研究者のご紹介

福西 隆弘 研究者インタビュー

「職業訓練・教育と就労」研究プロジェクト――エチオピアにおける若者の就活――

所属:地域研究センター・アフリカ研究グループ長
専門分野: 開発経済学(アフリカ)、製造業、経済成長

「職業訓練および教育と就労」研究会を始めた動機をお聞かせください。

この研究会は現在4年目で、同僚の町北研究員と2人で行っています。アフリカでは、2000年代中ごろから、経済が成長しているにもかかわらず教育を終えた若者が就業できていないこと、つまり若者の雇用(失業)が問題になっています。人口ピラミッド的に若者の数は増えているので、彼らに仕事がないということは、社会不安にも結び付くという危機感が政府にも高まっています。

この問題の対処策の一つとして、職業訓練が注目されています。以前は一般教育(いわゆる普通の中学校、高校、大学)を拡充して教育水準を上げれば、もっと生産性があがると考えられていましたが、どうもそれだけでは効果があまりないのではないかと考えられるようになりました。職業に直結するようなスキル、例えば看護師さんのスキル、大工さんのスキル、最近だとICTのプログラマーとか、そうしたスキルを身に付けたほうがすぐに雇用に結び付くだろうという考え方が、今は主流になりつつあります。SDGs(持続可能な開発目標)においても、スキルはいろいろなところで言及されています。  

エチオピアという国は、職業訓練において先行的に投資してきた国です。職業訓練の制度自体はどの国でも昔からあるのですが、エチオピアは2006年に職業訓練の制度を大きく改革しました。まず量的に増やしたあと、内容的にも大きく変えました。単に何年か学校行ったらそれでよしとせずに、1年勉強したらテストを受けるという制度にしました。また、そのテストに合格したら、大工のレベル1、ICTのプログラマーのレベル2、といった証明書(certificate)を授与することにしました。  

さらに、授業の内容自体も、マーケット、つまり産業側で望まれてるような技術を身に付けさせるというものに変えました。教育する側だけで教育内容を決めるのではなく、産業側の必要性を把握した上で、例えば大工レベル1なら、これとこれとこれを身に付けなければならないと、具体的に明文化しています。  

言い換えれば、どういうことを教えるかの吟味、また教えたことが身に付いているかどうかの把握を、改革において実行したのです。今の職業訓練においては主流の方法です。証明書によって、雇用主は求職者のスキルを判断することができるわけです。  

この改革からほぼ10年余りを経て、新しいカリキュラムで学んだ人たちの就職状況、どのようなセクターで就職してるのか、インフォーマルセクターかフォーマルセクターか、といったことを見てみようとしたのが研究会の最初の2年間です。それはエチオピア政府が集めている大規模な労働者調査を使わせてもらってやりました。  

ところが、あまりいい結果が出てこないのですね。職業訓練校というのは、中学校を卒業した人が主な入学者です。中学校を卒業した人が一般課程の高校に行くか、職業訓練校に行くかという選択になっていて、高校に行く人たちは共通テストに合格しなければならない。一方、職業訓練校というのは、基本的にテスト結果は問われないということになっています。下限が決められるときもあるのですが、そんなに厳しくはない。  

そういうなかで、例えば職業訓練校卒業者と中学校卒業者を比べるとか、もしくは職業訓練校卒業者と高校卒業を比べるとかいうことをやってみたのですが、あまりいい結果が出ませんでした。  

単純に比べてみたときは、中学校よりは職業訓練校卒業者の就職のほうが、良い結果が出るんですけれども、職業訓練校にはもともと職業訓練校に行ったらうまく就職できそうな人だけが行っている可能性がある。つまり「もう俺なんか、勉強したって全然駄目だ」という人は中学校で終わらせてしまう可能性があります。そういう能力的な差がどこかで出ているかもしれないというのをある程度コントロールするような統計的手法を使うと、クリアな差が出なくなってしまう。  

もう一つ、良くない結果だったのは、改革の前に勉強を終えてしまった人と改革の後に勉強した人を比べると、後の人のほうが良いという結果が出ていないのですね。こちらでは、同じ職業訓練校の卒業生だけをとりあげて改革前と後を比べているので、問題がないわけではないのですが、学生の能力の違いは少ないと考えられます。そういう比較をしても決して良くは出ない。特に女性の卒業生においては、改革前より改革後のほうが悪くなっている傾向がかなり顕著なのです。よりインフォーマルセクターとか自営で働くようになっていたりするのですね。  

データ的な限界もあって、明快な結果は出せなかったのですが、どうやらいい結果は出てないというのが最初の2年間の研究の結果だったんです。

写真:福西隆弘氏

福西隆弘氏

良い、悪いの結果とは、どのような指標から判断しているのですか。

フルタイムで働いてるか、パートタイムで働いてるか。それから、フォーマルかインフォーマルか。あと契約が無期か有期かという観点で主に比べています。賃金については、インフォーマルセクターで働いている人の収入がその調査では取れていないので、分析していません。いま言った3つの指標で中学校卒業者と比べても、職業訓練校の学生のほうが良い仕事を得ているとは、クリアには出てこないという感じです。

以上が最初の2年でやったことで、次の2年では、これはどうしてなのかということ考えています。幾つか理由があり得るとは思うのですが、今、われわれが注目しているのは、証明書の効果についてです。首都のアジスアベバに証明書を発行する機関があり、そこには首都の全テストのデータベースがあるわけです。そこに協力をお願いして、例えば同じテストを受けたが、受かった人と受からなかった人で、その後の就職活動に違いが出ているのかどうかを見ようというのが、今、やろうとしていることです。

例えばICTのレベル3に通っていた2人のうち、片方だけが合格し証明書を持っていたとします。もし合格した人のほうがうまく就職できているのであれば、証明書の効果がでているが、もしそうでないようであれば、せっかく証明書をとっても役に立っていないということになります。理由は幾つか考えられると思います。一つの説明は、雇用者側が証明書を信用していない。エチオピアでは、みんな証明書のことは一定程度知っていて、国がやっていることも分かっているけれども、それだけでは信用できない、自分の目で見ないとわからないと思っているかもしれない。もう少し細かく見ていけば、証明書のレベルの間に差があるかもしれない。レベル1の初級的なものは証明書があろうがなかろうがあまり重視されないけれど、レベル3とか4になってくると一定の専門家として扱われるのかもしれない。だとしたら、現在、多くの人はレベル2までなので、もう少しレベルを上げていかないといけないという話になるかもしれない。そういう細かいところが実は全然分かっていないのですね。  

最初にお話しするのを忘れていましたが、最初の2年間になぜ先ほど述べたような研究をしたかというと、国が卒業生のトレースをしていないのです。調査をやっている学校はあるのですが、国が全数調査とか、大規模なサンプリング調査をやっていません。お金をかけて、制度を改革して、学校も増やしているにもかかわらず、全然追跡ができていない。今どき珍しいと思ったのですが、せっかくお金かけてやってるんだったら、その後、どうなってるのか、見ておく必要があるだろうというのが最初の2年でやっていたことです。  

今は、少し射程を狭めて、経済学用語でいうところの、証明書のシグナルとしての効果がどれぐらいあるのかを見ようとしているということです。

その効果は賃金にも影響しますか。

もちろん可能性はあります。この証明書の有無がきちんとスキルの有無を意味しているのであれば、証明書を持っている人たちは引く手あまたになるはずです。レベル3を持っている人だったら雇いたいという人がたくさんいれば、当然、レベル3を持っている人に対するオファーは上がってくることになるので、賃金への影響がでてきます。

今回の調査は、具体的には、証明書授与機関のデータに加えて独自のサンプルを集めるのですか。

そうです。証明書授与機関が持っているのは、誰がどのテストを受けて、合格したかどうかということだけなので、その後、就職はどうなったのかまでは分かりません。そこはわれわれで追跡調査をしているということになります。  

去年、大体、350人ぐらいの追跡をしました。今年はもともと研究会の資金を使ってやろうと思っていたんですけども、科研が取れたので、科研の予算でやろうとしています。今年ももう一度サンプル数を増やして、見てみたいと思っています。

その対象は、ICTの訓練を受けた人ですか。いろんな職種を対象にするのですか。

今、やっているのは、ICTと自動車修理です。この2つに絞ってやっています。

フィールドについてはアジスアベバに絞るのがいいのかどうかは分からないのですが、一番たくさん卒業生がいるのがそこですし、特にICTなどは町以外にはなかなか働き場所がないと思われるので、町でまず、やってみようと。私がエチオピアの専門家ではないので、首都が一番データをとりやすいということもありますね。

どちらの職種も男性が多いのですか。

ICTは同じぐらいですね。自動車はやはり男の子のほうが多い産業になります。女性に人気なのは、ビジネス・アンド・ファイナンスといって、いわゆるマネジメントとか、会計とか、多分、そこに秘書業務とかも入っていると思います。あと、圧倒的に女性優位なのはヘアドレッシングです。

それも職業訓練の対象ですか。

そうです。

国家資格になるんですかね。

日本だと、多分、理容師、美容師は資格を持っていないとだめですけれども、エチオピアで授与しているのは、あくまでスキルのレベルを示すもので、免許ではありません。あとは、ホテル関係の産業、ホテルの受付とか、レストランの料理人のコースとか、助産婦さんとかのコースもあったり、かなりいろいろなコースがあります。アート系もあります。

写真:職業訓練校での授業(撮影:福西隆弘)

職業訓練校での授業(撮影:福西隆弘)

写真:社会人向けの訓練プログラム(撮影:福西隆弘)

社会人向けの訓練プログラム(撮影:福西隆弘)

教えているのはどういう人なんですか。

もちろん教師の資格を持った先生なんですけれども、実は2006年の改革以降、学校の数を大幅に増やしたので先生が足りなくなっています。聞くところによると、元々小学校の先生をしていたとか、中学校の先生をしていたという先生も多い。畑違いの人も動員してるところはあるみたいですね。だから、教える人たちのスキルも問題としてありますので、トレーナーズトレーニングも一生懸命やっているところです。夏休みを中心に、先生たちを1カ所に集めて、トレーニングしたりしています。ただ、特に農村部に行けば行くほど先生のスキルに問題があったりします。  

また農村部に行くと、レベル4まで教えていなかったりするのです。国全体で平等にそうした教育機関にアクセスがあるというふうにはなっていない。ただ、以前よりは職業訓練が増えて、行ける人も多くなっているというところです。

エチオピアがこの分野で先進的であったというのはどのような理由があったのですか。

制度的なことはよくわかりませんが、今、職業訓練の技術的な援助をしているのはドイツの国際協力公社(GIZ)です。ドイツは職業訓練を重視している歴史的な背景があり、現在GIZによる援助の柱の一つが職業訓練だと思います。GIZがエチオピア政府に働きかけたのかもしれないですし、エチオピア政府が積極的だったのかもしれません。  

他にも取り組みを早く始めた国としては、ガーナがあります。ただし、ガーナでは実施に時間がかかっていて、まだ十分とはいえない感じです。その点、エチオピアは中央政府の統治が強いので、上がやると言ったら下まで伝わって、それが実行されるというところがあり、早く進んでいると思いますね。  

また、人口が大きいということもあるんだと思います。アフリカの中でも人口が大きい国で、1億人を超えていますので、若者の数も多くなります。

今年の調査は、もう一度、テストデータをもらってくる予定です。細かな話ですが、去年やったのは、テスト機関の支所のうち1カ所のデータを使わせてもらい、そこからサンプルを取って追跡調査しました。今年は5カ所、全部を取る予定です。そこからランダムサンプルして、できれば12月ぐらいに追跡調査を開始するようにしたいと思っています。

データ入手は大変ですか。

今、非常に優秀なアシスタントと一緒に仕事をしています。彼に任せていれば、かなりうまくいく感じです。最初にテスト機関の担当部局に行ったのも彼と一緒でした。街中を走っているときに「あそこがテストのセンターなんだよ」と彼が教えてくれて、ほかにはアポもなかったので、「じゃあ、行ってみよっか」という話になり、話し始めたら、今やっている調査の話まで発展したという経緯があります。  

「行ってみよっか」と言ったのは僕だし、どういうことやりたいかという話をしたのは僕だけれども、彼が上手く繋いでくれていると思うのですね。いきなり僕のような外国人が1人で行って、何か言っても、おそらく向こうはどう扱っていいのかよく分からないと思います。最終的には、テスト機関のトップまで持っていって、「じゃあぜひやってください」という話になったのは、彼の立ち回りのうまさがあったところだとは思います。

いかに優秀なパートナーを見つけるかというのは、とても重要ですよね。

そうですね。この研究がこれまでうまくいっているのは、非常に優秀なアシスタントを得られたことと、このテスト機関に他国の援助機関が支援していないことが要因だと思います。例えばGIZが入り込んでいたら、僕らが行ってもおそらくそれはドイツとやる、という話になってしまったでしょう。それはすごく幸運だったところだと思いますね。  

アドミニストレーティブデータといって、行政業務のために取っているデータを使う実証研究があります。大量のデータを利用できるということと、行政的目的のために取っているので一定程度、正確だと思われるデータであることが有利な点です。例えば今回の研究についていえば、テストは専門家が非常に多くの労力を使って作成され、実施されたものなので、研究者が独自に行うテストよりも正確な評価だと評価できると思います。  

こういうアドミニストレーティブなデータは、もしアクセスできれば膨大な数になります。1つの支所の1年半分だけで約7万件あります。これは自分たちでデータを取ることができない数であるし、内容でもある。それにアクセスできるというのはとてもありがたいことです。5支所全部のデータを入手すれば、アジスアベバのユニバースが分かるわけですよね。  

ただ一方で、これは誰でも使わせてもらえるわけではありません。われわれは大きな研究予算を持っているわけではないし世界的に権威のある研究機関とも言えません。言ってみれば、何もアドバンテージがないのですが、たまたま先方に援助機関がついていないのと、先方もこういう研究の必要性は感じていたという幸運が重なったと感じます。

政府機関の職業訓練校だと、上の省庁からの許可が必要になりましたか。

そこまでは特に言われなかったですね。今のところ、アジスアベバ市テストセンターという機関で、われわれが許可を求めたのは、センター長、ダイレクターまででしたね。もしかしたらセンター長は市長と話をして了承をとっていたのかもしれません。

データは、どういう形でもらうのですか。

研究用のデータじゃないので、それをうまくダウンロードして持って帰るというのは、結構、難しいです。向こうは実務上、使いやすいように作っていて、データ的にばらばらになっていたりします。向こうのICTのエンジニアと何回もやりとりをして、まずデータベース構造を理解するところから始めて、ばらばらのデータを統合する方法を試行錯誤して、やっと一定程度使えるかなというデータまで持ってくるということをやっていますね。つまり、莫大(ばくだい)な数のデータが取れるのだけれども、所詮われわれが使うことは誰も意識していないので、使えるデータに持っていく大変さというのはあります。  

これで大丈夫だと思ってデータを持ち帰ったあと、ホテルで確認しているとやっぱり駄目だということはしばしばあります。もう1回、次の日に行ってやり直すということを繰り返したりしました。

追跡調査のほうは、選んだサンプルの人を訪ねていくわけですね。

データベースの中に電話番号が書いてあるので、まず電話をします。

女性には女性がインタビューするのですか。

エチオピアの場合は、そこまで気に掛けなくて大丈夫かなと思っています。基本的には私の主体的な判断というよりも、仕事をお願いした代表者の考え方を基本にしています。  

ただし、突然、電話かかってきて、しかも、素性の分からない調査会社からかかってきて「話を聞きたいから、来てくれ」って言われたときには、当然警戒心があるし、特にそれは女性のほうが強いと思います。そこで、インタビューする場所を職業訓練校にしました。空いてる場所を貸してもらって。職業訓練校も誰でもが知ってるような有名校にしています。彼女ら、彼らがテストを受けるのも、多くの場合は職業訓練校の教室なので、こちら側の身元保証にもなるだろうという工夫はしたつもりです。

余談になりますが、調査を委託した時に「もう紙ではやらない」と言われたのです。つまりタブレットでやる。紙にするともう一回入力しないといけない。そこで打ち間違いも起きるし、紛失も起きたりします。タブレットでやれば、そのままサーバーに送られて保存されます。それに、例えばある質問で「イエス」と答えたら次の質問をスキップするというような指示も、プログラムを組めば自動的にできるのでそちらの方がいいといわれたのです。実は、われわれのほうが初めてで、大慌てしました。

質問票では質的なデータはあまり集めていません。若干、質的なデータと考えられるのは、タイム・ユースのデータで、「この1週間、何にどう時間を使いましたか」ということを聞いたりしています。例えば、仕事のない状態で求職しているケースもあるけれども、働きながら求職しているケースもあったりするので、柔軟に質問に回答してもらう方法として1週間の時間配分を聞いています。でも、基本的にはデータベース化できるようなものがメインになっています。  

データとして使えるかどうかは別として、われわれが学ばないといけないと思っているのはエチオピアと日本という差もあるけれども、世代間ギャップです。みんな、どういうふうなことを考えたり、失敗したり、成功したりしているのか。日本でもそうですが、エチオピアでも、20代か30代ぐらいの若者と僕とでは、もう全然違うので、われわれも話を聞いて学ばないといけない。

ただ、求職中の人たちをつかまえるというのは結構難しくて、今、われわれがやっているのは、街中に求職情報の掲示板があるのですが、そこに集まっている人たちに、「ちょっと今、話聞きたいのですけど、いいですか」と尋ねて、「今、どんな求職活動してるの」とか「オファーありましたか」とか、聞かせてもらっている。

写真:求人情報に集まる若者(撮影:福西隆弘、アジスアベバ)

求人情報に集まる若者(撮影:福西隆弘、アジスアベバ)

それは日本のハローワークみたいな場所ではないのですか。

建物ではないです。屋外にある。多いのは役所の求人ですが、学校、NGO、民間企業の求人情報もある。ただし、求人の多くは大学生向けで、そこでは職業訓練校の卒業生はあまりつかまらないです。でも、就活一般を見たいと思って、そこで何人か話を聞かせてもらったりしています。

職業訓練校でジョブフェアのようなものもやっていますか。

ジョブフェアはないと言ってました。大学にはあるそうです。職業訓練校では、そういうのがない代わりに、企業と一定程度のリンケージができていて、優秀な人は推薦で行ったりするみたいですね。ただ、最近、私立の小さな職業訓練校がたくさんできてきているのですが、そういうところは就職へのリンケージが弱いようです。就職は自力で見つけることになるようです。

大企業が職業訓練校を持っているというケースはないのですか。

私が聞いた限りでは、学校法人ではない企業が、自分のところの従業員確保のためにやっているとは聞いたことはないですね。韓国やスウェーデンの企業が、エチオピアで職業訓練校を経営しているケースはあります。でも、それは自分ところにリクルートしようとするためではないようですね。

農村ではレベル3ぐらいのコースしかないというお話でしたが、さらに高いスキルをつけるために都市に出てきて、勉強を続けるような人もいるのですか。

まだそこは調べていないので、分からないですね。あり得るとは思いますね。アジスアベバまで来なくても、各州の州都ぐらいまで行けばそのレベルの訓練校はあるので、それぐらいはしている可能性は高い。

大学進学のために農村から出てくるというケースは割とありますか。

あります。それにはテストに受かってまず高校に行くことが条件で、高校を卒業した後、もう一回テストがあり、それに受かれば大学に行けるので、それは農村であろうが、都市部であろうが行けます。また、大学は実質的に無料となっているケースが多いようです。本来は卒業してから支払うことになっているようですが、卒業してからも条件を満たせば返さなくていいようで、かなりの人が払っていないと聞いています。ただ、自分の住んでる地域の大学に行けるのではなくて、違う地域に行かされるシステムであるようです。

今後、研究成果はどのように出していきますか。

幸い科研費が取れたので、これから4年ぐらい研究を続けて、最後にブラッシュアップした成果を出したいと思っています。

協力してくれたセンターへの結果のフィードバックもしていくことになるのですか。

それは向こうにも約束をしています。

他のアフリカの国々と比べた、エチオピアの違いは何ですか。

さっき話したように、政府の中で上が言ったことが下まで通ることは最初びっくりしました。中央の省庁、例えば教育省とか職業訓練庁の幹部が我々に話す方針と、同じことを同じタームを使って学校の教師も言うんですよ。上が言ったことを下がちゃんと聞いていて、意味が分かってるかどうかは別としても、同じような言葉を使って「うちの方針はこれなんだ」って言う。そこは他のアフリカではなかなか見ないところで、とてもびっくりしました。  

基本的には真面目な国民性だと思います。時間はきちんと守りますし、言われたことは、できないかもしれなくても気には掛けます。その辺はわれわれとは親しみがあるところがあります。あと、シニオリティーが尊重されるところがあって、シニアが言ったら下の人がみんな聞く。私もシニアに対してはちゃんと敬って接しないと、すごく機嫌悪くされたりもします。  

私は最初、行き始めたときは髭をそっていたのですが、相手は私の年齢が読み取れなくてどういう扱いをしていいんだろうって、すこし考えてるところがあったように思います。髭を生やしたら、年相応に見えるんじゃないかと思いました。

エチオピアの人から見てふさわしい風貌で行かなければいけないということですね。

そうですね。髭をそっていたり、しかも腰が低かったりすると、僕のアシスタントが困るのではないかと思います。一応、相手には会う価値のある人だと思ってもらわないといけないので、ぱっと見て分かるほうが彼も楽だという風に思えてきました。

アシスタントさんは、一緒に仕事していないときはどうしているのですか。

もう彼は、アシスタントとして売れっ子になってきました。僕と仕事を始めた頃はまだそうでもなく、だから、僕でもやってくれたのですが。彼は優秀なので、今、いろんな大学のプロジェクトで仕事をしていますね。

その人自身も若いときからいろんな経験を積んで、就職とかに苦労しながら、今に至ってる人なのですか。

そうですね。アフリカには、プロのリサーチアシスタントという職業があります。学生のバイトではなくて。例えば修士号を取ったプロのリサーチアシスタントというのがいます。彼も基本的にはそういう形で身を立てていたのです。ただ、個人ではなかなか仕事は得られないので、仕事を請け負う研究所にプロジェクトが入ったらその期間雇われるという形だったと思います。ただ、それだといつまでたっても安定しないので、自分と直につながるクライアントを持ったほうがうまくいく。多分、その直につながるクライアントの最初が僕だと思うのです。だから、最初からすごく頑張ってくれた。今となっては僕が払う額は、彼にとってはあまり魅力的ではないかもしれないけれども、そこは多分、義理もあって、やってくれていると思います。
長い時間どうもありがとうございました。

(取材:2018年11月7日)