擁護します。聞き取りの中から浮かび上がるのは、憲法に書かれた近代的な生存権と一部重なりつつ、伝統的・宗教的権利概念とも親和的な権利の考え方です。受給者のモラルに懐疑的な世論と、重層的な権利認識のもとで、福祉受給の経験はいかに形づくられるのか、生きる場の承認、尊厳、国家、帰属意識をキーワードとして考察しています。当事者の立場から制度利用の経験に取り組む研究は多くありません。トルコの事例の固有性を明らかにしつつ、普遍性のある議論を目指します。