研究者のご紹介

小島 道一 研究者インタビュー

「産業廃棄物は世界をめぐる」

所属: 新領域研究センター 環境・資源研究グループ長
専門分野: 環境・資源経済学、インドネシアの環境問題、アジアにおけるリサイクル、再生資源・廃棄物の越境移動

アジアのリサイクルに関して先駆的な研究者ですが、研究のきっかけは?

アジアの廃棄物の輸出問題がきっかけです。1990年代前半に日本から台湾に車の使用済みバッテリーがかなり輸出されていましたが、リサイクルの過程で鉛の汚染問題が発生したため輸出禁止となり、今度はインドネシアに輸出されることになった。インドネシアには欧州からもリサイクルという名目で輸送された廃プラスチック等の積載されたコンテナが港に置き去りにされる事件が発生した。これではアジアは先進国のゴミ箱じゃないかという思いがありました。その後、本格的な研究を始めたのは1999年からです。廃棄物処理・処分については、既に援助も行われており、研究も進んでいましたが、産業としてのリサイクルに関する研究はほとんどありませんでした。2000年前後から日本の古紙など再生資源が多く輸出されはじめ、それが輸出先でどうなっているのかに関心を持ちリサイクル研究をはじめました。

研究を進めるうえで苦労した点、あるいは興味深い発見などは?

ここ数年、年間50~80日間、約10カ国で現地調査をしています。データでわかる範囲はかなり狭いので、やはり実地調査が重要です。日系企業だけでなく現地企業も訪問しますが、なかなか見せてくれないところもあり苦労します。特に、現地の中小企業はアポが取れないので飛び込みでの訪問がほとんど。現地の日系企業調査では、廃棄物処理できないものは日本に持ってきて処理している場合もあることがわかりました。このことはあまり知られていませんね。面白い経験では、偶然ベトナムの新聞で見つけたんですが、農閑期に村の住民たちが廃棄物の分別、加工等を副業にしていてかなり潤っているという。車で近くまで行き、いろいろな人に聞き回って、村を探し出しました。村単位で廃プラ、古紙など種類別に集積地帯が形成されていて、2・3階建ての立派な家が結構並んでいるんです。農業をやめて本業にしている人もいる。日本ではお金を払わないとリサイクルできないものが、途上国では人件費が安いため市場ベースでリサイクルが動いている。わざわざ政府が制度を作らなくてもいいところがある。一方で、鉛のバッテリーのリサイクルなど汚染物質を巻き起こしながらリサイクルが行われており、対策が必要です。また、2000年前後からフィリピンやインドネシアで、ゴミの山が崩壊して死者が出るという事故が起きたり、ゴミ山の火災による大気汚染、浸出水による水質汚濁なども問題となっています。こうしたことから、3Rを積極的に進めたいという意識が途上国の中にも生まれています。

今回の刊行した” SpotSurvey No.30 ”の狙いは?

日本の3Rの経験について書いています。日本の取組が途上国、アジア地域に盛んに宣伝されていますが、今の取組よりも昔の日本の経験の方がかなり役に立つ。途上国と日本は政治経済状況がかなり違うので、今の日本の政策をそのまま途上国に持ち込んでもうまくいかないところもあるんです。むしろ、日本が今の努力をするまでに積み上げてきたものを紹介することに意味があると思いました。

今後の研究の関心は?

アジア各国で、政府機関の人や研究者の方々と話をしていて、感じることのひとつに、欧米での取り組みについてはよく知っているのに、隣の国の取り組みほとんど知らないということがあります。同じような悩みを抱え、それぞれ興味深い取り組みが少なくないのですが、経験を共有することができていない。また、リサイクルの国際化も進んできており、アジア諸国と共同で今後のあるべき姿、政策を検討していく必要が出てきています。2009年2月から2、3年間かけ て、ERIA(Economic Research Institute for ASEAN and East Asia)のプロジェクトの一つとして、3R(Reduce, Reuse, Recycle)に関する取り組みを比較・検討する機会を得ました。アジア各国の研究者と一緒に、3Rにかかわる政策について研究を進めていきたいと考えています。

(取材:2008年10月20日)